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P-124 シドラ氏族の島に戻ろう


 皆で開拓を初めて3カ月が過ぎた。

 この間に出来たものは、実験用の畑と、炭焼き小屋、それに雨水を受ける貯水槽が3つに木製の桟橋が2本だった。


 石造りの桟橋はまだまだ海面に姿を現さないし、サンゴの育成は10年単位になるんじゃないかな。

 だいぶ入り江のあちこちに植えたけど、まだまだ何も無い海底が大きく広がっている。


「2か月もすれば戻らねばならんな。もう1つぐらい何かを作っておきたいところだ」

「炭焼き小屋をもう1つとなると時間が掛かり過ぎる。爺さん連中の小屋と焚き木置き場ぐらいなものか?」


「長老の住み家は板を張らねばならねぇからな。爺さん達の小屋なら、床は竹を並べて上に竹の茣蓙ゴザで済みそうだ」


 焚き木を置く小屋は4隅の柱と屋根だけで良いらしい。

 面倒なのは、風通しを良くするために、地上1FM(30cm)ほどの高さから積み上げられるように作るということだった。


「横に丸太を2本並べれば十分だろう。焚き木を積み上げれば弛むだろうから、真ん中あたりに石を積んで受ければ問題ないだろうな」


 そんな話が合った翌日に、再び全員で作業が始まる。

 2棟建てたにしては掛かった日数が10日間だから、やはり炭焼き小屋は面倒だったということなんだろう。

 もっと面倒そうなのが保冷庫なんだが、それは燻製小屋の近くに作ることになるようだ。

 そろそろトロッコ用の木道を、どこに敷くかを真剣に考えた方が良さそうだ。

 

 そんなことで1か月が過ぎると、帰還の準備が始まる。

 雨水を集める帆布を畳み、水槽の上に載せたり、船外機を持たないザバンを使ったカタマランは岩場に引き上げてバナナの葉で養生しておく。

 日差しが強いからなぁ。そのままにして置いたら防水塗装が劣化してしまうらしい。


 島を去る夜には、皆で酒盛りをすることになったんだけど、毎晩しているような気もしなくはない。

 まあ、いつもよりココナッツ酒が多くて、料理の品が少し増えたぐらいではあるんだが、5か月近くこの島で暮らした思い出話で盛り上がってしまった。


 翌日。朝早くタツミちゃんに起こされて朝食を頂く。

 沖を見ると、すでにカルダスさんのカタマランが赤い旗を立てて、俺達が集まるのを待っているようだ。


「早くいかないと、トーレさんに文句を言われそうだね」

「そうにゃ! 食べたらすぐにロープを解いて欲しいにゃ。アンカーも引き上げないといけないし、台船のロープも結ばないといけないにゃ」


 やることがいろいろあるなぁ。

 リゾットにスープを掛けると、急いで朝食を食べた。

 桟橋から離れるための準備は何度も行っているから、それなりに順番を覚えてしまっている。先ずは船首に向かってアンカーを引き上げ、その後で桟橋に下りてロープを船首、船尾と解いて甲板に戻れば良いのだ。

 慣れない間は、結構桟橋に何度も下りることになったけどね。


 台船を曳くロープはトリマランの向きを変えてから行うことで良いだろう。桟橋の沖に台船を留めてある。


「出発してもだいじょうぶだ。台船の傍を通ってくれよ!」

「分かったにゃ!」


 エメルちゃんが操船櫓の後ろから顔を出して答えてくれた。

 直ぐに魔道機関が動き始める。

 ゆっくりと横滑りをし始めたから、スラスターを使って桟橋から距離を取るつもりなんだろう。

 10mほど離れると、ゆっくりと船首が右手に回頭を始めた。南東方向に船首が向くとトリマランが前進を始める。まだスラスターで向きを変えているな。

 舵よりも低速では効果的なんだろう。

 向きを変え終えると台船に向かってトリマランが進んでいく。

 歩くほどの速さだ。10隻を超える船があるからなぁ。タツミちゃんなりに注意しての操船なんだろう。


 台船にゆっくりと近づく。

 甲板から飛び乗って、台船のアンカーを引き上げると、船尾に設けた船外機に帆布の袋をかぶせた。

 船首に繋いだロープの端を持って、トリマランに戻ると船尾の枠にしっかりと結び付けた。

 台船との距離は20mほど取ってある。トリマランが急停止しない限りぶつかることはないだろう。


「台船を結んだよ。白い旗を上げてくれ!」

「分かったにゃ! だいぶ集まってきたにゃ」


 エメルちゃんの言葉に周囲を眺めると、桟橋に残っているのは2隻だけだった。

 その2隻も動き始めているから、出発までそれほど待つことはなさそうだな。


「台船はしっかりと結んだのか!」


 カタマランが近づいてくると、船尾の甲板からバゼルさんが大声で問いかけてきた。


「だいじょうぶです。いつでも出掛けられますよ!」


 俺の声に片手を上げてくれたから、了解したんだろう。

 率いるのはカルダスさんだけど、殿はバゼルさんのようだな。各船を回って準備状況を再確認しているのだろう。


 やがて力強い笛の音が何度も聞こえてきた。

 いよいよ出発だ。

 俺の順番は後ろから2番目なんだよなぁ。いつの間にかこの位置が定着してきたみたいだ。


 それほど待つことなく、トリマランが動き出した。すぐにガクンと軽いショックが伝わってきたのは台船が動き出したからに違いない。

 たまに台船を確認するのが俺の仕事になる。たまに見れば良いから、船尾のベンチでパイプを楽しみながら周囲の風景を眺めていよう。

 何度も往復するたびに見た風景だけど、飽きることはない。

 有名な画家が、南の島で絵を描き続けたのも理解できる気がしてきた。

 

