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P-100 良いことばかりとは限らない


 カルダスさんがやってくると、それを知ったバゼルさんもやってきた。

 タツミちゃんがココナッツ酒を作り、俺達にカップとポットを渡してくれた。

 直ぐにエメルちゃんと桟橋に向かったから、友人のところに遊びに行ったんだろう。せっかく親父さんがやってきたんだけど、軽く頭を下げただけだからカルダスさんががっかりしていた。


「長老から話は聞いたが、そんなこともあるんだな。島4つ分ほどの海域に魚がいないなんて信じられん話だ」

「次はカルダスが向かってくれ。一応、ナギサが作った地図に海域を書き込んである。魚がいない海域が広がるようでは問題だぞ」


「それほど心配はねぇだろうよ。ナディ様がナギサの幻影に現れたなら、それは俺達への祝福だろうよ。危険であればナギサを追い払うんじゃねぇのか?」


 金色の龍は、じっと俺を見ていた気がする。

 追い払おうという意思は感じられなかったから、カルダスさんの言う通りかもしれない。


「島を替えるとなればなれば大事になる。この島を探してくれた先代達には申し訳ねぇが、確かに他の氏族の島と比べると小さいと長老が話してくれたよ」

「直ぐに、移住できるかが問題だぞ。ナギサはしばらく掛かるのでは、と考えているようだ」


 バゼルさんの言葉に、カルダスさんが俺に顔を向ける。

 ココナッツ酒を手に持って、何か不満でもあるのかと言っているような顔つきだ。


「大きな島になると思います。幻影では周辺の島を巻き込んで1つになるように盛り上がっていきましたからね。

 ですが直ぐに暮らすとなれば、いろいろと問題があります。

 先ずは水場の確保と桟橋の整備、それに、周辺の漁場を確認しなければなりません。

 そのうえで、交易をどうするかの問題もあります。

 食料を商会ギルドの商船に頼っている状況ですし、漁果を商船に運ぶ方法も考えないといけなくなります」


「確か南東に6日と言っていたな?」

「夜まで動かせば5日は掛からん。昼夜を問わず進めることで4日程度にはなるだろう。長距離だから半減にはならんだろうな」


 漁果をそのまま商船に積むのは無理だろう。やはり燻製を作ることになりそうだ。

 この島では漁果の半分以上が燻製になるらしいが、商船が桟橋にいるときには一夜干しをそのまま商船に運んでいる。


「全てを燻製にするとなると、燻製小屋は2つでは足りんかもしれんな。新たな島を商会ギルドに知られるのも癪な話だ」

「この島を取引専用として残すというのも考えねばなるまい。燻製の輸送船を作るのはそれほど無理な話ではないだろう。大型船団も輸送船を使って燻製を運んでいるからな」


「あれほど大型でなくとも十分だろうが、このトリマランほどはいるだろうな。甲板は小さくしてもかまわんだろう。廃業したての爺さん婆さん連中に頼めば喜んでやってくれるはずだ」


 2人でいろいろと相談を始めたが、島を替えることが前提での話だ。

 すでに移住は決まっている、ということなんだろうか?

 

「新たな島ができるのはそれほど先とも思えません。ですが、水場がなくともいじゅうするんですか?」

「ん? 大きな島なら水場はあるはずだ。それほど心配することか?」


 やはり、分かっていないようだな。

 少し詳しく説明する必要がありそうだ。

 2人に納得できるように、水場がどうして作られるかを小さい島と大きな島を例に話を始める。


「要するに、木々が茂った島なら水場があるってことか!」

「山の森の大きさで水量が決まるという話は、トウハ氏族の島に滝がある理由にもなるのだな。確かにあの島の山は大きいし一面に木々が茂っているからなぁ」


「アオイ様の長老時代に、山の木の伐採を制限したらしい。炭を作る木材でさえ、他の島から運んでくると聞いたことがあるぞ」

「アオイ様も知っていたということか……。となると、家や桟橋を作る木材も運ぶ必要があるし、俺達の手で森を作らねばならなくなりそうだ」


 滝がある島があるんだ。やはり降水量が半端じゃないからだろう。とはいっても銛の保水量が直ぐに増加することはないだろうから、やはり最初は貯水池を作ることになりそうだな。

                ・

                ・

                ・

 俺達が島に戻って来てから、4日目にザネリさん達の船団が帰ってきた。

 直ぐに俺達のところにやってきて、どんな状況なのかを問い掛けてくる。

 簡単な地図を取り出して話を始めると、一々頷いてくれるんだよなぁ。

 どんな風に納得したんだろうか? こっちが心配になってくる。


「そんな目で見るなよ。興味はあるけど、とりあえずは何もできないからなぁ。俺達にとっては、変化がここまで及ばなければそれで十分だ」

「でも、長老達は乗り気ですよ?」


「親父やカルダスさんまでだからなぁ。その辺りは長老に任せれば良いさ。だが、そんなに遠いとリードル漁が面倒になるな」

「ここからなら2日で到着しますが、あの島からだと早くて4日ですか……」


 シドラ氏族の最大の収入源であるリードル漁に支障が出ないとも限らない。

 通常の漁よりも倍の時間を掛けるんだからなぁ。カタマランが故障することもあるだろう。到着して3日だけの短い漁だ。故障船を曳航したら漁を逃すことにもなるんじゃないか?


