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P-103 たぎる海


 島に渡って、【1-1】となる砂浜から顔を出した岩に測量器をセットして気が付いた。

 前回は三脚から下ろした錘が岩から数cm離れていたはずなんだが、今回は1cmほどの余裕があるだけだった。

 この島も隆起しているってことなんだろうか?

 記録を取って【1-2】と対岸の岩の測量を急ぐことにした。


「ナギサ! この浜、少し変にゃ。前はもっと小さかったにゃ」

「引き潮かもしれないよ。干満の差が1FM(30cm)はあるんだろう?」

「それなら、あの岩の貝は死なないにゃ。死んで真っ白にゃ」


 タツミちゃん達に連れられてその岩を見ると、確かに岩の上に付着しているフジツボみたいな貝が真っ白になっている。

 すぐ下の貝とは明らかに色が違うってことは、満ち潮でもここまで海水が上がってこないってことになるんだろう。

 ちょっと離れて海面に突き出した岩も白い帯ができていた。


 隆起は一様ではないってことなんだろうか?

 早めに次の島に行ってみよう。


 1日目の測量結果を基に隆起を調べてみると、少ない位置で数cm、多いところでは50cm近く盛り上がっている。

 驚いている俺の横では海面で泡が弾ける音がしていた。

 泡の量も増えた感じだな。これは測りようがないけど、見ただけでも分かる。

 連続して上がってくる感じだ。海底から出る場所も簡単に分かりそうだけど、以前潜った時に割れ目の間から上っていたから、少しそれが開いたということに違いない。

 やはり全体として動いているということになるんだろうな。

 

 夕暮れ前に、カルダスさんが戻ってきた。

 俺達のトリマランにカタマランを寄せたところで、互いの船を固定する。


 俺とカルダスさんの嫁さん達が甲板を互いに飛び越えて場所を移すと、カルダスさんが俺にココナッツ酒のカップを渡してくれた。

 たっぷり入っているから、ゆっくり飲んでいよう。


「バゼルから聞いた時には、そんなわけはねぇと思っていたんだが、確かに魚がいねぇな。それにしても不思議なほど澄んだ海域だ。泡が浮いて来なけりゃ、海ン中だとは思えねぇくらいだからなぁ」

「3つの島を大急ぎで調べました。島が浮かんできてますよ。この島は平均して1FM(30cm)くらいですが、あの奥に見える島は2FM(60cm)近く隆起してます」


「いよいよってことか? それにしても泡が多いな。前もこんなだったのか?」

「来るたびに多くなってます。最初はたまに浮かんでくるぐらいだったんですが……」


 だが、あの幻影で見た光景には至っていない。

 海面が沸騰するように泡立って、東の島が目で見えるぐらいの速さで隆起していたんだからな。


「ところで、明日は少しこの海域から離れたほうが良いかもしれません。俺の見た幻影に遭遇したなら、船を動かすのは危険だと思ってます」

「泡立つ海面に危険があるってことか?」


 かなり危険だけど、それを査閲明するのは難しいんだよなぁ。

 浮力と比重の関係になるんだろうけど、海水中に泡がどれだけ含まれるかで、船の浮力が変わってくる。

 最悪は浮力が足りずに沈んでしまうことだってあるんじゃないか? そこまで至らなくともスクリューの効率が変わってきそうだから、船を動かすこともできなくなりそうだ。


 問題が無ければ近づくこともできるはずだ。

 夜の間だけでも離れていた方が危険を回避できるだろう。


 俺の説明に首を傾げているのは理解できないってことなんだろうな?

 さて、これ以上どのように説明しようかと考えていると、カルダスさんが口を開いた。


「ナギサがそこまで言うんだから、何かあるんだろう。ましてやナディ様の姿を見たのであるならなおさらだ。島1つ離れて夜を迎えることで良いな?」

「そうしましょう。何も無ければそれで十分ですから」


 夕食を頂いて早めに屋形に入る。明日は南の島を調べてみよう。

 カルダスさん達の調査では、前回のバゼルさんの調査結果と同じだったらしいから、魚達も遠巻きにして様子をうかがっているのかもしれない。

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                ・

 ゆさゆさと体を揺すられて、目を覚ました。

 いつもは優しい表情で「おはよう」と言ってくれるんだが、今朝のタツミちゃんは切迫した顔をしている。


「早く起きるにゃ! 海がたぎってるにゃ!」


 なんだと! 飛び起きようとしタラハンモックがくるりと回って床に落ちてしまった。

 少し背中が痛いけど、いっぺんで目が覚めた感じだ。急いで外に飛び出すと、周囲の海一面に泡が次々と上がってくる。


「ナギサ! これがお前が見た光景か?」

「さらにひどい光景です! とりあえずこの海域から離れましょう。少し船が沈んでませんか?」


「本当だ……。いつもなら見える梯子の足場が沈んでるぞ。島1つで良いんだな!」

 

