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P-066 引き上げるのも一苦労


「何かあったにゃ!」

「手伝ってくれ!」 大きいのを突いたんだけど運ぶのに苦労してるんだ」


 俺の話を聞いたタツミちゃんが、その場で顔を海中に付ける。

 すぐに顔を上げたんだけど、びっくりしたんだろうな。水中メガネの奥の目が見開いている。


「私の背丈ぐらいあるにゃ!」

「おかげで運ぶのに苦労してるんだ。カタマランの近くにまで持っていけば船からロープで引き寄せられると思うんだけど」


 タツミちゃんが俺の左手に並んで銛の柄を一緒に持ってくれる。

 最初はタイミングが取り難く買ったけど、だんだんと良くなってきた。

 カタマランから10ほどの距離まで近づくと、タツミちゃんが一足先に船に戻って甲板からロープを投げてくれた。

 ロープを魚の口からエラに通したところで、俺もカタマランへと急ぐ。


 2人でロープを引くと、泳いで運ぶよりも容易に獲物が近づいてくるけど、あれを上げるのはかなり力仕事だな。

 帆桁のような腕木に滑車を付けといて良かったと思う。

 帆桁の先端に付けた滑車から動滑車を伸ばし、甲板の船尾の板を倒して魚の口にフックを引っ掛けた。

 これで引き上げられそうだ。

 ゆっくりと滑車を巻き上げて魚の体が海面から上がってくると、タツミちゃんが包丁を手に獲物に近づいていく。


「内臓を取るにゃ。そのままロープを握っていて欲しいにゃ」

「分かった。でもなるべく手早くお願いするよ」


 子供よりも重いんじゃないか? いくら動滑車を使っているとはいえ、長時間はきついんだよね。


 タツミちゃんが素早くエラ近くの腹に包丁を差し込んでお腹を割いていく。手で内臓を掻き出して後ろに下がったけど、体中血で染まってるんだよな。


「終わったにゃ。後は甲板に引き上げてくれれば良いにゃ」

「分かった。オケに海水を汲んどいてくれないか? 甲板を軽く洗い流さないとね」


 少し軽くなったかな?

 獲物を掴んで甲板に引っ張りながら、ロープを緩めて獲物を甲板に下ろした。

 動滑車のフックを外して、帆桁の先に戻しておく。

 獲物からタツミちゃんが銛を外してくれたから、邪魔にならないよう銛を屋形の屋根裏に戻しておいた。


「手伝って欲しいにゃ。私だけだと上手く保冷庫に運べないにゃ」

「どれ……。確かに重いな」


 甲板に海水を掛けて獲物を滑らせるようにして保冷庫の中に収める。

 保冷庫が横長なのは、たまに大きな魚が取れるからなんだろう。

 でもさすがに、この魚は大きいな。

 タツミちゃんが氷を作って竹かごに入れると、魚の上に載せている。直接乗せるのは問題があるのだろう。 


「だいぶ汚れたね。海で洗ってくると良いよ。俺も次の獲物を取ってくる」

「そうするにゃ。たぶんこのクオのせいで魚が寄ってこなかったにゃ。今夜は期待できそうにゃ」


 クオという魚なんだ。見た目はハタなんだけどねぇ……。

 再び水中銃を手に海のダイブした。

 大物を突いたから乗ってきた感じだな。

 今度は穴の反対側に行ってみよう。


 少し泳いでいくと、海底に大きな魚の群れが見えた。

 こんなにいるんだから、やはりカタマランを停めた位置が悪かったとしか思いようがないけど、あの場所に停めたからクオを仕留められ他ことも確かなんだよなぁ。

 中々に素潜り漁は奥が深い。


 息を整えて、ダイブする。

 魚の群れに近づくと、どうやらフルンネのようだ。結構大きくなる魚なんだが、目の前で群れているのは60cmから90cmというところだ。

 ハリオを突きに行った時には、1mを超えるフルンネがいたんだが、それから比べると見劣りがしてしまう。

 なるべく大きいのを突こうと考えをまとめたところで、一旦海面に戻り息を整える。

 

 息を整えながら水中銃のセーフティを解除して、スピアに繋がるラインを少し伸ばしておく。

 1mほどの距離でスピアを撃つから、2mも伸ばしておけば十分なんだけど、即死しない場合はすぐに逃げようとするからね。

 邪魔になるからとラインを短くしたら、当たった瞬間に水中銃を持っていかれそうになったことがある。

 魚の大きさに合わせてラインを伸ばすことをこの頃ようやく身に付いた感じだ。

 水中銃の下にあるリールに10近いラインが巻かれていたんだから、もっと早く気が付くべきだった。


 この海域の魚は、。ゆっくりと近づけばあまり逃げようとしない。

 俺を捕食者とは思っていないのかもしれないな。

 だが、銛を50cmほどに近付けると逃げてしまうから、相手が逃げないぎりぎりまで近づいて銛を打つのが正しい銛の使い方だそうだ。

 水中銃なら1mほどの距離でも狙い通りに当たるんだけど、銛はそうもいかないんだよなぁ。

 手の中を柄が滑るときに、体が動くのかもしれない。

 それを防ぐ方法を考えれば良いのだろうが、考えすぎると水中銃になってしまいそうだ。


 大きく息をついて、半分ほど吐き出す。

 海底に向かってダイブしながら先ほどの群れを探した。


 群れはすぐに見つかった。群れの端にいる大きな奴というと、あれになるのかな?

