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P-086 今度はザネリさん達と一緒だ


 ほとんど南東に向かって進んできたわけだが、豪雨で周囲が分からなくなった時もあるし、神亀の背で運ばれた航程もかなり長いんだよね。

 ちゃんと帰れるんだろうかと心配していたけど、トーレさん達は迷うことなく北西に進路を向けて一直線に進んでいる。

 帰る時の方が、トリマランの速度が速いんじゃないかな?


「周囲が見えない時も、方向は見ていたにゃ。ナギサの船のコンパスは変っているけど、使い方は分かるにゃ」


 トーレさんの言葉を頷いて聞いていたけど、カヌー用のコンパスをタツミちゃんは教えなくても分かっていたみたいだからなぁ。

 たぶん、アオイさん達が一般化したに違いない。

 海図に、やたらと方角を示した線が入っているのは、コンパスを使って現在地を確認するために違いない。


 何度か豪雨に見舞われたけど、6日後に俺達はシドラ氏族の暮らす島に帰還することができた。

 見知った島を見付けた時は嬉しかったけど、トーレさんの操船は素晴らしいな。

 大きくコースを変ええることなく、島に帰ることができたんだから。


「まだ、帰ってないみたいにゃ」


 桟橋を見て、トーレさんが呟いた。

 バゼルさんのカタマランはあるんだが、ザネルさんの船が無いってことなんだろうな。

 遠くには行っていないだろうから、それまでは俺達と一緒にいれば良いだろう。

 長老への報告も、俺がするよりはバゼルさんに任せたいところだ。


 何時もの桟橋に船を寄せて投錨すると、桟橋の柱にトリマランの前後をロープで結ぶ。

 西に向かって並んだいくつかの桟橋を眺めると、十数隻が繋がれているだけだ。

 何時もの暮らしに戻ったに違いない。

 となると、船団の構成は纏まったのかな?


 到着したのが昼過ぎだったから、夕食に備えてオカズ用の竿を出した。

 西の空が少し怪しいから、今夜からまた雨になりそうだな。

 

「商船に行ってくるにゃ。欲しいものはないのかにゃ?」

「タバコを3つ買ってきてくれないかな? 明日は炭を買いに出掛けるから」


 爺さん連中への贈り物だ。

 カゴに一杯入れてくれるんだけど、かなり安いんだよねぇ。そんなことだから、いつもタバコの包を1つ置いてくる。


 タツミちゃんは、トーレさんとエメルちゃんを連れて行ったけど、全員がカゴを背負っている。

 食料はたっぷりあると言ってたけど、長い航海だったからなぁ。次の漁に出るために買い込んでくるつもりらしい。


 桟橋の外れに陣取り、中型のカマルを釣り上げていると、10隻近くのカタマランが入り江に入ってきた。

 こちらに向かってくる船に乗っているのは……、バゼルさんだ。

 ということは、あの船はザネルさんの船と言うことだな。


 俺達の船が留まっている桟橋の反対側にカタマランを寄せてくる。

 バゼルさんが投げたロープを受け取って素早く桟橋らの柱に結びつけていると、バゼルさんが桟橋に飛び乗って船首側を固定しに向かった。

 メイリンさん達は漁果を運んでいくのだろうから、その間は俺の船で休んでもらおう。

 釣竿を片付けると一足先にトリマランに向かい、ココナッツ酒を作っておく。


「何時帰ってきたんだ?」


 バゼルさんの問いに顔を上げると、バゼルさんの後ろからザネルさんが片手を上げて挨拶してくれた。


「昼過ぎに帰ってきました。漁に出掛けるには食料が乏しいので、皆で商船に出掛けています。どうぞ座ってください」


 2人にべ園地を勧めると、家形の扉近くに重ねてあるベンチを2つ取り出して、1つをテーブル代わりにする。

 タバコ盆とココナッツ酒のカップをテーブルに置いて勧めると、直ぐにバゼルさんが手に取って飲み始めた。


「それで?」

「場所は分かりました。およそここから6日の距離です。と言っても、かなり速度を上げてましたし、何度かは神亀の背に乗って進んでいます。豪雨の中でも俺達の船より早く進むんですから、凄いとしか言いようがありません。

 一番気掛かりだった、変化は見られませんでした。かなり広い海域でしたが、漁場になるような場所がないのも不思議に思います」


 2人が頷きながら俺の話を聞いている。

 聖痕の保持者まで気になっていることでもあるし、それにかかわる幻影を3人が見ているのだ。

 カヌイのお婆さん達が、ネコ族の存亡に関わるものではないと言ってくれたけど、寮生活に支障が出るようでは問題だと考えているんだろうな。


「当初の予定より長かった理由は、ナギサが思っていた以上に遠かったということか。まあ、異常が無ければそれでいい。仮に少し兆候があったとしてもそれだけ離れているならアオイ様の時代に起こった火山の大噴火の時よりは影響が少ないだろう。

 長老には、ナギサの言葉通りに伝えておこう」


「よろしくお願いします。それと、俺はどこに属するんでしょう?」

「船団の事か! それなら俺と一緒だ。ナギサの漁を学ばせてもらうよ」


 身を乗り出して、俺の肩をポンと叩いたザネルさんは嬉しそうだな。


「筆頭は俺になるんだが、ナギサを入れて8隻だ。それほど大きくないから、いろんな漁場で漁ができるぞ」

「よろしくお願いします。色々と学ばせてもらいますよ」


「こっちが学びたいよ。ガリム達が面白い銛を持っていたが、発案はナギサだと聞いたぞ。メイリンが、母さんが持ってた銛を借りていたんだが、ナギサ達が帰ってきたから、明日はあの銛を作るつもりだ」


 それほど広がるとは思わなかったな。

 やはり銛を突くのは難しいのだろう。あんな小道具を使わずに、バゼルさん達は銛を使えるんだから凄いよなぁ。


「今日が帰島ですから、次に出掛けるのは?」

「明後日だ。東に2日で3日の漁をする。延縄と曳き釣りで、夜釣りは好みで行えば良い。 向かう場所からさらに2日が大型船団の漁場になるんだ。結構大物が来るぞ」


 タモ網で取り込めないこともあるんだろうか?

