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P-095 測量道具を手に入れた


「何だと! 異変の兆しがあるってことか?」

「少なくとも前回の時とは異なっていました。それよりも驚いたのは、その海域に全く魚がいないことです。何度も潜ってみたのですが小魚の姿さえ見かけませんでした」


「う~む……」と腕を組んでバゼルさんが考え込んでしまった。

 ニライカナイの海は豊穣の海だ。どこに潜っても魚がいる。

 全く魚がいない海域なんて、信じられないんだろうな。


「今夜の集まりで長老に話しておこう。場合によっては、次の機会に誰かを同行させることになるかもしれんな」

「その辺りは長老の裁可にお任せします。俺の船は大きいですから他の家族を乗せるのは問題ないと思います」


 泡立つ海域の大きさを確認すべきだったかもしれないな。簡単な距離を測る道具を作っておくか。三角関数の表があれば良いんだが、向こうから持ってきた時の荷物のあったかな?

 

「次に行くときは、魚のいない海域を確認することから始めねばなるまい。その場所だけなのか、それとも広がりつつあるのか……。俺達氏族だけに話は留まらんかもしれんぞ」

「ある程度限定されたものではないかと思っています。さすがに広範囲に広がるようではニライカナイの死活問題になるでしょう。それなら神亀がもっと違う行動を起こすのではないでしょうか? それに俺が見た幻影は、その場の光景だけでネコ族は俺達の船に乗る2人の妻の姿だけです」


 俺の言葉に、目を閉じてジッと考え込んでいる。

 たくさんある漁場の1つや2つに影響が出るかもしれないけど、全く漁ができなくなるほどの影響はないと思うんだけどなぁ……。

 もっとも、俺の希望的な考えであって、根拠があるわけではない。

 バゼルさんの場合は、俺とは正反対に物事を悪く考えてしまうんだろうか?

 トーレさん達のように、物事全てを前向きに考える御仁もいるんだけどね。


 夕食は、トーレさん達が手伝ってくれたから、何時もより品数が多いんだよなぁ。

 思わず笑みが零れてしまう。

 久ぶりの再会だから、タツミちゃん達が向こうで見た光景を楽しそうに話しながら食事をしている。


「なんにゃ! 魚が全くいないって」


 急に、トーレさんが大声を上げた。

 どうやら、海中の様子に話題が移っていたようだ。


「綺麗な海にゃ。遠くまで見通せて所々に泡が上に向かっていたにゃ。でも、魚がどこにもいなかったにゃ」


 俺だけでなく、タツミちゃん達も交互に潜って見てたんだよなぁ。

 やはり俺と同じ感想を持っていたようだ。 まるで海中の景色とは思えなかったからねぇ。


「その話を、今夜長老にしてくる。トーレ達が夕食の準備をしている間に、色々とナギサと話していたのだ。そんな海域を想像したくもないが、ナギサは次に向かう時にその海域の広がりを調査してくると言ってくれた」

「私達も行ってみるにゃ。自分の目で見ないと信じられないにゃ」


 トーレさんとサディさんの顔がバゼルさんに向けられる。

 困ったような顔をしてるけど、本人も嫌ではないようだ。ちょっと目に笑みが浮かんでいる。


「長老の裁可次第だ。とは言っても、半年ほど先の話だぞ。それまでは漁をしないといけないからな」

「ちゃんと説明して来るにゃ。一緒に行けば長老に詳しい話も出来るに違いないにゃ」


 行けるように説明して来いってことかな?

 中々強引だけど、長老達はどう判断するんだろう?


 食事が終わると、バゼルさんは桟橋を歩いて行った。

 長老達との会合に出掛けるのだろう。氏族の将来とはあまり関わらない話かと思っていたけど、漁に影響が出る可能性があるなら話は別だ。

 場合によっては他の氏族の長老との会合にも、その話題を提供せねばなるまい。

 オウミ氏族の聖痕の持ち主が言っていたように、変化は案外早くやってきた感じもする。

 

 タツミちゃん達が屋形の中で。トーレさん達を交えてスゴロクに興じている。その声を聞きながらベンチでパイプを楽しんでいると、桟橋を歩いてくる足音に気が付いた。


「妻達は何時もの事か……。長老達も驚いていたぞ。やはり一度は他者を連れて確認すべきだということになった」

「あの海ではそうなるでしょうね。広がるようなら俺達の暮らしにも影響が出ないとも限りません」


 作り置きのココナッツ酒をカップに注いでバゼルさんに渡すと、自分のカップにも半分ほど注いで酒を酌み交わす。


「それで、俺達が一緒に向かうことになった。次はカルダスが行くと言ってたぞ」

「次のリードル漁を終えたら、で良いですよね?」


「その件だが、次の満月に向かうことになった。変化が早いかもしれんと言うことになってな。今夜は下弦の月だが、1か月も先にはならんぞ」

「その間は、ザネリさんと漁をすれば良いですね?」


「いや、ザネリではなく、俺と一緒だ。次の調査から帰るまでは一緒に漁をするぞ。ザネリは未だ帰らんが、俺達がいなくとも長老がその辺りをザネリに話してくれるそうだ」


 バゼルさんと一緒に素潜り漁か……。

 最初に比べればだいぶマシになってはいるのだろうが、まだまだ腕は比べ物にならないかもなぁ。

 だけど良い機会だから、張り合ってみるか。


「少しはバゼルさんに近付けたかもしれませんよ」

「案内筒を使うようではまだまだだな。少し大物がいる場所に行ってみるか」


 俺の言葉を挑戦と受け取ったみたいだ。目を細めて笑みを浮かべている。

 まだまだ負けないってことなんだろうけど、大物の種類は何なんだろう?

