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P-098 金色の龍神はナディさん?


 次の島に【2-1】と【2-2】を作り、この島の測量目安とした2つの岩との角度を測定する。2つの測量点間の距離と角度が分かれば、最初の島との正確な距離が分かるはずだ。

 まあ、初心者のやることだから誤差は伴うだろうけどね。


 日が傾く前に、ロウソク岩のある島に到着する。

 島の入り江は岩礁がゴロゴロかと思っていたんだが、案に反して小さな砂浜を作っていた。

 以前は大きく砂浜が広がっていたのかもしれないけど、トーレさん達が夕食を作っている間に、測量点を作ることにした。

 この島の目標物は、浜の西に海面から飛び出した岩と、ロウソク岩の頂だ。

【3-1】と【3-2】を作って、岩との方位と求める。ロウソク岩は高角も測っておいた。

 最後に、東に見える大きな島の目印を探す。

 中腹に見える岩と浜辺の岩、南の海に顔を出した岩の3か所に決めて、それぞれ測定を行うと、そろそろ夕暮れになってくる。

 

 トリマランに戻って夕食を取り、ココナッツ酒を飲みながら、測定データを図番に挟んだ紙に落としていく。

 計算は後からすることにして、各島の測定ポイント間の角度を書き込んでいく。


「なんとも面倒な仕事だな。それで何が分かるんだ?」

「計算すれば、この位置関係の距離が分かります。特徴のある岩については、その高さを角度で測ってきましたから、どれぐらいの高さにあるのかもわかりますよ」


「かつての津波では、5つの氏族に多大な被害が出たそうだ。シドラ氏族はその後に作られた氏族だから、氏族の島で受けてはいない。これぐらいの高さなら大丈夫だろうと島の奥にログハウスを建ててはいるのだが、そこが安全かどうかが分からん。

 長老のログハウスが浜からどれだけの高さなのか調べられるか?


「島の浜辺に、こことおなじような基準点を作って、何か所か測定することで調べられるでしょう。この際だから、主要な建物近くを測定しておいた方が良さそうですね」

「津波の高さは、トウハ氏族の島で15FM(4.5m)ほどあったらしい。アオイ様達がその後の復旧を手早く済ませたと言われているが、その中には次の被害対策が含まれていたそうだ。

 他の島も、その時の津波の高さを基準にしてはいるのだが、生憎とシドラ氏族は新興氏族だからなぁ」「


 とりあえず高い場所という考えは持っていたに違いない。

 だが、その場所で良いのか? という疑問に誰もが答えられないんだから困ったものだ。100年以上前の話だから、津波の痕跡などはすでに豪雨が洗い流してしまっただろう。

 海底のサンゴの残骸が当時の被害を教えてはくれるんだが、そんな残骸から新たなサンゴが芽吹いているからなぁ……。

 今ではよくよく見ないと、分からなくなりつつあるんだよね。


 翌日は、南側に向かってトリマランを進める。2つ目の島に前日と同じようにザバンで上陸し、再び測量を始める。

 面倒だけど、タツミちゃん達が器用にタガネで砂浜に顔を出した岩の表面に印をつけてくれる。

 2か所の測定を行い、次の島の目印を探す。


「何もないにゃ。西の島の東端に岩が突き出してるにゃ。それとロウソク岩が見えるから、あれにするにゃ!」

「強いていえば、あの小さな岩かな? 1つも無いと困るかもしれないから、その3つを測っておこう」


 石の杭でも作っておくべきだったかな。

 まあ、何とかなるだろう。たくさん測定しておけば、相互に補完することだってできるだろうからね。


 どうにか終わったところで、やや東に見える島へとザバンで渡ることにした。

 エメルちゃんもカヌーを漕いで頑張ってくれている。


「やはり泡が前より多いにゃ。この辺りは特に多く感じるにゃ」


 ちょっと不安そうな顔をしてパドルを漕いでいたタツミちゃんが呟いた。

 確かに、あちこちでポコポコと泡が昇ってきている。

 

「まだ大丈夫だよ。早めに測ってバゼルさん達が帰るのを待とう」

「明日は、北かにゃ?」

「東もあるよ。少なくとも明後日まではここにいないといけないだろうね」


 バゼルさん達と合流したところで、北の大きな島に上陸した。

 急いで基準点を作って、他の島からの目標ポイントとしていた岩との角度を測る。

 図番いくつもの線が引かれたから、かなり位置関係の精度が上がったんじゃないかな。


 夕暮れにはまだ間があるから、島の北に向かってトリマランを進めることにした。

 島2つ離れた場所に投錨すると、すぐにバゼルさんが海に飛び込む。

 漁師だからなぁ、海の様子が気になって仕方がないのだろう。

 

