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P-081 小さな漁場


 1日中、トリマランを動かしたことで、タツミちゃん達も操船に自信が付いたみたいだ。カタマランよりも速いと嬉しそうに話してくれた。

 問題と言えるかどうか難しいところだが、トーレさん達もこの船に興味深々なんだよなぁ。

 たまに乗せてあげないと、美味しい料理に出会えなくなりそうで怖くなってしまう。


「それで、どこに向かうんだ?」

「バゼルさんの船に厄介になっていたころに向かった、南の漁場に向かおうと考えているんですが」


 あぁ、あそこか!

 そんな感じでバゼルさんが目を閉じて頷いている。


「漁場は小さいが、大きな穴がいくつかあるからな。シメノンの回遊にあったことは無いが、素潜りと夜釣りなら十分だろう」

「タツミちゃん達が食料の買い出しに出掛けましたから、明日にも出掛けられます」


「ザネルを越えているとは思うが、まだまだ伸びるだろう。リードル漁まで2カ月ほどだからな。それまでには船団を率いる筆頭も決まるだろう」


 ザネルさんだと良いんだけどね。

 バゼルさんの話では、複数の筆頭という考えもあるらしい。

 1人では荷が重いということになるんだろうが、意見が割れたらどうするんだろう?


 20隻ほどのカタマランで母船を伴っての漁だから、さぞかし腕を競い合ったに違いない。俺も2人目の嫁さんがやってきたからには、今まで以上に頑張らないといけない。


 夕食時に、明日の朝早く南に向かうとバゼルさんが皆に告げてくれた。

 途端に笑みが浮かぶ女性達を見ていると、ネコ族の女性は漁に出掛けるのが大好きなようだ。

 

「エメルのリールを買ってきたにゃ。竿は用意できたかにゃ?」

「ちゃんと貰って来たよ。銛は俺の小さいの使えば大丈夫だろう」


 嫁さんが2人なら、ザバンで広範囲に素潜り漁ができる。

 子供が生まれるまでは、嫁さん達も素潜りをしてくれるようだ。子育てが一段落するとトーレさん達のように再び始めるのだろう。


「銛は父さんが持たせてくれたにゃ。ちゃんと屋根裏に置いてあるにゃ」


 嫁入り道具の1つに銛を持って来たのか……。タツミちゃんも持ってきたから、風習なのかな?

 首を傾げていると、バゼルさんがココナッツ酒を注いでくれた。


「カルダスもタツミの手前、銛を持たせたんだろう。昔は裁縫道具だけだったらしいが、自分の漁具を持って来る嫁も近頃は多いらしいぞ」

「自分の銛が一番ですからねぇ。釣りよりは銛ですか……」

「まあ、そう言うことになるんだろうな」


 俺のカヌーを使って貰おう。保冷庫代わりの木箱は防水塗料を何度も塗り直しているから、今でも十分に使えそうだ。

 昔はザバンに生け簀まであったらしいけど、ロデニルを生かしたまま運ぶためだったようだ。

 今では、素潜りのできない漁師達だけがロデニル漁をしているらしい。

 それもカイトさんのおかげだと言ってたんだよなぁ。色々と漁を教えてあげたらしいけど、ニライカナイの漁師達の漁法は、何かしらカイトさん達の影響を受けているようだ。


「漁に出ても、隣に船を停めるにゃ。そうすればタツミたちに料理を教えてあげられるにゃ」

「まだまだ、トーレさん達みたいに上手く作れないにゃ。一緒に作れば覚えられるにゃ」


 タツミちゃん達も嬉しそうだな。

 まだ失敗はしてないんだけど、食事の度に微妙にスープの味が変わるんだよね。

 それはそれで、楽しみでもあるんだけど。

                ・

                ・

                ・

 良く朝早くに、バゼルさんのカタマランを追い掛けるように南に向かってトリマランが進んでいく。

 バゼルさんの話では1日半の距離らしいけど、速度を上げているようだから夕刻には到着できるんじゃないかな。

 2人が操船櫓に上がっているから、広い甲板でエメルちゃんの釣竿を作り始めた。

 2mほどの竹竿にガイドを木綿糸で縛り、接着剤で固定する。生乾きになったところで、更に木綿糸を巻いて補強すれば外れることは無い。接着剤が乾いたところで、防水塗料を塗る。