 

 翌日の朝食は、次の漁の話で嫁さん連中が盛り上がっている。

 明日にでも出かけそうな気配だけど、バゼルさんは出発を明後日に決めたようだ。

 まだザネリさん達が帰って来ないが、明後日までには帰ってくるだろう。俺が同行できない理由を話してくれるのかもしれないな。


「商船が来たみたいにゃ。食料と酒を買ってくるにゃ」

「ナギサは何か欲しいのがあるのかにゃ?」


「ちょっと、欲しいものがあるけど、手に入るかどうか聞いてみたいんだ。後で1人で行ってくるよ」


 タツミちゃん達はトーレさん達と買い物を楽しむつもりだからね。一緒に行くと長くなりそうだ。


 朝食を終えると、タツミちゃん達がカゴを背負って商船に向かっていった。

 あのカゴが買い物バックのつもりなんだろう。それほど多くの荷物にはならないと思うんだけど、4人ともカゴを背負っていったんだよなぁ……。


 バゼルさんと一緒に、銛の使い方を話しながらパイプを楽しむ。

 どうやらフルンネが沢山いるらしい。

 そんなことなら船団が向かうはずなんだが、詳しく聞いてみると数個のサンゴの穴が繋がったような海域らしい。


「多くても3隻だな。そんな海域はたくさんあるんだ。どちらかというと船団の漁場が限られていると考えたほうが納得しやすいだろう」

「南東の海域からの帰りに、大きなサンゴの穴を見つけて漁をしてきました。他の穴は見当たりませんでしたから、そんな場所が沢山あるんでしょうね」


 俺の話を頷きながら聞いていたけど、バゼルさんの話では2日半程度の航海でも、そんな場所は100個以上あるとのことだった。

 船団に属さずに、小さな漁場で漁をする連中も多いらしい。


 少し遅れて商船に向かい、地図の作成に使えるような品を探してみた。

 店の中で迷っていると、店員が声を掛けてくれる。


「何か、お探しでしょうか?」

「島の地図を作ろうと考えたんだが、どうしたらいいか悩んでたんだ。何かお勧めはあるかな?」

「地図ですか……。確か測量士が前に使っていた品が残っているかもしれません。2階で待っていてください」


 店員のお姉さんに俺を案内させて、船の下に降りて行った。

 測量士が乗っていたとはねぇ……。海図を正確に作ろうとしていたんだろうか?

 もし、出来ているなら海図を売って欲しいところだけれど、商船の航路は限られた海域に限定されているとバゼルさんが言ってたんだよなぁ。

 魔石の取引を不意にするようなことは商会だって行わないだろうし、ニライカナイからも理事を出しているぐらいだ。

 不穏な動きは事前に止めるだろう。


 一服しながら待っていると、図板のような代物と小さな望遠鏡が付いた道具を持って先ほどの店員が現れた。


「オウミ氏族の島に商会ギルドの建物を作った時に使った品です。建物の正確な位置を浜の地形図に現すために使った品ですが、そのまま倉庫に置き去りでしたからお安くしておきますよ」

「使い方は何となく分かるんだが、角度を測る定規みたいなものはあるのかい?」


「三角定規が2種類に1FM(30cm)の定規が1つ。この丸い定規が角度を測る道具だそうです。望遠鏡で目標を見て、その角度を望遠鏡の周囲の目盛りで角度が求められます。水準器が2つ付いていますし、台に磁石も付いてますから測量士が好んで使っていますよ」


 値段は全部合わせて銀貨5枚で良いと言ってくれた。

 中古品だけど、俺が使うには十分だな。新品なら銀貨20枚近くするそうだ。


「生憎と銀貨を持ってないんだ。これで良いかな?」


 財布代わりの革袋の中から低位魔石を2個取り出した。

 

「これは、思わぬ品ですな。2個とも通常価格で引き取ることで御了解頂けますか?」

「それで良いよ。纏まった数でなくて申し訳ないところだ」


「通常価格なら、こちらにとっても利があります。これでしたら、1つ銀貨6枚で購入いたします。残金を用意しますから少しお待ちください」


 持っていてよかった。これで何とかなりそうだな。少し離れた島から定点観測ぐらいはできるだろう。

 残金を受け取って、改めて図板にあった紙と鉛筆、それに小さな手帳を購入する。消しゴムもこの世界に合ったようだ。鉛筆があるぐらいだからあってもおかしくはないんだけどね。

 包んでくれた代物を担いでトリマランに戻ることにしたんだが、途中で出会う人たちは「何を買ったんだ?」という目で俺を見るんだよなぁ。

 三脚の足が出ているから、それを不思議に思っているのかもしれない。

 


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