 タツミちゃんではまだギャフを打てないだろうな。ドワーフの爺さんに作って貰った水中銃を使ってもらうか。

 あれなら、海面に上がった魚の背を狙えるだろう。


「あんにゃ! 帰って来てたにゃ」


 トーレさんの挨拶はちょっと考えてしまうな。バゼルさんも苦笑いを浮かべている。

 

「ザネリの腕を見てきたが、とりあえずは問題ないだろう。俺達はカルダスの手伝いだ。ナギサが帰るまでは参加できなかったが、曲者揃いだぞ」

「昔の仲間にゃ。楽しめるにゃ」


 甲板にカゴを下ろしたトーレさんは、ザネリさんのカタマランに歩いて行く。

 孫が気になるのかな?

 

「ザネリさんと一緒だよ。明後日東に向かうけど、準備は大丈夫かな?」

「たくさん買ってきたにゃ。野菜とココナッツは明日買い込んでくるにゃ」


「タツミ、今度は大物がたまに出る。タモ網では難しいかもしれないな」


 ザネリさんの話を聞いて、んっ! とエメルちゃんと顔を見合わせている。

 あんまり脅かさないで欲しいけど、対策は考えたからだいじょうぶだろう。


「タモ網が使えないと思ったら、銛を打てばだいじょうぶだよ。ギャフは銛の変形だからね」

「力はあるにゃ! 何度かやってみるにゃ」


 タツミちゃんの主張を、バゼルさんが笑みを浮かべて聞いている。

 何事も経験だと思ってるに違いない。


「ナギサのことだ。曳き釣りはだいじょうぶだろうが、延縄の方はだいじょうぶか?」

「深さによって2種類を使い分けてます。15本針ですから、引き上げはロクロを使うつもりです」


「これだけ大きいからなぁ。色々と仕掛けがあるんだろう。その内に教えてほしいな」

「初めて使うものもあるんです。たまに船団で飲むんでしょう? その時にでも」


 ザネルさんが笑みを浮かべて、右手を差し出してきた。

 しっかりと手を握って頷く。

 握手は、カイトさんが広めたらしい。

 肩を叩き合うだけだったのが、互いの信頼の表現が増えたとガリムさんが教えてくれた。


 トーレさんがサディさんとメイリンさんを連れてきた。

 タツミちゃん達を家形の中から呼び寄せると、少し早めの夕食の準備に入ったようだ。


「やはり大きな船は、色々と便利そうだな。メイリン、良く見といてくれよ。俺達の船も新しくしたが、次もあるんだからね」

「しっかり見てるにゃ。でもこの大きさは考えてしまうにゃ」


 大きすぎるってことなんだろうか?

 長い航海でも安定した走りをしているから、次もこれに準じてみようかと考えてたんだけどねぇ……。

 タツミちゃん達は、魔道機関の魔石をさらに増やせと言ってるぐらいだから大きさはこれで十分ということだろう。

 このトリマランの魔道機関の魔石は8個なんだが、その上になると10個、いや12個ということなんだろうか?

 円板に取り付ける魔石だから、分割比でもあるんだよな。3、4、6、9と魔石が増えていくのかと思っていたんだが、なぜか8だった。

 4の2等分線上に配置したのかもしれないな。10個はどうやって位置決めするんだろう? 何か気になってしまうな。

 

 夕食が出来たが、空が今にも振り出しそうだ。

 急遽、サディさんとメイリンさんが鍋を持ってきて料理を分け始める。

 各々の船で取るのだろう。食事中に降り出したら身動きが取れなくなってしまいそうだ。


 皆が帰った後で、俺達の食事が始まる。

 何時ものようにスープをご飯に掛けていたら、タープを叩くように豪雨がやってきた。

 ちゃんと、屋根を引き出せたかな?

 ちょっと心配になって桟橋の反対側を見たら、ランプの下で食事をしているザネルさん達が見えた。

 俺より長くこの世界で暮らしてるんだから、そのぐらいは当たり前か。

 他人の心配よりも、自分達を心配しるべきかもしれない。


「次は大物が混じるらしいよ。場合によっては水中銃で取り込むことになるかもしれない」

「あの小さな銛を撃ち出す仕掛けにゃ? 練習しないといけないにゃ」

「そうだね。簡単な的を作ってみるよ。何度か撃てば使い方が分かるはずだ」


 素潜りの時に使ってもらった方が良かったかもしれない。

 ちょっと面倒だけど、大きい奴まで突ける優れものだ。ガムの劣化も気にならないし、トリガー部分は真鍮で作ってあるから、たまに手入れをするぐらいだが未だに錆びが出ていない。



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