 片軸リールにはこの世界の道糸が巻かれていた。少し太めなのは仕方がないけど、60cmほどの魚を相手にしても切れないだけの強さを持っているようだ。

 底釣りが主体だけど、シーブルを狙う場合もあるとタツミちゃんは考えたんだろう。

 巻かれた道糸は100m近いんじゃないかな。

 持ち手に位置に少し太めの組紐を30cmほど巻きつけた。

 竹竿のままで使う人もいるのだが、やはり持ち手は手になじんだ方が良い。竿尻に小さな輪を作ってあるから、別の組紐を2m程の長さに結んでおいた。

 仕掛けは、底釣りの胴付き仕掛けだ。2本の枝針の間隔はおよそ1.5m。

 どちらの釣り針に掛かっても、取り込みをタモ網で行えば問題はない。


 作業が終わったところでパイプに火を点ける。

 周囲の島は見たことが無い島々だ。すでにガリムさん達と一緒に行った漁場を通り過ぎているのかもしれないな。


 昼食を取らずに走らせているから、かなり進んでいるんだろう。

 適当に合わせた時計を見ると、14時を過ぎていた。

 夕暮れ前には目的の漁場に到着するかもしれない。 夜釣りまでには竿も乾くだろう。


 それにしても、島には色んな種類があるんだな。

 木々が密集してジャングルのような島もあるし、岩と砂浜だけの小さな島もある。

 島と島を繋ぐようにサンゴ礁があるのだろう。ニライカナイの海域の水深は、深くても15mに達しないようだ。


 アオイさんとナツミさんがニライカナイの東の端を確認したらしいけど、カタマランの2倍以上の速度で10日程度掛かったらしい。

 トウハ氏族の東南に新たな氏族を立ち上げても、まだまだ海域は広いんだろう。

 俺も南の端を見てみたい気もするけど、このトリマランで往復20日以上の航海は無理かもしれないな。

 長距離航海もできる船を何時か作って確かめてみたいものだ。


 偏向グラスのサングラスで海を眺めると、サンゴが繁茂する様子を眺めることができる。

 異論で分かるということは、水深3m程度じゃないのかな?

 ちょっと大きなサンゴだとさらに水面近くまで来ているかもしれない。スクリューを破損するカタマランは話にも聞いたことが無いけど、ちょっと心配になってきたぞ。


 そんなことを考えると余計に不安になってくる。

 偏向レンズではない普通のサングラスをかけて、なるべく忘れるよう島を眺めながら過ごすことにした。

 だけど、一度持ち上がった不安は中々消えないんだよなぁ……。


 夕暮れ近くになってトリマランの速度が急に落ちた。

 ほっと胸を撫でおろしたところで、周囲を眺める。

 

 ゆっくりと進んでいるのは、サンゴの穴に近付けてトリマランを停めたいのだろう。

 漁場はトーレさん達の操船で決めるんだから、少し離れて様子をうかがっているのかな?


 やがて左右のスクリューが止まった。

 リアスラスターを使って、バゼルさんのカタマランに横付けするんだろう。

 普段ならアンカーを下ろすことになるんだが、バゼルさんのカタマランにトリマランの前後を結ぶことで潮流による動きを合わせる。

 船首のロープは俺が結ぼう。

 バゼルさんに船尾からロープを投げると、船首に向かうと手で合図を送る。頷いてくれたから分かってくれたに違いない。


 船首に向かうと、カタマランの船首にサディさんが立っていた。俺にロープを投げてくれたので船を寄せる動きに合わせてロープを引き、舷側に垂らした緩衝用のカゴが軋む音を聞いてところでロープを結び付ける。


 これで互いの船は30cmほども離れていない。

 屋形の中を移動して船尾の甲板に出ると、トーレさん達が乗り込んでいた。


 隣の甲板からバゼルさんが手招きしている。

 料理は嫁さん達の仕事だからなぁ。おとなしくバゼルさんと一緒にパイプを楽しんで待つことにしよう。


「ここは多くても3隻だろうな。この南には岩棚が東西に続く漁場がある。船団ならそちらに向かうだろう」

「でも、かなり深そうですね。大物が潜んでいそうです」


 俺の言葉に、バゼルさんが笑みを浮かべた。


「フルンネがたまにやってくる。それほど大きな群れは作らんが、大物だぞ」


 今度は俺が笑みを浮かべた。

 大きなフルンネなんて久し振りだからなぁ。

 氏族の島から1日程度では、やはり大物はお目に掛かれない。

 とはいえ中型揃いだから、カタマランを購入したばかりの夫婦には丁度良い。


「ザバンに大物用の銛を積んでおけ。船に戻るより早く凌駕できるぞ」

「そうします。大物は久し振りですから上手く突けるかどうか……」


 いきなり背中をドン! と叩かれた。


「若いんだから少しは上を目指すんだな。実力も無いくせに突こうとする連中もいるんだが、ナギサはきちんと突けるからな」


 思わずバゼルさんに顔を向けて、頷いてしまった。

 あまり銛は上手くないと思うんだが、バゼルさんの目には十分に映るのが嬉しくなる。


「出来たにゃ! 早く食べて夜釣りを始めるにゃ」


 タツミちゃんが、甲板に立って俺達を手招きしている。

 バゼルさんと一緒に腰を上げてトリマランの甲板に乗り込んだ。


 美味しいんだけど、3杯目の御代わりは遠慮しておこう。これから仕事となれば腹八分目で十分だ。

 まだ鍋がカマドに乗っているところをみると、夜食も期待できるんじゃないかな?


 食後にカップ半分ほどのココナッツ酒を飲まされてしまったけど、バゼルさんと一緒では仕方のないところだ。

 タツミちゃん達が後片付けを終えると、バゼルさん達夫婦はカタマランに帰っていった。

 甲板にはランプが1つ。帆柱の上にもう1つランプがあるから夜釣りをするには十分な明るさだ。

 

 竿を5本取り出してけど、2本はシメノン用だ。

 ここでシメノンは見ていないとバゼルさんが言ってたけど、フルンネが回遊するなら案外来るんじゃないかな?


「エメルちゃん。これを使ってくれないかな? 途中で作った竿だけど、仕掛けは付いてるから、釣り針に餌付けするだけで良いよ」

「ありがとうにゃ。でも難しそうにゃ……」

「私が教えてあげるにゃ。大きいのが掛かってもこれなら安心にゃ」


 タツミちゃん達は船尾で竿を出すようだ。

 となれば俺は舷側ってことだな。カマド近くにベンチを移動すると、ベンチの脚に竿の紐を巻き付けておく。

 餌は昨日釣ったカマルの切り身だ。

 仕掛けを投入したところで、糸ふけを取り棚を合わせる。

 海底より50cmほど上で餌が踊ってるはずなんだが……、さて、何が掛かるんだろう?


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