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P-115 畑の土が足りない


 翌日。先ずは水槽の土台作りから始める。

 最初の真鍮製の水槽の隣を石を運んで平らにするのだが、その時に接着剤の使い方をバゼルさんが教えてくれた。

 桶に樽から接着剤を入れて、目分量で砂を同じぐらい入れながら混ぜ合わせる。

 すると粘土のような塊になるので、くみ上げた石と石の間を内側から塗りこめるのだ。

 こんな方法でも十分にくっ付くというんだから驚くよなぁ。

 

 何とか1.5m四方の低い土台の壁を作ったところで、その中に石や砂を入れて平らにする。これで十分に持つということだが、なんとなく強度に問題がありそうな気もしてきた。

 大掛かりな石積みは石の桟橋ぐらいなものだし、あれだって桟橋への荷重負担はそれほど大きなものにはならないはずだ。

 ダムもこの方法で作れるのだろうか?

 とりあえずセメント代わりに使えるものがあったことに満足しておこう。


「木組はナギサ達だけで出来るのか?」

「商会に頼んだものですからね。それほど大きくはありませんよ」


 バゼルさんはガリムさん達の指揮に向かうのだろう。

 トーレさん達が手伝ってくれるから、明日中には木製の貯水槽が完成するはずだ。


 日が傾く前に作業を終えると、作りかけの桟橋近くに集まって焚火を囲む。

 ガリムさんの友人の数が足りないと思っていると、西からカタマランが近づいてきた。

 浮き桟橋にカタマランを停泊させると、嫁さんがカゴを担いで桟橋を歩いてくる。


「漁に行ったんですか!」

「やはり干物はなぁ。新鮮な方が上手いからね」


 俺の問いにガリムさんが答えてくれたけど、ひょっとしてオカズを獲りに行く順番が決まってるのかな?

 明日は俺だ、という目で持てる連中もいるんだよね。


「どうだった?」

「ああ、かなり濃いぞ。良い漁場になるんじゃないか」


 ガリムさんが戻ってきた友人に漁果を確認している。

 バゼルさんの表情もいつになく嬉しそうに見えるな。まったくこの島の周辺に魚がいなかったのを自分の目で見ているからだろう。

 魚が戻ってきたことが嬉しいに違いない。


 その日の夕食は、焚火でブラドの切り身を竹串に刺して焼きながら頂く。

 船の上ではこんな豪快な食べ方はできないのだが、岩がゴロゴロしている浜でなら何ら問題はない。

 食べても食べても、次の焼き串が焚火近くに刺さるんだよね。

 

「まだまだあるにゃ! もっと食べて明日も頑張るにゃ」


 トーレさんが焼串を手に持って食べながら、俺達の皿に次の串を乗せていく。

 ココナッツ酒が回され、初日から宴会騒ぎになってしまった。


 2日目の昼過ぎに、水槽が完成した。

 水槽の中を水洗いしたところで【クリル】の魔法を使えばたまった雨水を飲んでも問題はないらしい。

 とはいえネコ族は生水を飲まないから、そこまでしなくとも良いんだろうけど、気持ちの問題があるのかもしれないな。

 板を並べて蓋をすると、1枚の板に空いた10cmほどの穴に、雨水を集める仕掛けの竹筒を差し込んでおく。

 これでいつ豪雨がやってきてもだいじょうぶだ。


「次は畑にゃ! あの辺りが良いと思うにゃ」


 タツミちゃん達に連れられて岸から離れると、200mほど歩いた先に平らな場所があった。

 砂交じりの土地だから、かつては渚近くの場所だったのだろう。砂地の先に森が広がっているぐらいだからな。


「良いと思うよ。問題は大きさだよね」

「あまり大きくすると、土を運ぶのが大変にゃ。小さくいくつも作った方が良いにゃ」


 それも理解できる。ある程度できたところ合体することもできるだろう。

 この島で最初の畑だからねぇ。計画性よりは実証を目的にする方が良さそうだ。

 早い話が、どこでも良いから畑を作って、野菜を育てれば良いってことになる。


 とはいえ綺麗に作るに越したことはない。簡単に大きさを決めたところで、中に入れる土が流されないように石組みを作ることから始めることにした。

 土地の起伏もあるから高さは30cmほどにして始めたんだけど、短辺が5m長辺が10mの畑だからなぁ。結構時間が掛りそうだ。

 

 枠を作るのに2日掛かってしまった。

 5日目は枠の中に砂を掘る。このままでは土の量が多いほど野菜は育つに違いない。

 砂で野菜が育つと思えないからね。

 俺達の作業をトーレさん達が手伝ってくれるんだけど、20cmほど掘り下げたところで、あちこちから集めてきた枯葉や灰を敷き始めた。


「土ではなく枯葉ですか?」

「そうにゃ。島の畑でも枯葉や肺をたまに畑に撒くにゃ。最初から撒いておいてもかまわないはずにゃ。それに土が節約できるにゃ」


 肥料ってことなんだろうか? まあ畑の土の嵩上げには使えそうだ。

 そのうちに土の中の微生物が土に分解してくれるだろう。

 造山運動で枯れたバナナの幹まで鉈で削って枠の中に入れていく。土を運んできた袋を1つ使ってたまにスコップで土を入れる。サンドイッチになればさらに肥料化が進むんじゃないかな。


 掘り出した砂の量ぐらいに枯れ木や枯葉が埋められたところで運んできた土を乗せ始めた。

 10袋を運んだんだが1割にも満たない量だった。

 

