P-108 商会への依頼
タツミちゃん達が漁協に買い出しに行ってる間に、水汲みを済ませる。
船内に水瓶は半分ほどになっていたから、何度か往復することになってしまった。
暇つぶしには丁度良いんだけど、結構疲れるなぁ。
3回ほど往復したところで、船尾のベンチに腰を下ろして一服を楽しむ。
何気なしに沖を眺めると、商船がこちらに向かってくるのが見えた。
到着するのはまだ先になるだろうし、すぐに嫁さん連中が出掛けるだろう。
ちょっとした相談事なら、日が傾いてからの方が良いのかもしれない。その前に、確認しておく項目をメモしておかないとな。
大きな水桶とバケツに柄杓は欲しいところだ。スコップにツルハシもいるんじゃないかな?
1輪車があれば良いんだけど、場合によっては作って貰えるかもしれない。
簡単な絵を書いておけば、ドワーフ族の職人さんならすぐに作ってくれるはずだ。
雨水を集めるロート状のタープと導水用のパイプ……、パイプは竹筒で代用できそうだな。となると、ロートの下部に布製の筒が欲しいところだ。
火災訓練で使ったホースは布製だったけど、水漏れがしないんだよなぁ。あれってどんな製法で作ってあるんだろう?
最後に苗木と土だ。
苗木は炭作りができることが最低条件だし、可能なら果物が取れた方が良いな。
土は苗木にも付いてはいるんだろうが、値を保護するだけだろう。
1本当たりバケツ3杯は欲しいところだ。それ以上手に入れられるならありがたいところなんだが……。
メモを見ながら悩んでいると、タツミちゃん達がギョキョウから帰ってきた。
急いで買い込んだ品物を片付けているのは商船がやってきたことを知っているからに違いない。
「今、お茶を入れるにゃ。商船が桟橋に着いたら出掛けて来るにゃ。ナギサは欲しいものがあるのかにゃ?」
「そうだね……、俺も日暮れ前に出掛けたいんだ。ちょっと相談したいことがあるんだけど、中位魔石を1個もらえないかな? 買えるものは早めに買っておきたいからね」
直ぐに魔石を1つ渡してくれた。
俺が何をしたいのか知らなくとも、氏族のためになることだとは理解してくれているに違いない。
説明不足も甚だしいけど、そこは大目に見てほしいところだからね。
「あまり買い込むと、場所が足りなくなるにゃ」
「そこは注意するよ。だけど将来を考えると、その辺りも考えないといけないね」
引き舟を作った方が良いのかもしれないな。
少し大型のザバンを2艘並べてカタマランを作り、板張りの甲板を作ればいろいろと乗せられそうだ。
船尾に船外機型の魔道機関を搭載すれば自力航行も可能だろうし、何といっても新たな島周辺の水路調査にもってこいの船になるんじゃないか?
メモに小型船を追加することにした。
お茶を頂いた後で、タツミちゃん達が商船に出掛けた。
混んでいるだろうから、それまではオカズでも釣りながら時間を潰す。
入れ食いとはいかないけれど、それなりに釣れるからね。
数匹を釣り上げたところで、獲物を保冷庫に入れておく。
ちゃんと開いておいたから、そのまま焼いて食べても美味しそうだ。
だいぶ日が傾いてきたところで、商船に向かうことにした。
浜を歩いてくる2人連れは、タツミちゃん達みたいだな。タツミちゃんがカゴを背負っているけど、荷物はそれほどないみたいだ。
「客は少なくなったにゃ。今夜はご馳走にゃ!」
「保冷庫にオカズを入れといたよ。やはりオカズ釣りができるのが良いね」
互いに手を振って別れたけど、御馳走って何なんだろうな?
