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P-101 水を得る手段は


 乾季の漁は日中の暑さに参ってしまうけど、豪雨があまりやってこないから嬉しくなる。たまにやっては来るんだけど、それこそ1時間ほどで止んでしまうからね。

 乾季の漁は素潜り漁が主流だ。

 トリマランを停めて、俺とタツミちゃん達の2人で銛を使う。ザバンを使わずにカヌーをエメルちゃんと交代で獲物を取り込んでくれるんだけど、暑くなったら直ぐに海に入れるからカヌーを使ってるんだろう。


 そんな素潜り漁も昼過ぎには終わる。

 体を休めるということなんだが、ネコ族の昼寝の習慣もあるようだ。

 2人が寝ている間に、のんびりと釣りをして過ごす。

 3時間ほどの昼寝を終えると、タツミちゃん達が夕食の支度を始める。

 1日で一番手の込んだ料理は夕食になる。

 炊き込みご飯や、リゾット風のご飯にオカズは未成熟の果物を使った一夜漬けなんだけど、スパイシーな魚のスープにはよく合うんだよなぁ。

 たまに銛を失敗した魚やオカズ釣りで得た焼き魚が出るけど、今日は俺が釣ったカマルのから揚げかもしれない。


「ここも良い漁場にゃ。私とエメルちゃんで9匹を突いたにゃ」

「でもブラドが多かったにゃ。バルタスが欲しかったにゃ」


 食事をしながら、漁の話で盛り上がる。

 あまり高望みをしてもねぇ……。船団の他の船と漁果に大差が出るのも考えものだ。何事もほどほどが良いと、親父も言ってたからなぁ。


 食事が終わると、今度は夜釣りだ。

 3人で竿を出して、獲物に一喜一憂する。

 深夜に竿を畳み、タツミちゃん達が魚を捌いてザルに並べると、俺が屋形の屋根に持ち上げた。

 2枚のザルが屋根から落ちないように紐で固定したところで、甲板で寝る前のワインを楽しむ。

 カップ1杯だけのワインだけど、今日1日が無事に終わったことを龍神に祈る意味もあるらしい。

 最初に、ワインを少し海に落とすのは、龍神への感謝ということになるんだろうな。

 

 単調な暮らしだけど、日々喜怒哀楽がある。

 これがずっと続けば良いんだけど……。

                ・

                ・

                ・

 3日間の漁を終えて島に帰ると、商船が桟橋に停泊していた。

 タツミちゃん達が漁果をカゴに入れて、ギョキョウへと向かう。


「欲しいものがあるかにゃ? タバコとワインは買ってくるにゃ。蒸留酒はまだ1本残ってるにゃ」

「なら、特にないな。そうだ! お菓子を買ってきたら?」


 俺の言葉に笑みを浮かべると、2人で桟橋を歩いて行った。

 さて、特にやることがないんだよなぁ。銛は帰りの船上でしっかりと研いであるし、一夜干しをいくつか残してあるみたいだから、オカズ釣りはしなくても良さそうだ。

 

 タープの陰にベンチを移動して、のんびりとパイプを楽しむ。

 ネコ族なら昼寝をするんだろうけど、生憎と俺にはそんな習慣もないからなぁ。

 飲料水の確保の方法でも考えることにするか……。


 メモ帳と鉛筆を屋形から持ってくると、ココナッツを割ってお茶代わりに飲みながら、考えを少しずつまとめることにした。

 

 もとは島なんだから、将来的には森を作って地下水を使うこともできるだろう。

 だけど、最初は井戸を掘っても期待はできないだろうな。

 とは言っても、試掘をすることは無駄にはならない。最初は全くでなくても、10年後には水が出る可能性だってあるはずだ。

 観察井戸ということになるんだろうか? 10mは掘りたいけど、井戸掘りなんてやったことが無いんだよなぁ。


 となると、水を得る手段は、あの豪雨が一番になる。

 水場が無くて雨水を水瓶に集めて飲料水にする話は、昔の島暮らしの話でよく聞くからね。

 俺達だって、漁の間は船の水瓶を使っているぐらいだ。

 10ℓぐらいの水瓶1つで1家族が1日暮らせるとトーレさん達が言ってたけど、家族構成にもよるんじゃないかな? 俺達3人なら2日は持つからね。

 とは言っても、一葉の目安にはなる。

 シドラ氏族の世帯数は150には満たないだろう。将来を考えて2倍の300家族を想定すればいいか。

 その場合の1日の水の必要量は、3000ℓ(3㎥)ということになりそうだ。

 乾季の豪雨の間隔は結構長いけど、20日間全く降らないということはなかったはずだ。

 3㎥掛ける20日で、60㎥の貯水量があるなら暮らしが成り立つってことになるのかな?

 貯水池の容量は60㎥ならば、横6m長さ10m深さ1mの貯水池を作れば良いってことになりそうだな。

 実際には余裕代を取ることになるからもう少し大きくなるだろうが、一様の目安にはなりそうだ。

 この貯水池に効果的に雨水を集める方法は、豪雨の時にだけ流れる枯れ沢の水をろ過するか、トリマランのタープを使った雨水の収集ということになるだろう。

 他には、他の島から水を運ぶという手もあるけど現実的じゃなさそうだ。

 

 貯水池の大きさは、これで良いだろう。

 課題は、貯水池への雨水の供給方法になりそうだ。それとあまり供給が多ければ溢れてしまうから、その排水方法も考える必要がありそうだな。

 

 メモ帳に飲料水の項目を作り、貯水池の大きさを記載した。

 次に課題を記載する。雨水の供給方法とその対応だな。

 次の課題は排水だ。対応は海までの溝を掘ることになるのかな?


