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P-067 ロデニルは煮ても焼いても美味しい


 期待を込めて始めた夜釣りだったけど、世間は俺達に厳しいようだ。

 ぽつりぽつりと釣れるんだけど、バヌトスが多いんだよねぇ……。

 

「明日は場所を変えようか?」

「初めての不漁にゃ。でもクオを突けたら、それほど悪くはないにゃ」


 置き竿にして、お茶を飲みながら一休み。

 ついつい気落ちした言葉が出るほどだ。

 熱いお茶をもう1杯。冷めるまでパイプを使って間を持たせよう。


 数分後にパイプを仕舞って、お茶のカップを取ろうとした時だった。

 突然竿が引き込まれ、ドラグの音がジージーと鳴り続ける。

 急いで竿を持つとのけぞるようにして合わせを取る。ドラグを締めて巻き取り始めたんだが……。


「タツミちゃん。シーブルみたいだ! 群れているはずだから少し棚を上げたほうが良いかもしれない」

「分かったにゃ!」


 タツミちゃんが「キャッ!」と小さく叫んでいる。どうやら竿を取り上げて、巻き始めた途端に食いついてきたみたいだ。

 両方に針掛かりしたとなれば、タモ網が使えないな。

 ここはごぼう抜きにするしかなさそうだ。

 ハリスは4号だから、早々切られることはないはずだ。


 竿の弾力を生かして、魚の強い引きを上手くごまかしながらどんどん巻き上げていくと、魚の引きが少しづつ弱まってくる。

 舷側近くまで寄せたところで、仕掛けを掴んで甲板にグイ! と取り込んだ。

 バタバタと暴れるシーブルの頭に棍棒を叩きこむ。

 おとなしくなったところで、釣り針を外すと新たな餌を付けて再び仕掛けを投入した。

 ドラグを少し弱めて、沖ざおにしたところでタモ網を手にタツミちゃんの助太刀に向かう。


「もう少しで手元に来るにゃ!」

「タモ網を入れるよ。上手く誘導してくれ!」


 大きなタモ網だから、慣れれば誘導するのにそれほど苦労はしない。

 手釣りだとかなり難しいと思うな。俺はこのまま釣竿とリールの組み合わせで行こう。

 

 タモ網に大きな魚が半ば入ったところで力任せにタモ網を引き上げる。

 バタバタと網の中で暴れている魚を甲板に下ろすと、少し魚体が緑色だ。


「グルリンにゃ!」


 棍棒でポカリと叩いておとなしくさせたところで、タツミちゃんが再び仕掛けを投入する。

 クーラーボックスにポイッ! と魚を入れると自分の竿先をじっと見つめている。

 俺の釣り上げたシーブルも一緒に入れてくれたようだ。

 次は俺もグルリンを……と期待をしていると、手に持った竿に強い引きが伝わってきた。

 ドラグを調整しながらどんどん道糸を巻き取る。

 さて、何が釣れたんだろう?

                ・

                ・

                ・

 2時間ほど、入れ食い状態でシーブルとグルリンが掛ってくれた。

 20匹は超えたかもしれないな。これで昨夜の夜釣りは挽回できたはずだ。

 棚を下げて底物を狙い始めたんだが、最初と同じようにたまに掛かってくる状態が続いている。

 タツミちゃんは今夜の夜釣りを終わりにして、獲物を捌き始めた。

 腹開きにして一夜干しにするのは結構時間が掛るんだよなぁ。

 俺の突いた大きなケオも一夜干しにするらしいのだが、さすがにザルには載せられないから帆桁の先に付けた滑車のフックに吊り下げると言っていた。

 

「開いて竹串を刺すから同じように腹開き一夜干しになるにゃ」

「面倒だね?」

「大きいのはそうやって作るにゃ。明日帰るなら保冷庫に入れておけば良いんだけど……」


 もう1日あるからね。

 獲物を獲るのも大変だけど、それを保存するのはもっと大変らしい。

 一夜干しにした後で、島の老人達が燻製に仕上げるのは、付加価値を上げるだけではないのだろう。

 長期保存ができるようにしなければ、商船だって買い取りに来ることはないはずだ。


 下弦の月が昇ってきたところで、竿を畳む。

 タツミちゃんの作業が終わると、今度は魚を広げたザルを屋形の屋根に上げて落ちないように紐で固定しておく。


「どうにか終わったにゃ!」

「ご苦労様。明日も頑張らないとね」


 甲板に海水を撒いて魚の汚れを洗い流したところで、【クリーネ】で体の汚れを取る。

 寝る前のワインを1杯は俺達の1日の終わりの行事だ。

 月見酒を楽しんだ後は、ハンモックで横になる。

 明日は銛を使う日だ。オカズが増えないことを祈りながら目を閉じた。


 翌朝。日の出前起きて、一夜干しを取り込んだ。

 太陽に照らされると風味が失われるらしい。俺としては日干しにした方が長持ちするように思えるんだが、そこはネコ族の伝統なのかもしれないな。


 タツミちゃんが朝食を作り始めたので、邪魔にならないように屋形の屋根でパイプを楽しむことにした。

 屋形の屋根に立って、偏光レンズのサングラスを掛けると周囲を眺める。

 場所的には良いと思うんだが、夜釣りの数が今一つだ。

 昨夜は、たまたまシーブルやグルリンの回遊に出会ったから良いようなものの、やはり場所を変えたほうが良いのかもしれないな。


「お~い! どんな具合だ?」


 ザバンを漕いできたのは、俺達を率いてきたオルバスさんだった。

 軽く手を振ると船首に方に近づいてくる。屋根を歩いて船首甲板に下りると、すぐ傍にザバンを漕いでくる。


「おはようございます。昨夜はシーブルが群れで来てくれたんで助かりました。グルリンもかなり交じってましたよ。そうそう、ケオという大きな魚も突けました」

「やはりなぁ……。昨夜は他の連中もシーブルを数匹釣り上げたと喜んでいた。ケオはどれぐらいの奴だ?」


「そうですね……、タツミちゃんほどの大きさです。かなり重かったんですが、動滑車をこの船には積んでありましたから何とか引き上げられた感じです」


 目を丸くして驚いている。

 あまり突いた者がいないのかな?

