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P-130 保冷庫作りは材料集めから


 燻製を始めた2日後に、夕食後の焚き火を囲んで燻製を炙って酒盛りが始まった。

 少し肉が引き締まった感じだから食感が良い。

 これなら毎日でも食べたいぐらいだけど、これを商船に売ることで俺達の生活の糧が得られるんだから、あまり食べられないのは仕方のないところだ。

 新鮮な魚介類が食べられるんだからね。長期保存に耐えるような食品に加工しなくとも良いんだからありがたいと思わないといけない。


「良い出来ですね。これなら商船が喜んで引き取ってくれるでしょう」

「だが、ここから氏族の島は遠いからなぁ。ナギサの話を聞いて、もう1日、燻製を続けているんだが、その両者を島に持って帰っての相談になる」


 保冷庫さえしっかり作ればこれでも十分だろう。商船も保冷庫に入れて大陸に運んでいるぐらいだ。

 だが、カタマランの保冷庫は頻繁に開け閉めをするからなぁ。温度を一定に保てないところが難点だ。


「そうなると、大きな問題は後1つですね。リードル漁の漁場が近くにあるかどうかです」


 俺の言葉に、皆が急に黙り込んだ。

 じっと俺に視線を向けている。


「あるだろうか? さすがにそこまでは望んでいなかったが、あるなら現在の氏族の島に戻る必要が無いのだが」

「たぶんあると思っています。とはいえ、氏族の島から東に2日の距離ですから、ここからなら3日今までの漁場に行くことも可能です。まだ調べる必要もないでしょうが、ある程度この島の開発に目途が付いたら探してみようかと思っています」


 潮流に乗ってやってくるなら、他の氏族の島のリードル漁の漁場が参考になる。

 何か所か辺りを付けて、その季節にリードルが渡ってくるかどうかを確認すれば済むことだ。

 とは言っても、リードル漁は新たな船を作るための資金源でもある。長老達もそれを調べることを強制することはできないだろう。


「場合によってはリードル漁を1回休むことになりかねないぞ」

「その公算が大きいでしょうが、俺なら次で挽回できるでしょう。だいぶ資金がたまりましたがまだ次の船を作る予定はありません」


 カタマランなら十分に作れるだろうが、タツミちゃん達の要望次第では現在の船が大型化するかもしれない。カタマラン2隻分以上の資金を集めないといけないだろうな。


「カルダスと交代したなら長老に話をしてみよう。確かに大きな問題だな」


「それ以外にはないんだろう? まだまだ入り江の奥まで魚は来ていないが、多分時間の問題だ。ナギサの方縄張りが終えているなら、後は力仕事だけだからな」


 俺のカップに、新たなココナッツ酒を注ぎながらガリムさんが問いかけてきた。

 考えつくのはそれぐらいだな……。カップに口を付けながら考え込む。


「いろいろと心配の種はありますけど、先ずはココナッツをたくさん割らないといけないでしょうね」


 俺の答えに皆が笑い声をあげた。もっとココナッツ酒を飲むことが保冷庫作りに必要だと理解したのかな?

 だいぶ殻が山になってきたんだが、あれではまだ足りないらしい。

 カマド近くにはせ負いカゴ3つほどココナッツが置かれているし、俺達の船にだって背負いカゴ1つ分ぐらいは乗せられている。

 もっと飲めと言われても、そもそも消費量がそれほど多くないことも確かだ。

 ここしばらくココナッツミルクのリゾットが夕食に出るんだけど、少し飽きてきたんだよなぁ。


「明日も運んでくるぞ。この辺りのココナッツは誰も取らなかったからなぁ。どの島にもたくさん実が付いてるんだ」

「芽の出たココナッツがあれば持ち帰ってくれ。この島にもココナッツは必要だろう。数十は生えているが、もっと増やすに越したことはない」


「たまに見かけるから、持ち帰るよ。どのあたりに埋めれば良い?」

「そうだな。高台の広場をもう少し広げて底に植えるか……」


 たまに落ちることもあるんだが、危なくないかな?

 長老の頭にでも落ちたら、問題だと思うんだけどねぇ。


 今日はいつもより酒の進みが速い気がする。

 やはり燻製が上手くできたからなんだろうな。通常より2倍燻した燻製の出来は、明後日にはわかるだろう。

 またここで酒を酌み交わすに違いない。

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 通常より2倍燻した燻製は歯ごたえがかなり良い。

 それだけ水分が減ったんだろう。焼くと少し柔らかくなるが、炙らなくても食べられそうな気がするな

 

「これも良い感じだな。こっちの方が売れるんじゃないか?」

「手間が2倍ですよ。お爺さん連中に倦厭けんえんされそうです」

「だが確かに一味違うな……。これは交渉しても良いんじゃないか」


 単価を上げられるということなのかな?

 それならお爺さん達だって、やる気が起きるに違いない。


 2回目の酒盛りをした翌日は朝から豪雨だった。

 さすがにこれでは、仕事もできそうにないな。

 朝食を終えたところで、のんびりと豪雨を眺めながらパイプを楽しむことにした。


「今日はみんなお休みにゃ。働き尽くめだから今日は1日のんびりできそうにゃ」

「そんな感じだね。雨季の真っ盛りという感じに思えるよ」

 

 乾季の豪雨は短時間で終わるんだけど、雨季ともなるとそうもいかない。半日近く続くんだよなぁ。

 この雨が上がるころには日が傾き始めているんじゃないか?


