P-111 上陸する前にすることがある
やはり曳き舟がザバンとは言え大型だ。その上、カタマランだからなぁ。
魔道機関を2ノッチに上げるわけにもいかないので、6日どころか7日の昼過ぎになってようやく到着した。
ロウソク岩のある島の1つの沖合に停泊したところで、島に船外機の付いたザバンで上陸する。
できれば正面にある大きな島に調査拠点を設けたかったが、あの辺りの海底の深さは変っているに違いない。
水深の調査を終えない限り、これ以上東に進むのは危険があり過ぎる。
「明日は、取りあえず真っ直ぐに東に向かってみるか。バゼルが船外機付きのザバンで俺のザバンを曳いてくれねぇか」
「興味本位で行動するのも問題だろう。ナギサはどうしたいんだ?」
「やはり、あの島への上陸するための水路を見付けることは急務だと思います。カルダスさんとバゼルさんの長年の勘に頼りたいところです」
「そうだろう! ということで、俺とバゼルはそれを行うつもりだ」
カルダスさんが我が意を得たりと喜んでいるのを、冷めた目でバゼルさんが見ているけど、本人も少しは興味があるみたいだな。
「親父達はそれで良いとして、俺達は何をすれば良いんだ?」
「2人には、魚の調査をして貰います。正面の大きな島からどれぐらい離れると魚がいるのかを確認してください。4方向とも潜って確認をお願いします」
2人が驚いたような顔をして俺をみている。
「この海に俺達が来た時には、まるでいなかったんだ。どこまでも透明な海が広がっていた。ついでに水深も確認してこい。
錨のロープに1FM(30cm)ずつ印を付ければ深さが分かるはずだ。延びが小さな組紐を使っても良いぞ。ナギサは組紐に小石を結んだ仕掛けで測っていたな」
「本当に魚がいないのか?」
「それを調査してください。俺達が潜った時にはあの島から、島3つ分ほど離れるまでは全く姿が無かったんです」
2人には信じられないみたいだな。
まあ、潜ってみれば直ぐに分かることだ。
前回と違ってこの辺りの海域には、たまに泡が浮かんでくるぐらいに活動が低下している。案外戻っているかもしれない。
「ナギサは?」
「この島に最初の測量点を作ってますから、それを使って周囲の島の変化を確認してみようかと思っています。大きな島に達する前に2日ぐらい掛かりそうです」
周辺からゆっくり調査していこう。
バゼルさん達には西方向だけでなく、他の方向からも確認して貰わねばなるまい。
水深測量を行った位置は、2つの島の方向をコンパスで調べて貰うことにした。
嫁さん達が共同で作ってくれたスープは具沢山で香辛料が効いている。
ちょっと甘めなバナナの炊き込みご飯には丁度良い感じだ。
翌日は、それぞれの役目を持って皆が周囲に散っていった。
カルダスさん達は2艘のザバンを曳いて東に向かったけれど、カタマランにしたザバンの前後に2本の柱を立てて、竹竿を梁にしている。
簡単な屋根を作れると教えたんだが、ちゃんと作ったみたいだ。
トーレさん達が乗っているからね。乾季の日差しはかなりきつい、日除けがあるのとないのでは快適さが全く異なってしまう。
俺達もカタマランにしたザバンに載せた荷物を甲板に移して、測量器具を乗せ換えた。
先ずは、【1-1】から測量を開始して、変化の状況を調べよう。
島を移動しながらの測量だけど、他の島の目印にした岩が大きくせり出したり、崩れたりしている。
改めて目標を作っての測量は、簡易的ではあるけど時間が掛ってしまう。
写真でも使えれば、良いんだけどね。
エメルちゃんが各島の最初の測量点から眺めた風景をスケッチしてくれているのがありがたい。
長老達に説明するにしても、そんなスケッチがあるのとないのではだいぶ違ってくるだろう。
「この島はこれで良いにゃ? 次はロウソク岩がある島にゃ」
「だいぶ大きくなってるね。それに奥の島と繋がってるようにも見えるんだよなぁ」
海底が盛り上がって尾根を作っているようだ。
幅がある尾根なら良いんだが、ここからでは10mほどの高さで繋がっているように見えるだけだ。
あの尾根の上に立って両側を測量することになりそうだな。
横幅が広ければトロッコを走らせることもできるに違いない。
日が傾き始めたところで、トリマランを泊めた島へと戻ることにした。
すでに焚火が作られているから、帰ってきた連中もいるってことなんだろう。
屋根付きの船が浜にあったから、バゼルさん達に違いない。
俺達もその隣にザバンを繋いで焚火のところに向かう。
「ナギサ達か! まあ、座って1杯飲め。エメル、母さん達を手伝ってやれよ。大人数だからなぁ」
「分かってるにゃ! まだ兄さん達は戻らないのかにゃ?」
「簡単な調査のはずなんだが……、どこまで行ったんだか。少しは獲物を持ち帰ろうと考えたんじゃないか」
