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P-057 重鎮達への報告


 麦わら帽子にサングラスを付けて家形の屋根で、操船櫓のタツミちゃんの手助けをする。

 手助けと言っても、次々と現れる島の特徴を告げるだけなんだけど、タツミちゃんにとっては貴重な道標となるようだ。


「今度は左に島だ。小さい島で砂浜が無いよ。平たんな島だね」

「次も右手に島が見えるはずにゃ。浜に石積みが1つあるはずにゃ!」


 進路を変える島には石積みが3つあるらしい。その手前の島には石積みが1つ、更に近づくと2つと増えていくのは生活の知恵なんだろうね。

 それまでは操船櫓にあるコンパスで一定方向に進めば良いらしい。


 今回の漁場は氏族の暮らす島から1日の距離だから、方向を変える場所は1カ所になる。

 方向を変えた後に、最初に出会う島に2つの石積みがあるなら進路が正しいことを教えてくれるんだから。海図には目印のある島をかき込んでいると教えてくれた。

 全ての島を海図に乗せるのは、この海域では無理な話だ。


 時計を見ると、まだ10時を過ぎたところだ。かなり速い速度で進んでいるから十分に夕暮れ前に到着できるんじゃないかな。

 空は晴れ渡っている。曇りなら良いんだが、この季節だから雲は豪雨になってしまう。


 何度か舵を代わって、どうにか氏族の島が見えた時には、正直ほっとしてため息が出てしまった。

 どうにか2人で帰島できた感じだ。

 

 何時もの桟橋にはバゼルさんのカタマランが停泊していた。その後ろにカタマランを停めようと桟橋に接近すると、バゼルさん達が俺達だけの帰島に首を傾げている。


「怪我をしたのか!」

「違うにゃ。神亀が出たにゃ!」


 タツミちゃんの言葉に、トーレさんが屋形の中から出てきた。

 ゆっくりと桟橋に近付く俺達を待っていられないらしく飛び移って、接岸を手伝ってくれる。

 

 アンカーを下ろして、桟橋の柱にロープを結ぶ。桟橋を歩いて甲板に戻ると、バゼルさんまで俺の帰りを待っていた。


「神亀から宝玉を頂いただと!」

「甲板の傍に寄って来て海中から頭を出したんです。俺を向いて嘴を開いたら、舌先にこの宝玉がありました」


 屋形の中から、宝玉を持ち出してバゼルさん達に見せた。

 トーレさんのことだから手に取ってよく見るのかなと思っていたけど、見つめるだけで手を伸ばそうとはしない。


「持ってみます?」

「神亀の宝玉は授けられた人だけが持てるにゃ。私が持ったら何が起きるか分からないにゃ」


 宝玉の言われということなんだろう。

 このままポケットに入れておくことになるのかな?


「商船が来たら、ドワーフに瓔珞を作って貰うのだ。いつも首に下げておかねば御利益が無いかもしれん」

「御利益?」


「宝玉の持ち主なら、神亀を呼べるにゃ。でも戯れに呼んではいけないにゃ」


 これで呼べるのか?

 あの時に脳裏に浮かんだ情景の場所を示すだけだと思ってたんだけど……。


「まだ夕暮れまで時間があるにゃ。カヌイの婆さん達のところに向かうにゃ」

「トーレが連れて行ってやれ。タツミは漁果を早めに運んでおいた方が良いぞ。今夜は祝いだからな」


 タツミちゃんが頷いて、船首に置いてある背負いカゴを持ってきた。

 保冷庫から次々と獲物を出しているから、サディさんが手伝っている。


「それじゃあ、出掛けて来るにゃ。夜は長老のところにゃ?」

「ああ、そのつもりだ。カヌイの婆さん達の話をよく聞いておいてくれ」


 トーレさんに連れられて、カヌイのお婆さん達が住むログハウスへ向かう。

 皆が暮らす場所からは少し離れているんだけど、ネコ族の宗教に関わっているお婆さん達だからある意味俗界から離れた暮らしということになるんだろうか?

 シャーマンみたいに思えば良いのかもしれない。


 目的のログハウスに到着した時には夕暮れが迫っていた。

 中に入ると、トーレさんがお婆さん達に挨拶をすると直ぐに本題に入ってしまった。


「何と! 神亀が……」

「それでナギサが急いで帰ってきたにゃ。その時の様子が気になってるみたいにゃ」


 俺達に座るようにと、開いている焚き火の席にお婆さんが指を向けた。

 ここは大事なところだろうから、ゆっくり話した方が良さそうだ。


「南西の海域でガリムさんに連れられて漁をしていたのですが、生憎と漁場に到着してからずっと雨が続いてました……」


 翌日の昼過ぎに晴れたこと。

 虹をくぐるようにして大きなうねりが近付いてきたこと。

 俺達の船の直前でうねりが消えて、その後に巨大なウミガメが現れたこと。

 ウミガメが俺の前に顔を出した時、不思議な情景が頭の中に浮んだこと。

 そして、神亀から宝玉を受け取ったこと……。

 最後に、ポケットから布に包んだ宝玉をお婆さん達に見せた。


「これがその宝玉です」


 お婆さん達が一瞬身を乗り出したが、直ぐに腰を戻した。

 手が出かかったけど、途中で止めてたんだよなぁ。他者は手を触れることができないという言い伝えを思い出したに違いない。


「久しく神亀を見ることが無かったにゃ……。やはり、ナギサは竜神の加護を受けているに違いないにゃ」

「神亀から授かった宝玉の話は過去にもあったにゃ。でも円盤型ではなく、丸いものだったにゃ」

「とはいえ、神亀から授かったのなら、まがうことなく宝玉にゃ。いつも身に付けておくにゃ」

 

