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P-084 南東に行ってみよう


 リードル漁から帰って2日目を過ぎても、まだ船団の再編が終わっていないようだ。

 バゼルさんが連日集会に参加しているけど、若手と中堅をどうするか悩んでいると教えてくれた。

 呆れかえった連中は、気の合う仲間と共に近場へ漁に向かって行ったのだろう。

 朝起きて、入り江を眺めてみたらカタマランの数が半減していたぐらいだ。


「適当に決めても良さそうにゃ。それほど腕に違いはないにゃ」


 早めの夕食をトリマランの甲板で取っている時、トーレさんの言葉にバゼルさんが苦笑いをしている。

 漁の腕だけで決めているわけでは無いのだろう。船団を率いることで将来の氏族を託せるかどうかを見極めているのかもしれない。


「まあ、今夜で決まるだろう。……ところで、ナギサは出掛けるのか?」

「出来れば行ってみようかと。ガリムさん達の話では、氏族の島から3日離れた場所でニライカナイの船団が漁をしているということですから、その先を確認したいと思っています」


 何の話だ? という顔でザネルさんが俺を見ている。

 ザネルさんには話してなかったな。簡単に説明を始めたらだんだんと顔つきが変わってきた。


「オウミの聖痕の保持者までこの島にやってきたのか。だとしたら……、父さん!」

「長老達も気にしているようだ。カヌイの婆様連中はアオイ様の時の大津波を心配する始末だが、レイネイもナギサもそこまでの事になるとは思っていないようだ」


 腕を組んで考え込んでいるザネルさんを不安げな表情でメイリンさんが見ている。

 それに比べると……、トーレさんとサディさんはクワクした表情だ。

 一緒に行きたい感じが見ただけで分かるんだけど、連れて行くわけにはいかないよね。

 バゼルさんが自分の食事を作れるとは思えないからなぁ。


「バゼルはザネルの手伝いをしてあげるにゃ! 生まれたばかりだから、漁果が減ってしまうにゃ。良い物が食べられないとお乳が出ないにゃ!」

「そこまでタニアの腕が良いとは思ってはいないが、ナギサは構わないのか?」


「トーレさん達が一緒なら夜も航行できそうです。でも、さすがにザネルさんにバゼルさん1人を預けるのはどうかと思います。リードル漁を終えた時期ごとに出掛けようと思ってますから、どちらか1人は残ってください。バゼルさんと2人で厄介になるならザネルさんも助かると思うんですが?」


 俺の言葉が終わると同時に、トーレさんとサディさんが互いに顔を見合わせている。

 

「トーレに先を譲るにゃ。私は雨期明けに同行するにゃ。タニアも心配にゃ」


 少しサディさんの方が大人に思えるな。

 とはいえ、タツミちゃん達は嬉しそうだ。料理を教えて貰えるし、美味しく頂けるからだろうね。


「……ということだ。ザネルに迷惑を掛けてしまうな」

「ありがたいけど、5日は漁に出ないつもりだよ」

「構わん。それまでは近場で漁をしてくる」


 若者達の船団に混じるつもりかな?

 それはそれで、問題がありそうに思えるんだけど。


「出発は明日か?」

「朝食後に出掛けるつもりです。タツミちゃん達が、たっぷりと食料を買い込んでくれました」

「たまにナギサを潜らせて漁場を見付けて来るにゃ」


 飲んでいたココナッツ酒を噴き出すところだった。

 トーレさんが指揮を執るつもりなんだろうな。

 バゼルさんとザネルさんが、溜息を吐きながらココナッツ酒を飲んでいる。


 翌日。皆に見送られて俺達はシドラ氏族の島を離れた。

 南東を目指して、トリマランの速度を上げる。

 4日も進めば、通常のカタマランで6日の航程になるんじゃないかな?

 アオイさんはニライカナイの東の端を目指して、カタマランの2倍の速度が出るトリマランを作ったらしい。

 それでも10日掛かったようだから、ニライカナイはかなり大きな群島になるのだろう。

 

 シドラ氏族から1日半程度の漁場で漁をしていたから、周囲の島々も見慣れた島ばかりだ。

 この辺りなら俺が舵を握っても帰島できそうだな。


 島を出て2時間程過ぎると、トーレさんが操船櫓から下りてきた。

 カマドでお茶を沸かすのかな?

 揺れがあまりない構造だから、航行中でもカマドで火を使える。


「今日はタツミ達で十分にゃ。明日の昼から私が航路を教えてあげるにゃ」

「南東の漁場は遠いんですか?」


「シドラの連中が向かうのはカタマランで2日の距離までにゃ。もう半日先に進むと、次の漁場があるにゃ。そこで大型船を見たにゃ」


 ニライカナイの6つの氏族が、共同で運用している大型船ということなんだろう。

 そんな船団まで組織させたんだからアオイさん達の功績は大きいとつくづく考えてしまう。

 同じように別の世界からやってきた俺だけど、色々と比較されるし、期待されているようにも思えるんだが、さすがにそんな大それたことはできないだろうな。

 元々が、どこにでもいる高校生だったんだからね。


「この速度で4日南東に向かえば、間違いなく大型船の漁場を越えるにゃ」

「トーレさんの勘では、そうなりますか……」


 レイネイさんは東が気になりだしたと言っていた。俺はその場の情景だけを幻影として見ただけだ。

 距離が分からないんだよなぁ……。

 だが、南東に4日進んで何も無ければ、とりあえずの心配はいらないということにもなりそうだ。

 その報告だけでも、長老達は喜んでくれるだろう。


 島を出て2日目は豪雨で目が覚めた。

 豪雨でもカマドは濡れることは無いし、ずぶ濡れになりながらタープを引き出して甲板に屋根を作ったから、家形の中で過ごすことになることも無い。

 だけど、周囲がまるで見えないからゆっくりとトリマランを進ませることになってしまう。

 100m先も怪しい視界だから、操船櫓の後ろにあるマストにランプまで掲げる始末だ。

 