 漁場を荒らすような奴だから、良い漁場にはいないのかもしれない。


「ケオは久しぶりに聞く名だ。タツミがそう言うなら間違いはないだろう。だが、そうだとすれば……」

「昨日の素潜りは散々でしたよ。あまり大物がいない感じでした。フルンネが2匹で残りはバヌトスとブラドです」


「あまり無理はするなよ。それだけでも十分だろう。だがナギサの背中がそれを許さないのかもしれないな……」


 至って普通の初心者だと思うんだけどねぇ……。

 世間はそれを許さないということなんだろうか?

「頑張れよ!」と言い残してザバンを漕いでいったけど、あまりプレッシャーを掛けないで欲しいところだ。


 船尾の甲板に戻ると、タツミちゃんがスープの味見をしている。

 難しそうな表情をしてるんだけど、今までに料理を失敗したことは無いんじゃないかな? 自分の求める味と少し異なるってことかもしれない。

 

 オルバスさんがカタマランを巡って状況の確認をしていることを教えたら「、今日は頑張れ!」と励まされてしまった。


「こればっかりは相手次第だからなぁ。それに今日は銛を使う番だからね。オカズが増えないように祈りながら突いてるんだ」

「なら大きいのを突くにゃ! 大きければ狙いやすいにゃ」


 確かにそのとおりではあるんだが……。

 まだ朝食まで時間がありそうだから、屋根裏から銛を2本取り出して軽く研いでおく。

 タツミちゃんの使う銛は、俺の銛先よりも少し細くて、先端の返しも小さいものだ。

 これなら、あまり魚を傷付けずに獲れるだろう。

 とはいえ、あまり大きいのを突くと銛が曲がってしまいそうだ。

 50cmに達しない獲物を選んで突いているのかもしれないな。


「朝食にするにゃ!」

「準備は出来てるよ」


 木箱を甲板の真ん中に置いて、タツミちゃんが魚を捌く板を引くりが得せば、即席のテーブルになる。

 板に直接座るからたまに座布団が欲しい時もあるが、荷物になるから大きなカタマランを手に入れた時にでも作って貰おう。

 商船には、衣服をその場で手直ししてくれるお針子さんが乗船しているらしいから、説明すれば利用方法が理解できなくても作ってくれるんじゃないかな。


「今朝は何時もと同じだけど、スープが一味違うにゃ」

「タツミちゃんは料理上手だから、何時も楽しみなんだよなぁ」

「まだまだトーレさん達に適わないにゃ。でもトーレさんの歳になればきっと美味しく作れるにゃ」


 経験の差があるってことなのかな?

 それぐらいは俺だって分かってるから気にしなくても良いんだけどね。


 スープは昨夜のロデニルの出汁だった。

 なるほど一味違うな。リゾットに掛けても味がしっかりと残っている感じだ。

 

 朝食を終えてお茶を飲んでいると、早くも素潜り漁を始める姿が見えた。

 食後の休憩は大事らしいから、もう少し経ってから始めよう。太陽が島の少し上にまで上っているが、サンゴの穴の中は未だ暗いんじゃないかな?


「今日はどの辺りで漁をするにゃ?」

「穴の反対側辺りにするよ。昨日はフルンネが群れてたからね」

「私は、北側で漁をするにゃ。ブラドが小さな群れを作ってたにゃ。ケオがいなくなったから魚も増えてるに違いないにゃ」


 あのケオなら、50cmほどのブラドでも一飲みで食べてしまうんじゃないかな?

 それなら、ケオがいた辺りも一度潜ってみた方が良いのかもしれない。

 案外、魚が戻ってるかもしれないぞ。

 

 その状況次第で、カタマランを動かせば良いだろう。

 明日は帰島するから、それ頬遅くまで夜釣りは出来ないが、数を増やすには夜釣りが一番だと思う。


 さて、そろそろ始めるか!

 装備を身に付けて銛を持つ。

 タツミちゃんも足の裏がガムで固められた靴下のような物を履いて、グンテをしている。水中メガネは俺のようなマスク型ではなくて、競泳用の眼鏡のような代物だ。

 俺のようなマスク型は作れないのかな?

 商船が来たら、確認してみよう。視野が広がるし、鼻に海水が入らないから少しは楽になるんじゃないかな。

 

「先に行くにゃ!」

「気を付けてね。俺も直ぐに行くよ」


 タツミちゃんが船尾から飛び込んでいった。

 直ぐに海面に頭を出して北西に向かって泳いでいく。

 さて、俺も頑張ないとな。

 銛を手に舷側から飛び込んで、サンゴの穴の崖に沿って南西に向かう。


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