表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
460/654

P-074 コフィの飲み方


 雨期の漁は、とりあえず無難に推移している。

 2日の漁果が銀貨1枚に達しない時もあったけど、80Dを下回ることは無かった。

 数回の漁果を平均すれば銀貨1枚以上になっているから、とりあえず赤字にはなっていない。

 

 たまに隣に停泊するバゼルさん達にも漁の腕を褒められるけど、ガリムさんが率いる船団全体を見れば、少し持ち出しをする者も多いらしい。


「次のリードル漁までに、低級魔石の売値2個程度の持ち出しで済ませられるなら十分だ。奴等なら、リードル漁で魔石は15個以上手にしているだろうし、その内の数個は中級魔石の筈だ」

「中級は数個で金貨1枚になるんですよね?」


「3、4個だろうな。リードル漁の回数だけ金貨が増える。次のカタマランは中型になるから金貨12枚以上のはずだ」


 最短でも数年はかかるということになるのだろう。

 次のカタマランと2人目の嫁さんを目指して、皆は頑張っているに違いない。


「ところで、次の船は何時頃手に入れる予定なのだ?」

「このまま行けば、2回ほどリードル漁をしたところで次の船を頼もうかと考えています」


 俺の話を聞いて、笑みを浮かべる。

 何か面白いことでもあるんだろうか?


「それだけ金貨を集めるとなると、このカタマランよりも大きくなりそうだな」

「かつてアオイさんが作ったという船を、手に入れようかと考えてるんです。今使っている船ではあまり遠くには行けないですからね。シドラ氏族の範囲は広いでしょうし、ニライカナイは更に大きいはずですから」


 うんうんとパイプを咥えて頷いているのは、それが若者達の共通した考えなんだろうか?


「俺も今の船の前は、もう少し大きかったのだ。子育ては大きい方が良いからな。それに遠くまで出かけられる。他の氏族の島にも何度か出掛けたぞ。

 どの氏族の島に行っても、漁果をギョキョーに卸すことができる。ニライカナイには6つの氏族があって、それぞれ特徴的な漁をしている。訪問すれば歓迎してくれるはずだ」


「それなら、何度かニライカナイの氏族の島を巡ってみたいですね。そうだ! 他の氏族の漁場で漁をしても構わないんでしょうか?」


「2、3隻で漁をしたところでたかが知れている。だが、他の氏族の島が見える範囲での漁は控えた方が良いだろう。まあ、やったとしてもやんわりと諭されるだけだがな。

 そうだ! 1つだけ漁をしてはいけない場所がある。

 トウハ氏族の島から島1つ分の範囲は、トウハ氏族でさえ漁をしない。

 あの島は、カイト様が龍神の案内で見つけた島だということで、龍神が住んでいると信じられている。

 ……あまり信じておらんな? あの島の浜にまで龍神が来たらしいぞ。アオイ様の2人目の妻の難産を見かねてのことらしい。龍神は難産を助けると女衆が今でも言っているぐらいだ」


 凄い話だな。

 最初の訪問先はトウハ氏族にしよう。タツミちゃんの故郷だから丁度良い。それに、島の位置も覚えてるんじゃないかな。


「となれば、そろそろ2日目の嫁を探さねばならんな。タツミは竜神のお告げでやってきたが、2人目もそうだとは限らんだろう。

 島の男衆はほとんどが幼馴染を妻にしている。ナギサにはそれが無いのが問題だが、トーレ達がこれはという娘を探してくれるだろう」


 それって、近所の世話好き小母さんそのものじゃないか!

 確かに女性にどうやって話して良いか分からない俺みたいな男達や、引き籠りがちな女性達を何とかしたいという善人ではあるんだろうけど……。


「カヌイの婆さん達や、長老までもが気にする始末だ。案外早く見つかるかもしれんぞ」

「脅かさないでくださいよ。今のところ2人で上手くやってるんですから」


 そんな俺の言葉に、バゼルさんが笑い声をあげる。

 全く、困ったことになってしまったな。


 長くいると、そのまま2人目の嫁さんが現れそうだから、早々に退散して浜の北の桟橋に停泊している商船に行ってみることにした。

 特に欲しいものはないんだけど、タバコとワインを買い足しておこう。

 

 商船の1階にある店に入ると、外周が全て陳列棚だし、店の中にも2つの棚がある。

 食器から漁具まで揃えられる品揃えだ。

 見ているだけで楽しめるんだよね。


 そうだ! ひょっとしてあるかもしれないな。

 店員を探して、早速聞いてみる。


「飲み物を探してるんだが、黒くて苦い飲みものを知ってるかな? 原料は豆みたいなものなんだけど……」

「ああ、コフィですか! ありますよ。でも売り物ではないです。船員が飲むのでどの商船にも常備してはいるんですが」


「少し分けて貰えないかな?」

「粉でカップ1杯ぐらいなら、何とかなるかもしれません。確認してきます」


 ちょっと嬉しくなってしまう。

 直ぐに紙袋に入れたコーヒーを持って来てくれたんだが、値段はタダで良いらしい。


「商会ギルドなんだから、これも売り物になるんじゃないのかい?」

「まさかニライカナイで売れるとは思いませんでしたので、料金はいりませんよ」


「となると、次は豆で欲しいんだけどどれぐらいなら商ってくれるんだろう?」

「焙煎後ならこの袋3つで10Dと言うところでですね。大陸での商い値と同じです」

「磨り潰す道具と、こんなポットが出来ないかな? ちょっと、メモを貸して欲しいんだけど……」


 ドワーフの職人は優秀だからな。パーコレーターぐらいならかんたんに作れそうだ。


「飲み方は知っているんですよね?」

「大丈夫。砂糖を入れて飲むんだろう?」


 店員の話を聞くと、どうやら鍋でコーヒーを煮るらしい。最後に砂糖を入れて上澄みを陶器のカップで飲むらしいのだが、それだと一緒にコーヒーのカスが入ってしまわないか?

