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P-087 タモ網よりも水中銃


 バゼルさんが、俺達の航海で得た話を長老達に伝えてくれたようだ。

 翌日の朝食時に、長老達が安堵していたと話してくれた。


「何もなかったとはいえ、起こることに間違いはないとも言っていたな。次のリードル漁が終わった時に再び出掛けてほしいと言っていたぞ」

「それは考えていましたから、その都度出掛けてきます。とはいっても、思いの外遠かったですね」


「片道6日の航海にゃ。次はサディの番にゃ」


 トーレさんの話に、嬉しそうにダディさんが頷いている。

 俺達だけでも良いんだけどね。


「それで、漁の準備はできてるのか?」

「食料は昨日買い込んできましたし、炭はまだたくさん残っています。昼過ぎに水汲みを行えば十分ですよ」


 今のところは西の空に雲がない。昼過ぎまでは持つんじゃないかな。

 豪雨になってもずぶ濡れになるだけだ。着替えれば問題ない。


「曳き釣りはしばらくぶりにゃ。きっと大きなグルリンが掛るに違いないにゃ」

「シメノンが釣れるかもしれないにゃ。今度は自分の竿があるにゃ」


 タツミちゃん達は嬉しそうだな。

 曳き釣りは潮通しの良い海域で行うから、シメノンの回遊だって期待できそうだ。

 タモ網では取り込めない魚だって掛かるようだから、早めに水汲みを終えて水中銃の使い方を教えておこうかな。


 朝食が終わったところで、水汲みを始める。

 長距離航海に備えたから、他のカタマランよりも船底の水瓶が大きいんだよなぁ。

 何度も往復して、水瓶を一杯にしたところで浜の片隅にある廃材置き場へと足を運ぶ。


 浜に打ち上げられた流木や、手直しした桟橋の切れ端を置いておく場所だ。

 浜で焚火をするときに重宝するんだけど……、やはり、置いてあった。

 舷側に桟橋や他の船との接触を和らげるカゴは消耗品でもある。長くとも2年ごとには交換するようにバゼルさんから言われているぐらいだから、廃棄したカゴが置いてると思ってたんだよね。

 いくつか置いてある中で、しっかりしているものを1個手にしたところでトリマランへと足を運ぶ。


「拾ってきたのか? ちゃんとしたカゴを爺さん連中から買うことだ」

「船に使うんじゃなくて、タツミちゃん達の訓練用です。タモ網で取り込めないときは、これを使おうと思ってるんですよ」


 この世界で作った水中銃は木製だ。銛と同じぐらいの重さだから、タツミちゃん達にも構えることはできそうだし、発射時の反動もそれほどない。


「ほとんど銛と同じです。水中で使うなら4FM(1.2m)ぐらいまで使えますが、甲板から撃ちこむだけですからね。もっと大きなものまで対応できるかと」

「そのカゴを浮かべて甲板から射るのか? そのうちにトーレ達がやってくるぞ」


 面白そうに、バゼルさんが俺の準備を眺めている。

 それもあるんだよなぁ。トーレさん達は孫を可愛がっているみたいだから、今の内にやってみるか。


 タツミちゃん達を屋形の中から呼び出して、簡単に説明するとカゴを船尾に浮かべた。

 初めて水中銃を使うから、セーフティと持ち方、撃ち方を一通り説明したのだが、2人とも嬉しそうに聞いているだけだった。

 ちゃんと伝わったかな? ちょっと疑わしくなってきた。


「私からにゃ! あのカゴを打てばいいにゃ?」


 タツミちゃんの肩ぐらいの長さの水中銃を、言われたとおりに持つと狙いを定めている。


 バシュ! 

 短い音が響くと、波間にプカリと浮かんでいたカゴに見事命中した。


「水中でブラドもあんな感じで突けるのか……。なるほど、便利なものだ」

「次は私にゃ!」


 バゼルさんが感心している中、エメルちゃんがタツミちゃんから水中銃を受け取っている。

 ラインを引いて、スピアの貫通したカゴを回収すると、再びカゴを波に浮かべる。

 エメルちゃんの場合は少し大きいみたいだな。あまり船尾に近づくと水中銃の重みで海に落ちそうに見えてしまう。


 それでも、放ったスピアは見事にカゴを貫通している。

 これなら問題なさそうだ。


「だいじょうぶみたいですね」

「小さな銛に結んだ組紐がある以上魚は逃げられん。最後はナギサが引き上げることになるな」

「それぐらいはしませんと、そうでなくても漁の半分以上は俺の仕事が無いんですからね」


 俺の言葉にバゼルさんが大笑いをしている。

 そんなところにやってきたのがトーレさん達だったから、今度はトーレさんにタツミちゃんが今までやっていたことを話し始めた。


「面白そうにゃ!」

 

 直ぐに始めたから、俺とバゼルさんは改めて顔を見合わせてため息をつく。

 だけど、もう少し短くしても良さそうだな。

 そうすればタツミちゃん達もしっかりと構えられそうだ。


 いつの間にか、メイリンさんまで参加してるんだよなぁ。

 カゴに紐を付けて、的を動かしながら撃っても当たるようになってきてる。

 どれだけ素質があるんだか、と悩みながらパイプを楽しんでいる俺達だった。


「メイリンも欲しがりそうだな。目の前まで寄せても、タモ網に入りきれずに糸を切って逃げる魚も多いからな」

「タツミちゃん達には、あの水中銃少し大きそうですから、小型のものを作ろうかと思っています。そしたら、メイリンさんにあの水中銃を渡せますよ」


「喜ぶだろうな。素潜りで使っても大型が突けるのだから」

「でも、やはり4FM(1.2m)が限度でしょう。それより大きいと体ごと持っていかれます」

 

