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P-073 かつて大噴火が起きたらしい


 2日間の漁を終えて氏族の島に帰ってきた。

 さすがに雨期の漁は乾季の漁より振るわない。それでも、重そうに背負いカゴを背負ってタツミちゃんがギョキョーへと向かっていった。


 商船の店内で見つけた粗末なノートと鉛筆を使って、今までに見た幻影を箇条書きで書き留めてみる。

 すでに3度あったから、ページごとに書き込むことにしたのだが、何時見た幻影かも記録しておいた方が良いと考えて、この世界に月日の概念がないことに気が付いた。

 雨期と乾期で区別しているし、それを大きく3つぐらいに分けている気もするな。

 雨期の初めとか、終わりとかいうことがある。

 その中の細かなところは、月の満ち欠けで決めている気もする。

 バゼルさんが「次の満月にはリードル漁だ」などと言ってるくらいだからね。


 月日を気にするようになるのは、農耕文化があるからなんだろうか?

 種蒔きの時期がずれたら収穫に影響するだろう。

 その点、ニライカナイの生活は2つの季節と季節が変わる時期の満月に行われるリードル漁が月日の経つことを教えてくれることになる。

 年齢だって、生まれてから雨期の終わりのリードル漁が何回行われたかで知ることができるんだから、別に月日を気にせずに過ごすことができるんだよなぁ……。


 俺もこの世界で雨期終わりのリードル漁を3回経験している。

 やってきたのが17歳だから、今年で20になるってことだな。

 友人達は、ちゃんと大学に進学できただろう。中には名ばかりの大学に行った奴もいるだろうけど、大学は大学だからな。

 それに引き換え、俺は高校中退ってことになりそうだ。

 普通科ではあったけど、暮らしに役立つような勉強はなかった気がする。

 どちらかというと、遊びや趣味の世界で知りえた知識が役立っているんだよなぁ。

 生きていくための勉強は誰が教えてくれるのだろう……。


 それにしても、浮かび上がる島々に大きなカタマランと2人の嫁さん。今回見たのは泡立つ海だった。

 嫁さんとカタマランを別にすれば、やはりこの海域に大きな近く変動があることを暗示しているようにも思える。

 バゼルさんの話では、アオイさん達が暮らしていた時代に南の海域で噴火が起きたらしい。

 島が吹き飛んで新たな島ができたということだったが、その時発生した津波はニライカナイだけでなく大陸の沿岸地方にまで大きな被害を与えたそうだ。

 ナンタ氏族の住民が半分になったということだから、ニライカナイは壊滅寸前だったのかもしれない。


「その時に我等の行動を具体的に示してくれたのがアオイ様とナツミ様だったのだ。

 数年間になすべきことを俺達に説明し、順序立てて復旧と大陸の王国の干渉を撥ね退けてくれた。あの2人が今のニライカナイを作ったといっても良いだろうな。

 だが2人は最後までトウハ氏族の島で暮らしたらしい。

 長老になるまでは、長老の左手の席で長老達の知恵袋として一歩引いた位置にいたらしい」


 奥ゆかしいというか、面倒ごとを嫌うというか微妙なところだな。

 そんなことだから、ニライカナイの6氏族の誰もがアオイさんとナツミさんを知っているようだ。

 将来は伝説の人物になるんじゃないかな。

 

 ちょっとカイトさんの評価が低い気もするけど、バゼルさんはそんなことはないと力説してくれた。


「アオイ様達も、カイト様の業績を高く評価していたようだ。「カイト様が種をまきアオイ様達が育てた……」カヌイの婆様達が子供達に教えているぞ。

 面白いことに、カイト様の年代とアオイ様の年代は3世代ほど離れているのだが、アイ様はカイト様に漁を教えてもらっていたそうだ。

 我等に漁を教えてくれた時にも「向こうでカイトさんに教えてもらった」と良く言っていたそうだ」

 

 向こうの世界の時間の流れと、この世界の時間の流れが一致しないのだろう。

 3人とも帰る手段を考えた様子が無いのは、帰った時の浦島効果が怖かったのかもしれない。

 やはりこの世界で一生を送ることになりそうだ。

 となれば、生活の利便性を上げてあげたい気もするけど、向こうの便利な世界が「どのようにして作られたのかは、授業で教えてもらえなかったんだよなぁ。

 

 サバイバル技術を教えてくれとは言わないけど、漁の仕方や獣の狩り方、それに開墾と農業の初歩については教えてくれても良いんじゃないかな。

 ある日突然、文明社会が崩れることだって想定できたはずだ。最終戦争数分前をどこかの団体がたまにテレビで声を張り上げて注意を促していたぐらいだからね。

 日本人はことなかれ主義だから、見たくないものを意識的に遮断してしまうのだろう。

 だが、何時必要に成るか分からないのであれば簡単でも良いから子供達に教えるべきじゃないのかな。

 ……まあ、今言っても始まらないか。

 ぼやいても現状が変わるわけではないし、俺が見た幻影の謎が解けるわけでもない。

 

 やはり、一番の問題はこれがどこで起きるか、それによって俺達の生活に影響が出るかの2点になりそうだ。

 時期はかなり曖昧だけど、ずっと先のことではないらしい。オウミ氏族の聖痕の持ち主は東が気になると言っていた。

 やはり、東の海域ということになるのかな?

