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P-132 だんだん畑の最初の1つ


 日が傾いて浜に戻ろうと森に向かったところ、小さな小屋が森の近くに作られていた。

 カルダスさん達の仕事は手早いなぁ。しっかりと土台まで作られている。石を敷いて接着材と砂を混ぜたものを石の間に埋めてあるんだが、お祖母ちゃんの畑で見たものは下が土だった気がする。

 丁寧に作ってくれたのは嬉しいけど、これで良いんだろうか?

 上手くいかなかったら、床の石を取り除くしかなさそうだな。

 小屋の近くには小母さん達が刈った草が山になっているから、明日はあの草を入れて上に土を被せておこう。


 翌日。カゴを使って刈り取った草を小屋に入れ、土と草が交互になるように積み上げた。通りがかった小母さん達が俺の作業を見ていたから、後は小母さん達がやってくれるだろう。

 土の袋は2袋運んだから、今日はこれで足りるはずだ。


「いっぱいに積み上げるには時間が掛るにゃ」

「適当で良いですよ。もし焚火を作るときには、灰もこの中に入れてくれませんか」

「カマド近くに山ができてるにゃ。明日運んでくるにゃ」


 カマドの灰も肥料になるらしい。お祖母ちゃんが畑に鋤き込んでいたのを見たことがある。魚のハラワタだって使えると聞いたことがあるけど、どんな虫が寄ってくるかわからないからなぁ。

 待てよ……。俺達が取ってきた魚の生ごみはどうしてるんだろう?


「あれにゃ? 浜の畑に穴を掘って埋めてるにゃ」

「まだ埋められそうかな?」

「端から少しずつずらして埋めてるにゃ。まだ半分にも達してないにゃ」


 雨季は何とかなりそうだ。乾季になれば本格的に畑の開墾が始まりそうだから、新しい畑に鋤き込めそうだ。


 草取りが終わった畑の測量を行ってみると、南に30cmほど下がっている。

 これぐらいなら問題ないかもしれないが、この辺りで降る雨を考えると不安になってくる。

 やはり平らにすべきだろうな。

 小母さん達が道を挟んだ西の畑の草取りも始めたようだ。1編が30mの畑が東西にそれぞれ3面ずつ。南の下るにしたがって左右の畑の数が増えていく。5段も下がると東に5面、西が6面になる。

 さすがに、それを一気に開拓できるとは思えないから、当座は南に2段、畑の数は7面で十分だろう。


 いつものように夕食後は、ココナッツ酒を飲みながらの話し合いが始まる。

 相手が見えないところで仕事をしているから、情報交換の場でもある。

 とはいえ、ココナッツを消費するために酒を飲ませる場と、カルダスさん達は勘違いしているように思えてならないんだよなぁ。


「そうか。畑は平らに作った方が良いだろうな。いよいよ保冷庫を作り始めるから、それが終わって余力があれば畑の石を積んでみるか。貯水池の方も始めたいが、嫁さん連中が畑を作りたがっているようだからな」

「なら、桟橋の方を一時中断して俺達が初めても良いんじゃないか? 畑ならそれほど高く積まないだろうから、この季節でなんとかできると思うんだが」


「ナギサの指示で始めたほうが良いぞ。積む高さもあるからな。まだ土地はさずとも良いだろう。均す時には俺達も一緒だ」


 北よりも南が30cmほど低いのだが、30cmの石垣を作るととんでも無い量の土を運んでこないといけなくなりそうだ。

 確か真ん中付近も測量したはずだから、断面図を描いて他から土を運ばずに済む高さを計算してみよう。

 段々畑は、結構作るのが難しそうだぞ。

 

 トリマランに戻ってランプの下で測量結果を基に畑の断面を描いてみるとどうやら傾斜が一様ではないようだ。畑の真ん中付近は北の端から比べて10cmほど低いだけだが、南端では30cmなんだよなぁ。

 同一傾斜なら南端を15cmの高さに石を積みだけで平坦化できるんだけど、少し高く積んだほうが間違いないだろう。面積計算を繰り返して最終的に出した石積の高さは21cmという値になった。

 ある程度畑が盛り上がってる方が後々良いんだろうけど、とりあえずこれで積んでみるか。

 土が足りなければ下の畑の土を運ぶことになりそうだな。

 ほっとした気分でパイプに火を点けた時だった。

 もっと重大な点を見逃していることに気が付いたぞ。

 これだと、下の畑を作るときに平坦化が出来なくなってしまう。平坦化は高場所から低い場所へと土を運ぶことになるから、石段の基部より下の畑の高さが低くなってしまうのだ。


 慌てて下の畑の測量結果を取り出して断面を描く。

 今度は南が40cmほど低い。となると北側が20cmほど低くな勘定だ。

 単純に21cmの高さで石を積むんではなく、深い溝を掘って50cmほどの高さの石垣を作ることになるってことだな。

その石を集めるのも大変な作業になってしまうんじゃないか?

