P-093 2度目の調査に向かおう
漁場まで往復4日掛かり、3日間の漁をして島に帰る。
2日間の休養を取って再び漁に出る。
そんな毎日だが、たまにやってくる豪雨で少し予定が変わることもあるんだよなぁ。
それはそれで、ちょっとした変化だから楽しみでもあるんだが、この雨量は何とかしてほしいところだ。
どう考えても、台風や雷雨時の集中豪雨を上回っている。
「出掛ける時にこの雨ではねぇ……」
「仕方がないにゃ。向こうの桟橋の船がまるで見えないにゃ」
視界不良ってことだな。
タープの下で3人並んで座り、恨めし気に雨の眺めることになった。
「今回の漁が終わればリードル漁になるんだよね?」
「トーレさんが言ってたにゃ。それが終われば、また南東の海に出掛けるにゃ」
あの海域の調査は俺達で続けることになるだろう。
リードル漁で上級魔石が得られる俺達だから、10日以上掛かる海域調査も特に問題にはならない。
次の船を作るのはまだまだ先になるし、うまくタツミちゃん達がやりくりしてくれるおかげで、魔石の売り上げを取り崩すのは低級魔石1個で済んでいるようだ。
「曳き釣りで水中銃を使う人が増えてきたにゃ」
「大型が掛った時には便利だからね。それに、素潜りでも使ってるみたいだよ」
たまに銛を使うのでは、腕が鈍ってしまう。
その点、水中銃は少し取り扱いが面倒ではあるけど、あまり腕を必要とはしないようだ。
もっとも、静かに魚に近づくことができればの話だ。
その辺りは、しっかりと身についているんだろう。
「昼までに止まないときは、今日の出漁は見合わせだと言ってたけど、そうなると近場に出掛けることになるのかな?」
「1日半で、2日の漁なら漁場が沢山あるにゃ。漁場まで1日では、ガリムさんの船団に迷惑を掛けてしまうにゃ」
ある程度のテリトリーを持ってるということかな?
その辺りはザネリさんが悩んでくれるだろう。
とりあえずパイプを楽しむことにするか……。
結局は、夕方近くまで雨が止むことがなかった。
翌日早朝に島を出て、西野漁場を目指す。
1日半船を進めた場所は南北に大きく広がる漁場だった。
黒々とした岩が、海底で南北に幾重にも重なったように見える。
典型的な曳き釣りのポイントってことになるが、ここに来たのは初めてだな。
だけど、ここで始めたのは素潜り漁だった。
延縄を仕掛けての漁になったから漁果はそこそこになったけど、最後の夜にザネリさんと一緒に夕食をとった時にその理由が分かった。
「ここは部分的にサンゴが発達してるんだ。半日も仕掛けを流したら何度か仕掛けを取られてしまうぞ。場所は良いんだけどなぁ……」
「それで、素潜りですか。最初に連絡が来た時には、どうして? と悩んでいたんです」
そんな俺の言葉に、ザネリさんが笑い声をあげている。
「漁場はいろいろだ。だけど、曳き釣りが行える場所はそれほど多くはない。リードル漁が終われば南東に向かうんだろう? ついでに漁場を探して欲しい。カタマランは速度が出るからな。通常なら1ノッチ半で進む船団だが、2ノッチを超えても問題はないぞ」
新たな漁場を長老達が持つ海図に書き入れるのは、名誉のことだと教えてくれた。
それぐらいなら出来そうかな?
サンゴの穴が広がる海域、海底に溝があり半日程度曳き釣りができる海域……。いろいろとありそうな気がする。
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雨期明けのリードル漁を無事に終えると、島には何隻かの商船が寄港していた。
魔石のセリに参加するためなんだろうが、それと同時に俺達相手の商売のためでもあるようだ。
いつもの品よりやや高価な品揃えをしてやってくるから、タツミちゃん達も嬉しそうな顔をしている。
「ナギサは欲しいものが無いのかにゃ?」
「そうだね……。コーヒーとタバコぐらいかな? 南東に向かうから食料は多めに頼むよ」
「明日も出掛けるから問題ないにゃ。ワインも1ビン買っておくにゃ」
タツミちゃん達は何を買うんだろう?
低級魔石1個ずつなら問題ないと言っておいたけど、銀貨数枚にはなるはずだ。
新しい水着か麦藁帽子辺りかな?
短パン1つで暮らせる場所だからねぇ。上に着るTシャツだって、どちらかというと日焼け対策だ。
いつの間にか体が赤銅色になっているのは、健康の証に違いない。
タツミちゃん達を見送ると、タープの下でパイプを楽しむ。
ココナッツを割って喉を潤しながら、甲板から眺める光景は、南国のリゾート地そのものだ。
残念ながら行ったことはないけど、インターネットで散々眺めていたからなぁ。
いつか行ってみたかった南の楽園だったけど、まさかそこで生活するとは思わなかったな。嫁さんが2人と聞いたら、昔の友人達はどう思うだろう?
