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P-128 燻製小屋と貯水池


 魔石の競売が終わって3日目には、商船が島を去っていく。

 とりあえず船の値段と納期の確認結果を長老に報告しておいた。上位魔石12個ということだったが、それぐらいなら俺が居れば何とかなる。

 

 タツミちゃん達がたっぷりと食料を買い込んだから家形の中はハンモックが吊るされる空間だけが残った感じだな。甲板にまでタルが3つも乗せられているけど、これは接着剤らしい。


「水もたっぷり積んであるし、ザネリさんがココナッツを届けてくれたにゃ。何時出掛けてもだいじょうぶにゃ」

「今夜の会議で決まるらしいよ。なんでも同行希望者が多いらしくてもめてるみたいだ」


 たぶんバゼルさんとカルダスさんが、半数ずつ率いてくることになるんじゃないかな。

 若手の希望者も多いらしいから、今度はザネリさんも来るかもしれない。

 既に大型の台船には山のような資材が積まれて帆布を被せてある。到着までに7日以上掛かりそうな荷物なんだよなぁ。

 どういう構成になるか俺も楽しみだ。


「たまに釣りができると良いにゃ」

「そうだね。だけどまだまだ島に魚が寄ってこないみたいだ」


 やはり造山運動の影響なんだろう。地底深くから何かのイオンが海中に溶け込んだのかもしれない。

 奥の深い入り江なんだが、不思議なことに流れがある。

 魚が戻ってくるのも時間の問題には違いないだろうけど、早く来て欲しいものだ。

 そのためのサンゴの育成なんだけどなぁ。先が遠いと感じてしまう。


 翌日の朝早く、バゼルさんとカルダスさんがやってきた。

 どうやら、バゼルさんが先行するようだ。


「俺と中堅が5隻に若手が5隻、若手はガリム達になる。1か月後にはカルダスがやってくるが、これで進めることになりそうだ」

「俺の方は、中堅を10隻に若手が10隻だ。1か月交代だが、ナギサには申し訳ないがそのまま次のリードル漁まで我慢してくれ」


「それぐらいは構いませんが、あまり長く漁を休むと腕が落ちますね」

「長老がそれを気にしていた。炭焼き小屋ができれば次は燻製小屋だ。今度は燻製小屋と保冷庫を何とかしたいところだな」


 向こうの島で、交代しながら漁をするための施設を先行することになるようだ。

 高台に作るから運搬に苦労しそうだから、簡単なリフトも作るべきだろうな。


「板は何とかなりそうなのか?」

「やってみないと分かりません。ダメなら交代でノコギリを使うことになります」

「保冷庫は板をたくさん使うからなぁ……。まあ、時間だけはたっぷりとある。何とかなるだろう」


 中堅の仕事は保冷庫作りになりそうだ。

 となると、若手は石造りの桟橋になるのかな?

 なかなか進まないからなぁ。海面に姿を現すのは何時になるんだろう。


「出発は明後日の朝になる。しばらくは帰れんが、準備は行っていたようだな」


 タルまで甲板に乗せてあるからなぁ。危うくタバコの買い置きを忘れるところだったが10包も手に入れたし、ワインだって20本はあるんじゃないかな。

 調味料だけで小さなカゴが溢れるぐらいだ。さすがに買い過ぎだと3人で反省していたんだよね。


「建物ができれば、運用する人たちの人選も必要でしょうね?」

「爺さん連中が名乗りを上げている。カヌイの婆さん連中も、2人程早めに向かわせたいようだが、さすがにまだ早いと長老が断ったらしい。だが次の乾季には老人連中が向かうことは間違いない」


 やはり五月雨式の移住になりそうだな。

 元気な爺さん連中だから、俺達の仕事を奪われそうだ。


「俺は台船を引いて行けば良いですね?」

「頼むぞ。1隻だけだが、俺達の船では一番力があるからな」


 結構重そうだから、タツミちゃん達が文句を言いだしかねない。

若手が多いというから、それ程速度も出さないだろう。


 リードル漁から帰って6日目の朝。俺達は10隻の船団を組んで氏族の島を後にした。

 曳く台船は1隻だけだが荷物が満載だ。

 タツミちゃんが魔、道機関を2ノッチ半に上げてどうにか船団に付いて行ける、とこぼしていた。

 夜遅くまで船団は進んでいく。何とか航程を短くしたいと考えているのだろう。この調子なら半日程度は短縮できそうだな。


 2日目の昼過ぎには豪雨がやってきた。

 その場でアンカーを下ろして待機と言うことになったが、台船を繋いだままだから俺達のトリマランだけを少し離れた場所に停泊させた。

 台船が動いて他の船に衝突することを避けるためだ。

 雨が止むのを待ちながら、たまに台船の位置を確認する。この船に衝突しないとも限らないからなぁ。

 一応、台船にもアンカーを乗せているけど、夜間にだけ投錨している。豪雨が治まれば、再び南東に向かっての航行が始まるからね。


 途中2回豪雨に襲われたけど、7日目の昼前に目的の島に到着することができた。

 豪雨さえなければ昨日の昼には到着できただろう。今は雨季だから仕方がないことではあるんだが……。


 荷物を島に運ぶだけで1日目が終わってしまった。畑の土を買い過ぎたかもしれないな。魔道機関で動くノコギリは運ぶだけで、4人掛かりだ。

 荷物を置いた小屋の屋根を再度確認して、今日の仕事を終えることにした。

 

 久しぶりに大勢で食べる夕食は、何時もより美味しく感じる。トーレさん達が張り切って作ってくれたからね。

 明日から始まる作業の分担を話し合いながら、たっぷりと頂くことになった。


「俺達は桟橋の方だな。1日石を積んで、その翌日はサンゴを植えることにするよ」

「サンゴを2回植えたなら、その翌日はオカズを突いてきてくれ。ついでに周辺の島から土と焚き木を運んでほしい」


「ギョキョーが無いから食うだけってことだね。半日で十分だろう。余れば干魚が作れそうだ」


 干魚を上手く作るのは難しいんだよなぁ。一夜干しだと寵姫保存ができないのが難点だ。

 やはり燻製小屋作りが、残った俺達の仕事になるのかな?