 空荷の台船だからと言って速度を上げることも無い。

 エメルちゃんに舵を譲って下りてきたとタツミちゃんの話では、魔道機関を2ノッチまで上げていないそうだ。


「たぶん夜遅くまで航海を続けると思うにゃ。6日目にはシドラ氏族の島に到着できるはずにゃ」

「リードル漁まで1か月近くあるからね。2、3回は漁に出られると思うよ。銛の腕が鈍ってないことを確認しないと……」

「だいじょうぶにゃ。リードルの動きは鈍いって聞いたことがあるにゃ」


 そんな事を言いながらココナッツを割ると、カップに注いで渡してくれた。

 ありがたく受け取ってベンチの上に載せておく。

 もう1個っ子ナッツを割ると、中身を竹製の水筒に入れて操船櫓に持って行った。

 日差しが強いからなぁ。操船櫓の中もかなり暑いに違いない。

 自転車ほどの速度を出しているから、それなりに風があるのが唯一の救いだ。


 昼食は蒸したバナナだったし、夕食は米団子のスープだった。

 そんな食事を、操船しながら作ってくれるんだからありがたい。そう言えば、ここにやってきた人たちは全て嫁さんを2人貰っている人達だ。

 長距離の航海は、それだけ嫁さん達に負荷が掛かるのだろう。

 真っ直ぐ進むくらいなんだから俺にも操船を任せて欲しいんだが、滅多にやらせてもらいたいんだよなぁ。やらせてもらった時でも30分もしないで舵を渡すことになる。

 

「今日は、ここまでにゃ。少し後進するから、台船のアンカーを下ろして欲しいにゃ」

「その前にロープを解くからね。ゆっくり後進してくれ。ロープを上手く手繰らないとスクリューに絡まってしまいそうだ」


 近付いた台船に飛び乗ってのアンカーを下ろす。

 20m程離れると、今度はトリマランのアンカーを下ろした。これで潮流の向きが変っても台船とぶつかることは無いはずだ。


 船尾でワインを飲みながら夜空を見上げる。

 上弦の月は既に落ちているから、星空が切れに見える。明日も晴れるに違いない。


 順調に公開を続けていると6日目の昼過ぎに氏族の島が見えてきた。

 夕暮れ前には桟橋に停泊できるに違いない。

 商船が来ていれば良いんだが、リードル漁までには何度かやってくるだろう。

 いろいろと頼みたいものがあるからなぁ。

 早く頼めば、次にあの島に向かう時に持っていけそうだ。


 入り江に入ると船団を解散する笛の音が聞こえてきた。

 トリマランの速度が遅くなって来たところで、ロープを解いて台船が近づくのを待つ。

 惰性で横を通り過ぎる台船にロープを持って飛び乗ると、操船櫓で様子を見ていたエメルちゃんに手を振った。

 ゆっくりとトリマランが台船を離れて何時もの桟橋に向かっていく。

 

 さて、この台船を浜近くに持って行かないと……。

 繋いで板ロープの束を船首に纏めたところで、船外機に被せた帆布の袋を取り外す。

 船外機のレバーを操作すると、ゆっくりと台船が動き始めた。

 浜近くまで移動したところで、船外機の魔道機関を止めると再びフウロを被せておく。

 ほとんど動きがなくなったのを見定めてアンカーを下ろす。

 岸から20mも離れていないから、海に飛び込んで泳いで岸に向かった。


 トリマランは既に桟橋に停泊している。

 島の誰かが、桟橋にロープを結んでくれたんだろう。投錨も、石を投げ込むだけだからなぁ。タツミちゃん辺りがやってくれたに違いない。


 びしょ濡れでトリマランに乗り込むと、直ぐに着替えを済ます。

 タオルで濡れた頭を拭きながら甲板に出ると、タツミちゃんがワインの入ったカップを渡してくれた。

 口の中の塩気が取れるのが分かる。いつもよりワインが甘く感じられるほどだ。


「商船が来てないにゃ」

「残念だったね。2日程休養するはずだから、その間に来てくれるんじゃないかな」


 かなり希望的だけど、食料やワイン、それにタバコも買いたいところだ。

 次に出掛けるまでに少しづつ買いだめしておきたいんだよなぁ。


 俺達の後ろに留めたカタマランはバゼルさんの船だ。

 パイプを咥えて俺達のところにやってきたということは……。


「今夜、長老達のところに向かうぞ。何度か俺達も状況を伝えてはいるが、ナギサからの報告を聞きたいに違いない」

「出掛けるのは構いませんが、何時ごろに?」


「夕食を終えてからで良いだろう。出掛ける時に声を掛ける。カルダス達も行くはずだが、あいつの船は北の方にある桟橋だからなぁ」


 早めの夕食と言うことになるんだろうな。

 バゼルさんにワインを運んできたタツミちゃんが俺に頷いてくれたから、問題ないってことなんだろう。


 ワインを飲みながら、何を報告するかをバゼルさんと話し合う。

 長期間頑張ったことは間違いないんだが、あまり開発が進んでいないように思えるんだよなぁ。長老達が呆れた顔をしなければ良いんだけどね。


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