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P-065 夜釣りが振るわなかった理由


 朝焼けが始まる中、タツミちゃんがカタマランを沖合に向けてゆっくりと動かし始めた。

 操船櫓の後ろに立てた黄色の旗には赤いリボンが付けられている。

 沖に停泊している数隻の船も同じような旗を掲げているから、同じ船団の仲間ということなんだろうな。

 あまり船団の仲間達と話し合う機会がないんだが、こっちから訪ねて行っても失礼な気がするんだよなぁ。

 ガリムさん達が気にしてくれているから、船団仲間としての付き合い方を教えてもらおうかな。


「ナギサだな? 後ろから2番目だ。笛の合図で出発するぞ!」

「了解です!」


 俺達の小さな船団の筆頭はオルバスさんになるようだ。

 殿もガリムさんの友人に違いない。俺達に手を振って後方に船を進めていった。


 やがて準備が整ったようだ。笛の音がいくつも聞こえてくる。

 首から下げた竹笛を俺も周囲に吹き鳴らしたところで、屋形の屋根の上に座り込んで状況を眺める。


 一旦、島を西に出たところで時計周りに島をめぐって東へと向かう。

 1ノッチ半で1日ということだから、それほど急ぐことも無いのだろうが、タツミちゃんの話では2ノッチまで上げているらしい。


「漁場に早く着けば、それだけ良いサンゴの穴を探せるにゃ」

「そういうことか。こっちに来るのも久しぶりだけど、案外近くに漁場があるんだね」


「トーレさんの話では半日も船を走らせればいろいろあると言ってたにゃ。でも小さな漁場だから船団には向かないみたいにゃ」


 2、3隻で漁をするなら十分な漁場ということなんだろう。

 船団が大きくなると、漁場が限られてしまうのは仕方がないことなんだろうけどね。


 たまに舵を代るのはいつものことだ。

 大きく方向を変えないし、魔道機関の出力は一定だから面白みがないんだよね。

 島を避けるために小さく舵を取る時があるんだけど、そんな場面に中々出会わないんだよなぁ……。


 そろそろ日が傾いてきたかな? そんなころ合いに船の速度が落ちてきた。

 1ノッチも出していないようだ。歩くよりも少し速いぐらいの速度で進んでいる。

 偏光レンズのサングラスで海面を眺めると、一面のサンゴ礁に大小の穴が開いているのが見えた。


「だいぶ穴が開いてるな。でも大きくてもカタマランの甲板程度だ」

「少しずつ大きくなってるにゃ。漁場が近いってことにゃ」


 20分も過ぎると、確かにサンゴの穴が大きくなったし、穴の底は黒々として見えないぐらいだ。

 そろそろ、船団が分かれるんじゃないかな?

 

 数分も過ぎると穴の大きさが10mを超えるまでになってきた。いくつかの穴が繋がってさらに大きな穴まであるようだ。

 これは大物もいるに違いないと思っていると、笛の音が聞こえてきた。


 船団を解き、各自が思い思いの場所を探しに散開し始めた。

 タツミちゃんは、そのままカタマランを東へと進めていく。


「大きな穴を探すにゃ!」

「任せてくれ!」

 