 明日の朝食時に改めてザネリさん達と相談することになってしまいそうだ。

                ・

                ・

                ・

「そう言うことか! 確かに斜めの畑は耕し辛いだろうな。こんな風に土を移動するとなると先ずは溝掘り空になりそうだ。石運びと溝掘りを分けて行おう。この絵を貰っておくよ。後は任せとけ」

「済みません。単純にちょっとした石積みをすれば良いぐらいに考えてたものですから」


 俺の謝罪に、ザネリさん達が笑みを浮かべて「気にするな」と言ってくれた。


「ナギサが俺達と変わらないんで安心したよ。長老達やカヌイの婆さん連中も一目置く存在だからな。俺達と一緒に騒ぐことなんかできないと思ってたんだが、付き合っている内にナギサの性格が少しずつ分かってきたからなぁ」

「そうは言っても、俺体より広い知識を持ってるんだ。たぶん長老達はそれを知っているから、左手に置くんだろう? 俺達も10年ほど経てば、長老達の前に座れるだろうが、さすがに左手には座れないな」


 名誉職みたいな場所なんだろうな。カイトさんやアオイさん達はその場所で長老達を支えてと思うと、重圧をいつも感じてしまう。


 ザネリさん達に後を託して、俺達は測量に向かうことにした。

 歩いて行くと時間が掛かるから、今日はトリマランで島の南端に向かう。

 結構岩礁があるようだから、上陸はザバンを使うことになるだろう。


 入り江の奥から、一路西に向かって、張り出した半島を反時計回りにトリマランを進める。半島は3kmほど伸びている感じだな。この半島の測量は次の乾季で行おうと考えてるんだが、片方が終わる頃には乾季が終わりそうな感じに思える。

 

 半島の突先でトリマランが大きく回頭すると、今度は南東方向に進み始めた。

 元々が丸い島ではなかったようだ。南になだらかな傾斜地が見える。

 バナナやココナッツが生えているから、そのままで十分かもしれない。双眼鏡で確認すると、結構常緑樹がたくさんあるな。

 あれを伐採してココナッツを植えるだけで十分な畑になるんじゃないか。


 2時間程掛かって、目的地に到着した。

 島に近くに投錨して、ザバンに荷物を載せて島の南岸に上陸する。


「この辺りは、岩だらけにゃ。海中にもたくさんあったにゃ」

「結構浅いから、カタマランを近づけるのはむずかしいだろうな。だけど少年達の素潜りには絶好だと思うな。大きいのもいるみたいだよ」


 ザバンの上から、50cmを越えそうなブラドが群れを成しているのが見えたぐらいだ。大物が突けたなら自信もつくだろう。


 うねりもほとんど無いから、岩場に簡単にザバンを寄せられる。

 さて、最南端はどこになるんだろう?

 コンパスを使って、最南端を探す。

 こんなことを気にするのは、俺が日本人だからなんだろうな。

 記念碑を立てたくなるんだよね。


「ここが島の一番南側だよ。目印を刻んで、ここから測量を始めるからね」

「この間測量した場所からだいぶ離れてるにゃ。全く見えないから、途中に何カ所か測量点を作らないといけないにゃ」


 あの小さな山の向こう側までなんだよな。

 山のてっぺんは未だだったから、早めに測量しといた方が良いかもしれない。今日はこの岩場を中心に測量を行って、明日はあの山を狙うことにするか……。


 正確な地図は、長く使えるだろうし、何と言っても建設計画が容易になる。

 俺のライフワークになるかもしれないけど、いったん終了したとしても、詳細化を図っていこう。


 エメルちゃんが西に黒い雲を見つけたところで、少し早いけど作業を中断して入り江に戻ることにした。

 桟橋まで残り1kmほどになった時に、豪雨が襲ってきた。

 トリマランの速度を緩めて、桟橋にどうにか横付けを終えた時には全身びしょぬれだ。

 着替えを終えて、恨めし気に豪雨を眺める。


「今日は浜で料理が出来ないにゃ」


 全く困った、と言う表情をしながらタツミちゃんが浜を眺めている。

 嫁さん達がワイワイ楽しそうに料理をしているのが、焚き火を囲む俺達にも聞こえてくるんだよなぁ。

 タツミちゃん達のストレス発散の場なのかもしれない。

 だけど、タツミちゃん達もトーレさんのおかげで料理が上手になってきたから、俺は楽しみなんだけどね。


 夕食は帆布のタープの下で、雨音を聞きながら取ることになった。

 バナナの炊き込みご飯はエスニック風のスープと良く合う。バゼルさん達が作った燻製を貰ったのかな?

 ご飯の上に燻製の切り身が乗っていた。

 

 お代わりして夕食を終えると、ココナッツ酒が出てきた。

 まだココナッツの殻を集めているんだろうな。1日3個ぐらいのノルマがあるのかもしれない。昼に飲んだ水筒の中身もココナッツジュースだったぐらいだ。


 パイプを楽しみながら、ゆっくりとココナッツ酒を味わう。

 あちこちのカタマランが付けているランプが豪雨でぼんやりと見えるのも何となく風情があるし、何時もより涼し気な風があるのも気持ちが良い。


「次のリードル漁が終われば開拓の数も増えるのかにゃ?」

「そうだね。もう少し人数が欲しくなるな。畑を平らにするのも大変な作業だし、何と言っても貯水池を作らないといけない。

 大勢がやってくるのは貯水池に目途が立ってからだと思うよ」


 乾季の水の確保が問題だ。

 船に搭載する水の量では、こちらに来て数日が良いところだろう。それを国庫ナッツで補うとなると、1隻当り30個以上持ってこないといけなくなる。それでも数日分の水が確保されるぐらいだからなぁ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 中盤にてナギサが島の南側へザパンで向かう際に海中に50cmクラスの魚が見える描写が有るが、この時期に島まで魚が寄って来て居るか他の漁師からの報告が今までに無かったはず。   もう開拓中…
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