 スピアが小さいからなぁ。もっと太ければ衝撃力もあるし、痛手も与えられるんだが……。

 とりあえずは、何とかなりそうだ。

 ザネルさんの船団は緑のリボンを操船櫓に付けるらしい。

 ザネルさんは持ってきてくれた布切れを、帆柱に巻き付けておく。1mぐらい布が余ったから、後ろになびいてくれるだろう。

                ・

                ・

                ・

 翌朝。朝食を終えるとタツミちゃん達が操船櫓に上がっていく。

 アンカーの石を引き上げて、桟橋に結んだロープを解く。桟橋から手を振って、急いで甲板に飛び乗ると、トリマランがゆっくりと桟橋から横に移動を始めた。

 船を固定していたロープを束ねて所定の場所に入れると、俺の仕事がなくなる。

 沖合で終結する船団に向かって進んでいくのを船尾のベンチに座って眺めることにした。

 船団は7隻らしい。緑のリボンを付けたカタマランが前方に4隻見えるから、俺達が最後というわけではなさそうだ。

 ちょっと安心して浜に目を向けると、こちらに向かってくる2隻があるのに気が付いた。

 あのカタマランが到着したら全員集合ってことなんだろう。

 1隻が俺達の周囲を巡って参加者の確認をしているけど、屋形の屋根に上がっているのはザネルさんみたいだな。


「2ノッチで進むぞ! ナギサ達は俺達の船足に会わせてくれ」

「分かったにゃ!」


 ザネルさんに答えたのはエメルちゃんだった。

 リアスラスタを使わなければ、同じ2ノッチで船足を揃えられそうだ。その辺りの判断はタツミちゃんがしてくれるに違いない。


 屋形の屋根に上って、船団の様子を眺める。

 俺と同じように屋形の上で、船団の船を眺めている男達は、俺よりも年長者ばかりのようだ。互いの顔を眺めて腕を比べているのかな?


 突然、笛の音が鋭くなり響く。

 出発だ。俺達は最後尾だから、ザネルさんの船に続いて沖に向かう船をしばらく眺めての出発になる。


「船を出すにゃ!」

「了解だ!」


 エメルちゃんが操船櫓から大声で教えてくれた。

 甲板にタープを張っているから、声だけが聞こえるけど後ろの窓から身を乗り出して教えてくれたに違いない。


 それほど速度を上げていないようだ。

 北上しているところをみると、島を時計回りに巡るようだな。

 2ノッチの速度で2日進むとすれば、かなり遠くの漁になる。今のところは晴れているけど、雨期の最中だからなぁ。豪雨で身動きが取れなくなることを考えての2ノッチの速度ということなんだろう。

 筆頭は中々苦労しそうだ。


 やがて大きく右手に回頭した。今度は東にまっすぐということになるのだろう。

 操船はタツミちゃん達の仕事だから、今の内に漁具の手入れをしておくことにした。

 漁の帰りにやってはいるんだけど、再度行なえば安心できる。

 曳き釣り用のプラグはこの世界で手に入れたものだが、どう見ても向こうの世界のプラグと同じに見える。

 アオイさん達が作って広めた物なんだろう。

 プラグの釣り針は結構大きいから、ヤスリで簡単に研ぐことができる。

 面倒なのは、延縄の仕掛けの方だ。

 枝針を15本にしてあるし、カゴに巻き付けた釣り針をもとの位置に戻しておかないと、仕掛けが絡んでしまう。それに釣り針自体が捻ってあるんだよね。上手く研がないと、せっかくの眠り針の効果が無くなってしまいそうだ。


「お茶を沸かすにゃ。沸いたら隣のカマドに載せて、この鍋を乗せて欲しいにゃ」

「それぐらいは大丈夫だよ。蒸しバナナを作るんだね」


 操船櫓から降りてきたタツミちゃんのお願いは些細なものだ。

 だいぶ時間が過ぎているから、確かにお茶を飲みたくなってきた。

 俺の返事に笑みを浮かべ、カマドの1つにお茶のポットを乗せると、「この鍋にゃ!」と俺に載せる鍋を教えてくれた。

 カマドの傍にある鍋はタツミちゃんが指さした鍋だけだから、いくら俺でも間違うことはないだろう。

 俺が頷くのを確認して操船櫓に戻っていったけど、タツミちゃんの目にはまだまだ頼りない男に見えるのかもしれないな。


 カマドに載せたポットが沸騰して湯気を上げている。

 指示されたとおりにポットを鍋と交換して、操船櫓に「お茶が沸いた!」と伝えると、エメルちゃんが下りてきた。


「ちゃんと作れたにゃ? 今お茶を入れるにゃ」


 ココナッツのカップにお茶を入れると、1個を俺に渡してくれた。

 片手にカップを1個ずつ持って梯子を上ろうとしてるので、慌ててカップを受け取り、上に上がったエメルちゃんに1個ずつ渡してあげる。

 トーレさんやタツミちゃんも足だけで梯子を上っていくんだけど、いつも見てるとハラハラしてしまう。

 まだ小さいからね。無理はしないで欲しいな。


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