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P-109 さすがに苗木は早まったかな


 一晩中降り続いた豪雨だが、俺が目を覚ますころには止んでいた。

 強い日差しが、昨夜の雨の痕跡をすっかり消してしまっている。

 今日も暑くなるんだろうな。


「あれ! バゼルさんが帰ってきてるんだ」

「今朝早くに着いたにゃ。早く朝食を食べないと、また笑われてしまうにゃ」


 急かされるように、朝食のカップを渡される。

 リゾットにスープをすでに掛けてくれているようだから、このまま掻き込めば良いんだろう。

 あまり熱くないから、急いで食べることにした。

 寝r個族の人達は皆早起きだからなぁ。田舎のお祖母ちゃんのところだって、こんなに早くは無かったと思うんだが……。


 どうにか朝食を終えて、タープの日陰の下でお茶を飲んでいるとバゼルさんとカルダスさんがやってきた。

 2人一緒だということは、長老の家で軽く状況を確認したということかもしれないな。


「ナギサがこの時間に起きてるとは、昼から雨かもしれんな」

「雨季ですからねぇ。俺で天候が変わるとも思えませんけど、どうぞ座ってください」


 タツミちゃん達が座っていたベンチを2人に譲り、お茶を用意しているようだ。

 それが終わったところで、トーレさんのところに遊びに行くのかな?

 

「大まかな話はカルダスから聞いた。治まったらしいが、次はそれを確認することになるのか?」

「それもありますが……。これを見てください」


 新なベンチを俺達の前に置くと、測量結果を書き込んだ地図を広げた。

 だいぶ変わったな? という表情で眺めていたバゼルさんが、海にいくつか掻き込んだ「〇」印と、その横の数字に気が付いたようだ。


「これは、ナギサの国の文字だな。海上に書き込んだとすれば水深ということか?」

「そうです。俺にはこっちの文字の方が分かりやすいのでそうしてるんですが、カルダスさんに渡した地図にはタツミちゃんに書き込んでもらってます。

 この島を中心にして4つの島が1つになったんですが、かなり水深にばらつきが出ています。

 とりあえず、ロウソク岩のある島付近にまでは近付けますけど、その先は水深が10FM(3m)ほどですから、測量を止めました。

 次の調査は、終わりの確認とともに、この島周辺の水深測量が重点になると思います」


「なるほどな……。大きな島を手に入れても、近付けないなら意味がねぇってことだ。

 島の東西南北について調べるとなると、時間が掛るぞ。カタマランの底を擦るようなことが起こると面倒だからな」


 タツミちゃん達が俺達に挨拶して桟橋に下りて行った。

 用意してくれたのは、お茶ではなくココナッツ酒だ。

 3人で酌み交わしたら、夕食が食べられなくなってしまいそうだ。

 2人のカップにはなみなみと酒を注いで、俺のカップには半分ほど注ぐととりあえず一口飲んだふりをする。

 2人が酒を飲み始めたところで、昨日の商船での顛末を話し始めた。


「大型のザバンを2艘並べてカタマランにするのか! 船尾に船外機を付けるなら、水深を測るには都合が良い。だが、曳いていくのが面倒だな」

「それにしても、苗木をタダで手に入れるとはな。しばらくはギョキョウの裏にでも置いておけば良いだろう。水を掛けておけば、枯れることはないはずだ」


 褒めてくれてるんだろうな。

 とりあえず俺の行動は問題がないということらしい。

 

「そうなると、もう1隻引き舟が欲しくなるな。土運びはかなり面倒だ。それにしばらくは水を運ばねばなるまい」

「ナギサが作らせたザバンより大きくなるぞ。それは長老と相談だな」


 気が早いと思うんだけどなぁ。

 そんな船が必要になるのは、かなり先の話だ。早めに作ったら桟橋に係留しておくだけになってしまうだろう。


「いずれにせよ、次の調査はザバンを手に入れてからになります。ドワーフ族の職人の話では2か月先にはならないだろうとのことでした」

「雨季の最中だから、ちょうど良いだろう。運搬用の容器を少し買い込んでおくか……」


 水瓶を乗せていくってことだな。

 1つで2日分ほどになるんだから、数本乗せておくだけで調査の日数を伸ばせそうだ。


「次はそれでも良いだろうが、引き舟にはカタマランの水ガメ以上の大きさが欲しいところだ。喫水は深くなりそうだが、2隻で曳くなら問題はあるまい」


 2人頭の中にある引き舟はかなり大きいように思えてきた。

 それならいっそのこと、カタマランそのものでも良さそうに思えるんだけどなぁ。

 屋形を持たずに、船尾に小さな操船櫓を作るだけで十分に思える。

 日帰りならば漁もできそうだ。

 ん! ひょっとして調査人数を増やそうってことか?


「雨季明けの調査は、俺とバゼルの2組が同行する。少なくとも5日以上あの島を調査することになるだろう。ナギサが引き舟を1つ作ったのなら、俺とバゼルでもう1艘を作ることにしよう。今日頼んだのなら、明日に商船に行って頼んでくるさ」

「水の運搬容器をいくつか買い込んでください。さすがに20日間近い航海となると、飲料水が足りなくなりそうです」


「それは俺達も十分承知だ。母船の水瓶とはいくまいが、少し大きな奴を手に入れるつもりだからな」


 あまり大きいと運べないんじゃないかな?

