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P-126 また漁暮らしが始まる


 島に帰った翌日。朝食を食べていると、ガリムさんが桟橋から声を掛けてきた。


「今頃朝食なのか? 皆はとっくに終わってるぞ」

「おはようございます。今日はのんびりですよ。商船が来るのを待つだけですからね。どうぞ上がってください」


 朝食をかき込んで、トリマランの船尾のベンチへガリムさんと並んで座る。

 直ぐに、エメルちゃんがお茶を俺達に渡してくれた。


「エメルもだいぶ馴染んできたな。良い嫁さんになったぞ!」

「兄さんもしっかりしないと、ダメにゃ!」


 妹に優しい兄だけど、妹から見る兄はまだまだのようだ。

 ちょっとうらやましくなってしまう。


「それでだ。俺の友人達も向こうで開拓をしていたからな。今更船団に入るのは問題だろう。一緒に漁に出ないか?」

「喜んで同行させてもらいます。出掛けるのは?」


 明後日の朝食後と教えてくれた。

 航程1日ということだから近場になるが、ひよっこ達の船団とかち合うことはないらしいから、速度を上げていくに違いない。


「北東になるんだが、サンゴよりも岩場という感じだな。海底の起伏が激しいから大物も潜んでいるぞ」

「良い漁場のようですけど、それなら船団が向かうんじゃありませんか?」


 俺の問いに笑みを浮かべている。どうやら理由があるようだな。


「漁場が大きくないんだ。数隻なら問題ないが10隻近いと互いに干渉してしまう」


 この場合の干渉は、カタマランが接近することを言うようだ。

 少なくとも100m以上離れて漁をするのが素潜りの習慣らしい。

 

「銛を研いでおけよ。友人達もナギサと銛を競うのが楽しみらしいからな」

「銛はまだまだですよ。ですが、頑張るつもりです」


 俺の型をポン! と叩いてガリムさんが桟橋へ降りる。手を振って桟橋を歩いていくのはエメルちゃんが見送っていたからなんだろう。

 良い兄貴じゃないか。俺にも妹がいたんだがあんな見送りをして貰った経験がないんだよなぁ。

 今頃どうしているか……。俺がいなくなったから、親父達をしっかり見守ってくれていると良いんだけどなぁ。


「明後日の朝にゃ?」

「今度は稼がないとね。向こうの島でも少しは銛を使ったけど、やはり日ごろから使わないと調子が出ないんだよなぁ。

 直ぐにリードル漁が始まるだろうから、それまでには元に戻さないとね」


 釣りと違って銛を使う漁は、多分に経験がものをいう漁のようだ。

 腕先の動きが少し違っただけで、握った銛の出ていく先が微妙に異なってしまう。

 手の開き加減を竹筒を使うことでいつも一定にすることができるようになったが、狙いはそうはいかない。

 腕を伸ばした先と、目の位置関係を経験で補正しているんだよなぁ。バゼルさん達なら問題なくできることなんだが、それは子供の内から銛を使って魚を捕っていたからこそのことだ。

 銛を使って数年にも満たない俺だからなぁ。その境地は遠い彼方であることは間違いないな。


「上手く突けないときは水中銃を使うにゃ。あれだって銛にゃ」


 お茶を注ぎ足しながらタツミちゃんが呟いた。

 それもそうなんだけど……。やはり同じ土俵で勝負ってことになるんじゃないかな?

 とはいえ3日程漁をするに違いないから、最初の1日の漁果次第では水中銃を使うのも良いかもしれない。

 せっかくあるんだから、使わない手はないな。

 上手く突けなくてオカズが増える時もそうしよう。


 何度も水場を往復してトリマランの水瓶を満水にすると、バゼルさんのカタマランの水瓶にも同じように水を汲んでくる。

 トーレさんが申し訳なさそう顔をして頭を下げてくれたけど、これぐらいは恩返しにもならない。

 いつも美味しい料理を振る舞ってくれるし、タツミちゃん達に料理をいろいろと教えてくれる親切な近所のおばさんという存在だ。


 水汲みを終えると銛の手入れをする。

 手銛はだいぶ研いだから、水中銃の方を重点的に手入れをしたんだが、いまだに錆び一つ無い。スピアのシャフトは3本あるんだが、グラファイト性の模様がいまだにはっきりと浮かんでいる。

