P-116 積荷を満載してバゼルさんがやってきた
俺達が到着してから9日目にカルダスさんが島にやってきた。2隻で来た時にはちょっと驚いたけど、若い連中だけでは心配になったに違いない。
バゼルさん達の幼馴染なんだろう。トーレさん達も喜んでいたからね。
夕食を終えると、焚火の周りに集まりながら状況の確認が始まる。
「長老が心配してたが、なるほどそれほど進んではいないようだな」
「板を運んできただろうな? 板を張れば木製の桟橋が1つ出来上がる。石の桟橋は岸を平らにしながら海中に目印を付けている。
ナギサの畑は近くの島から土を運んでいるが、かなり必要になりそうだな。その辺りをどうするかを戻ったら長老と相談せねばなるまい」
明日はバゼルさん達が戻ることになるからだろう。
俺達は、もう少しここに逗留することになりそうだ。
「食料をたっぷりと運んできた。接着材も2樽持ってきたし、オルダンの船に板を乗せてある。ログハウスも作らないといけないからなぁ。あれもこれもとなると中々進まんぞ」
「それも具申してみるつもりだ。若者をさらに増やすことも考えなければなるまい。だがあまり引き抜くと漁果が一気に減りそうだからなぁ」
この島を拠点化するためには、いくつかの施設が必要らしい。
少なくとも燻製小屋と保冷庫、それに炭焼き小屋は絶対だとガリムさんが教えてくれた。
先が長いけど、施設を作ったならそれを運用する人物も必要になる。
長期的な建設計画と人員計画を早めに考えないといけないんじゃないかな。
まあ、とりあえず滞在するための給水施設は目途が立ったから、新鮮な野菜を得るための畑作りが終わったところで、それらを考えれば良いだろう。
急に開拓する人員を増やすのも水場が無い状態だからなぁ……。
「ナギサの作った水槽は上手く雨水を溜められる。もう1つ商船に頼んでおこう」
「水槽も必要だぞ。まあ、長老に報告しながらその辺を伝えるんだな。氏族のためであるなら長老は金を出してくれるはずだ」
「あまり無理強いはしないつもりだ。ナギサは大きな石造りの貯水槽を考えているようだからな」
将来は安定的に水を得る貯水池を作るにしても、先ずは現在を考えないとね。
木製の水槽がもう1つ出来るなら、真水の心配をあまりしないで済みそうだ。
「大型のザバンを1艘持って帰るぞ。次にやってくるときにはかなり荷物が増えそうだ」
「そうなるな。俺達のカタマランでは甲板に積むにしても限度があるからなぁ」
そんなことを言ってるけど、かなり積んできたことは確かだ。屋形の中から次々と食料の入ったカゴを持ち出してきたときには、どこで寝てたのかと考えてしまったからね。
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翌日の朝食を終えると、バゼルさん一家は島を後にする。船外機の付いたカタマラン型のザバンを曳いて行ったから氏族の島に到着するのは結構時間が掛りそうだ。
バゼルさんを見送ったところで、俺達の作業がカルダスさんに割り振られる。
ガリムさん達は木製桟橋の板を張るようだ。
「オルダンはナギサを手伝ってくれねぇか? 他の島から土を運ぶとなると簡単じゃねぇからな」
「了解だ。炭を運んできたカゴを貰うぞ。あのカゴは目が細かいからな。土を入れて運ぶには都合が良い」
話が終わったところで、オルダンさんに地図を見せながら現在運んでいる島を教える。
「島を3つ離れた場所ってことか。かなり遠いな。あのザバンを使うのか?」
「俺の船で曳いていきます。袋に入れて運んでいたんですが、カゴをそのまま使うという考えは無かったんです」
俺達が使っているカゴの目は結構粗いんだよね。土を入れたらこぼれてしまいそうだ。
カゴを3つに袋を20枚近く入れて出掛けることにした。
オルダンさんの嫁さん達はすぐに操船櫓に上がっていったから、申し訳なさそうな顔を俺に向けてきた。
「嫁さん達に操船はお任せですからね。女性達の興味は他の操船櫓に違いありません」
「すまんな。昔から変わらないんだ」
船尾のベンチに座ってオルダンさんが改めて頭を下げてくるから恐縮してしまうんだよなぁ。
ネコ族の女性達は普段からあんな感じだからねぇ。
トーレさんでよくわかった感じだ。トーレさんが特別なのかと思っていたんだけど、どうやらそうでもないんだよね。
きっとタツミちゃんやエメルちゃんもだんだんとトーレさんに似て来るんじゃないかな。
翌日から、俺のトリマランと船外機付きのザバンを使って土運びが始まる。
さすがに1度に運ぶ量が多いから、それなりに畑の土が増えていく。
「最初から大きく作ってしまったようです。もう少し小さければよかったんですが」
「人が増えることを考えれば、これで大きいとは言えんだろう。何せ自分達で食うだけの畑を作るんだからなぁ」
日が傾き始めたところで、今日の運搬を終えるといつものように焚火に集まる。
ガリムさん達はまだ戻ってこないようだ。
桟橋の板張りはカルダスさんが行っている。たまに西を眺めているのはガリムさん達が心配なのかもしれないな。
ガリナムさんが戻ってきたのは夕暮れが始まるころだった。
どうやらオカズを突いてきたようで、嫁さん達に漁果を渡している。
「なんだ、ついでに漁をしてきたのか?」
「ちゃんと石だって運んできたさ。群れているんだから突き放題だったよ。この島の周囲はかなり魚がいるんじゃないかな」
そんな息子の言葉に頷いている。
明日は自分も出掛けてみようなんて考えているのかな?