 

「布で袋を作り、針金を枠を入れるんだ。煮だしたコーヒーをそれで濾過すれば、コーヒーのカスがカップに入らないよ」

「ここにいてくれませんか? 早速試してみます!」


 カウンターの奥に走って行ったけど、作るつもりなのかな?

 釣り具でも眺めて時間を潰していると、さっきの店員が2階の部屋に案内してくれた。

 若い娘さんがジュースを出してくれたけど、窓を開けてならパイプを使っても良いと言ってくれた。


 一服を楽しんでいると、ドワーフ族と先ほどの店員がやってきた。

 小さなテーブル越しに座ると、俺が書いたメモを取り出した。


「初めて見る代物だが、用途があるに違いない。教えて貰えんだろうか?」

「コーヒーがあると聞いて、これを作ってもらいたかったんです。先ほど、コーヒーのカスが残らないやり方を教えましたが、これもその方法の1つです。

 この管の付いた上にある容器にコーヒーを入れて、沸騰したポットに入れれば卵を茹でるぐらいの時間でコーヒーが出来ます」


「この管に秘密があるのか?」

「ポットのお湯が沸騰すると、この管をお湯が上に上がってくるんです。容器の下に小さな穴が開いてますから、しばらく火に掛けておけばコーヒーが出来ますよ。店員さんに教えたやり方の方が美味しいらしいんですけど、時間が掛かるのが難点です。これだと放っておけば良いですから手軽なんです」


「なるほど……。ポットはワシが作る。明日には出来るから取りに来ればいい。布を使って濾すやり方はエイムズがやるんだぞ。十分に特許になるはずだ。

 さて、そうなると見返りと言うことになる。

 特許料としてバカにできぬ金が我等に入ってくるだろう。その見返りは、やはり金が良いか? それとも……」


「ちょっと待ってください。俺はコーヒーのカスが入ってないコーヒーを飲みたいだけですよ。それが特許になるとは思ってもみませんでした」


 向こうの世界で、最初にドリップやパーコレーターを考えた人はちゃんと特許を取得したんだろうか?

 この世界にはまだ無いってことなんだろうな。

 一体どれだけの特許料になるか分からないけど、コーヒーが美味しく飲めるならそれで十分だと思うんだけどねぇ……。


「ネコ族の連中は物の価値を知らんで困る。船1艘と言われても困るところだが、これで譲ってくれんか?」


 ドワーフ族の職人、たぶん親方なんだろうな。

 腰の古びたバッグから布に包んだものを取り出した。

 開いてみると、パイプが入ってる。

 銀製のようだな。俺の使っているパイプが何本買えるんだろう? タバコ込みで一生分の値段位になるんじゃないか?


「かつてトウハ氏族の聖痕の保持者に、特許を譲って貰った時の対価がこれと同じ品だ。ドワーフ族の手慰みではあるが、その細工に20年を費やしている。刻んだ絵柄の中にいくつかの魔方陣を組み込むのが我等の腕の証だ。これなら先例もあるし、我等も対価として引き渡すだけの言い訳ができるのだが」


「工芸品じゃないですか! 美術館に展示するような代物を頂いてもよろしいのですか?」

「価値が分かればそれで十分だ。できれば聖痕の保持者であって欲しかったが、こればかりはどうにもならんわい」


 俺の前にスイッとパイプを置いてくれた。

 良いのかな? どう見ても人間国宝の人が作ったような繊細な絵柄が彫りこまれている。


「ありがたく頂きますが、もし、特許料がさほど入らない場合にはお返しします」

「そんなことにはならんだろう。コーヒー好きは多いのだ。だが工夫しようと思わぬ連中ばかりだからな。明日の昼過ぎに来るが良い。それまでには作っておくぞ」


 2人に頭を下げると、銀のパイプをバッグに納めて商船を後にした。

 かなり時間が過ぎてるから、タツミちゃんが心配しているかもしれないな。

 それとも夕暮れがそろそろだから、トーレさん達と賑やかに夕食作りをしているかもしれない。


「ナギサ! こっちだ」

 

 バゼルさんが甲板のベンチから俺を呼んでいる。どうやら、タツミちゃんも来ているようだな。


「商船に行っていたのか?」

「たまに覗くといろんな品がありますからね。今回はこれを手に入れました。コフィと言うらしいんですが、前に住んでいたところではよく飲んでいた品です。こちらにもあるとは思いませんでした」


「コフィなら飲んだことがあるにゃ。苦くて口の中に粒粒がいっぱい入ってきたにゃ」

「その飲み方を教えたら、特許がどうのこうのとドワーフ族の職人と話が始まってしまいまして遅くなってしまいました」


 とりあえずこれでも飲んでいなさいと、ココナッツの殻をカップにしたココナッツ酒を渡されてしまった。

 トーレさんは珍しいものが好きなのかな? コーヒーを飲んだことがあるようだ。


「これぐらいの布の袋を作ってくれませんか? 上を針金が通るぐらいに縫い付けて欲しいんですけど」

「おもしろそうにゃ。直ぐに作ってあげるにゃ」


 夕食後に作るのかと思ったら、すぐに始めるみたいだ。

 サディさんとタツミちゃんに、夕食は任せるつもりなのかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 猫族に夜目以外どの程度猫要素があるのかわかりませんが、 家猫ってカフェイン中毒で死ぬと聞いたことがあります。 体質的に大丈夫なんでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