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P-102 3度目の調査はカルダスさん達と


 乾季の終わりの満月は、リードル漁がおこなわれる。

 氏族総出に近い漁だが、漁がおこなわれる島がそれほど大きくないから、薪を途中の島で伐採して運ぶんだよなぁ。

 同じ島からいつでも採取するわけではないから、ある程度資源の保護を考えているに違いない。

 

 3日間の漁を終えて、上位魔石を4個、中位魔石を6個、低位魔石を7個手に入れた。

 島に戻ってタツミちゃん達がセリに出掛ける時に、魔石を少し残して欲しいと言ったら、上位と中位を半分ずつ残すと言ってくれた。

 理由を言わなかったけど、なんとなく雰囲気で分かってくれたのかもしれない。


 次のリードル漁に備えて銛を研いでいると、バゼルさんがカルダスさんを連れてやってきた。

 目的は、南東海域の調査に違いない。

 2人を甲板に招き入れると、銛を片付けてココナッツ酒を作り始める。


「帰りにも銛を研いでいたが、また研いでるのか?」

「いくら研いでも、研ぎすぎということはないでしょう。雨季が始まりますから、良く研いで油を引いておかないと錆びてしまいますから」


「若い連中に聞かせてやりたい話だな。連中なら、その時はまた研げばいいなどと思っているに違ぇねぇ」


 豪快に笑いだした2人に、とりあえずココナッツ酒を渡しておく。

 たっぷりと注いだけど、俺のカップには半分ほどだ。この2人に付き合ったら明日はハンモックから出られそうもないからなぁ。


「それで、何時出掛けるんだ? 今度は俺の番だが、バゼル達と出掛けてから3か月は過ぎている。異変が大きければ氏族に直ぐ戻れるように2隻で向かいたいんだが?」


 確かに、海中の泡が増えていたからなぁ。その可能性も考える必要がありそうだ。

 幻影で見た限りでは他の海域への影響は無いように思えるけど、念には念を入れる必要があるだろう。


「そうですね。そこまでの心配はしていませんでしたが、カルダスさんの言われる通りだと思います。

 片道6日で調査に4日、都合16日分の食料と水が必要です。

 明日は準備ということで、明後日の朝に出掛けることで良いでしょうか?」


「食料は少し余分に用意しておいた方が良さそうだな。せっかく遠方に出掛けるのだ。帰りに漁をしない手はないからな」

「小さな漁場が結構あるぞ。1日漁をすれば銀貨1枚にはなるはずだ」

「欲はかかねぇよ。リードル漁で中位魔石をだいぶ手に入れたからな。カタマランを交換するのもまだ先だ」


 低位魔石を1個売れ銀貨数枚になる。

 氏族の将来を思えば、1か月程度漁をしなくとも構わないということなんだろうな。


 ココナッツ酒を飲み終えると、2人が帰っていった。バゼルさんと一緒にそのまま桟橋を浜に向かって歩いて行ったから、今度は長老のところに行くのかもしれない。

 2人を見送ったところで、再び銛を研ぐ。

 とりあえず最後までやっておこう。


「次は明後日にゃ! 食料を買い込んでくるにゃ」

 

 昼過ぎにトーレさん達と一緒に戻ってきたタツミちゃん達が、今度はカゴを背負って商船に向かった。

 今回のセリに参加した商船は4隻のようだ。果たしてタツミちゃん達はどの商船に向かうんだろう。

 食料の買い出しも結構荷物になるから手伝いたいんだが、いつも断られているんだよなぁ。

 確かに男性がカゴを背負っているところはあまり見ない。

 炭を買い付けに行くときには小さなカゴを背負っていくから、小母さん達にいつも不思議そうな顔をして見られてるんだよなぁ。

 他の船は炭をまとめ買いしないのかな?

 今夜にでも聞いてみよう。


 銛の研ぎが終わったところで、オカズ用の竿を取り出す。

 タツミちゃん達が帰るまでには数匹釣れるだろう。

 一服しながら、夕暮れ間近な海を眺めて当たりを待つ。


「とりあえず買い込んできたにゃ。明日も出掛けて来るにゃ!」

「ご苦労様。結構重かったんじゃないか?」


「とりあえず10日分にゃ。明日6日分を買ってくるにゃ。船底にまだ残っているから、それで十分にゃ」


 背負いカゴを持って屋形の中に入っていったけど問題は水だな。

 明日は頑張って運ぶとするか。

 トリマランの水瓶にたっぷりと組んでおかないといけないし、最後は水汲み用のカメにまでいれておかないといけない。

 今回は雨季だから、少しは豪雨の恩恵に与れるだろうが、計画段階での運任せは問題だ。


 トーレさん達がやってきたところで、夕食造りが始まった。

 少し小さなカマルだけど、10匹近い数だからトーレさんが笑みを浮かべてくれた。

 俺としては、空揚げに期待したいところなんだよね。

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                ・

 リードル漁から島に帰って3日目の朝。

 カルダスさんのカタマランと一緒に島を出発した。

 西に雲が見えるのが気になるところだ。タツミちゃん達がたまに操船櫓から外に出て西を見ているのは、豪雨がいつごろ来るかと心配しているからなんだろう。

 雨が来れば船足を遅くすることはカルダスさんと合意ができている。

 俺達の右手を走るカタマランの甲板でも、カルダスさんがたまに空を見上げているようだ。

 