 さて、貯水池ができたならそこからろ過器を通して供給することになる。

 ろ過器の構造は、民族博物館で見た渋水の濾過槽で良いんじゃないかな。

 砂と炭の層を木枠の水槽に詰めたような構造だったのを覚えている。

 基本は同じで良いだろうけど、汚れと匂いは取れても微生物はろ過できないから、出てきた水を沸騰させないといけないだろう。まあ、これはネコ族が生水を飲む習慣がないから問題は無さそうだ。

 原理はこれで良いとして……、課題となるのは濾過速度になるのかな?

 それに貯水池から濾過槽に送るポンプなんてないからなぁ。

 水車は使えないし、方法としては風車ぐらいなものだ。海風は吹くけど、嵐は今まで経験したことがない。

 島に吹く風で風車が回ればアルキメデスポンプが使えるんだが……。

 待てよ? 魔道機関が使えるかもしれないな。


 別のメモ帳を取り出して関連技術とノートの上に記載する。

 ポンプの項目を作って、「アルキメデスのポンプ」を簡単な図と利点、欠点を纏めておく。

 図を描いて分かったことだが、これって揚程があまり無いんじゃないか?

 水車の方が直径を大きく取ればそれだけ揚程を稼げる感じがするな。

 さらに鎖に水瓶を結んでベルトコンベアみたいな形にすれば10m以上の高さに水を運べそうだ。

 

 動力源はロクロの魔道機関が使えそうだ。馬力が足りなければ減速歯車で上げれば良い。


 降水を集める方法は現地を見て改良しよう。最悪は大きなタープをいくつも使うことになりそうだけどね。

 濾過器に供給する水量を調節する中間貯槽もいるんじゃないかな?

 濾過器も風呂桶のような形になりそうだから、同じものをその前段に付ければ良いか。

 簡易フィルターを付ければ、濾過器の清掃間隔を伸ばせるかもしれない。


「何を一生懸命考えてるんだ?」


 問い掛けに振りかえると、ザネリさんが友人を連れて桟橋に立っていた。

 2人を招き入れて、ココナッツのカップにお茶を注いで渡す。


「水場が無い島で、どうやって水を得るかを考えてたんです」

「例の島だな。全く恐れ入る。ケントス、ナギサはそんな奴なんだ」


「俺なら最初から別な島から運ぶことを考えるな。だが、ナギサがそんなことを考えるとなると、噂は噂ではないってことになるぞ」

「例の海域については、カルダスさん達とリードル漁の後に出掛けてみるつもりですが、変化は起きているようです。

 もし、幻影の通りなら大きな島ができるんですが、直ぐに入植はできませんよ。入植には何が必要かをまとめておかないと、直ぐに出掛けようなんてことになりかねませんから」


「それで飲料水ってことか! まあ、確かに必要だな。周辺の島にあれば良いんだが、ある程度島が大きくないと氏族全員が使うことができないからな」

「少なくともこの島並ってことだろう? だが大きな島ができたなら、その島の何処かに水場ができるってことじゃないのか?」


 基本的にはそうなんだろうけどねぇ……。それには長い年月が必要だ。

 2人に、島になぜ水場ができるのかを説明することになってしまった。

 雨が島の森に貯えられ地下水となって湧き出すことを教えたんだけど、理解できただろうか?


「森が、水を貯えるのか! この島で森を爺さん達が手入れしているのはそれが理由か」

「アオイ様が島の森を大切にせよと教えたと聞いたぞ。水場を維持するためだったということか!」

 

 夫婦で色々と教えを広めてくれたんだな。

 その下地があるから、俺のつたない説明でも納得してくれたに違いない。


「確かいくつかの島が1つになると言ってたな。となると、島の頂付近だけに緑があることになるぞ。森をつくることも視野の内か?」

「水場に森、畑と続いていく形ですね。それに桟橋だって作らねばなりません。通常なら入り江の砂浜になるんでしょうが、海底が盛り上がる感じですからねぇ。砂浜ではなく岩礁が周囲に広がっていることになりかねませんよ」

 

「島中が盛り上がっている感じだが、色々とありそうだな。ナギサも1人で考え込まないで、俺達にできそうな事は言ってくれよ」

「ありがとうございます。幻影を信じるなら、数年は掛からないでしょう。南東方向に向かう時は、木材を切り出せる島や若木を採取できそうな島を探しといてくれませんか? その時になって探すとなると面倒な気がしますから」


 俺の言葉に2人が顔を見合わせて頷いている。


「かなりの量が必要だぞ。桟橋も1つと言うことにはならないからな。板材は商船から購入することになるんだろうが……」

「先ずは200本というところだろう。森作りはトウハ氏族が周辺の島にまで拡大していると聞いた。トウハ氏族からの購入も可能じゃないか?」


 資金も必要になりそうだ。

 次のリードル漁を頑張ることにしよう。

 上級魔石が数個得られるんだから、中級魔石を全て資金に充てても問題はないはずだ。



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