「早く晴れてくれれば良いにゃ」

「雨期の雨は長く降るにゃ。でも1日は続かないにゃ」


 やっと昼過ぎになって、青空が広がった。

 タープはこのままにしておこう。また振り出したらずぶ濡れだからね。

 

「今夜は少し遅くまで走らせるにゃ。タツミ達は来たことが無いかもしれないけど、私はこの海域を知ってるにゃ」

「助かります。でもほどほどにしてくださいよ。明日からはトーレさんが頼みなんですから」


 嬉しそうな表情で、「任せるにゃ!」と言い残すと、操船櫓に上っていった。

 タツミちゃん達が舵輪を握っているんだろうけど、周囲の島は余りなじみのない島になっているからね。

 傍にトーレさんがいるだけで安心できるに違いない。


 島を出て3日目。

 この辺りまではトーレさんも来たことがあるようだが、さすがにこの先は初めてのようだ。

 航行速度が少し落ちたのは、航路の安全を確認しながら進んでいるからなのだろう。

 たまにエメルちゃんが屋形の屋根で、腕を伸ばして進行方向と近くの島の方向を確認している。

 海図に目だった島を書き込んでいるのかな?

 今回の冒険は、新たな航路の開拓にもつながりそうだ。

 

 漁をしないで航行するだけだから、昼食は作らないのはネコ族の風習らしい。

 だけどお腹は空くんだよなぁ。

 お八つ代わりに蒸したバナナを作ってくれたから、それを摘まみながら漁具の手入れをして時間を潰す。


 あまり使わなくなった水中銃のスピアを研いでいると、突然トリマランが浮き上がった。

 慌ててベンチの後ろを見ると、大きな甲羅が見えた。


「神亀にゃ! 私達を案内してくれるにゃ」


 操船櫓から大声でタツミちゃんが教えてくれた。

 先ほどとは、まるで違った速度で南東を目指して進んでいる。

 神亀の案内なら、間違いは無さそうだ。問題は、どこまで進んでくれるかだが……。


 強いめまいに襲われる。慌ててベンチに腰を下ろして頭を両手で抱えてしまった。

 脳裏に幻影が現れた。

 神亀が目的地を教えてくれるのだろうか……。


 泡立つ海面を進む船は、この船とは少し異なるようだ。

 さらに大きくなっているし、甲板も一回り広く感じる。


 操船櫓の後部には窓があるな。その窓から顔を出して俺に何かを訴えているのは、エメルちゃんで間違いない。少し大きくなったけど、まだ少女のあどけなさが残っているのが分かる。


 周囲は泡立つ海だ。泡が無数に海底から沸き立っているから海が白く見えてしまう。

 だが、沸騰しているわけでは無い。

 湯気が全く見えないからね。


 屋形に上がって屋根の上から周囲を眺める。

 方向は分からないけど、左手に特徴的な島があった。

 ニライカナイの島々は、大きな島でも山を持つことは少ないようだ。

 だが、左手の島はまるで塔のように中央に大きな岩山があった。

 岩だけであのような高さになるんだろうか? 横幅の3倍ほど高さがあるように見える。

 それに比べると、右手の島は平凡な島だ。特徴が無いんだよなぁ。


 問題は前方の光景だ。

 徐々に島が大きくなっているのが分かる。

 あのまま大きくなったなら、周囲の島々を巻き込んで1つの島になってしまうんじゃないか?

                 ・

                 ・

                 ・

「う~ん……」

「気が付いたかにゃ? びっくりしたにゃ。神亀が去って甲板に下りたら。ナギサが倒れてたにゃ」


 心配そうなタツミちゃんに「大丈夫!」と答えると体を起こした。

 トリマランは停船しているようだ。

 日が暮れかけているから、今夜はここに泊ることになるのだろう。


「大丈夫かにゃ? これを飲んで頭をすっきりさせるにゃ!」

 

 トーレさんが渡してくれたのはコーヒーだった。ありがたく頂いて一口飲んだけど、思わず顔が横を向くほどの苦さだった。

 少しずつゆっくりと飲む俺を見て、満足そうな顔をトーレさんが見せてくれる。

 

「神亀が幻影を見せてくれました。異変のある場所をある程度特定できそうです。かなり特徴のある島が近くにありましたよ。島から突き出すような岩山です。まるで塔に見えました」

「それなら、安心にゃ。目立つ島なら見逃すことは無いにゃ」


 夕暮れを見ながらの食事は、トーレさんが監修してくれたんだろう。

「私が作ったにゃ!」とエメルちゃんが言ってたけど、トーレさんの味に思える。


「サンゴの穴に投錨したにゃ。夜釣りができるにゃ」

「明日のオカズを釣りますか? 10匹ほど釣れば開いてタープの下に干せますよ」


 軽い気持ちで始めた夜釣りだったが、途中でシメノンの回遊に出会ってしまった。たっぷり釣り上げたけど、保冷庫で運んでもだいじょうぶかな?


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