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P-127 リードル漁で資金調達


 小さな漁場だと聞いたけど、そんな感じがしない海域だ。

 それが分かったのは、潜った時だった。溝があるんだがそれほど長くはない。サンゴも少し小さく見える。

 とはいえ、溝の所々に穴があり、大物が潜んでいるんだよなぁ。


 久しぶりに60cmを越えるバッシェを突いたぞ。

 岩場に付いていたバルタスも何匹か突けたし、ブラドも50cm近い奴を次々と運ぶことができた。


「腕は鈍っていないということかな? 明日は水中銃ではなく銛を使ってみるよ」

「良い漁場にゃ。でも大きくないにゃ」

 

 いつもは10隻以上の船団で漁をするからなぁ。今回はガリムさん達を含めて4隻だけの漁だ。

 

 2日目の夜にはシメノンの群れがやってきたから、タツミちゃん達が頑張ってくれた。

 3日間の漁を終えて氏族の待つ島に帰ることにしたが、銀貨2枚近い漁果になるんじゃないか?


「久しぶりにギョキョーに漁果を運んだにゃ!」

「皆、驚いてたにゃ。一緒に行った船もあんなに獲れてなかったにゃ」


 ん? 同じ場所だよなぁ……。ひょっとして、腕が鈍ってたということか。

 ガリムさんは手銛だったはずだ。俺は水中銃と、竹筒で狙いを付けやすくした銛だから、その違いが出たってことかな?


「きっとやってくるにゃ。お茶を沸かしておくにゃ」

「やはり、少し漁から離れると腕が鈍るんだろうね。カルダスさん達もそうなるのかな?」

「後でトーレさんに聞いてみるにゃ」


 トーレさんなら、聞かなくても教えてくれそうだ。

 やはり長期的に漁から離れるというのは問題が出てくるのかもしれないな。


 何度か漁に出ると、だんだんと満月が近付いてきた。

 いよいよリードル漁が始まるということで、タツミちゃん達が準備を始めている。

 俺達は銛を研ぎ終えれば特にすることも無い。

 トリマランの甲板が大きいから、何時も誰かがやってくる。

 

 俺とバゼルさんでパイプを楽しんでいると、カルダスさんがやってきた。

 ココナッツを割って酒を作り、皆で飲み始める。


「やはり、森の腕が少し落ちた感じだな。どうにか取り戻したがガリム達はかなりオカズを作ったようだ」

「ナギサはそうでもないようだぞ。まあ、あの仕掛け銛を使ってのことだが」

「ガリム達も知ってはいるんだろうが、やはり仕掛けを使うのに躊躇があるようだな」


 教えたんだが、あまり広まらなかったみたいだ。

 腕が伴わない漁師が使っているからなんだろうな。使えるなら何でも試そうとは思わないようだ。

 やはりシンプルな銛と言うことになるんだろう。


「今回から氏族への上納が低位魔石2個になる。それぐらいなら問題あるまい。十数個は確実だからな」

「それで足りるでしょうか?」

「無理することは無い。あれだけの島だからな。我等の代で終わらねば子供達が後を継いでくれるだろう」


 慌てて変な開発をしないように釘を刺されたのかな?

 とは言っても、ある程度の施設を作れば開発を続けながら漁業ができることも確かだ。

 長老が運搬用の船に付いて俺に概要と予算を確認するよう依頼したのは、それを考えての事だからなぁ。

               ・

               ・

               ・

 リードル漁は氏族のほとんどが参加する。

 島に残るのは老人達ばかりだ。

 ほとんど漁を廃業している老人も子供達の船に乗って参加するぐらいだからなぁ。終の暮らしをするための船を購入するつもりなのかな?

 漁に出る船はほとんどがカタマランだが、船尾に水車の付いた外輪船も何隻か浮かんでいる。漁を止めた老人達が住んでいるんだけど、たまに近場での漁も行うようだ。さすがに素潜りはしないんだろうけどね。

 

 2日の航程で漁場に向かい、3日間の漁を行う。

 漁そのものは単純だが、リードルの槍に刺されないように細心の注意が必要だ。

 タツミちゃん達もトーレさんと一緒にリードルを焼いて魔石を取り出していた。


 3日間の漁で得た魔石は。上級が5個に中位が8個、そして低位が7個だった。

 都合20個は例年よりは多いんだが、新たな島の開発資金として使うんだから問題は無いだろう。

 トーレさんに魔石を1個渡し、バゼルさんには注意魔石を2個手渡した。


「低位で良いのだぞ」

「俺だけが状魔石を取ることができるんですから、これで皆と並ぶんじゃないですか? 次の船のために上位魔石は使えますし、漁を休んでも低位魔石を売れば暮らしは立ちます」


 板を作るための魔道機関だって、金貨1枚にはならないはずだ。残った中位魔石6個の内4個は開発資金に使わせてもらおう。中位魔石2個あれば十分に予備費として使うこともできるだろう。


 島に帰ったところで、タツミちゃん達に魔石の使い方を説明すると、中位は全て開発費に使ってもだいじょうぶだと言われてしまった。


「前の魔石の売り上げが残ってるにゃ。低位魔石5個あれば問題ないにゃ」


「魔石とお金はタツミちゃん達に任せるよ。明日の競売が終わったら、頼んである魔道機関を引き取りたいんだ」


「商船は直ぐに帰らないにゃ。でも頼んであるなら早めに引き取った方が良さそうにゃ」


 ノコギリと畑の土だからね。どれぐらいになるか分からないけど、中位魔石の競売結果があれば十分だろう。

 