 帆柱を抱くようにして立ち上がると、周囲の海を眺める。

 あちこちに穴が開いているから目移りしてしまう。

 そんなことを考えながら眺めていた時だ。

 一段と大きな穴を見つけた。その穴の周囲が他の穴に繋がっている感じもするな。壁が区連れた感じに見える。


「速度を落として右手だ。かなり大きな穴だよ」

「あれにゃ! どのあたりに停めるにゃ?」


 素潜りと夜釣りだからなぁ……。

 とりあえずは形の整った場所にアンカーを下ろせばいいだろう。


「も少し先だ。穴の縁の色が際立ってるだろう? あそこの近くに停められるかな」

「だいじょうぶにゃ。ゆっくりと穴に入っていくからアンカーを下ろして欲しいにゃ」


 アンカーの下ろした位置でも漁果が変わるとバゼルさんが教えてくれた。

 素潜りならあまり変わらないんだろうが、夜釣りともなれば魚の潜んでいる穴の縁が一番だ。穴の真ん中に停めるようでは釣果をあまり期待できないらしい。


 さらに速度が遅くなる。

 そろそろ船首に向かった方が良さそうだな。

 船首に立ち、アンカーの石を結わえたロープを持つ。

 ゆっくりとカタマランが縁を超えたところで、アンカーを下ろした。

 するすると伸びるロープの目印を確認する。2m間隔に結んだ紐を5つ数えたところでアンカーが着底したようだ。


 ロープを巻き取り遊びをあまり出さないようにする。潮流に乗ってゆっくりとカタマランが船首を北東に向け始めた。

 船尾が穴に中にすっぽり入る感じだから、舷側から竿を出せばいいだろう。


 船尾の甲板に向かうと、タツミちゃんが夕食の準備を始めていた。

「終わったよ!」と声を掛けて、夜釣りの準備を始める。

 シメノンは来るだろうか? とりあえず準備しておくか。


 竿を4本屋形の屋根裏から取り出して、道糸に仕掛けを付けておく。

 早速始めてみようかな?

 

 胴付き仕掛けに餌を付けて投げ込んでみた。

 棚を底から50cmほどにとって軽く誘いをかける。

 穴の底は砂地のようだ。根に絡むことはあまりなさそうだな。

 

 小さな当たりが竿先に伝わる。

 軽く合わせて道糸を巻き上げると、30cmに少し足りないバヌトスが掛っていた。


「オカズに丁度良いにゃ!」

 

 タツミちゃんが嬉しそうに釣り針を外して持って行ってしまった。

 何になるんだろう?

 ちょっと楽しみができた感じだ。

 

 次にかかったのはカマルだった。

 胴付き2本バリの間隔を広げてあるから上針に食いついてきたのだろう。

 30cmを少し超えてるから何にでも使えそうだ。

 さらにカマルを1匹釣り上げたところで、いったん釣りを終わりにする。


 夕暮れが迫ってくるといろいろとやることがあるからね。

 ランプに光球を入れて帆柱と帆桁に吊り下げる。

 桶も屋根裏から取り出したけど、氷は始めてからでもだいじょうぶだろう。


 夕食はバヌトスの焼いた切り身が入ったリゾットだった。香辛料の効いたスープを掛けて頂く。

 

「カマルは餌にするにゃ。残った骨で良いスープができたにゃ」

「タツミちゃんも腕を上げたね。スープが良い感じだよ」


 褒められたと思ったのかな? ちょっと笑みを浮かべてくれた。

 安い魚なんだけどカマルは良い魚だと思うな。余すことなくいろいろに使えるんだからね。


 夜釣りはあまり良い成績とは言えなかった。2人で6匹だったからね。

 明日の素潜りに期待しようと、ワインを飲みながらタツミちゃんと作戦を練る。

                ・

                ・

                ・

 翌日は、西の空に雲が出ていた。

 タツミちゃんの予想では午後から雨になるらしい。

 朝食を終えると、2人で素潜り漁を始める。

 サンゴの穴が結構深いから大物もいるだろう。フルンネがたくさんいると教えてくれたから期待してしまうんだよね。


「先に行くよ!」

「私は北の方を回ってみるにゃ!」


 ほぼ同時に飛び込んだんだが、さて大きいのはいるんだろうか?

 シュノーケリングをしながら息を整え、水中銃のセーフティを外す。

 下の方で何かが動いたから、先ずはあれを狙ってみるか。


 海底にダイブしながら魚影を探す。

 さっきの魚はあれなのかな? 崖の割れ目に入って行ってしまった。

 大きな割れ目なら何とかなりそうだから、魚が消えた辺りに向かうと50cmほどの斜めになった割れ目があった。

 それほど深い割れ目ではないし、鈍角に開いているから引き出すのも苦労はしないだろう。

 獲物を見ると、バルタックと呼ばれるイシダイだ。

 先ずは、幸先が良い。

 慎重に腕を伸ばしながら水中銃の狙いを付ける。

 1mほどの距離に近付いたところで、トリガーを引く。

 軽い反動が腕にくると、直ぐにラインを伝わって魚のもがきが伝わってきた。

 力づくで割れ目から魚を抜き出して海面へと上がる。

 カタマランから少し離れたかな?