「そうなると、燻製小屋や保冷庫を早めに作った方が良いですね。畑より先に作りますか?」
「そうだなぁ……。作りたいのはやまやまだが、それを作るとなるとある程度この島で暮らせるようにしないといけねぇ。それに、足の速い運搬船もだ。やはり当初の予定通りにした方が良さそうだ。もっとも、その辺りは俺が帰った時に長老に話しておこう。
ナギサも、少し考えてくれよ」
生活基盤を確立するといってもなぁ……。
衣食住ってことなんだろうね。食事は定期的な食料の補給があれば、真水の確保でどうにかなりそうだ。
住む場所は、俺達は船の屋形暮らしだから問題はないだろうが、炭焼きや燻製小屋、それに保冷庫は氏族の島ではログハウス暮らしの老人達が行っているんだよなぁ。
最終的には長老やカヌイの小母さん達もやってくるだろうから、かなりたくさん作らないといけないんじゃないか?
ある程度の区画割を早めに決めておいた方が良さそうだ。
「頑張っては見ますが、ログハウスの数はいくつぐらい作るんでしょう?」
「そうだなぁ。シドラ氏族の島には20軒以上ありそうだ。おいおい増やすとしても、5軒はいるだろうな。
お前らの道具を補完するような掘立小屋ではないぞ。ちゃんと床を張ることになる。大きさはナギサの屋形より大きく作れば良い。1軒で2家族は住めるだろうからな」
さらに仕事が増えていく。
ガリムさんががっくりと頭を下げているのは、石の桟橋作りだけでも大変だと感じているからなんだろう。
「燻製小屋と住む場所、それに真水の確保に目途が立てばこの島での漁暮らしができるだろう。
バゼルがさらに人を増やせと長老に言ってくれるだろうから、お前たちに全てをやらせようとは思っていないが、乾季はここで暮らすことになるだろうな。
そしてナギサには、氏族の島とこの島を結ぶ船を考えてもらいたい。この島で作った燻製を氏族の島に運んで、食料などを持ち帰る船だ。
先ずは1隻で良いが、将来は増やすことになるだろうな」
高速運搬船ってことか!
しかも1家族が暮らせる船ってことになる。単なるカタマランとはならないだろうな。
大型化しそうだし、そうなると操船も難しくなりそうだ。
だが、ここで暮らすためには必要な船であることは間違いない。
「少し考えてみます。場合によっては試作することになりますが、それは次のリードル漁で資金を確保しましょう」
「おいおい、何も全てをナギサが出すことはねぇぞ。それに、似た船もあるんだ。アオイ様が商船を改造した大型船を母船として、10隻以上のカタマランで漁をするやり方を考えてくれた。各氏族の島のさらに遠くで漁をするから、定期的に燻製を運ぶふねがある。とはいっても、速さは俺達のカタマラン並みだがな」
さすがはアオイさんだな。
まるで遠洋漁業のような仕組みを考えていたとはねぇ……。
いろいろと話を聞いてみると、大型のカタマランだということだ。魔道機関を強化して1家族が暮らせるらしい。船尾の甲板を潰してそこに屋形を作り、通常の屋形の位置に大きな保冷庫を作ってあると教えてくれた。
操船は、慣れれば問題ないと言ってたけど、ネコ族の女性達は操船が上手いからなぁ。
作ってしまえば何とかなるってことなのかな?
「少し見えてきました。でも操船が難しいと思いますよ」
「良いか。操船が難しいなんて嫁さんの前では絶対に言うんじゃねぇぞ。先を争って操船したがるに違ぇねえからな」
ココナッツ酒を飲んでいたんだが、急に真顔になって説得されてしまった。
確かにありそうだよな。
俺がうんうんと頭が落ちるぐらいに頷いたのは、決してカルダスさんの迫力のある顔を見たからではないと思いたい。
「まあ、そういうことだ。基本はカタマランで問題はねえが、どうやって速度を出すかだろうな。もっとも俺達だってもう少し速度を上げれば9日を7日にはできるだろう。
あまり速度を上げて事故でも起こせば本末転倒だ。
俺達のカタマランより少し早い船ぐらいに考えたほうが良いぞ」
とは言ってもなぁ。速いに越したことはないだろう。さすがに見通しが再悪な豪雨の中で速度を出すようでも困るけど、氏族の島からここに来るまでの航路では大きく回頭する場所は2か所ぐらいだった。
なら、まっすぐに早く走れる船を作れば良いってことだろう。
回頭する時には速度を落とせば良いだろうし、桟橋に横付けする時は船外機付きの台船で押してもらうこともできるんじゃないか?
港のタグボートみたいな感じで船の操船を手伝うことは、ネコ族ならば率先してやってくれるはずだ。