 何度か息継ぎで海面に顔を出していたけど、納得した様子でトリマランへと戻ってきた。


「やはり魚はいないようだな。明日は北に向かって進むしかなさそうだ」

「ここで測量をしたらバゼルさんの帰りを待ってます。さすがに次の島は距離がありそうですからね」

「それほど時間は掛かるまい。ついでに何匹か突いてくるぞ」


 昨夜は燻製の魚だったからなぁ。やはり新鮮な魚が一番だ。

 トーレさん達も笑みを浮かべているのは、燻製は今夜で最後にしたいということなんだろう。


 その夜のことだ。

 眠れないので、甲板でココナッツ酒の残りを飲んでいると、南の海がぼんやりと光っているのに気が付いた。

 夜光虫の集団なんだろうか?

 それなら青白い光なんだが、あの光は暖色という感じがするんだが……。

 

 光を見続けていると気だった。

 突然頭痛に襲われて頭を抱えて甲板に倒れていく……。

               ・

               ・

               ・

 ふと目が覚めると、抜けるような碧空に思わず目を細める。

 朝なのか? それにしては甲板に誰もいないんだよなぁ……。

 どの辺りの海だろうと、家形の屋根に上るとタツミちゃん達が俺に気が付いて手招きしながら東に腕を伸ばしている。

 何か見付けたのかな?


 あの島だ……。周囲に目を向けると、幻影で見た泡立つ海ではなく、穏やかな海が広がっている。

 問題の島は、東の視界を全て塞ぐほど大きくなっていた。

 いくつかの頂が、かつての島なんだろう。そこだけ緑が茂っている。だが島のほとんどは白いかつての砂浜と黒い海底の岩石で覆われた感じだ。


 突然視界がブレ始めた。

 体がふらつくから、慌てて操船櫓の柱に手を掛ける。

 

 ん! タツミちゃんが抱いているのは子供じゃないのか?

 さっきは何も持っていなかったけど……。

 視線を少し上げると、もっと驚く光景が映っていた。

 1隻のカタマランが島に停泊しているし、黒々としていた島に緑が生まれている。

 岩の割れ目に種が入って芽吹いたのかもしれない。

 だが、その緑は少しずつ広がり、そして深まるはずだ。

 それにしては、小さなカタマランだ。帆柱があるし帆桁も付いている。

 あれはヨットじゃないのか?

 小さな家形が付いてるけど、あれで長距離の航海をするのは問題だ。

 既に新たな住民が住み始めたのかな?

 

 タツミちゃんが笑みを浮かべて俺に近付くと、抱いていた子供を預けてくれた。 

 小さいし、まだ軽い。生まれたばかりなんだろうか?

 ゆっくりと島に向かってトリマランが進み始めた時だ。

 視線を感じて南に視線を向けると、金色に光る龍の姿が見えた……。

               ・

               ・

               ・

「……だいじょうぶか!」


 目を開けると、心配そうに覗き込むバゼルさんやタツミちゃん達の顔があった。

 どうやら甲板で寝ているようだ。

 ゆっくりと体を起こして周囲を見ると、まだ夜中のようだな。

 ランプに照らされて、海が穏やかなうねりを見せてくれる。


「元々飲めないんだから、あまり量を飲むものではないぞ。タツミ達が心配していたからな」

「済みません。寝付けないので1杯飲んで寝ようとしてたんですが、一口だけですよ飲んだのは……。そうだ! あっちの海が暖かな光を放っていたんです。それをもっとよく見ようとしたら、突然頭痛に襲われて倒れたまでは覚えているんですが……」


 その後の不思議な幻影を皆に話すことにした。

 トーレさんが入れてくれたお茶を飲みながら、ゆっくりとその時の情景を思い出して説明する。


「何とも不思議な話だな。甲板の音に驚いて直ぐに飛び起きた。それからナギサが目を覚ますまでにそれほど時間は立っていないぞ」

「龍神様が見せてくれたに違いないにゃ。やはり新たな氏族ができるのかもしれないにゃ」


「子供はどっちかにゃ? それだけなら私かエメルちゃんか分からないにゃ」

「男女の区別ぐらいはして欲しかったにゃ。とりあえず準備は始めた方が良いのかもしれないにゃ」


 トーレさん達は島で見たカタマランに思いを馳せているし、タツミちゃん達はあの子の対応をどうするかで話し合っている。

 幻影だし、そこまで考えることも無いだろうと思うんだけどなぁ……。


「まだ北と東が残っている。早めに調査を終えて帰還した方が良さそうだな。オウミ氏族の聖痕の持ち主の言葉も気になるところだ。その後の話をしても良さそうに思えるな」

「呼び寄せるということですか?」


「俺達なら会うために、出掛けねばなるまい。だが知らせたならやってくるぞ。ナギサの背には聖姿があるのだからな」


 上位の印ってことなんだろうか?