 銛先は少し鈍っている感じだな。軽く研いで指先で感触を確かめる。

 水中銃の銛は手銛と違って貫通してしまう。

 外すときに傷口が広がってしまうのが難点だ。

 エラより頭部に打ち込むようにしているんだが、魚の頭骨に当たってしまうからどうしても銛先が鈍る感じだな。

 銛先の返しを小さくしてみたんだが、もう少し返しを小さくしてみるか……。


「なにを悩んでるんだ?」


 銛先をジッと見ていたら、バゼルさんが声を掛けてきた。

 とりあえず甲板に上がってもらう。


「実は、この銛先なんですが……」


 水中銃のスピアと手銛の違いを簡単に説明すると、俺からスピアを受け取ってしばらく眺めていた。


「これで十分に思えるな。あまり返しを小さくすると魚が暴れて外れることがある。捕まえれば問題はないが、そのまま逃げてしまったなら、傷が元でしばらくすれば死んでしまうだろう。

 俺達は漁で暮らしを立てている。無駄な殺生は龍神様が嫌うだろう。確実にし止めて漁果とすることが一番大事だと考えることだな」


 無駄な殺生は避けるってことか。

 子供達だって遊びで銛を使うんじゃないからなあぁ。突いた獲物はその日の夕食になる。小さいころから、親から言い聞かせられているに違いない。


「分かりました。銛を持つ前に自分に言い聞かせます」

「そこまですることはないだろうが、それがネコ族の生き方だと思ってくれれば十分だ。

 ところで、どこに行くんだ?」


 ガリムさんと同行して北東に向かうことを告げると、頷きながら聞いてくれた。


「しばらく銛をまともに使っていなかったろうから、勘を取り戻すには良い場所だ。底物もいるがバルタックも多い。潮に乗ってフルンネもやってくるだろう」

「大物もいるってことですか。そうなるとシメノンがやってくる可能性もありそうですね」

「かなりの頻度で遭遇するようだ。もっとも船団は漁場が小さいから狙わんようだな」


 かなり漁果が期待できるんじゃないかな。

 こういうのを皮算用っていうんだろうけど、やはり期待してしまうよなぁ。

                ・

                ・

                ・

 明日は漁に出掛けるという前日。

 商船が入り江に入ってきた。

 タツミちゃん達はカゴを背負って出掛けたんだが、まだ桟橋に到着するには30分以上あるんじゃないかな。

 昼前だから、タツミちゃん達が戻ってきたら、俺も出掛けてみよう。

 いろいろと確認したり、頼んだりしないといけないんだよなぁ。


 持っていくメモをバッグに入れて、ココナッツを割ってジュースを飲みながら時間を潰す。

 そういえば、リードル漁の銛はしばらく研いでいなかったな。

 5本の銛を引き出してみると、うっすらと錆びが浮いている。

 気が付いてよかった。漁に向かう途中で再度研ぐことになるんだろうけど、錆びぐらいは落としておかないとバゼルさんに怒られそうだ。

 

 1本ずつ丁寧に錆びを落として、先端を軽く研いでおく。仕上げは油を付けた布で拭き上げたから、これでしばらくは錆が付くことも無いはずだ。

 大型リードル用の銛を研いでいると、タツミちゃん達が帰ってきた。

 2人でカゴを背負ってるぐらいだから、大量の食料を買い込んできたんだろうか?

 次にあの島に向かうのは、まだしばらく先なんだけどなぁ。


「買ってきたにゃ! 調味料をたくさん買ったにゃ。あの島に出掛ける時にはお米と野菜で済むにゃ」

「たぶん共同購入すると思うけど、あった方が安心できそうだ。今度は俺が出掛けるけど、混んでいたかい?」


「だいぶ少なくなったにゃ。ついでにお酒を買ってきて欲しいにゃ」


 ワインや蒸留酒のビンは重いからなぁ。空きビンは商船が引き取ってくれるから、子供達がたまに回収に来てくれる。

 ちょっとしたお小遣いになるんだろう。


 紐で編んだ網のようなカゴを手渡してくれたけど、この世界の簡易買い物籠になるんだろう。

 女性達は竹で編んだ手カゴや背負いカゴを持っての買い物だが、男達が出掛ける時に荷物になるようなときには重宝する。

 タツミちゃんが編んでくれたのかな? それともトーレさんから貰ったんだろうか?