「タツミ達は出掛けたのか?」
「先ほど出掛けました。トーレさん達も?」
「朝早くに出掛けたよ。まあ、昼過ぎまでは帰って来ないだろうな」
バゼルさんとザネリさんの2人が甲板に乗り込んできた。
大急ぎでココナッツを割り、ココナッツ酒を作って2人に振る舞う。2人にはたっぷりと、俺には半分ほどだ。
「雨季明けの漁にしては晴天に恵まれたな。昔は2日も雨に降られたことがあった。雨が降るとリードルが海面近くにまで上がってくるから、危なくて漁にもならない」
あのイモガイもどきは、そんな生態なんだ。
豪雨がやってくると夕暮れ時のように暗くなるから、勘違いしているんだろうけどね。
「やはり出掛けるのか?」
「オウミ氏族の聖痕の持ち主の言葉が気になります。今の状況そのものですからね」
「嫁が2人で大型のカタマラン……。実際にはトリマランだが見た目はカタマランと変わらんからな。まして前回は神亀が道案内してくれたとなれば、異変は起こるということなんだろう。……長老には俺から伝えておこう。良く状況を見てきてくれ。万が一にも前回と異なっていたなら、全速力で帰ってくるんだぞ」
俺が頷くのを見て、バゼルさんの表情が満足そうな笑みに変わった。
「そうなると、2回は参加できそうにないな。島に戻って俺達がいないときには、しばらく待ってくれないか?」
「今度は素潜りですからね。あの岬でオカズを突いた実力をお見せしますよ」
俺の答えが面白かったのか、腕を伸ばして肩を叩いてくれた。
ザネリさんにとっての義弟ともいうべき存在だからなぁ。兄貴ぶりたくてしょうがない感じだ。
「あまり競うのも考え物だ。かつて数を競っていた若者がサンゴに足を挟んで溺れたこともある。水中では何が起きるかわからんからな。『まだまだいける』という思いは捨てることだ」
漁で事故は付きものと伯父さんが言っていたのは、そういうことなんだろう。
ちょっとした油断が事故に繋がる。
ましてや水中での事故は命に直結するってことだな。よくよく胸に刻んでおこう。
「だが、もしもナギサが夢で見た光景が広がっていたならどうするんだ?」
ザネリさんの問いに、バゼルさんまでココナッツ酒のカップを置いて俺に顔を向けた。
「一旦、島に戻って異変を知らせます。大事になりそうか否かぐらいは見極めるつもりですが、最悪は起こったという知らせだけになるかもしれません。
島で食料と水を補給して再度戻ります。異変の大きさが分かるかもしれませんから」
「確か、泡立つ海でいくつかの島が1つになるということだったな……」
「はい。急激に起きるなら津波が伴いかねません。ですが、津波が発生するなら、それを幻影で見たはずです」
目で見えるぐらいの速度で島が盛り上がっていく光景だった。
津波の発生はおそらくないだろう。
気になるのは、1つになる島の大きさだ。かなり大きな島になるんじゃないかな。
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リードル漁から島に戻って3日の朝。俺達は南東に向かって氏族の島を出発した。
前回の調査で大まかな海図ができたらしいから、その海図の補足も今回の航海で行うとタツミちゃんが言ってたけど、見せてもらった海図には左右に丸い印が付いている不思議な図面だった。
「真ん中の線が船の進路にゃ。左右の丸が島にゃ。真ん中の線に横棒を入れてあるのが、1日の航海分にゃ。2ノッチより上げてたし、雨で遅くなった時もあるにゃ。それに神亀に助けてもらったから、今回は2ノッチで全体を確認するにゃ」
少し日程が延びそうだな。
だけど、他の連中が目的地に着くには、海図の精度は上げるべきだろう。
操船櫓で、2人で頑張ってくれるに違いない。
「任せたよ。それと、航路で注意する場所もあったら記載してくれないかな。浅場やサンゴの穴が沢山ある場所は特にだ」
「浅場は書いておいたにゃ。でもカタマランなら問題なく通れるにゃ。サンゴの穴は漁場にゃ? ちゃんと書いておくにゃ」
浅い場所はあったということか。カタマランが問題なく通れるということは2m以上の水深があるってことなんだろう。
かなり速度を上げて航行していたけど、見るところはちゃんと見ていてくれたみたいだ」
ほかにもあるのかな? という感じで首を傾げて俺に顔を向けていたけど、俺がパイプを取り出すのを見て操船櫓に戻っていった。
竹筒の水筒を2つ持って行ったのは、かなり暑いからなんだろう。屋根はあるし、窓ガラスは前方にあるだけだから風通しは良いんだけどね。
俺も半分ほど開いたタープの日陰にベンチを移動しているぐらいだ。
船尾の方が風通しは良いんだけど、結構日差しがきついんだよなぁ。
航海中の暇つぶしは、銛を研ぐことから始める。
戻ってきたなら、すぐに素潜り漁だからな。銛の数が多いから結構時間が掛る。
夕暮れ近くになると、近くの島近くにトリマランを停船させる。
投錨して最初にやることはおかずを釣ることだ。
3人だけだし、夜釣りの餌を考える必要もないから、エメルちゃんが要求してきた3匹のカマルで納竿する。
こんな場所でオカズを釣る人がいないのかもしれないな。
ほとんど入れ食いだった。