 だがオウミ氏族にとっては、トウハ氏族の海域やその東のシドラ氏族の海域だって東の海域には違いない。

 海に異変が起きているのかどうかを調べる必要があるかもしれない。

 少なくともシドラ氏族の海域については素潜りをすれば少しは異変を確認できるんじゃないかな?

 普段と異なる点がないかどうかを見てくれるだけでも十分だろう。

 

 タツミちゃんが帰ってきた。

 背負いカゴを片付けて、甲板に戻ってくると俺の隣に腰を下ろす。


「今回は、一緒の船もあまり振るわなかったみたいにゃ。それでも不漁とはならないにゃ」

「ガリムさんの案内が良かったんだろうね。できればシーブルやシメノンの群れに遭遇できれば良かったんだけど……」

「しばらくシメノンの群れに会ってないにゃ。ギョキョーの話では南に行った船団がシメノンを持ってきたそうにゃ」


 今度は南に向かうかもしれないな。

 シメノンは回遊することをガリムさんに教えておいたから、先回りして群れを待つことができるかな?

                ・

                ・

                ・

 2日の休養は、漁具の手入れが主体になる。

 昼過ぎのオカズ突きは恒例行事だけど、今回は豪雨になってしまったから、甲板から釣竿を出してのオカズ釣りだ。

 数匹を釣り上げてタツミちゃんに渡したところで、豪雨を眺めながらパイプを楽しむ。


「明日は南に向かうにゃ?」

「南西方向に向かうらしい。あまり大きくはない漁場があるというから、延縄を仕掛けたところで東に向かって引き釣りということになりそうだよ」


「曳き釣りは大物が掛かるにゃ。タモ網の破れは繕っておいたにゃ」

「ありがとう。この間気が付いたんだけど忘れてたよ」


 俺の言葉に笑みを浮かべてお茶を沸かし始めた。

 まだ夕暮れには早いということなんだろう。この豪雨が明日の出発までに止んで欲しいところだ。

 恨めし気に空を見たけど、クモの切れ目さえ見えない程だ。

 少し離れた桟橋に停泊しているカタマランがぼんやり見えるぐらいの降りだからなぁ。豪雨が明日の朝まで続いたら、出発を延ばすことにはなっているんだが……。


 夕暮れ前だけどランプに光球を入れて、タツミちゃんが夕食の準備を始めた。

 今夜も2人だけの食事だが、話題には事欠かない。

 新たなカタマランいやトリマランの姿を絵にして、改良を加える場所や、追加するものを書き込んでいる。

 その絵を見ながら、2人で話し合うのが結構楽しいんだよね。


「操船櫓が大きくなるにゃ。これなら2人目の嫁さんが来ても一緒に操船ができるにゃ」

「海図と磁石はこことここに置けばいいよね。操船は大きな舵輪で行い。小さな舵輪はリアスラスタの向きを変えることができるんだ」


「魔道機関のレバーが4つあるにゃ。間違わないかにゃ?」

「この2つが通常の推進レバーだし、こっちは船の絵を書いて船首と船尾にレバーを付けてあるから間違えることはないと思うよ」


 5つの魔道機関を搭載するんだから、かなり速度上がるだろうと思う人もいるかもしれないけど、たぶんバゼルさんのカタマランと同じぐらいになるんじゃないかな?

 横手方向に動くスラスタ用が2つに、船尾の左側のベンチ内に設ける小さなロクロ用の機関だ。

 だが、例の幻影を確かめるとなるとさらに工夫が必要かもしれないな。

 船体を頑丈に作りたいし、海中の様子を探るものも必要かもしれない。


 いつものように夕食後のワインを飲み終えると、タツミちゃんと屋形の敷物の上で横になる。

 豪雨がうるさいぐらいだ。明日には止んでくれれば良いんだけど……。


 翌日は、昨夜の豪雨がうそのように、空が晴れている。まだ朝日が昇らないけど今日は1日中晴れてくれるかもしれない。

 すでにタツミちゃんが食事の支度を始めている。

 早めに出発したいから、朝食は簡単なものになりそうだ。

 ふと目に付いた水汲み用の真鍮の容器の中身はあまり残ってないんじゃないかな?

 一昨日汲んだんだからたぶん空のはずだ。


「水を汲んでくるよ」

「なら、残った水をこれに入れてほしいにゃ」


 お茶を用意しておくのだろう。

 2リットルは入りそうなポットに、残った水を入れてもまだ少し残っているけど、これは無視するしかなさそうだ。

 運搬用の水瓶を持って水場に向かう。

 浜を歩いていると、あちこちの桟橋で動きがあるようだ。俺達以外にも出掛ける船が多いのだろう。

 水場も順番待ちになってるかもしれないな。

 そんな心配をしながら足を速めた。



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