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P-118 板作りは大変らしい


 石の桟橋からまっすぐ東に森へと進む。

 急な坂を上りきったところで、立木の伐採を始めることにした。

 タツミちゃん達は鎌を手にした草を刈り取り始めたから、俺とオルダンさんの2人でとりあえず数本を切り倒すことにする。


「結構太いな。ログハウスに使えそうだ」

「かなり必要になりますよ」

「なぁ~に、柱と梁で十分だ。壁は竹を編んでもできるんだぞ」


 亜熱帯だからねぇ。風通しを良くするってことだな。

 長老が住んでるログハウスも入り口側だけが丸太を組んであるらしい。

 他の小屋より立派に見えるようにしたんだろうけど、中は暑いからなぁ。囲炉裏まであるんだよね。


 ノコギリと斧を使って何とか切り倒す。

 どこかにまとめておきたいけど、重いし結構長さもあるからとりあえずはこのままだ。

 日が傾く頃には、どうにか海が見えるようになったけど、改めてこの位置が結構高いことがよくわかる。

 

「良い眺めじゃないか。ここなら長老達も気に入るに違いない」

「問題は、この高さですね。階段を作ることになりそうです」

「トロッコだってあるんだ。まっすぐ登ろうとしないで南に大回りしてもいいんじゃないか」


 考えることはガリムさんと一緒みたいだな。

 トロッコ用の木のレールはそうするしかなさそうだ。スイッチバックで登らせようと考えてたんだけどね。


 夕暮れの中、皆が焚火に集まってくる。

 夕食前の一杯なんだけど、夕食が終わっても飲むんだよなぁ。

 俺も蒸留酒を1ビン買ってきたけど、他の連中はかなり買い込んできたようだ。


「とりあえずは順調だ。あの高台に小屋掛けするんだな?」

「ナギサが高すぎるんじゃないかと心配してたが、ナンタ氏族はさらに高台だからなぁ」


「氏族の半分以上が津波で流されたらしい。2度と悲惨な目に遭いたくないってことだろう。高さは気にすることはない」

「トロッコを動かす爺さん連中が喜ぶかもしれないよ!」


 ガリムさんの友人の一人の冗談に皆が笑いだす。

 トロッコの運転を楽しんでいるみたいだからなぁ。爺さん連中が交代して運転してるんだよね。

 

「とはいえ、住む場所を広げるとなればやはり人数が欲しくなる。若手を次は連れて来るか」

「そこが難しいところだ。今のところは水場が無いからな。増やしても3人ほどだろう。それと水瓶を増やさねばなるまい」


 今のところは木製の水槽と、カルダスさんが手に入れた真鍮の大きな水瓶の2つだ。

 新たに雨水を受ける帆布を作ると言っていたけど、まだ届かないからなぁ。

 水槽の水が少なくなってきたから、お茶を飲まずにココナッツジュースを飲んでいるんだよね。

 思わず空を見上げてしまった。

 夕焼けが終わり、星空が広がっている。雲はどこにもないようだ。


 翌日は、豪雨の音で目が覚めた。

 待望の雨だ。ハンモックから降りて甲板に出ると、帆布のたるみを利用して運搬用の容器に水をためているのが見えた。


「これが2個目にゃ。もう1つあるからしばらくは使えるにゃ」

「島の方はどうだろう?」

「溢れてるかもしれないにゃ」


 それならいいんだけどねぇ。

 雨水を集めるのは俺がやっておこう。タツミちゃん達は朝食の準備を始めたようだ。

 さすがにこの豪雨では、島で共同炊飯はできかねる。

 久しぶりにタツミちゃん達の味を楽しめそうだ。


 一服が終わらぬうちに、運搬用の容器から雨水があふれ出した。

 3個目の容器を雨水が落ちる場所に置いたところで、満杯になった容器を甲板に炭に移動しておく。

 かなり続いているなぁ。乾季の豪雨は長続きしないんだけど……。

 

 帆布の屋根の下で食事をしていると、雨が止んで強い日差しがたちまち甲板を乾かしていく。

 それにしても運搬容器に3つだからなぁ。5日は持つんじゃないか?

 さらに島の水槽にもたっぷりと溜まっているだろうから当分は真水の心配をしないで済む。


「5日に1時間程振ってくれるだけで良いんだけどなぁ」

「乾季だからしばらくは降らないにゃ。でもこれでだいぶ持たせられるにゃ」


 タツミちゃん達も心配していたようだ。

 早速雨水をポットに入れてお茶を作り始めた。

 先ずは、天の恵みを皆で味わおう。今日も立木を切り出すことになるだろうけど、5本は無理かもしれないな。

 ある程度切り倒したところで、あの場所の測量点を作っておこう。

                ・

                ・

                ・

 どうにか昼前から、立木の伐採を再開することができた。

 タツミちゃん達の下草を刈りもだいぶ進んだようで、ずいぶんと先まで見通すことができる。


「次の連中がやってきたら、切り倒した木を運んでもらうことになりそうだな」

「材木にするんですね。長さはどれぐらいに?」


 オルダンさんの話では、基本は15FM(4.5m)と言うことだった。少し長いあ気もするな。

 それだと、結構な重さになるし、太さだって変わってしまいそうだ。


「板を作るのは面倒なんだが、小屋の数が多くなれば商船に頼むしかない。かなりの金額になってしまうだろうな」


 製材所と言う言葉を聞いたことが無いから、自分達でノコギリを使って作るんだろうか?