たぶんそんなことだろう。
大人数だからなぁ。最低でもブラドを数匹ぐらいに考えたに違いない。
そんなガリムさん達だが、夕暮れ前には「ちゃんと戻ってきた。
俺達が早かったということなんだろうな。
獲物の入ったカゴをエミルさんがトーレさんに渡してたけど、エメルちゃんに似た名前なんだよね。
エメルちゃんの名を呼ぶと、たまにエミルさんが俺に顔を向けるぐらいだ。
「だいぶ大きいようだな?」
獲物の大きさを検分してきたカルダスさんが、ガリムさんにココナッツ酒のカップを渡しながら問いかけている。
その言葉を待っていたかのように、ガリムさん達の顔に笑みが浮かんだ。
「あの島から4つ先の海で突いたんだ。2つ目までは、全く魚がいなかったんだが3つめになるとそれなりにいるんだよなぁ。だけど小さい奴ばかりだった。4つ目は他の漁場と変わらないな。違うところは大きい獲物がいるってことだ」
カルダスさんとバゼルさんが、ガリムさんの言葉に顔を見合わせている。
やがて互いに小さく頷いたのは、2人とも考えることは同じということなんだろう。
友達付き合いが長いとはいえ、ちゃんと言葉に出してもらわないと俺達には何のことだかわからないんだよなぁ。
「3つめの島には魚がいたんだな? 前回は全く見ることも無かったから、魚が戻ってきたに違えねぇ」
「島の活動が収まりつつあるということなんでしょうね。とはいえ、本格的な活動は移住しようとするあの島の周囲に魚が戻ってきてからにした方が良いですよ」
「それぐらいの分別はあるさ。だが、それほど先になるとも思えん。俺達の方も良い結果を持ってきたぞ。あの島にカタマランで行くことができる。これが水深を測った結果だ」
島の西側の海域を簡単に描いている。入り江の奥はかなりの頻度で深さを測ったようだ。
島の岸から15mほど離れた場所の深さは平均で2.4m前後。確かにカタマランの喫水よりも深いから問題はないんだが……。
「200FM(30m)離れると10FM(3m)を超えますね。水路はどうなんでしょう?」
「喫水より水深があるからあまり問題はねぇだろう。水路を考えるのは大型船を考えたってことなんだろうが、いくつか12FM(3.3m)を超える場所はあるんだが連続していねぇんだ。商船が近づくのは無理だな。強いていうなら、あのロウソク岩の近くということになる。15FM(4.5m)ほどあるから商船でも近付けるだろう」
「商船を出入りさせるかは長老の判断ってことですね。どちらかというと、さらに喫水の深い軍船が近付けないことに安心しました」
「そういうことか! 確かに無理だな。近づくことはできても、その先はザバンのような小舟となれば、俺達の方に利がありすぎる。
商船の方は、今の氏族の島を利用することになるんじゃねぇか? 少し不便になるが、それぐらいは我慢できそうだ」
商船のお店で買い物は楽しんだけどね。
女性達に文句が出ないとも限らないが、それはギョキョーの品揃えを拡充するころでなんとか我慢してもらえそうだ。
ネコ族だけで運営する商店ができても問題はあるまい。
「明日は南を探ってみるつもりだ。ガリム達も頼んだぞ。それと、竹を見つけたら20本ばかり曳いてこい。あの島に上陸するには簡易的でも桟橋がいる。こちら側の岸は全て岩場だからな」
竹竿で簡易桟橋を作ろうってことかな?
浮体はカゴを編んで布を張り、防水塗料を厚く塗ればできるらしい。
トーレさん達が得意らしいから、ザバンの甲板でガールズトークをしながら作ることになるんだろう。
直ぐに脳裏にトーレさん達の姿が思い浮かぶんだから間違いは無さそうだ。
「ナギサ達は今日の続きか?」
「西は何とか終わりましたが、3方向残ってますからね。それが終われば一度あの島に渡って高いところから全体を眺めてみたいと思ってます」
「その時は全員で行こう。幸いにも近場までカタマランで行けるんだからな。あれほどの大きさだ。本来なら水場の2つや3つありそうだが、できたばかりだからなぁ……」
あるとは思えないが、探す努力は必要だろう。
今は水がなくとも、将来の水場ってこともあるだろうからね。
トーレさん達が作ってくれた夕食を皆で味わう。
やはり大勢で食べるといつもより美味しく感じるのは仕方がないのかな?
決してタツミちゃん達の作った料理が美味しくないわけではないんだけどね。
食後は何時もの通り男女に分かれて、ココナッツ酒を飲みながら話をするんだが、嫁さん達の笑い声が混じった話と、俺達の話ではかなり差があるようだ。
明日以降の話をしながら、移住をどのように行うかを俺達は真剣に話してるんだけど、タツミちゃん達は何を話題にしてるんだろう?
気になるんだけど、教えてくれないんだよなぁ。




