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P-076 トリマランには魔道機関が5つ


「雨期が終わったら、何度か一緒に漁をするにゃ!」

「2人目か……。ちゃんと暮らしていけるかな?」

「大きな船で楽しく漁をするにゃ」

 

 ネコ族の人達は前向きというか、楽天家が多いんだよね。

 まあ、沈んだ性格よりはありがたいんだけど、漁の仕方も変わってくるんじゃないかな?

 ザバンを使って広範囲に素潜り漁ができるし、曳き釣りの手助けもして貰えそうだ。

 ガリムさんの船団は嫁さんが2人という船は無いから、別の船団に入るのか、それともバゼルさんのように単独で漁をすることになるのかな?

 さすがに単独はまだ早いように思えるから、その時にはバゼルさんと同行させてもらおう。


 漁の結果に、タツミちゃんと一喜一憂していると、雨期の終わりのリードル漁が行われる。

 何時ものように、バゼルさんの家族と一緒になってのリードル漁だが、女性が1人増えていた。

 ザネルさんの2人目の嫁さんで、ホクチ氏族の出身らしい。タニアさんのお腹が少し大きいから、次の雨期明けのリードル漁の時には、赤ちゃんを見ることができるんじゃないかな。


「メイリンって言うんだ。仲良くしてくれよ」


 ザネルさんの紹介で、メイリンさんが俺達に頭を下げる。俺よりはずっと年上に見えるから、お姉さんが増えた感じだ。


「次はナギサの番だな。聞いてるぞ。上手く暮らすんだぞ」

「その前に、船を替えねばなりません。先が長いですよ!」

 

 俺の答えに笑みを浮かべて、俺の肩を叩く。「頑張れよ!」という言葉には重みがあった。

 案外2人の嫁さんに、苦労してるのかもしれないな。


 3日間のリードル漁で、上位魔石を4個手に入れることができた。

 手持ちと合わせれば、十分に大型カタマランの購入ができる。

 魔石のセリに参加するためにやってきた商船の1つに、白地に青の横線を2本入れた船を見付けた。


 かつてアオイさんのトリマランを作った船だということだから、早速訪ねてみた。

 店員の案内で2階の小部屋に入る。

 少し待っていると、ドワーフ族の職人が入っていたのだが、顔中髭だらけだから歳がまるで分からないんだよなぁ。


「2番目の船と聞いたぞ。全長4FM(12m)だろうが、改造があるということじゃな?」

「5FM(15m)で3胴の船、トリマランを作って頂きたい。このような形で作れないかと描いてきたのですが……」


 バッグから粗末な紙に描いた図面を見せた。

 ドワーフ族の職人がジッと図面を眺めている。やはり難しいんだろうな。資金が足りるかどうか心配になってきた。


「ワシの親方がかつて似た船を作ったと話してくれた。確か、トウハ氏族の男だったようだ。ワシが一番驚いたのは、その船が海面を離れて進むという事であったのだが、さすがにそれは無いようじゃな。

 今でも図面が残っておるから、作るのはそれほど苦労はせんだろう。だが、魔道機関が5個とはのう……。長生きはするもんじゃな」


「それでいかほどになるんでしょうか?」

「その他に面倒なところは無さそうだな。金貨17枚というところだ。作るのか?」

「お願いします。待っておれ、今書類を作らせる」


 カタマラン2隻の値段を越えてるな。

 長く使って元を取らないといけないようだ。だけど、甲板だけで5m四方を越えているからね。子供が生まれても十分に遊ばせられそうだ。

 

 ドワーフの職人が部屋を出ていったところで、テーブルのタバコ盆の熾火を使ってパイプに火を点ける。

 島に戻った時には、特許の対価で得たこのパイプを使えるけど、漁の最中は最初に勝った安物だ。

 落としたりしたら大変だからね。


 やがて、店員を連れて戻ってきた。店員は商会ギルドに所属している人間なんだろう。

 契約時には欠かせない存在らしい。


「これが契約書になります。作る船はトリマランで魔道機関が5個。その中の2個は魔石8個を使います。全長5FM(15m)で、主な改造は、添付した図面と通り……。これで間違いはありませんね?」


「問題ありません。値段は金貨17枚ですね。引き渡し時期は?」

「たぶん4か月は掛かるでしょう。お代は引き渡し時になりますが」


「出来れば、次のリードル漁の後にしてくれないかな? 現状の手持ち金貨は15枚。2枚足りないんだ。リードル漁が終われば金貨3枚以上は確実だ」


 俺の言葉に、店員が急に顔を上げた。

 やはり現金払いじゃないと不味いのかな?