 かなりの重労働に思えてくるな。魔道機関を使って何とかならないだろうか。

 製材が可能なら、自分達で簡単な船だって作れるかもしれないし、トロッコの木製レールだってできそうだ。


「板作りだって! 確かにたくさんいるだろうけど……。交代でやるしかないだろうな。かなり疲れる仕事だぞ」


 夕食前の焚き火の席で、伐採した木の加工について話し合う。

 ガリムさんが驚いたような表情から、だんだんと暗い顔になったということはやったことがあるんあろうか?


「カタマランの修理で使う板を自分で作ったようだな。だがそんな比ではない量の板が必要だということだ。

 炭焼きの爺さん連中の小屋だって板張りだ。あれを作った時には島の男達が交代でノコギリを挽いたものだ」


 バゼルさんが昔を思い出すかのように話してくれた。

 大変な作業だけど、延々と続けてきたのだろう。

 それほど必要にならない時は商船に頼むか、自分達で作っていたのだろうが、大量に必要となれば、頑張るしかなさそうだな。

 とはいえ、魔道機関とクランクを組み合わせれば、ノコギリを動かせそうにも思えるんだよなぁ。

 ちょっと考えてみるか。

 

 夕食後、早めにトリマランに戻ると、木箱をテーブル代わりにメモ用紙を広げる。

 粗末な鉛筆を指先でクルクル回しながら、仕組みを考えてみた。

 回転運動を前後する2方向の運動に変えるのは、機関車のピストンと動輪の関係であっているはずだ。

 動輪を魔道機関で回して、ピストンの先にノコギリを付ければ善我に動かすことができるだろう。

 ノコギリが往復する長さは動輪の直径と同じになるのかな?

 シャフトはなるべく動輪の外側に設けることになりそうだ。連結部分はピストン部分と動輪部分の2カ所で良いんだろうか?

 絵を描いて確認しながら、動きをトレースしてみる。

 何とかなりそうだけど、動輪から伸びるシャフトとピストン軸の接合部分がかなり荷重を受けそうだな。

 軸受けでもあれば良いんだけど、魔道機関にはそんな代物は無いようだ。

 グリスと魔方陣で誤魔化しているようにも思えるんだよなぁ。

 同じ方法でも問題ないのだろうか?

 幸い時間はたっぷりあるからね。ある程度考えが纏まったところで商船のドワーフ職人に相談してみよう。


「何を考えてるにゃ?」


 メモ帳を閉じて、パイプに火を点けた俺に、タツミちゃんがワインのカップを渡してくれた。


「板を作る機械だよ。ガリムさんが天を仰いでいたからなぁ。かなり面倒で疲れる仕事らしいんだ」

「板は商船から買えるにゃ。でも値段が高いと聞いたことがあるにゃ」


 大陸の王国なら、それぐらいは機械化してると思ってたんだけどなぁ。

 丸ノコを作れる技術があれば水車を使うことで、量産できるはずなんだが……。


 5日も伐採を続けると、ちょっとした広場ができる。

 問題は気の根っ子なんだが、これは掘り出すことになるのかな?

 板作りよりも重労働に思えるんだが、オルダンさんは気にもしていない。

 問題を後に丸投げできる性格のようだ。

 

「だいぶ広がりましたね」

「長老の小屋ぐらいは作れるだろう。この5倍ぐらいに広げないといけないぞ。少なくとも2軒は建てたいからな。炭焼き小屋と燻製小屋は少し離れた場所に作るんだ。そっちはまだまだ先になりそうだな」


 何とも先が長い話だ。

 早めに堆肥を作る石組を作りたかったんだが、このままだとさらに先に伸びそうだな。

 とりあえずメモ帳の畑の項目に堆肥作りをメモしておこう。


 10日程、立木の伐採を行うと、かなり広場が大きくなった。

 石造りの桟橋を見ると海中の石組が良く見える。

 ガリムさん達も頑張っているようだ。


「そろそろちゃんとした地図を作るべきなんじゃないか?」

「そうですね。でも伐採した木はこのままで良いんですか?」

「なぁに、次の連中が纏めるだろう。とりあえずはここまでで良いだろう」


 オルダンさんは石の桟橋作りに加わり、俺達は測量を始めることになる。

 起点が無いから、改めて作ることにするか。

 石の桟橋の付け根部分にある岩の上をタガネで『十』を刻むことにする。ここがこの島の全ての起点だ。


「また始めるのかにゃ?」

「そうだよ。今度は本格的に始めるよ。この印を元に始めるんだけど、縞模様の棒は捨ててないよね」

「屋根裏に乗せてあるにゃ。船首の方にゃ」


 船尾の甲板から入れると邪魔になると思ったんだろう。1FM(30cm)毎に白い塗料が塗ってあるから、高さを確認できるんだよね。

 測量の道具を取り出して、背負いカゴに入れておく。

 体は疲れないんだが、結構面倒なんだよなぁ。


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