「良いこと尽くめにはならないと思うよ。だけど、他の氏族の島に比べると俺達の島が小さいことは確かだ。まだ俺達氏族が小さいから問題にはならないんだろうけど、人が増えていくとなれば桟橋だって足らないからね」


 俺がシドラ氏族に迎えられてから4年が過ぎたけど、その間に桟橋が1つ増えたことは知っている。

 桟橋1つにカタマランが10隻近く繋がれるんだが、それだけ人口が増えたということになるんだろうな。

 浜を眺める……、新たな桟橋を作れるのはもう1つがやっとだろう。

 長老達が移住に乗り気なのは、そんな裏事情があるってことかな?


「それに、移住となれば先遣隊が組織されるはずだ。それに選ばれるよう親父達に認められないとね」

「その間、漁ができなくなりますよ?」


「リードル漁を頑張ることにするさ。魔石を数個余分に持てるなら、半年ぐらいは漁に出なくても暮らせるだろう?」

「そうですね。俺も次の船を1年遅らせることで、資金を貯めこんでおきます」


 それで暮らしは何とかできるだろうが、先遣隊ともなれば10家族以上が漁を離れることになる。

 その間の漁果をどうするかも問題になりそうだ。

 ニライカナイから大陸に運ばれる漁果の半数以上が燻製製品らしい。それは魔道機関で動くトロッコに乗せられて、内陸の奥にまで届けられていると聞いたことがある。

 大陸の民衆の多くが肉を食べられるわけではない。普段に食べられるのは安い魚になるらしいから、量が減るのはちょっと問題かもしれないな。


「心配そうな顔をしてるが、シドラ氏族の半数が漁を休んでも何ら問題はないぞ。ニライカナイ全体で見ればそれほど大きな変化にならないからね」

「やる気が削がれる話ですけど、そうなんですか?」


 ザネリさんがパイプを楽しみながら話してくれたのは、アオイさん達の時代に起こった大陸の王国からの難題をどうやって解決したかの話だった。


 ニライカナイに漁果の2割増加を要求してきたらしい。

 そこで問題になったのは、それまで各氏族とも自分達の漁獲高を知らなかったということなんだから、俺も驚いたけど当時のアオイさん達はもっと驚いたに違いない。

 アオイさん達が色々と考えて、現在のギョキョウの原型を作ったのもそのときらしい。


「全ての漁果をギョキョウを通して商船に運ぶ。これで氏族の年間の漁果が分かるだろう? 年間の漁獲高を計算して、その上で2割増しにするために大陸の王国からカタマランを20隻供与してもらうだけの交渉をしたんだから、ニライカナイでアオイ様を讃えない者はいないよ。

 その時のカタマランは全てサイカ氏族に渡したんだ。

 サイカ氏族は、それまで小さな船で小魚を獲っていたんだが、それからは俺達と同じように漁をするようになったんだ。もっとも、素潜り漁はやらないみたいだけどね」


 ニライカナイのカタマランの総数は500隻を超えるそうだ。それなら、10隻が減ったとしても、総漁獲高に大きな変化はないだろうな。

 アオイさんとナツミさんが向こうの世界から消えたのは2人が高校生の時だったらしい。

 俺も同じ何だが、2人と比べるとそこまでこの世界に寄与できるとは思えないんだよなぁ。

 単なるゲーム好きの高校生だし、学校だって普通科だ。

 部活は陸上部で海には関係ないんだからね。


「ところで、明後日には出発するぞ。今度は同行できるんだろうね?」

「大丈夫です。既に銛は研いでありますから、ザネリさんに迫りたいと思ってますよ」


 俺の頭を焚かんでわしゃわしゃと髪を乱暴に撫でながら、笑みを浮かべている。

 まだまだ負けないってことかな?

 大きさでは勝ってるんだけど、数では負けてるんだよなぁ。

 良い漁師は、型を揃えられると伯父さんが言ってたんだが、俺の場合はまだまだ不揃いだ。その点、ザネリさんの獲物は体長がほとんど一緒なのに驚いたことがある。

 その話をバゼルさんにしたら、笑みを浮かべてポンと肩を叩かれた。

 やはり、良い漁師と言うのはどこも同じ評価を得られるってことなんだろう。


 トリマランにたっぷりと水を運んだ翌日。

 久方の漁へと出発する。

 黄色の旗を帆柱に掲げて、入り江の沖に集合する。

 次々と集まってくるカタマランを見ると、笑みが浮かんできた。

 俺も、この世界の暮らしに染まってきたのかな?

 

「ザネリさんのカタマランが動き出したにゃ!」


 操船櫓からエメルちゃんが顔を出して教えてくれた。

 麦わら帽子に丸いサングラス。おもしろい格好だと思うけど、日差しが強いし海面の乱反射は目を傷めるからね。

 どの船の嫁さん達も同じ格好なんだよなぁ。間違えると困るからタツミちゃんとエメルちゃんの帽子には白いリボンを巻いたんだけど、他の嫁さん達も真似を始めたから、別の方法を考えないといけなくなってしまった。

 女性だからねぇ。おしゃれには敏感なのかもしれないな。


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