「ナギサ達は水場となる貯水池の縄張りをして欲しい。俺達で始めることは無いが、カルダス達が来れば直ぐに始めたいからな。残った連中で先ずは燻製小屋作りだ。出来れば帰りの船に燻製を乗せていきたい。痛みが出るかどうかを確かめねばなるまい」


 カタマランの保冷庫に入れての運搬になるのか……。

 問題は無いと思うが、一応確認しておこうということなんだろう。


「板は運んできたが、足りなければ丸太をノコギリで切ることになる。ナギサが魔道機関で動くノコギリを作ったというから、その時にはその試運転ができるぞ」

「場所は決めているのか?」


 誰かの声にバゼルさんが地図を広げた。

 炭焼き小屋から20m程離れた西側だ。直ぐ西はちょっとした崖になっている。崩れた石が土留めになったような場所だから、直上付近に小屋を作っても崖が崩れるようなことは無いだろう。

 あの崩れた石を使って階段ぐらいは出来そうだな。バゼルさんもそれを見込んで場所を決めたに違いない。

 木の桟橋から少し距離があるように思えるが、氏族が暮らす島よりはかなり近くなる。

 将来はあの崖下付近にギョキョーの小屋を作ることになりそうだが、それぐらいの場所は十分に確保できる。

 

「この岩場にもっと砂を投入したいですね」

「一時運んでいたんだが、さすがにこの広さだからなぁ。この周囲だけでも敷いておくか」


 そんなことで、ガリムさんの仕事が1つ増えたようだ。

 もっとも、意思を運びついでに手カゴに砂を詰めて来ると言っていたから、これもかなり時間が掛かるに違いない。

 食事が終わりココナッツ酒を飲み始めると、皆の希望が色々出てくる。

 その話を聞いていると、やはり漁をここで行い氏族の島に持ち帰るための施設と船になるんだよなぁ。


 雨季の仕事は何時やってくるか分からない豪雨との戦いでもある。

 島に到着して2日目。早速石を運びにガリムさん達は小さな台船を引いて出航していった。

 バゼルさん達は燻製小屋を作るための広場づくりを始めるらしい。タツミちゃん達は、畑の雑草を引き抜いて、新しい種を植えると言っていた。

 俺は豪雨を集める貯水槽を見て回り、緩んだ帆布をロープで引いて、たるみを無くしていく。

 2つあるからなぁ。雨期ならこれで十分だろう。

 豪雨を受けて満タンになった水槽の水を一旦抜いて、水槽を洗っておく。必要が無いように思えるが、少し緑がかっていたからなぁ。水洗いだけで十便だろう。


 日が傾きかけた頃、豪雨がやってきた。

 これで飲料水に困ることは無い。ずぶ濡れで田折マランに帰り、着替えを済ませて次の仕事の準備をしておく。

 

「測量器と杭に細い紐は背負いカゴに入れたにゃ。この帆布はどうするにゃ?」

「岩場で豪雨に出会っても良いようにこれで屋根を作っておくんだ。三角屋根だけだけど、直接雨に打たれないだけでも良いんじゃないかな」


 バゼルさん達は、炭焼き小屋の傍に作った小屋で雨宿りをしてるんじゃないかな。ガリムさん達は自分達のカタマランを傍に留めておくだろうし、俺達だけが緊急避難できる小屋が無いんだよね。

               ・

               ・

               ・

「初日から雨とはなぁ……」

「まあ、これで水の心配がなくなったようなものだ。ナギサが水槽を洗ったと言っていたが、この雨だ。直ぐに満杯になるだろう」


「仮屋根を作っておくか。炭焼き小屋まで走ってもずぶ濡れだったからなぁ」

「俺達は朝からずぶ濡れでしたよ」


 仕事が順調に始まったのだろう。皆の表情は結構明るい。

 雨が止んだ時には星が出ていたけれど、浜辺で焚き火を囲んでの食事は何時も通りだ。


「トーレが野菜が育っていたと喜んでいたぞ」

「育ち過ぎてました。トーレさんに渡したんですが、驚いてましたね。新しく種も巻きましたから3か月も過ぎれば食べられると思います」


 作業人数が増えたらもう1つ作っても良さそうだ。もっともその時には南の緩斜面に作ることになるんだろうな。


「ナギサの方は石組の位置だけで良いからな。積もうとすると途方もない作業で嫌気が差すだろう。石の桟橋よりも時間が掛かりそうだが、皆が来るまでに出来なければ、今ある水槽の仕掛けを何個か作れば何とかなりそうだ」

「貯水池にしても同じですよ。帆布で大きな雨受けを作って貯めようと考えてます。そのころに山から水がしみ出す場所が見つかれば良いんですが」


 今度の雨季で、案外小さな泉ができるかもしれないな。

 岩場の近くに見つかれば良いんだけどね。


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