 昼過ぎに豪雨がやってきた。船足が途端に遅くなる。

 周囲の景色が見えない状況下でも、磁石で方向を抑えればそれなりに進めるようだ。

 とはいっても、自転車並みの速度に落としている。

 タープに降る雨を桶に溜めているけど、すぐに満杯になってしまった。

 やはり、島で水を得る手段としては豪雨が一番だろう。

 それを考えると、先遣隊が島に向かう時期は乾季の終わりが一番に違いない。

 リードル漁を終えてからなら、案外飲料水に困ることはないんじゃないかな。


 案の定、昼過ぎになって豪雨が襲ってきた。

 タープをその前に船尾まで張り出しておいたから、とりあえず濡れることはない。

 右手を並走していたカルダスさんのカタマランがどうにか見えるぐらいだ。

 船足が遅くなるのは仕方がない。出来れば停船したいところだけど速足程度の速さで南東に向かっている。


「あまり無理をしないでくれよ!」

「この辺りにサンゴは突き出ていないにゃ。たまに島が見えるからだいじょうぶにゃ」


 操船櫓に声を掛けたら、エメルちゃんが大声で答えてくれた。

 いつの間にか立派な航海士になっていたみたいだな。自分達がどのあたりを進んでいるのか、しっかりと把握しているみたいだ。


 豪雨がぴたりと止むと、夕暮れが迫っている。

 タツミちゃんが操船櫓から降りてきて、夕食の準備を始めた。

 トリマランは、豪雨の遅れを取り戻すように速度を上げると、ひたすら南東に向かっている。

 このまま夜遅くまで走らせるのだろうか。


 夕食時にも船を停めることなく、走らせている。

 小さな島の入り江に投錨したのは、俺の時計で10時を回ったころだった。


「だいぶ走らせたが、途中の豪雨を考えれば仕方がねぇ所だ。遅れているわけじゃねえだろうな?」

「タツミちゃんの話では、このまま進めば6日は掛からないと言ってましたよ。雨季ですからねぇ。豪雨次第というところが問題です」


「気にするな。明日は日の出ゴロで良いんだな?」

「そのころに出発できるよう頑張ります!」


 カルダスさんも、俺が朝早く起きられないことを知っているに違いない。

 大声で笑っているぐらいだからなぁ。

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 ロウソク岩を持つ島が見えてきたのは、5日目の夕暮れ時だった。

 夜遅くまで船を走らせたから、1日短縮できた感じだな。途中2回ほど、豪雨に見舞われたことを考えれば上出来だろう。


 あまり近づかずに島1つ離れた場所で投錨すると、カルダスさんがカタマランを使づけてきた。

 ロープを投げてきたので急いで船尾に結び付け、船首に向かう。

 船首で再びロープを結べば、船尾の甲板同士で行き来できる。すぐにカルダスさんが乗り込んできた。

 エメルちゃんが久方ぶりに母さんに会いに行くのかな? 舷側をぴょんと飛び越えていく。

 

「確かにロウソクの形をしているなぁ。それで、問題の海域はこの東ってことか?」

「すでに、問題の海域に入っています……」


 地図を取り出して現在位置を教えると、カルダスさんが頷いている。


「確かに投錨時に手ごたえが岩だったな。この下には魚がいねぇっとことか?」

「バゼルさんの調査ではそうでした。およそ島3つ分に魚がいません。この海域が広がっているかどうかをカルダスさんに確認していただきたいんですが」


「そのために来たんだからな。任せておけ。ナギサは、測量ってことだったな?」

「島の岩にいくつか目印を付けてあります。その目印間の距離、高さに変化があるかないかを確認するつもりです」


 調査は3日間だ。

 かなり変化があったかと思っていたんだが、今のところは問題ないみたいだな。

 カルダスさんの嫁さん達と一緒になってタツミちゃん達が夕食を作り始めた。

 こっちの方が便利だと、ココナッツ酒のカップを渡されてカルダスさんの船追い払われてしまったが、タツミちゃん達が笑い声を上げながら夕食の準備をしているのを見ると俺まで嬉しくなってくるな。


「後で、同じものを作れと言われそうだなぁ……」

「甲板が大きいからできたようなものですよ。カマドの間隔が少し広いだけなんですけどねぇ」


「余裕って奴だろう。案外大事なんだぞ。漁にだって余裕は必要だ。ギリギリ間で頑張るような奴は長続きはしねぇからな。余裕があれば周囲も良く見えるし、何度でも潜れる。結果的に漁果が増えるってことだ」


 なるほどねぇ。さすがは筆頭漁師だけのことはある。

 その格言だって、自分の経験から出た言葉に違いない。ガリムさんは効いたことがあるのかな? 今度会ったら聞いてみよう。


 船を停めているから、これまでよりは豪勢な料理甲板に並んでいる。ココナッツ酒を飲みながら頂いたけど、この酒は飲み口が良いのが問題だ。

 翌日起きたのは、だいぶ日が昇ってからだったからねぇ。


「カルダスさん達は出掛けたにゃ。夕暮れにはここに戻ってくると言ってたにゃ」

「それじゃあ、俺達もはじめるか。朝食は蒸したバナナで十分だよ」


 いくらエスニック的な料理とはいえ、二日酔いが残っている感じだ。軽めの食事とコーヒーが一番だろう。

 苦いコーヒーで少し頭がすっきりしたところで、【1-1】に向かうことにした。


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