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P-114 今度は長期になりそうだ


 島に帰った翌日の昼過ぎに、商船がやってきた。

 早速タツミちゃん達がカゴを背負って出掛けて行く。商船は中2日の停泊を行うから、そんなに慌てなくても良いと思うんだけどねぇ……。

 俺は明日にでも、覗いてこよう。

 今度出掛けると、少なくとも1か月以上帰ってこれないかもしれない。

 結構遠い島だから、往復に時間が掛かるのも問題なんだよなぁ。


 甲板でパイプを楽しんでいると、砂浜で何やら人だかりができている。

 双眼鏡で覗いてみると、ガリムさん達がザバンを2艘並べてカタマランを作っているようだ。

 石造りの桟橋を作れと言うことだから、作業用のカタマランを作って曳いていくのだろう。俺も手伝った方が良さそうだ。

 ベルトの子袋にパイプを仕舞って、浜に向かって歩き出す。

 麦わら帽子は必需品だ。乾季の日差しは半端じゃないからなぁ。


「頑張ってますね!」

「おう! ナギサか。こんな感じだ。丸太を4本横にしたから、後は板を張るだけだな。もう1艘作って曳いていくぞ」


「手伝えることはありませんか?」

「これぐらいは問題ないが、そこで見ててくれないか? 俺達が悩んだら、ナギサの仕事が出てくるからな」


 結構楽しそうに、ノコギリや金づちを使って作ってるんだよな。

 とりあえず近場に焚き火を作りお茶を沸かしておこうと、カゴに入ったポットを手にとると酒の匂いがしてきた。

 ココナッツ酒を飲みながら作ってるみたいだ。

 

「ガリムさん、石造りの桟橋と言ってもどうやって作るんですか?」

「それを考えるのは、ナギサの仕事だ。俺達はナギサの指示で石を積むんだからな」


 思わず、ポカンと口が開いてしまった。

 それは無いだろうと思ってしまう。

 だいたいが桟橋工事なんて大規模な工事は、〇〇組なんて言う大きな土建会社が請け負うんじゃないか?

 それに単に石を積むのでは、崩れないように三角形に積み上げなくてはならない。桟橋と言うからには、カタマランが接岸するんだろうから、積み上げた三角形を土台に接岸用の岸壁を別に作ることになってしまいそうだ。

 一大工事になってしまいそうだ。とても数人で出来る代物ではない。

 

 何とか簡単に作る方法を考えないといけないな。

 そんな俺の肩をポン! とガリムさんが叩いた。

 

「直ぐに作るってことにはならないから、そんなに深刻に悩むことはないぞ。竹で仮設の桟橋を作ったから、次は俺達が普段使っている桟橋を作ることになる。石の桟橋は最後になるだろうし、それを作る時には一気に人数が増えるはずだ」


「そうなんですか? てっきり次に向かう目的は石の桟橋作りだと思ってましたから」

「物事には順序って奴があるんだ。そう深刻にならなくてもだいじょうぶさ」


 それはそうなんだろうけど、この世界のやり方は俺の考えと必ずしも合わないからなぁ。


「ところで、石と石をくっ付けるようなものはあるんでしょうか?」

「あるぞ。次に出掛ける時に3タル持って行くんだ。砂と混ぜて練ると水中でもそのまま使えるし、1日あれば固まるからな」


 セメントということなんだろうか?

 そんな品があるなら、石造りの桟橋にだって使えそうだ。

 値段が気になったので聞いてみたら、1タルで銀貨2枚と教えてくれた。

 ログハウスや燻製小屋、炭焼き用の窯や小屋作りにも使っているそうだから、商船には常に10タル以上積んであるらしい。


「何か思いついたのか?」

「石造りの桟橋にはかなりの量が必要じゃないかと……」

「俺にも想像つかないが、10タルと言うことは無さそうだ。あらかじめギョキョーに頼んで量を確保することになるんじゃないか」


 取り寄せは可能ということだな。

 どんな代物かは、次に向かった時に使い方を見せて貰えば良いだろう。

 さすがに枠を組んで流し込むということにはならないだろうが、それに近いことができそうな気がしてきた。


 ガリムさん達が2艘目のザバンを作り始めたところで、この島の石造りの桟橋を調べに向かった。


 石造りの桟橋は先端が10m四方のちょっとした広場になっている。

 その広場まで木製のトロッコレールが延びているのは、島の保冷庫との運搬を容易にするためだろう。

 今頃はトロッコの台車に、燻製を載せてるんじゃないかな。

 広場が作られた辺りの水深は4m程になるそうだ。商船の喫水は2mを越えているらしいから、安全に着岸できるようにとのことだろう。

 その広場まで、長い堤防のような道が作られている。30m以上ありそうだけど横幅は3mにも満たない。

 トロッコのレールが中心から外れているのは、その上を歩く人達とぶつからないようにとの配慮になるのかな。

 岸壁を覗いてみると、垂直ではなく若干の末広がりのようだ。とはいえ、かなり切り立っているから、竹かごを舷側に下ろせばカタマランの船体がぶつかることは無い。

 

 結構、上手く作ってあるなぁ。

 普段何気なく歩いて商船に買い物に出掛けるけど、この堤防みたいな部分を含めて上はほとんど平らだし、砂利が敷いてあるんだよね。


 岸壁の石組を見ると、セメントを塗り込んだようにも見えない。ただ積んであるだけだということは、裏でくっ付けてあるに違いない。周囲を石で囲んで中にバラ積みしているのかな?