 翌朝早く、タツミちゃん達はギョキョーに出掛けた。

 魔石の競売に参加するためだ。

 魔石は大きくは上中低の3種類に分けられるが、同じ低位でも上中下のクラスがある。他の魔石も同じだから、9つに分類されることになる。

 魔石の標準価格は中クラスだから、その魔石のクラスを見極めて入札するのが商会ギルドに参入している魔石担当者達だ。

 低位はそれほど入札金額に開きはないんだが、中位や上位になると途端にセリが吊り上がっていく。

 それを見るのも氏族の女性達の楽しみのようだ。


 低位魔石の競売が午前中に終わり、タツミちゃん達がトリマランに戻ってきた。

 蒸したバナナの昼食を頂きながら、今年の状況を教えてくれたんだけど、魔石5個で銀貨28枚になったらしい。

 次のリードル漁まで、全く魚が獲れなくとも暮らせる金額だ。


「生活費はこれで十分にゃ。午後は開発費と次の船の資金になるにゃ」

「他の人達はどうなんだい?」

「皆嬉しそうな顔をしてたにゃ。上位魔石が獲れないから半分以上は次の船の資金にゃ」


 俺達は恵まれているんだな。

 大型リードルを突けば、金貨を得ることができるだろうが、ネコ族連中は小柄だからなぁ。あの銛を使いこなせないようだ。


 午後の競売にタツミちゃん達が出掛けると、バゼルさんとザネリさんがワインのボトルを持って現れた。

 嫁さん達が出掛けているから、ここでのんびりと飲もうということなんだろう。


 カップを用意して、ワインを注いで貰う。

 パイプを取り出して一服しながらのひと時だ。帆布の屋根が日陰を作ってくれるし、海を渡る風は案外涼しいものだ。


「さすがに上納魔石を中位2個としたのはナギサだけだったが、2個の内1個を中位にした者は多かったようだぞ」

「それだけ期待されているってことですね」


「長老が大型の運搬戦を欲しがっているようだったからな。さすがに今回だけでは無理だろうが、次の雨季前のリードル漁いかんでは、発注することができるかもしれん」

「その金額を明日出掛けて確かめてきます。この船より大型ですが、保冷庫は自分達で作ることで値段を下げるつもりです」


「陸の保冷庫を船に作るってことか……。それなら可能だが、大きくなるぞ。ん! それでこの船より大きくなるってことだな」

「その上で、カタマランより速い船ですからね。魔道機関を2基搭載は考えていますが、それで速力が思った以上に出ない場合は3基目を搭載できる構造にしようと……」


「トーレが喜びそうだな。だが速いなら色々と都合が良さそうだ。それに俺達で改造するなら、商会に余分な情報を与えずに済むからな」

「やはり新たな島は秘密ということですね」


 上手く開発が進めばネコ族の自給自足を大幅に向上できるからな。

 アオイさんの時代にも色々と大陸の王国から干渉があったようだ。それが今後発生しないとは限らないということだろう。

 2度あることは3度あるって奴だ。その時のネコ族はどのように対応するんだろう?

 ひょっとして、アオイさん達が既に策を授けているのかもしれないな。


「商船に物を頼んだらしいな?」

「あの赤い旗を付けている船でした。板を作るのが大変だと聞いて、ノコギリを魔道機関で動かそうと考えた次第です。上手くできていれば、便利に使えるでしょう。ついでに畑の土を100袋ほど頼みました。近くの島から運ぶことも可能ですが、買えるなら買った方が効率的です」


 さすがに毎回とはいかないけどね。これを使って腐葉土作りをしてみようと考えている。

 畑の土があれば早く作れるんじゃないかな。

 

「俺とカルダスで接着剤と防水塗料を10タルずつ購入したぞ。次に島に向かう時には、桟橋と貯水池を作ることになるはずだ」

「カヌイのお婆さん達の住み家は、貯水池の近くで良いんですか?」

「それで十分と言っていた。たぶん将来は湧き水も付近に出るだろうとも言っていたな。カヌイの婆さん連中は、ある程度俺達の計画を知っていたのかもしれん。予知夢と言うのだそうだ。そんなことが、あの婆様連中にはままあるらしい」


 神と交信できるのかもしれないな。

 シャーマンと言う感じに思える時もあるぐらいだ。

 大陸には地水火風の4つの神を祭る神殿があると聞いたことがあるけど、ネコ族の信じる神はこの海域を納める龍神だ。

 神殿を立てることがないのは、海そのものが聖域だからに違いない。

 海の上で生まれ、死してはサンゴのゆりかごに眠る。それがネコ族だからなぁ。

 カイトさんやアオイさん達もネコ族と同じで、どこかのサンゴの中で眠っている。

 その場所は子供達だけが知っているらしい。その子供達は、子孫にその場所を明かすことが無いから、3人の墓がどこにあるか既に分からなくなっているらしい。


「今度は雨季での作業ですね。豪雨の合間に仕事をする形になりそうです」

「大きな帆布をいくつか買い込んである。屋根が無いと堪らないからなぁ」


 魚を干すザルを買い込んでおこうかな。あれに防水塗料を塗れば傘代わりに使えそうだ。

 乾季ほど作業は捗らないだろうが、1つだけ良いところがある。

 結構雨が降るから、真水に困ることは無いんじゃないか。


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