 目標を決めたところで、水中銃を持った左手を伸ばしながらゆっくりと近づいていく。


 海中では水中銃をなるべく動かさないようして、スピアの先に目標が動いてくるようにするのが基本なんだけど、そうは中々動いてくれないんだよなぁ。

 獲物の動きが停まるのを待って、水中銃の狙いを体を使って修正する。


 トリガーを引いて直ぐに暴れるフルンネの動きが伝わってきた。

 直ぐに収まってくれたから、急所にうまく当たったに違いない。

 そのまま海面へと浮上してカタマランを探す。


 甲板で休んでいたタツミちゃんに突いてきたフルンネを渡すと、少し休憩することにした。


「フルンネにゃ! どこで突いたのかにゃ?」

「この穴の反対側だよ。もう1つの穴と繋がってるみたいだね。その辺りで群れを作っていたんだ」


 ふんふんと頷きながら、ココナッツジュースの入ったカップを渡してくれた。

 タツミちゃんの方は、バヌトスとブラドだけだったようだ。

 

「丁度昼近くになってるにゃ。もう1回漁をしたらおしまいにするにゃ」

「夜もあるからね。周囲のサンゴも海面から俺の身長ぐらいの場所にある。案外回遊するシーブルも狙えるかもしれないよ」


 昨夜はあまり釣果が無かったからねぇ。今夜に期待したいところだ。

 大きなケオを突いたから、あのケオを怖がって近づかなかった魚も集まってくるんじゃないかな。

                 ・

                 ・

                 ・

 素潜り漁を終えたは、少し日が傾き始めたころだった。

 時刻は午後3時過ぎというところだろう。

 銛先を軽く研いで塩気を水で洗い流す。

 水は貴重品なんだけど、道具を長く使うには塩抜きは欠かせない。

 それに上手くいけば、運搬用の水ガメに入るぐらいの真水が手に入りそうだ。


「やはり、降りそうだね」

「乾期の雨はすぐに止んでしまうにゃ。タープはカマドの方に張っておいて欲しいにゃ」


 タツミちゃんには雨が降ることが確定しているみたいだな。

 半分といわずに甲板全体に張っておこう。カマドの反対側のタープは少し弛ませて、運搬用の水ガメを用意しておく。

 

 作業が終わったところで、屋形の屋根裏から4本の釣り竿を取り出して屋形の扉近くに立て掛けておいた。

 操船櫓の床が少し張り出しているから、やはり竿盾を作っておいた方が良いだろうな。

 タモ網とギャフをロープで縛って立ててあるんだが、あの方法で固定しておいても良さそうだ。


 タバコ盆を船尾のベンチの蓋を開けて取り出すと、タツミちゃんにカマドの墨を庫分けてもらった。

 風向きを見て、カマド側のベンチに腰を下ろして一服を楽しむ。


「夕食は何かな?」

「いつも通りにゃ。でもスープは一味違うにゃ」


 俺に顔を向けて笑みを浮かべている。

 バヌトスの切り身を入れたのかな? 値段は安いんだけど、ブラドよりも美味しいんだよね。


 一服を終えようとしている頃に、突然当たりが暗くなって豪雨が襲ってきた。

 煙草盆を手に、操船櫓の下に避難する。

 小さなベンチが2つ置いてあるから、ベンチに腰を下ろしてランプの準備を始めた。

 タツミちゃんの方は、鍋を下ろして別な鍋をカマドに掛けたところで、俺の隣に腰を下ろした。


「すごい雨にゃ」

「水ガメに入れとくよ。道具の塩抜きに丁度良い」

「夕食は雨が止んでからにするにゃ。西が少し明るいからすぐに止むにゃ」


 確かに西の空が少しずつ明るくなってきている。

 乾期の雨は2時間も続かないからなぁ。雨期の半日以上の雨とはだいぶ異なる。

 1時間も降らずに雨が止んだ。

 綺麗な虹が東に掛かっているけど、今日は神亀が来ないみたいだ。

 そんなにやってくるわけでもないだろうけど、2度あることは3度あるとも言うからなぁ。ちょっと残念な気分に浸りながら、たっぷりと雨水が溜まった水ガメを隅に移動しておく。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魚の名前は『クオ』『ケオ』のどちらでしょうか? クオが途中からケオになっています。
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