「リードル漁で金貨3枚ということは、上位魔石を確実に手に入れられるということですか?」

「今まで手に入らなかったことは無いから、たぶん大丈夫だと思ってるけど?」

「それなら、引き渡し時に金貨15枚で結構です。その代わり、この次の乾期の終わりのリードル漁で手に入れた上位魔石を2個譲って頂くわけにはいきませんか? もちろん、1個金貨1枚で購入いたします」


 今までのリードル漁では、最低でも上位魔石を3個手に入れている。だけど、それほど上位魔石に拘るのは何か理由があるんだろう。


「シドラ氏族の風習に関わらないならそれで良いんだけど、返事は明日でも良いだろうか?」

「今後の取引に差し障りが出るのも問題です。その時には、乾期の終わりのリードル漁を終えた時に、金貨2枚を追加してください。

 このような裏取引をする真似はしたくはないのですが、どうしても上位魔石が欲しいのです」


 そんな話をしてきたことをバゼルさんに説明したら、話の途中で笑い出した。


「中々おもしろい交渉をしてきたな。シドラ氏族がギョキョーを使ってセリをするのは、魔石の値が下がるのを防ぐためだ。

 ナギサが魔石2個を、特定の商船に売り払っても、その他の魔石がセリに掛かるなら問題はない。

 気にせずに契約してこい。たとえ上位魔石が取れずとも、中位、低位は獲れるはずだ。十分に支払いは出来よう。それにしても5FM(15m)とはなぁ……。この船より大きいぞ」


「ちゃんと操船できない時は、私が代わってあげるにゃ」


 トーレさんは嬉しそうだ。1度は操船させてあげないといけないってことかな。

 

「そうなると、乾期の中頃には新たな船がやってくるな。ナギサの船を氏族が買い上げることになるんだが?」

「売れるんですか?」


「3年にも満たないカタマランだ。欲しがる漁師は多いだろう。金貨2枚にはなるだろうから、新たな船を手に入れても財布の中が空になることは無いぞ」


 今の船をどうするかなんて考えていなかった。

 だけど、タツミちゃんがあちこちの金具をいつも磨いていたんだよね。

 愛着はあるけど、通義に使ってくれる人だって大事に使ってくれるんじゃないかな。


「今夜の集まりにはカルダスに伝えてやろう。長老達も喜ぶに違いない」

「乾期の中頃にゃ! きっと綺麗な船にゃ」


 タツミちゃんは嬉しそうだ。でも、カルダスさんに伝えるのはまだ早いんじゃないかな?


「それだけ大きいと魔石8個の魔道機関だな。かなり速度が出るぞ」

「1つ相談が。そうなるとガリムさん達と足が揃いませんし、嫁さんが2人なら楽に漁が出来ます。ガリムさんの船団を離れて、バゼルさんと行動してもよろしいでしょうか?」


 俺の話に、バゼルさんが考え込んでしまった。

 俺の歳なら、どこかの船団に属しているということになるのかもしれない。


「それも確認しておこう。今でも腕は中堅だからな。子供が出来たならリード達の船団でも良さそうだが」

「2人目を貰ったから、ザネルが戻ってくるにゃ。数隻が一緒だからナギサが混じっても問題ないにゃ」


 トーレさんの言葉に、バゼルさんが笑みを浮かべた。

 それが良いってことかな?

 だけどいつ戻ってくるんだろう?


「その辺りも今夜確認してこよう。ザネル達なら丁度良いかもしれんな。他の氏族と混じって漁をしてきたからその成果も楽しみだな」


「その前に夕食にゃ!」

 

 トーレさんの言葉に、俺とバゼルさんとで甲板を片付ける。

 直ぐにサディさんとタツミちゃんが大きなお皿を運んできた。今日は何だろう?

 

 炊き込みご飯は久し振りだな。だけど、出来上がったところでパイナップルを混ぜるのはどうかと思う。

 ちょっと甘口になったけど、香辛料たっぷりの魚のスープには丁度良い。

 何時ものようにおかわりをしてしまった。


 お茶代わりにココナッツ酒を飲んだバゼルさんが、氏族の集まりに出掛けて行った。

 ココナッツ酒はカップに半分だったから、パーコレーターでコーヒーを作ってみる。

 コーヒーは豆で手に入れたし、飲む前に挽くのが良いんだよね。

 ガリガリと削ったコーヒーを沸騰したパーコレーターのポットに入れれば、数分で出来上がるはずだ。

 できれば白い陶器のカップが欲しかったけど、手に入ったのはマグカップを小さくしたような陶器のカップだった。

 まあ、風情が無くはないんだけどね。


 パーコレーターを下ろしてカップに注ぎ、砂糖は各自の好みということになる。

 甘くて苦いのが俺にとってのコーヒーだから、砂糖はたっぷりと入れて飲む。


「美味しいにゃ。大人の味にゃ!」

「砂糖を入れるにゃ!」

「苦いのを我慢するのが大人にゃ!」


 トーレさんとサディさんの味の好みはかなり違うんだよなぁ。

 でも、どちらが料理を作っても美味しんだよね。


 コーヒーの後はワインを頂く。

 バゼルさん達はお茶なんだろうけど、こっちはのんびり気ままに帰りを待つだけだからね。

 かなり遅くなって、バゼルさんが帰ってきた。

 直ぐにココナッツ酒のカップをサディさんが渡してるけど、バゼルさんは一気に飲んでしまった。

 2杯目を少しずつパイプを楽しみながら飲んでいる。


「結論から言うと、ガリムの船団を離れてザネル達が帰るまでは自由で良いそうだ。

 俺達と一緒に漁をすれば良い。ザネル達が帰るのは次のリードル漁に直前らしい」

「一緒に漁ができるにゃ。大きな船の操船は難しいにゃ。ちゃんと教えてあげるにゃ」


 一番嬉しそうなのは、トーレさんだ。

 何度か操船させてあげないといけないんじゃないかな? でも、2つのカマドの使い方を教えて貰えそうだから、タツミちゃんだって嬉しいに違いない。


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