 聖姿について、ネコ族の人達は余り話したがらないんだよなぁ。

 かつてこの世界に訪れたアオイさんとネコ族の女性の間に、聖姿を持った男子が生まれたらしい。


 その子が大きくなった時、不思議な娘を連れて漁から帰ってきたそうだ。

 言葉も分からなかったようだけど、男の子とナツミさんとは不思議に会話が成立していたということだ。

 2人の漁は、常に素潜りだったそうだ。

 まるで人魚のように、自由に海中を泳ぎ回り銛で魚を突いたらしい。

 そんな2人に子供が生まれることは無かった。

 だが、話はそこで終わる。

 その後の事は禁忌に関わるように誰もが口を閉ざしてしまう。

 最後に誰もが口に出す言葉は、


「2人が俺達を見守ってくれる。ネコ族はニライカナイで幸せに売らせるはずだ……」


 気になってしょうがないんだけど、その内に教えてくれるに違いない。

 俺だってシドラ氏族の一員なんだからね。


「金色の龍神か……。ナディ様に違いない。長老も喜ぶだろう」

「名前があるんですか?」


「そうだな……。ナギサに教えるものはいなかったか。お前が見たカタマランはトウハ氏族がかつて使っていたものだ。それを使っていつもとんでもない漁果を持って来る夫婦がかつていたのだ。

 アキロン様とナディ様。アキロン様はアオイ様のたった1人生まれた男子だったが……」


 その後しばらく続いた話は、俺も何度か聞いた話だった。

 あのヨットでアキロンさんは嫁さんを見付けてきたのか。それも小さなころから何度となく自分を呼ぶ声を頼りに探したというんだから驚きだな。

 

「常に大漁だったらしい。神亀の背に乗って漁をすることもできたらしいぞ。ナディ様が操船に不慣れな頃は、神亀がカタマランを背に乗せて運んでくれたらしい。

 当時のトウハ氏族は何度も神亀を目にできたということだな。

 不思議なことに、アキロン様は俺達と同じように年代を重ねて行ったが、ナディ様は何時も若い娘の姿を保っていたと言われている。

 ナツミ様が亡くなる前に、全ての氏族のカヌイの婆様達が集まったそうだ。

 そこで、ナツミ様は婆様達に遺言を1つ残したらしい。

『アキロンが亡くなる時に異変が起きるが、それはネコ族を利することはあっても害をなすことは無い。うろたえずに見守るように』とのことだったようだ。

 年月が過ぎ去り、アキロン様も漁ができなくなったある日のことだ。

 乾季だった季節に、突然黒雲が湧いて豪雨に襲われたらしい。

 直ぐに上がった豪雨に皆が屋形から出て見ると、号泣しながら誰かを抱いて桟橋を歩くナディ様の姿が見えたそうだ。

 桟橋の外れにやってくると、そのまま海に入ったが、不思議なことに砂浜を歩くようにナディ様は海面を歩いて行ったそうだ。

 突然海中に消えた姿を、皆が呆然と見守っていた時だ。

 龍神が姿を現して、トウハ氏族の連中に頷くような仕草をしたらしい。

 じっと浜や甲板から見守る連中を見ていると、海面を割るような勢いでもう1体の銀色の龍神が現れたということだ。

 2体の龍神は体を寄せ合いながらトウハ氏族の島を去ったらしい」


 金色の龍神はナディさんだったということか……。

 銀色のアキロンさんは一緒じゃなかったんだな。案外あの島のどこかで暮らしているのかもしれないね。


「トウハ氏族の暮らす島は、龍神の導きでカイト様が見つけた島だと言われている。我等シドラ氏族も、場合によっては住む島を変える必要があるかもしれんぞ」


 そこまで考える必要があるんだろうか?

 それに、少し遠すぎるようにも思えるんだよなぁ。

 半農半漁ができる島なら利用価値があるとは思うけど、直ぐにそれができるとも思えないんだよね。

 


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