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P-129 燻製を作ってみよう


 やはり雨季の作業は豪雨の避難小屋が必要なようだ。

 丸太の柱と梁を作り、その上に帆布を乗せただけの小屋だ。それでもが、焚き火を作って、お茶が飲めるんだから皆も満足している。

 お茶を飲みながら、豪雨を眺めるのもちょっとした息抜きになるようだ。豪雨が過ぎれば、再び過酷な仕事が始まるんだからね。


 岩場の貯水池は高台の広場よりもさらに高い場所になる。と言っても2m程なんだが、これだけあれば流路を確保するのが楽になる。

 耕作地の予定地へも灌漑用水を確保試案蹴ればならないから、小さな貯水地を2つばかり作ることにした。

 蓋をしておけば、乾季でも水の蒸発を抑えることができるだろう。


「これだけあれば、子供達が泳げそうにゃ」

「そこは注意しておかないとね。確かに大きいけど、これは皆が飲む水なんだから」


 長辺だけでも30mはある。俺が最初に考えた大きさよりも一回り大きく作るのは、長老の意見でもあった。

 島に湧水が現れれば問題は無いと思っていたんだが、無い場合も想定した結果なんだよなぁ。

 現実主義もここまでとはねぇ。トーレさん達女性は前向きなんだけど、男性達は異なるようだ。


 バゼルさんが、縄張りを確認して驚いていたからなぁ。だが、これを作るのは海中に桟橋を作るよりは容易だと思っている。材料がその辺にたくさんあるからね。


「ナギサの方は、これで終わりになりそうだな。次はどうするんだ?」

「畑の場所を決めようかと思っています。なだらかな土地ですから、そのままでも良いんでしょうけど、いくつかの段差を作れば平らな畑ができそうです」


「区割りは必要だろうな。共同で耕すとしても区割りがあれば違った作物が作れる。同じ場所で長く同じものを作れないらしいぞ」


 何時ものように焚き火を囲んで状況を話し合っていたんだが、バゼルさん達は連作の弊害を知っていたのには驚いた。

 小さな畑でも起きることが分かっているなら、俺がいくつもの区割りを考えても問題は無さそうだ。

 斜面に畑を作ると、豪雨で土壌が流されそうだからね。30m四方くらいの畑を斜度に合わせて作っていけば良いだろう。


「燻製小屋も半分は出来てきた。どうにか板は足りそうだが、魔道機関のノコギリを試すのは俺達ではなくカルダス達になりそうだな。そうだ! お前らはちゃんとココナッツの殻を一カ所に集めているんだろうな?」

「だいぶ貯まってきたけど、まだまだ集めた方が良いのかな?」


「保冷庫は二重壁だ。その間にココナッツの繊維を入れることになる。棒でしっかりと突きながらの作業だから、かなり集めたようでも直ぐに無くなってしまうんだ。

 たぶんカルダス達も持って来るとは思うんだが……」


 壁は4方向だからなぁ。かなりの量になるとは思うんだけど、俺達が毎日ココナッツ酒を飲んでいるのも、それに関連するのかもしれないぞ。

 

「石積みは、浜から少しずつ伸ばし始めようと、20FM(6m)の長さで積み始めたんだ。ところが、そうなると小石や砂が必要になるんだよなぁ。明日からは小石を運ぶことになるよ」

「小石と砂は交互に入れるんだぞ。かなり砂が流れてしまうから小石は小さい方が良いんだが……」


 ガリムさんにバゼルさんが教えているけど、本来なら川の下流で採れる小砂利が一番だ。

 生憎と島で採れるのは海ばかりだ。それもサンゴが砕かれた砂だから細かいんだよね。

 その為に、接着剤と砂を混ぜたモルタルモドキで、積み石の間を埋めているんだろう。

 

「それで、サンゴの方はどうなってるんだ?」

「まだまだ足りないよ。それでも1度にカゴ3つ分は運んでるし、ザバンに下げたカゴにも積んできてるよ。乾季に植えたサンゴも元気だったぞ。数年すれば定着して大きくなるんじゃないかな」


 やはり潮流があるからだろうな。サンゴが育てば魚もやってくるだろう。


「まだ魚は姿が見えんか?」

「まだだね。それでも島1つ先ではたまに見かけるから、この桟橋にも次のリードル漁前にはやってくるかもしれないな」


 ガリムさんの言葉に、焚き火を囲む男達に笑みが浮かんだ。

 皆が楽しみにしてるんだよなぁ。磯の桟橋作りで潜っている時に魚を見ることができた夜は、ここで一晩中飲み明かすんじゃないかな。


 10日程掛かって、畑の縄張りを終える。

 炭焼き小屋や燻製小屋のある広場から南に真っ直ぐに道を作って、その東側に灌漑用の用水路を設ける。用水路は横幅が1mほどにしてあるけど、ここは排水路を兼ねることになるからなぁ。断面が四角で一辺が90cmほどの排水路上部に断面が30cmの樋を着の痛手作ろうと考えている。

 途中に小さない貯水池の用地も確保したから、後は耕しながら石積みをすれば大丈夫だろう。


「もっと下に畑も作れそうにゃ」

「あれはお米を作るために残しておこうと思ってるんだ。場合によっては一番下の畑でもお米が作れると思うな。畑は高台に上にも作れるけど、お米だけは水が無いと育たないからね」

 