色々と考えてると笑みが浮かんでくる。
すれ違った住民に軽く頭を下げて挨拶したんだが、ニタニタしていたからおかしな奴だと思われたに違いない。
商船に入ると、直ぐに店員を呼び止めて相談したいことを告げた。
店員も心得たもので直ぐに2階の小部屋へと案内してくれる。
「ご相談と伺いましたが?」
「いくつかあるんだ。大きくは3つかな。
最初は、開拓をしたいんでスコップとツルハシが欲しい。岩を割る道具があればそれも欲しいところだ。
2つ目は、植林をしたいんだが苗木を手に入れることはできるだろうか? もっとも、苗木をそのまま植えてもご覧の通りの島だからね。1本に付き背負いカゴぐらいの土を手に入れたい。
それを育てるとなれば水が必要になるんだろうが、島での飲料水を無駄にはできない。
雨を集めて大きな容器に入れときたいんだが、組み立てができる水槽みたいなも尾があるかどうか……。
3つ目は、ザバンを改良したい。こんな形にできないかな? 船外機は作っていると聞いたんだが?」
メモを見ながら話をして、最後に簡単な図を手渡した。
通常のザバンよりも一回り大きく作って、2艘を跨ぐように甲板を作る。甲板に船尾に船外機を付ければ、自力航行ができる品だ。
「色々とありますね。ツルハシにスコップ、ハンマーとノミはこの船にはありませんが、お届けすることは可能です。
果物の苗となりますと、何がよろしいでしょうか? ご希望があればご用意できますが?」
あるってことか! とはいえ種類までは考えていなかったな。
「幹を炭にできるなら、何でも良いんだが……、出来れば柑橘系が良いかな。島で育てられそうなお勧めがあれば教えて欲しいところだけどね」
「アセロラ、マンゴー、レモン辺りでしょうか? それなら苗木を取り寄せられますよ。変わったところでは、ナツメヤシもおもしろそうですね。西の砂漠で作られていますが、水はけがよい土地であるなら良く育つようです。
土は、穀物袋でお渡しすることになるでしょう。3袋で背負いカゴの半分ほどになるはずです。値段は……、この製品を私共で商わせて頂けるなら無償でお渡ししましょう」
何かあったかな?
店員が取り出したのは、一輪車だった。
「荷車はあるんですが、このような形もおもしろそうですね。特許を取得しますから、苗木を数種類20本ずつ、土を100袋に肥料を10袋、それにこの道具を2台で手を打ってくれませんか?」
特許となるとそれなりの対価ってことになるんだろうな。
これで、苗木の方はタダになったぞ。
「俺の方に利があり過ぎると思うんだが?」
「十分に引き合うと思いますよ。私達の利益の方が遥かに大きいと思います。それは苗木と植えるための土を別途お渡しいたします」
思わず笑みを浮かべて、頷いてしまった。
ここで待っているように俺に告げると、部屋を出て行く。書類を作るのかな?
手続きが案外厄介なんだよなぁ。
しばらく待っていると、ドワーフ族の職人を連れてくる。ザバンの改良となると店員の専門外と言うことになるんだろう。
「おぬしか? ザバンを改良したいというのは」
「島の周辺を巡りながら水深を測りたいんです。波は荒くないんですがあちこち調べるとなると、自力航行ができた方が良いですからね」
ふんふんと頷きながら俺が描いたザバンの絵を眺めている。
「それほど難しくはない。ザバン3隻分に船外機の値段を加えれば十分だ。それにこれは曳いて行くしかないぞ?」
「俺の船は大きいですし、魔道機関の出力もありますからだいじょうぶですよ。引き綱を付けられるようにしといてください」
「それは言われずともやっておくが……、知り合いの工房に頼むことになるから、2か月近く掛かるじゃろうな」
できるなら、それで良い。
契約書を交わして、俺がいない時にはギョキョウに引き渡すことを最後に付け加えることにした。
代金代わりに、中位の魔石を渡すとお釣りがかなりあったから、ザバンは安いってことなんだろう。
動力を持たないザバンは銀貨1枚で買えるぐらいだからね。
「それにしても、雨を集めるとはおもしろい考えですね」
「豪雨を経験したはずだから、その量に驚いたんじゃないかな。遠くで漁をするときは、屋根に振った雨を運搬用の容器に集めることさえあるからね。直ぐに満杯になるよ」
「島の真水はそれだけ貴重だということじゃろうな。確かに、このような形に帆布を作れば効率的に集められるじゃろう」
雨水を集めるロート状の帆布をは彼等にも納得できる物だったようだ。商船に小さなものを作ろうというぐらいだから、彼等も水では苦労してるんだろう。
とはいえ、すでにロートはあるということで、特許ということにはならないらしい。
「それでも、最初の製品ですからね。数年は独占が可能ですよ。その見返りに野菜や荒れ地に育つ草花の種を提供しましょう。契約書には書くことはしませんが、商会の会員の私との約束です。違えることはありません」
「ちょっとしたアイデアだからねぇ。役立ってくれるならそれで十分だ。とはいえ、期待させてもらうよ」
最後にコーヒーを頂いたんだが、俺が教えた布で濾すやり方が定着したみたいだな。
ちょっと濃い味だったけど、砂糖はスプーンで1杯に留めることにした。
2人はそのまま飲んでいるんだが、苦くないのかな?
大人を気取って苦いのを美味しいというのは俺には納得できないんだけどねぇ。
帰りに1階の店に立ち寄って、店内を物色する。
少し太めの組紐を1巻きとタバコを2包み買い込んで船を出た。
桟橋に出ると、既に夕焼けが始まっている。
何時もより暗い感じがするのは、西の空の一部が黒い雲に覆われているからだろう。
今夜は豪雨になりそうだな。