 俺が頷くと、急いで互いの船を結んだロープを解く。

 船首に向かってロープを解くと操船櫓に顔を向けた。タツミちゃん達がすでに待機しているようだ。手を上げてロープを解いたことを知らせるとすぐに左に回頭が始まった。


 船尾から泡立つ海を眺める。

 あの幻影に近いが、さらにひどい状態だった。

 周囲の島は前回より隆起しているが、目で見えるような盛り上がり方ではない。

 まだあの光景には至っていないが、それが始まりつつあるように思えてきた。


 島1つ分ということは、魚のいない海域の外れということにもなる。

 さすがにここまでくると、泡立つ海域ということもない。たまに泡が浮かんでくるぐらいだからね。

 船を寄せて投錨したが、互いの船をロープで固定はしなかった。さらに事態が進展しないとも限らない。


「とりあえずは様子見か?」

「そうですね。午前中はそうしましょう。変化がなければ午後に少し調査が出来そうです」


 操船櫓からタツミちゃん達が下りてくると朝食の支度が始まる。

 慌てて移動してきたけど、ようやく朝日が昇っていたところだ。

 帽子を被って屋形の屋根に上ると、東の海域をジッと眺める。

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 朝食を終えると、カルダスさんは南の海域の調査に出掛け、俺達は【1-1】の島に向かってトリマランを進める。

 島に近い場所に船を停めて俺とタツミちゃんの2人で島に上陸したのだが……。

 測量点に三脚を立てて驚いた。

 昨日よりも2cmほど上がっている。

 急いで近くのポイントを測量したところで【2-1】に向かう。

【2-1】から、【3-1】のある島の岩を測量していると、島が揺れ始めた。

 急いでザバンを漕いでトリマランに向かい、海域を西へと向かった。南東からカルダスさんのカタマランが速度を上げてこちらに向かってくる。

 

【1-1】を設けた島から1つ西に離れた島の沖に2隻の船を並べて成り行きを見守る。

 船首の小さな甲板で、パイプを咥えて東を見ているカルダスさんが、俺に顔を向けた。


「始まったのか?」

「そんな感じです。最初に測量した島の岩が、昨日に比べて爪の長さぐらいに盛り上がってました」


「魚もあの状態じゃあ、近づかんだろうな。まるでお湯を沸かしてるみたいだぞ」


 この辺りまで遠ざかるとたまに泡が浮かんでくるぐらいだが、ロウソク岩のある島の東ではまるで海面がに立っている感じに見える。

 あの幻影で見た光景と同じだ。


「これでは、調査もできませんね。食料はまだありますから、しばらく滞在して状況を見ることにします」

「なら、俺達は氏族の島に帰って状況を伝えよう。少し船を寄せるぞ。食料を渡しておく」


 カタマランが近づくと、船尾の甲板からカルダスさんがカゴを渡してくれた。果物が沢山入っているけど、こんなに貰っていいのかな?


「俺達は途中の島で手に入れられるからな。ナギサも無理をせずに帰ってくるんだぞ!」

「5日は滞在するつもりです。長くとも10日にならないようにします」


 俺の返事を聞いて、カルダスさんのカタマランは大きく回頭すると西に向かって進んでいった。

 昼夜兼行で進むんじゃないかな?

 

 カタマランの姿が島に隠れたところで、再び東に目を向ける。

 双眼鏡を使って眺めていると、測量の目標にしていた岩のいくつかが陸上に上がっているのが見えた。

 あれは、ロウソク岩のある島の東の島だ。あの辺りの地形が1m以上盛り上がったということになるんだろうか?

 

「タツミちゃん。もう少し東に船を進められないかな? 出来れば、最初に測量を始めた島の近くが良いんだけど」

「あの辺りなら、そんなに沸騰していないみたいにゃ。でも直ぐに逃げ出せるように後進して進むにゃ!」


 バックさせるってことか? 確かにその方が良いんだけど操船が難しくないのかな。

 ゆっくりとトリマランがバックで進んでいく。

 そもそもバックさせることはあまりないから、結構揺れるんだよね。

 歩くぐらいの速度で進んでいるから、目標地点に達するまでにはだいぶ時間が過ぎてしまった。


 タツミちゃんが船を停めた場所は、測量を始めた島のほとんど真南だ。

 島から300mは離れているから、急に島が盛り上がっても逃げる時間はあるだろう。

 組紐に夜釣り用の小石を結び、1FM(30cm)ごとに別の紐を結び付ける。10m近い簡単な水深測定器具ができたところで、甲板から海底に下ろした。

 船尾と船首、それに舷側で測ると、およそ16FM(4.8m)という数字だ。トリマランは水深が1.5mあれば船底に接触しないから現状では問題ないってことになる。

 夕暮れ前に再度測ってみよう。


「沸騰している場所が広がってるように見えるにゃ。最初は向こうの島から東だったにゃ。今はあの島の南にまで広がってるにゃ」

「まだ距離があるね。この島の半分ぐらいにまで広がるようなら、西に移動しよう。変化がなくても夕暮れ前には西に島1つ離れたほうが良いだろうね」


 タツミちゃんとエメルちゃんの、どちらか1人が常に操船櫓で東を見ている。

 いつでも西に移動できる状態だから、少しは安心できるな。

 船尾に三脚を立てて測量器具を装着する。

 小さな望遠鏡が付いているし、仰角目盛りがあるか船の揺れで誤差はあるけど、島が盛り上がっていく様子が分かるだろうとたまに覗き込んでいるんだが、船の揺れの方が大きいようだな。

 盛り上がっているのは間違いなさそうだが、それほど大きくはないようだ。


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