 せっかくだからと、今までの測量結果を整理することにした。

 だいぶ島の形が見えてきたな。

 4つの島が合体したような島だからかなり大きいことは確かだ。

 入り江の奥と南の半分ほどはかなり正確に描けるが、入り江を作っている南北の岬については概略だけだ。生活に必要な場所だけを測っていたからだろう。雨季はとつぇんの雨に対処しようがないけど、乾季ならば足を延ばせそうだ。

 雨期は南に向かって測量を続け、その次は入り江を作っている半島に足を延ばしてみるか。

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               ・

 俺達から遅れること1か月。

 カルダスさんの率いる船団が到着した。これで、バゼルさん達は引き上げることになるんだが、引継ぎは酒盛りで行ってるんだよなぁ。


「燻製小屋ができたってことか? それも2つなら問題ねぇな。この燻製は少し硬めだが、結構美味いぞ」


「ナギサが2日燻製にした方が良かろうということでやってみた。明日帰る俺達の船の保冷庫に入っているから、ギョキョウーに卸して様子を見るつもりだ」


「問題ねぇと思うがなぁ。とはいえ、爺様達がどういうかだな。少し高めに買い取ってくれるなら有難てぇんだが」


 それを確認するのが目的でもある。保存期間が長くできるなら商船が喜んで購入してくれると思うんだが、これはしばらく様子を見ることになりそうだ。


「桟橋の方は、少し顔を出したようだが、浜だけではなぁ。まだまだ時間が掛りそうだな。それで、ナギサの方は準備ができてるのか?」


「とりあえず縄張りを終えました。1つの壁面に2本引いてありますから、それが土台位置になります。桟橋より時間が掛ると思いますよ」

「なぁに、心配はねぇぞ。陸の上だからなぁ。息継ぎがいらなぇだけでも作業は楽になる。それで、桟橋はザネリ達に任せる。たまに魚を突いてくるんだぞ。でねぇと嫁さん連中に睨まれるからな。

 ナギサは島の地図作りだな。どれほどまで進んでるんだ?」


 焚火の前に地図を広げると、皆が集まってきた。

 

「だいたいこんな感じです。高台の森を開いて広場が2つ。長老達の住む広場と炭焼き、燻製、それに保冷庫を作る広場がこちらです。広場から南に道を作って、その両側が将来の畑になる予定です」


「貯水池はここか……。長老のログハウスは最後で良いだろう。反対側にもう1つ小屋を作った方が良いかもしれんな。貯水池の石を積み上げる高さを決める杭を打って、土台だけでも作りたいところだ

 ところで、雨水を集める仕掛けは上手く行ってるのか?」


「雨季ですから、溢れるほどです。当座は今の3つで十分でしょう。皆さんの船でも雨水を集めることができますからね」


 うんうんと聞いているんだけど、ココナッツ酒を飲みながらだからどのぐらい考えているのかわからないな。もっともカルダスさんは、漁をしないときはいつでも飲んでいるように思えるんだけどね。


「となると、保冷庫を先に作るべきかもしれんな。材料は集めてあるんだろう?」

「まだ1棟には足りんぞ。今夜でさえ、使ったココナッツは10個だからな」


 カマド近くに山になってるんだが、あれでも足りないってことか。そうなると、ココナッツの消費が俺達の仕事にもなりそうだ。


「明日から毎日ココナッツを2個ずつ飲んでしまえ。夜はここでココナッツを5個を割ればすぐに溜まるだろう。保冷庫があればここで漁ができそうだ。さらに開拓の人数を増やせるぞ」


 思わずザネリさん達と顔を見合わせてしまった。

 その考えだと、毎日のココナッツ消費量が50個近くになってしまう。

 石積とココナッツ採取の2手に分かれた作業になりそうだ。


「俺も協力しますよ。保冷庫が1棟できてからで、杭打ちは間に合いそうですから、木登りは下手ですが実を集めることなら出来ますからね」

「そうしてくれると助かるよ。3人ほど連れて行ってくれ」


 さて明日からどうなることやら、人数が増えたことで少しは作業が捗るんだろうけどね。


 翌朝。朝食を終えるとすぐにバゼルさん達は船団を組んでこの島を去っていった。

 残った俺達は、昨夜の役割分担に沿って仕事を始める。

 ザネリさんが友人2人を連れてきて俺に紹介してくれた。

 俺とは年代が違うけど、同じ氏族だからね。すぐに打ち解けて船尾の甲板でタバコ盆を囲んでパイプを楽しむことになった。


「聞いてはいたが、やはり大きいなぁ。俺も次はこれぐらいの船が欲しいよ」

「横に動いた時には驚いたぞ。魔道機関の数が5個だと聞いた時には信じられなかったからなぁ」


 嫁さん達を連れてこなくて良かったと2人が言っているのは、多分欲しがるのが分かっているからだろうな。

 トーレさん達も俺達と一緒の時は、いつも操船櫓に登っているぐらいだ。


「南に島5つほど進めてみるにゃ。近くはあまり実ってないにゃ!」

「バゼルさん達が結構運んでいたからなぁ。それでいいよ。たくさんあるような島を見つけてくれ!」


 島に近づかなくても双眼鏡で確認できるだろう。それだけ広範囲に探すことができるはずだから、今日1日で100個は運びたいところだ。


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