 船に戻りながらも、海底の様子を探っていたんだが、カタマランの近くには小魚さえ寄ってこない。

 あれじゃあ、昨夜の釣果も頷ける。

 

 カタマランを停めるためにアンカーを下ろしたけど、ロープを握って途中の目印を確認しながらだから、磯を投げ込むよりも緩やかだったはずだ。

 それに、たとえ石を投げ込んだとしても半日以上が過ぎてるんだから魚が寄り付かないわけがない。


 ちょっと調べてみるか。

 案外、温泉が湧いてるのかもしれないからね。


 バルタックをクーラーボックスに入れようとしたら、すでにブラドが1匹入っていた。

 タツミちゃんに先を越されたようだな。俺も頑張らないとね。


 水中銃をセットしてカタマランの真下に潜ってみた。

 小魚がたまに通り過ぎるけど、エビの姿も見えない。

 サンゴの穴には、たくさんロデニルが住んでいるんだけどね。


 海底の砂に手を入れてみたが、別段温度が高いわけでは無い。

 ということは、変わった生物がいるのだろうか。

 バゼルさんの話では、危険な魚はウミヘビぐらいだと教えてくれたが、それ以外のもいるってことか?


 何度かカタマランの近くに潜ってあちこち眺めていた時だった。

 50cmほどのブラドが単独で海底を泳いでいる。

 水中銃を構えてゆっくりと潜っていくと、海底から何かがブラドに襲いかかった。


 一瞬のことだった。

 後2mほどの距離まで近付いたんだが、横取りされた感じだな。

 そのままゆっくりと海底に向かっていくと、岩陰に大きな魚を見付けた。

 推定で1.5mはあるんじゃないか?

 胴回りが俺に近いような感じもする。どう見てもハタの仲間に違いない。


 水中銃では難しいかな? 銛で突いてみるか。

 一端浮上しながら海底の様子を頭に入れる。

 銛は家形の屋根裏に仕舞ったままだったから、取りに戻ってこの場所が分からなくなってしまいかねない。

 目印は海底の砂地に突き出た、団子のような岩で良いだろう。

 浮上うして、急いでカタマランに泳いでいく。

 20mほどの距離で、右舷の角が目標になりそうだ。


 海中に下ろしたハシゴを上って急いで銛を取り出した。

 銛は親父がクエを突くために渡してくれたようなものだから、丁度良いだろう。

 ゴムを何度か伸ばして感触を確かめると、さっきの場所へ泳ぎだした。


 方向がだいたいあっているなら、後は海底の岩を見付ければ良い。

 それほど苦労せずに見付けられたのはカタマランから近いからだろうな。

 岩にぴったりと体を寄せて、次の獲物が近づくのを待ち構えているように見える。


 柄尻のゴムを強く引いてしっかりと左手で握る。

 狙いはエラの上、やや頭寄りだ。

 チタン製の銛だが、クエの頭はかなり固いと聞いたことがある。

 上手く刺さってくれれば良いんだが……。

 息を整えて一気に潜り、右手で突入買う度を微調整する。フィンを使った推進力とゴムの力で何とか銛を打ち込めれば良いんだが……。


 50cmほどの距離で銛を握った手を緩めた。

 銛が刺さった瞬間、再度銛の柄を握って渾身の力で銛を突き込む。

 銛の柄を引くと銛先が外れ、魚が暴れる感触が伝わってきた。


 これで外れることは無い。

 グイグイと食い込んだ銛を引くと、周辺が獲物から出る血で赤く染まってきた。

 早めに終わりにしないとな。俺の息だっていつまで持つか分からない。

 やがて、抵抗が弱まってきた。

 一度浮上して息を整えながらカタマランに顔を向けると、タツミちゃんがクーラーボックスに獲物を入れているところだった。

 

 首に掛けていた竹笛を拭くと、こっちに顔を向けてくれた。

 両手を振ったところで足元を指差す。

 分かったのかな?

 頷いてこっちに泳いでくるのが見えた。


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