 結構余地がたくさんある。

 最初から全て耕作地に変える必要は無いから、これで進めて、必要に応じて広げれば十分だろう。


 縄張りが終わったので、再び島の測量を始める。三角が増えればそれだけ正確な地図ができる。1日10カ所が目標だけど、たまに豪雨が俺達の作業を中断させる。


「乾季にやれば仕事が捗るにゃ」

「そうだね……。ガリムさん達を手伝うか」


 そんなことで、カルダスさん達2番手がやってくるまで、ガリムさん達の作業を手伝うことになった。

 とは言っても、石運びとサンゴの植え付けだから、台船で往復する日々が続く。

 たまに豪雨に襲われるが、サンゴの植え付けは豪雨の中でも行えるし、台船に上がればシャワーを浴びている感じだ。


「まだまだ植える場所があるにゃ。もう少し遠くで採取しないといけないにゃ」

「明日はトリマランを使おうか。それなら遠くに行けるよ」


 タツミちゃん達も、近くのサンゴ礁から大宇枝を運んできているのが気になっているようだ。

 新たなサンゴ礁を作るのに、周辺のサンゴ礁をあまり壊したくないんだろう。それは俺も同じ思いだ。

 島を3つ以上離れれば、そこはたくさんのサンゴ礁が広がっているんだからなぁ。さんな場所から運んでこよう。

               ・

               ・

               ・

 島に来てから1か月目がやってきた。カルダスさん達は氏族の島を出発したんじゃないかな。

 何時ものように食事後で焚き火を囲む俺達に、バゼルさんが指示を下した。


「明日は一旦作業を止めて漁に出掛けよう。燻製小屋が2つ出来たからな。1つを使って出来を確認したい」

「俺たち全員で漁をしたらかなり集まるんじゃないですか?」


「小屋は氏族の島よりも大きいぞ。たぶん半分にも満たないだろう。一夜干しを作って、燻製小屋に運ぶ。それを1日燻製にして配るから保冷庫に入れておいて欲しい。そのまま島に持ち帰ってみようと思う」

「お土産を持って帰れますね。頑張らないと……」


 上手く行けば良いんだけどなぁ……。環境条件が悪い雨季で、しかも保冷庫の大きさがあまり大きくない。1日2回は氷を追加することになるだろうし、水抜きも試合といけないんだよな。

 カビを生やさずに持ち帰れるんだろうか?


「1つ実験してみませんか? 燻製後に陰干しを行ってさらに水分を減らせば燻製の持ちが良くなると思うんです。出来ればカラカラに仕上げたいですね。そこまで乾燥させれば保冷庫に入れずに保存できます」


「何種類か作ってみようと、話していた件だな? それなら出来た燻製の半分を陰干しにしてみよう」

 

 どんな結果になるのか楽しみだ。固くなってもスープには使えるはずだし、焼けば硬くなった魚肉も柔らかくなるんじゃないかな。


 翌日はガリムさんの指揮で俺達は近くの海で素潜り漁を行った。

 バルタスが100匹以上突けたし、バヌトスも30を越えてる感じだ。

 大きな魚を選んでトーレさん達が運んで行ったのは夕食用なんだろう。残った魚をっ罪ちゃん達が捌いて浅いザルに並べ始める。

 帆布のタープの下に丸太を並べその上にザルを並べる。帆布のタープからはみ出しそうになったので、急遽ザルの上に竹を置いてその上にも並べている。


「一夜干し用の小屋も考えるべ気かもしれないな」

「とりあえず荷物置き場のタープで十分です。一夜干しは皆船の上で作ってますからね。後々邪魔になるだけですよ」

「それもそうだが、荷物置き場を使うとはなぁ……」


 気にしたら切りがない。


「それなら、ギョキョー小屋を作りますか? 屋根だけですが、必要になったら壁や倉庫を作れば良いと思うんですが」


「ギョキョーか……。そうなると石の桟橋近くが良いだろうな。まだトロッコが無いから背負いカゴで運ぶことになるぞ」


「それは仕方が無さそうですね。女性ばかりに任せずに、俺達も手伝えば問題ないと思います」


 試験目的だし、毎日運ぶわけではない。ここは皆でやって負担を軽減すべきだろうな。


 翌日は、ザルから手カゴは背負いカゴに一夜干しを入れて皆で燻製火屋へと運んでいく。

 手籠に一夜干しを入れると、燻製小屋の中の梁にカゴを吊るし、いよいよ焚き木に火を点けて燻始めることになった。

 燻製小屋の炉は小屋から10YM(3m)ほど離れている。

 できるだけ熱い煙りにならないようにとの配慮なんだろう。これだけでどの程度温度が下がるのかはバゼルさんのも分からないそうだ。

 昔からこの距離だと言ってたからなぁ。

 小屋に設けた煙突から煙が登り始めた。このまま1日燻製にするらしい。


「今夜は2人で交代しながら焚き木を燃やす。燃やすと言っても煙が僅かに出るぐらいだがな」

「結構難しそうですね」

「難しいぞ。老人達は苦も無くやっているが、いざ自分達ではいめるとなると面倒な事は確かだ」


 夕食後の酒盛りは、皆の機嫌が良い。

 やはりこの島で、最初の燻製が出来上がるのが嬉しいんだろう。明日の夕食は燻製が食べられそうだ。

 何時も新鮮な魚料理ばかりだけど、たまには燻製を焚き火で炙るながらここアッツ酒を酌み交わしたい。


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