 渡されたカゴをクルクルと丸めてバッグに収めると、タツミちゃん達に手を振って桟橋を歩き始めた。

 浜を北に向かい、浜で出会う人達に頭を下げる。

 目上の人達には頭を下げて、同年代以下の人達に片手をあげての挨拶だ。

 氏族内は顔なじみだからねぇ。お婆さんの実家の田舎と変わりないんだよなぁ。


 商船に乗り込むと、店員に相談があることを告げると、すぐに2階の小部屋へと案内してくれた。


「確かナギサさんでしたか。以前コーヒーの飲み方を教授していただいた方でしたよね」

「そんなこともあったな……。でも、別の男性だった気がするけど?」


「私は後任なんです。彼は王都で店を出していますよ。体操繁盛していると聞いています。これほど人気が出るとは思わなかったと言って、私にあなたに会う機会があればお渡しするようにと品を預かっています。後ほどお渡ししますが、今回はどのようなご用件でしょう?」


 喫茶店を開いたんだな。チェーン店を作ったのかもしれない。上手く当たったということなんだろうけど、それは俺ではなく彼の努力に違いない。

 それでも恩義に感じてくれるならありがたく受けった方が嬉しいに違いない。

 そんな思いを浮かべながら、バッグからメモを何枚か取り出した。


「先ずはこれからなんだけど、魔道機関を使って往復運動をする機械を作りたい。こんな形になるんだが、できるかな? 使うのはかなり先だからできるかどうかの判断と値段が知りたいんだ。

 これは現在のカタマランより少し大きなカタマランになるんだが、漁船と同行して漁果を近くの燻製小屋に運ぶための船だ。

 全長50FM(15m)になる。横幅は20FM(6m)になるけど、場合によっては間にもう1隻を入れて魔道機関を3基搭載できるようにしたい。

 魔道機関は魔石8個を使うつもりだ。この輸送船の値段と納期ということになる。

 最後に畑に使う土が欲しいんだが、米袋に100個ほどでどれぐらいになるのだろう?

 この辺りの雨は豪雨だから、耕した後に雨が降るとせっかくの土が流されてしまうんだ。それぐらいあればしばらく畑を維持できる」


 近場の島から土を運ぶより、買った方が良いと俺達が考えたと思ってくれるかな?

 あまり警戒勘を持たせたくはないんだよなぁ。


「畑でしたら、肥料も必要でしょう。それはどうしましょうか?」

「肥料はあるんだね。20袋ほど頼みたいが、船に搭載してるのかい?」

「生憎とトウハ氏族が全部買い取ってくれましたので次の機会ということになります。ですが予約いただければ間違いなく数を揃えられます」


「そうそう、もう1つあった。水場の水は竹筒で流しっぱなしの状態なんだが、雨季ならともかく乾季の時には水の出が細ってしまうんだ。簡単に流れを止める仕掛けは無いのかい?」

「水道の蛇口ということになるのでしょう。途中に小さな水タンクを置いてパイプを引き、いくつかの蛇口を付ければ何とかできると思います。

 水タンクは運搬用器を連結してもできますよ。パイプは真鍮製になりますから少し値が張ります。接続は専用の金具がありますし、水漏れは接着剤で十分に防げます」


「あるってことだね。それなら必要な長さと蛇口の数を調べて相談するよ」


 客土用の土と肥料を先払いしようとしたんだけど、持ってきたときの支払いで十分と言ってくれた。


 確かに畑の土に値段を付けるのは難しんだろうな。

 仮契約書を取り交わしたところで、商船との相談を終える。

 後は酒とタバコを少し多めに買って帰ろう……。


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