「全然足りないにゃ!」

「周辺の島から運んでくるんだよ。商会から購入した土で 畑を作ろうとは元から考えてないよ。畑の土にするために運んでもらったんだ」


 島の土と大陸の畑では、土の中の微生物が異なるだろう。畑としてどちらが良いのかはわからないからまぜくぁわせて使おうと考えてたんだけどね。


「次は土運びにゃ?」

「あのザバンが使えるはずだ。先ずは、小さな畑、それをドンドン大きくする。そうすれば氏族で食べる野菜以上に収穫できるんじゃないかな」


 土を入れてあった袋と少し大きなザルまで使って、近くの島から土を運ぶ。1日で運べる量はそれほど多くはないが、日を追って畑の土が増えていくのが分かる。

 ガリムさんの方も、丸太を使った桟橋が1つできたらしい。

 やはり乾季は仕事が捗るな。

 問題があるとすれば、雨がなかなかやってこないってことぐらいだな。


 待望の雨は、6日目の午後にやってきた。

 いつものように豪雨だから、水槽にはたっぷり雨水がたまってくれるだろう。真鍮の大きな水瓶も帆布の屋根を少し弛ませてその下に置いたから同じように溜まってくれるに違いない。

 数日の水の心配がなくなるなら良いんだけどねぇ。


 3時間ほど降り続いた雨がぴたりと止んで空に虹が掛かる。

 まだまだ夕暮れには早いから、島に渡って貯水量を確認することにした。


 驚いたことに半分以上溜まっている。

 やはりしばらくは、雨水を集めることになりそうだ。もう少し大きなロートにしても良さそうだな。


「ほう! だいぶ溜まるんだな」

「これでしばらくは持ちそうですね。甲板でも運搬用の容器に溜め込みました」


「俺達の屋根はスノコだからなぁ。ナギサのような屋根を作った方が良いのかもしれん。商船に何組か注文を出しておこう。上手くやれば雨のたびに3日分の水が確保できそうだ」


 一緒に水槽を覗いていたバゼルさんが、俺のトリマランを眺めながら呟いている。

 確かにあった方が良いだろうな。数隻で同じような屋根を作れば、雨のたびに100ℓ以上の真水を確保できるんだからね。


「それより、畑が問題だぞ。やはり簡単な屋根を作らないと、種が流されてしまうんじゃないか?」


 まだ三分の一ぐらいに土を入れただけなんだが、だいぶ流されて平坦になっている。石組みの外まで流れていないのは上手く土留めができたからなんだろう。

 石組みの裏を粘土のような接着剤で固めて小石と砂を土手のように作っておいたのが役立ったかな?

 土に混じらないようにバナナの葉で抑えておいたから雨で流れることも無かったようだ。


「土はまだまだ運ばないといけないようですね。屋根はスノコを張るぐらいはできそうです」

「島の野菜畑は全て、スノコの屋根を付けてあるぞ。簡単なものだが、雨の勢いで土が飛び散らないだけでも十分だろう」


 日照が心配だったけど、すでに実践しているなら問題はないだろう。

 大量のスノコが必要になってくるな。炭焼きの老人達に頼めば何とかしてくれるかな?


「カルダスがやってきたら、俺は島にもどる。その時に炭焼きの連中に頼んでやろう。島の畑で使っているものと同じで十分だろうからな」


「よろしくお願いします」と頭を下げる。

 これで、俺の仕事は土運びということになってしまった。

 ガリムさんの友人達が交代で手伝ってくれるから、少しずつ畑の土が増えては行くんだが、かなり時間が掛るのは仕方がないんだろうな。


 夕暮れ時間が近づくと、島に全員が集まってくる。

 その日の成果や明日の予定を話しながら、ココナッツ酒を飲むのが習わしになってしまった。

 やはり仕事を終えた後の一杯は格別だ。

 今日のオカズを獲りに行ったのはガリムさんらしい。

 大きいのを突いてきたと言って、皆から称賛を浴びている。


「やはり魚が濃いな。それにこの島にダイブ近づいてきてる気がするぞ」

「島2つ先で、あのフルンネを突いたのか? 俺が最初にここに来た時には島3つ先でも魚が全くいなかったぞ」


 今夜はフルンネがオカズか……。スープかな? それとも姿焼きかもしれないな。

 笑みを浮かべている連中は、俺と同じように料理を思い浮かべているに違いない。

 とはいえ、嫁さん達次第だからね。リクエストを聞いてくれる時もあるんだけど、必ずしもその通りの料理が出るとは限らないんだよなぁ。

 それなら聞かなくても良いんじゃないかと思うんだけど、嫁さん達の意見が分かれた時の一つの判断材料なんだろうか?

 

「明日はオベルが土運びを手伝うぞ。桟橋は何とか形になってきたな」

「だいぶ伸びてきた。海中の石積が少し分かってきたから、石の桟橋もうまく作れるに違いない」


 そんな話をしているけど、問題はその石をどうやって集めるかだ。

 半端な量ではなさそうだし、中に詰める小石や砂の入手先も考えないといけないだろう。

 ガリムさん達の話を聞いていると、どうやらオカズ獲りをしながら、使えそうな石や砂が取れる場所を探しているらしい。

 すでに何か所か探し当てたらしいから、人手が増えたら結構早く出来上がるかもしれないな。


「木の桟橋と真水の確保。ここまでは順調だな。畑少し足りないところがあるが、種をまく前にスノコを張れば問題あるまい。このまま土運びをすれば良いだろう。カルダスがやってきたら、島にログハウスを作ることになるかもしれん。いろいろと道具を満ち込んでいるからな。雨ざらしでは道具が傷んでしまう」


 バゼルさんは、長老への報告をまとめているみたいだな。

 カルダスさんの到着は、予定通りなら4日後になる。

 バゼルさんの滞在期間の半分が過ぎているから、不足している資材がいろいろと見えてきたのだろう。

 その中のいくつかはカルダスさんが持ってきてくれるだろうから、残りを長老と相談するのかもしれないな。


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