 お婆さん達に頭を下げて、宝玉を再び布に包んでポケットに入れた。

 さて、俺の疑問は未だ解決してないんだよな。


「ところで、俺が見た情景と、呪文のような言葉は何かの予告なんでしょうか?」

「そんな話は言い伝えにも無かったにゃ。島が数個集まるなんてことも今までは無かったにゃ」


「でも、神亀が見せてくれたなら、それはナギサに託されたことかもしれないにゃ。試しに、宝玉を出して呪文を唱えてみるにゃ」


 確かに、それが一番かもしれない。

 再び宝玉を出して、【ラウゼ・シュラーゼ】と言葉を口にする。

 たちまち宝玉が光を放ち、宝玉の中に不思議な文様が浮かび出る。


「ナギサの話ではその文様の示す先に、その島があることになるにゃ。でも、文様がクルクル回ってるにゃ。まだその時ではないということにゃ」


 船だって大きくはないし、2番目の嫁さんはまだ先の話だろう。

 確かに、まだその時ではない。


「大きなカタマランを作ったら、再び呪文を唱えれば良いにゃ。少しずつ方向が分かるかもしれないにゃ」

「でも、見付ける意味があるんでしょうか?」


「龍神様の御意志にゃ。私達が暮らしていけるのも龍神様のおかげにゃ。私達を哀れに思って、その島を与えてくれるのかもしれないにゃ」


 ネコ族の人達は、物事を前向きに考えるからね。

 でも、それが一番良いのかもしれない。不漁の時だって、龍神様のおかげでこれだけ獲れたというぐらいだ。


「その時までに、何度か神亀が現れるに違いないにゃ。龍神の意思をよくよく汲み取ることにゃ」

「さらに詳しくということになるんでしょか?」

「ナギサが理解できるまでにゃ。次は長老に会うにゃ。神亀の姿は久しいにゃ。きっと大喜びするにゃ」


 お婆さん達が笑みを浮かべて送り出してくれた。

 カヌイのお婆さん的には問題がないということなんだろうな。

 悪い知らせではないようだから、再びネコ族の前に姿を現した神亀が嬉しかったのかもしれない。


 だいぶ暗くなったんだから、少し足を遅め手も良いように思えるが、トーレさんは来た時と同じように早歩きなんだよなぁ。

 俺と違って、これぐらいの暗さは問題にならないのかもしれないけど、俺の方は何度か躓く始末だ。

 どうにか桟橋に戻ってきたら、すぐに夕食が始まる。

 バゼルさんへの報告は夕食を食べながらになってしまった。


「するとカヌイの婆さん達は、ナギサが宝玉を持ち続けることに賛成なんだな?」

「いつも持っているようにと言われました。それに、この後何度か俺の前に姿を現すに違いないと」


「神亀は宝玉を通して私達を見てくれるにゃ。不漁なら、魚を運んでくれるに違いないにゃ」

「神亀を見たなら大漁間違いなしとまで言われている。案外、そういうことかもしれないな」


 タツミちゃんの話に、バゼルさんが頷きながら同意しているところを見ると、ネコ族共通の話なんだろう。

 カヌイのお婆さん達が年に何度か集まって話し合いをするようだから、それを通して言い伝えの共通化が図られているのかもしれない。

 氏族の独自性が無くなりそうだが、もともと氏族の人数は多いところでも1万には達しないらしい。

 アオイさん達が、氏族の垣根を低くしようと努力していたのは、氏族ではなくネコ族として暮らせるようにとのことだろう。

 小さな諍いを繰り返すようでは、大陸にあるという王国の思いのままだったろう。

 今では、ニライカナイという1つの国として付き合ってくれているようだから、そこまでの経緯は苦労の連続だったに違いない。

 そんな時代にこの世界に来なくて良かったと、昔の話を聞くたびに思ってしまう。


「さて、次は長老達だ。ナギサ、出掛けるぞ!」


 今度はバゼルさんに付いて桟橋を歩いていく。

 トーレさんと違って、先を急ぐ感じはないから、安心して付いていけるんだけど、やはり足元は注意しないといけないようだ。


 ギョキョーのログハウスから島の中心に向かって坂を上る。

 周囲はココナッツの林だ。

 これだけあるんだから、他の島にココナッツを取りに行かなくても良いように思えるけど、これはギョキョーで販売するココナッツらしい。

 1個が銅貨1枚だから良心価格ではあるんだが、中型のカマルも一夜干しで銅貨1枚だからなぁ……。


「付いたぞ。タツミがギョキョーで神亀の話をしたらしい。いつもより人数が多いかもしれんな」

 

 ちょっと不安になるようなことを言って、ログハウスの中に入った。

 確かに大勢いる。

 焚火を挟んだ長老の席の前に広がる板張りに、座りきれない程の男達の視線が一斉に俺に向けられてきた。


「やってきたか。ナギサよ、面白いものを見たようじゃな。経緯を我等に聞かせてほしい」

「我等の左手が開いておる。そこに座れば良い。カイト様やアオイ様達も我等左手に座っておったそうじゃ。先例に倣ってナギサもそこに座るがよいぞ」


 習う必要はないと思うんだけどなぁ……。

 バゼルさんに無理やり座らせられたが、党のバゼルさんは焚火を破産d俺の正面にいるカルダスさんの後ろに座った。

 この小屋の席順は厳格な決まりごとがあるのだろう。


 世話役と呼ばれる壮年の男性が、皆にココナッツ酒の入ったカップを配ってくれた。

 長老が最初で、その次が俺なんだよね。

 筆頭であるカルダスさんより先に配られるのは不味くないか?


「皆に酒が回ったな。それでは久しい神亀との再会に!」


 皆が一斉にカップを掲げる。

 神亀との遭遇は慶事ということになるんだろう。


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