 小さな畑も石組で作るんだから、その時にどれぐらいくっ付くのか調べてみよう。


 トリマランに戻って、色々と作り方を考えてはみるが、やはり接着剤の性質が分からないと何ともならないのが分かってきた。

 そんなところに、バゼルさんがやって来たのでその辺りを聞いてみると、やはり周囲の石を重ねて裏から捏ねた接着剤を練り込むらしい。


「本当なら真っ直ぐ積み上げたいが、若干したが広がるな。10FM(3m)に対して1FM(30cm)内側になるように作ることになる」

「深さに合わせないと行けませんから、基準器を作っておいた方が良さそうですね」


 バゼルさんがこんなものを作ることになると教えてくれたのは、三角の木枠と尖った先に付けた石の重りだった。

 重りを沈めれば先端が下がって、十分の一勾配の斜辺ができるってことか。

 その斜辺に沿って石を積め良いってことだな。


「良い仕掛けですね。向こうで作っても良さそうです」

「ガリム達も少しは考えるだろう。悩んでいる時には教えてやれ」


 小さな畑の石組に、どれぐらいの接着剤がいるのか聞いてみたのだが……。


「最初から大きなものは作らんだろう? 1タルもあれば十分だろう。そう言えば大きな水槽を組み立てると言っていたな。その土台にも使うだろうから2タルを運ぶんだな」


 そう言えば、まだ組み立てていなかったな。あの水槽ならトリマランの水桶並みの水量が貯えられそうだ。早めに作っておこう。


 タツミちゃん達が帰ってきたところで、ザバンを漕いで商船に向かう。

 接着剤を2タル、ワインを6本にタバコが4包み。これでしばらくは持つだろう。


 明日は出発という日は、朝から水汲みをする。

 トリマランの水瓶にたっぷり入れたところで、甲板にも運搬用の容器を満杯にしてロープで括る。

 それが終わるとバゼルさんのところの水瓶の水運びを手伝い、最後は曳いていくザバンに乗せてある運搬用の容器にも水を入れた。


「ナギサ! 頑張ってるな」

「たっぷり運んでおかないと、周りの島からココナッツが無くなりますからね」


「大丈夫だ。たっぷり集めてきたからな。ナギサの船にも放り込んでおくぞ!」

「ありがとうございます!」


 俺に手を振ってトリマランの方にカタマランを進めて行ったけど、前にも増して集めてきたみたいだ。

 この島の近くのココナッツがなくなったんじゃないか?

 水汲みを終えてトリマランに戻ると、網に入ったココナッツがドン! と甲板に置いてあった。20個近くあるみたいだ。

 友人達も手伝ったんだろうけど、今度は誰を連れて来るんだろう?

 

 氏族の島に帰投して3日目の朝。

 再びあの海域を目指す。今度は6隻だ。俺とバゼルさんが大型のザバンを曳き、ガリムさんが小さなザバンを曳く。

 ゆっくりと島を離れる俺達に島の皆が手を振ってくれた。

 やはり期待されているんだろうな。

 早く暮らせるようにしなければ、と思いを固める。

                 ・

                 ・

                 ・

 船団の速度が遅いから、夜遅くまで船を進める。

 ガリムさん達は嫁さんが1人だから、ガリムさん達男性も舵を握ることになるのだろう。

 色々と大変だろうが、氏族の為と思って頑張っているに違いない。

 途中、豪雨に見舞われたけど、乾季の豪雨は直ぐに上がってしまう。

 ちょっとした休憩ができた感じだ。


 島を出発して6日目の昼過ぎ、ロウソク岩が前方に見えた。

 そのまま進んで大きな島の海岸近くに船を停めると、曳いてきたザバンに乗り込み、浮き桟橋に接岸する。


「これが新しい島か! かなり大きいんじゃないか?」

「少なくとも、シドラ氏族の住んでる島の数倍はあるぞ。4つの島が1つになったからな。とはいえ出来たばかりだ。色々とやらねばならんぞ」


 男達が荷揚げを始めると、トーレさんの指揮でタツミちゃん達が食事を作り始めた。

 ずっと舵を握っていたはずだから、料理も手抜きになってたはずだ。今夜は、美味しいものが食べられそうだな。


 荷を陸に運んだところで、帆布を被せた。

 雨を集める仕掛けの下に置いておいた水瓶は満杯になっている。これ1つで1日は持つだろう。次の雨の備えて、早めに水槽を組み立てた方が良さそうだな。


 小さな焚き火を作り、木箱や焚き木を持ち寄って腰を下ろす。

 無事に付いたことを感謝しながら、先ずはココナッツ酒が回される。

 自分のカップに半分ほど注いで次に回したけど、早くも明日の仕事の話が始まったようだ。

 俺は水槽の設置を行い、バゼルさん達は島で使っている桟橋を、先ずは作るみたいだな。

 支柱となる丸太を度の島から運ぶかが問題のようだけど、カタマランを使わずに、船外機が付いたザバンを使って運ぶらしい。


「かなり本数がいるぞ。先ずは30本ほどを運び込もう」

「ナギサは残していくんですか?」


「木組みの大きな水槽を作るそうだ。先ずが土台からだろうが、嫁さん連中が石運びを手伝ってくれるはずだ」

 

 男では俺1人ってことかな? 1日では終わりそうもないな。

 時間を掛けてゆっくり作っていこう。

 早く作ろうとして失敗しないようにしなければ。


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