 その辺りは2人の常識を信じたいところだけどね。

                ・

                ・

                ・

 ザネリさん達と一緒に漁をする日々が続く。

 やはり島の調査よりは、漁の方が面白い。出漁する場所は、その都度異なるし、獲物に若干の偏りがあるのも新鮮に感じてしまう。

 とはいえ、雨期の漁は延縄と曳き釣りが主流だ。

 ザネリさんは曳き釣りが得意じゃないのかな? どちらかというと、素潜りの頻度が高いように思えるぐらいだ。


 漁から帰ったある日のこと。

 いつものようにタツミちゃんがカゴを背負って漁果をギョキョウへと運ぶ。

 2人で担いでいったから、銀貨1枚は超えるだろう。

 商船が来ていないけど、中2日の休みを取ってからの出漁だから、その間に来てくれると良いんだけどね。


 船尾のベンチに腰を下ろして、漁具の手入れをしていると2人が帰ってきた。


「ギョキョウに荷物が届いていたにゃ。あんなにたくさんの苗木をどうするにゃ? 小さな苗木だからそのまま水を上げているって言ってたにゃ」


 タツミちゃんの話を聞いて、ちょっと驚いてしまった。

 まだ調査には行かないし、苗木を植えるにしてもさらに先の話なんだよなぁ。

 邪魔にならない場所に仮植えしとかないと枯らしてしまいかねない。バゼルさんが帰ってきたら相談してみるか。


「それと、カタマランが届いてるにゃ。あれはザバンを繋げてあるにゃ。甲板に袋が山になってたにゃ」

「次に行くときに曳いていこうと思ってたザバンだよ。出来たんだな。このトリマランであの島に近付けるか自信がないからね。船尾に魔道機関の船外機が付いているから、漕がなく手もだいじょうぶだよ」


「2艘あったにゃ」

「もう1艘はバゼルさんとカルダスさんが作った船だ。やはり同じ心配をしてたからね。次は2人も一緒だから、最低でも3隻で向かうことになりそうだ」


 長老が移住に前向きとなると、島の調査を本格的に行うことになりかねない。

 島の周辺調査はカルダスさん達に任せるとして、島の調査は俺達以外にもう1組はほしいところだな。


 バゼルさん達が翌日に帰ってきたので、さっそく苗木の話をすることにした。

 ちょっと驚いてはいたけど、その夜の長老との話で、島の老人達に世話をしてもらうことになったようだ。


「長老が驚いていたぞ。ナギサは先を考えているとな。その後で、とはいえ現状がおろそかだと笑っていたが、それは俺達でなんとかできることだ。

 俺達のザバンができたのも都合が良い。長老は次の調査で若者を2組ナギサに託すと言っていたぞ。カルダスも今日中には帰ってくるだろう。

 今夜は俺と一緒だ。長老も、ナギサと話がしたいらしいからな」


 しばらく挨拶もしていないからなぁ。とはいえシドラ氏族のトップでもあるんだから、そうそう簡単に挨拶しに行くのは考えてしまうんだよなぁ。

 長老の小屋に集まる連中は、30台は若者らしく、発言さえできないとザネリさんが言ってたからね。

 長老から問われて初めて口を開けるらしいが、下手なことを言おうものなら、その場に居合わせた連中から白い目で見られるらしい。

 まあ、新参者ということで礼儀を欠いても少しは大目に見てくれるだろうけど、ちょっと心配になってきたな。


「やはり移住時期を知りたいということになるんでしょうか?」

「それは俺も知りたいところだが、その前にいろいろとやるべきことがあるんじゃないか? その計画を知りたいのかもしれんな。ナギサに貰ったメモは長老に渡してあるから、案外見落としを指摘してくれるかもしれないぞ」


 事実上の責任者ってことになってしまいそうだ。

 少なくとも、それは避けるべきだろうな。

 カルダスさん当たりなら、氏族の筆頭なんだから丁度良いと思うんだけどなぁ。

 たぶん将来的には長老の席に座るはずだから、そのための実績作りにも都合が良さそうだ。


「そうなると、俺が移住の責任者になりかねません。さすがに氏族の大事業を新参の俺に託すというのも考えてしまいます。出来ればカルダスさん、もしくはバゼルさんに束ねてほしいところなんですが」


 俺の言葉にちょっと驚いているようだ。

 そんなに意外な話だったのかな?


「ネコ族は実力社会だ。年功序列は礼儀では必要だが、それ以外で歳を問題にすることはないぞ。だが、中にはいるかもしれんな……」


 腕を組んで考え込んだということは、それなりに考えるべきことだと思ってくれたに違いない。

 バゼルさんでさえそうなら、氏族の調和を考える立場の長老も少しは考えてくれるに違いない。

 ちょっとにんまりしてしまったから、慌ててお茶を飲むことで顔を隠すことにした。


 夕暮れ近くにカルダスさんのカタマランが桟橋に着いたらしい。

 やはり今夜は出掛けないといけないようだ。

 こちらの世界で手に入れた布製の小さなバックに、地図とメモ、それに筆記用具を詰め込んでバゼルさんが来るのを待つことにした。


 早めの夕食を取ってお茶を飲んでいると、バゼルさんが桟橋から俺に声を掛けてくる。


「ナギサ、出掛けるぞ。タツミ、遅くなるかもしれんが、ナギサを問い詰めるわけではないから安心して待ってるが良い」

「先に寝てても良いよ。場合によっては帰りは深夜になりそうだ」


 そう言って、ベンチから腰を上げる。

 さて、どんな話になるのやら……。譲歩の条件は総責任者になることだけを避けることにしよう。

 長老達が誰を責任者にするか、ちょっと楽しみになってきたな。


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