表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
439/654

P-053 ちょっとした工夫


 2日間の漁を終えて氏族の島へと帰投する。

 集合もだいぶスムーズにいくようになったし、カタマランを2列に並べた船団の進む速さもこころなし速くなったように思う。

 島に到着するのは夕暮れ前になるだろうと出発前に連絡があったが、このまま進めば余裕で帰島できそうだ。


 屋形の屋根で周囲を眺めながらの航海だ。

 たまにタツミちゃんと舵を代わるが、真っ直ぐ進むのもだいぶ慣れた感じだな。

 大型のカタマランも、こんな感じになるのかなぁ。それとも軽快な動きが出来なくなるんだろうか?


「次のカタマランはバゼルさんが乗ってたカタマランになるのかな?」

「これより大きくて、バゼルさんの船より小さいのになるにゃ。甲板が一回り大きくなって、カマドが2つになるにゃ」


 確かにバゼルさんの船の甲板は大きかった。

 だけど長く使うんだったら、バゼルさんが使っているカタマランぐらいが欲しいところだ。船が大きければそれだけ改造できそうな気がするんだよなぁ。

 バウスラスタは絶対に欲しいところだし、延縄の引き上げ用のウインチだって取り付けられるだろう。

 ザバンの引き上げも結構重労働だからなぁ……。


 次の船をどんな風にするか。タツミちゃんもいろいろと考えているみたいだから、退屈しのぎに丁度良い。

 だけど、だんだんと船が大きくなってしまうんだよなぁ。

 ある程度盛り込んだところで絞っていかないと、商船並みの船になってしまいそうだ。


 お腹が空けば蒸したバナナをたべる。

 日中、船を進めなくてはならないから食事も交代ですることになってしまうのが辛いところだ。

 

 やっと氏族の島が見えた時には、だいぶ日が傾いていた。

 桟橋に停泊させる頃には夕暮れが始まっているんじゃないかな。


 桟橋が見え始めたころに、笛の音が聞こえてきた。

 船団を解散するという合図だ。タツミちゃんは浜の南に向かってカタマランを進めていく。


「バゼルさんはまだ帰っていないみたいだ」

「なら、奥に停めるにゃ。ずっと空いているとトーレさんが言ってたにゃ」


 桟橋のどの位置に誰が船を停めるかは、ある程度決まりごとがあるのだろう。

 だが、トーレさんが言うぐらいだし、確かに俺も見た記憶がない。

 漁のサイクルがバゼルさんと違っているから、その都度船を移動するのも考えてしまうからね。

 ここは、タツミちゃんの判断に任せておこう。


 左舷に緩衝用のカゴを下ろして、甲板にロープを用意しておく。

 屋形の屋根を通って船首の甲板で接岸を待つことにした。

 ゆっくりと桟橋に近づいて、最後にスクリューを逆回転させて制動を取る。

 まだ少し動いているけど、1mも進むことはないだろう。

 アンカーを降ろして、船首のロープを桟橋の杭に結びつけた。そのまま桟橋に降りて船尾に歩き、今度は船尾をロープで固定する。


「終わったよ。獲物をこれから運ぶの?」

「ギョキョーに早めに運ぶにゃ。一夜干しをしてないから燻製は急いだほうが良いにゃ」


 背負いカゴに獲物を入れているけど、1回では運びきれないようだ。

 手カゴまで使って運ぼうとしている。


「直ぐに戻ってくるにゃ!」

「夕食は遅くともだいじょうぶだよ。あまり急ぐと転ぶからね」


 俺の注意をあまり聞いていないようだ。

 桟橋を足早に歩いて行った。

 島の奥に続く林の手前に作られたログハウスがギョキョーなんだけど、開店している時間帯があるのかな?

 夜でも、明りが点いているから年中無休だと思っていたんだけど。


 今の内に、お茶ぐらいは作っておこうか。

 ポットに水を入れて、カマドに火を作る。炭を数個入れたから、夕食作りをするときにも困らないだろう。


 それにしても、今回は豪雨に祟られた感じだ。

 あれさえなければ、もっと魚を捕れたに違いない。

 延縄も考えるところがあるな。道糸はもっと太い方が手繰りやすいし、引き上げる時間を短くできるなら目印のウキにアンカー用の石を付けなくとも良さそうだ。

 カタマランから潮流に合わせて流すことで、豪雨時の曳き釣りに代替できるんじゃないか?


 ガリムさんと一度話し合った方がいいかもしれない。

 船を走らせない曳き釣りのようなものだと考えれば良いのだろう。


 タツミちゃんが笑みを浮かべて帰ってきた。

 

「銀貨1枚を超えたにゃ。グルリンが取れたからにゃ」

「不漁ということではないんだね。他の船はどうだったんだろう?」


「がっかりした人はいなかったにゃ。曳き釣りが1日で終わりになったけど、夜釣りで数を上げたみたいにゃ」

「それは見習うべきだね。どんな仕掛けか、ガリムさんに聞いてみるよ」


 胴付き仕掛けの枝針を増やしたんだろう。それだけ魚の棚に合わせやすくなるはずだ。

 俺達は青物狙いで枝針の間隔を広げたけど、枝針の数を増やすだけで俺達と同じように青物まで狙えるようになるはずだ。

 胴付き仕掛けの枝針の数に制限はない。

 次の漁までには、枝針を3本にした仕掛けを作っておこう。


 夕食はランプの下で取る。

 すっかり日が暮れたけど、桟橋のカタマランには甲板にランプが灯っている。

 そんなランプの光が海面の小さな波に反射するからきらきらと海が輝いて見える。

 この景色が、俺の新たな故郷の景色なんだな……。

                 ・

                 ・

                 ・

 翌日の昼下がり、ギョキョーで太めの組紐を買い込み、新たな延縄を作っていると頃にガリムさんが友人を連れて遊びに来てくれた。

 甲板を片付けて座る場所を作ると、タツミちゃんがお茶とタバコ盆を用意してくれた。


「もう次の漁の準備か。だが、延縄はすでに持っていたんじゃないのか?」

「ああ、これですか。道糸が細くて手に食い込むんですよ。それで道糸を太くしたんです。まだウキを付けていませんから、次の漁に使えるか微妙なところですけど」


「皆苦労しているよ。もっと太い道糸を使う人だっているようだ。親父に聞いた話ではカイト様は道糸にロープを使ったらしいぞ。もっとも、仕掛け自体がかなり長いものだったらしいけどな」


 ロープか……。たぶんそれが正解なんだろう。

 少し仕掛けを見直す必要があるかもしれないな。


「今回の漁は、まあまあというところだ。銀貨を超えたのナギサだけだったがそれでも銅貨60枚を超えているから、長老も笑みを浮かべてたよ。

 船を持ったばかりの曳き釣りの成果は、長老達も互いに顔を見合わせて苦笑いをしていたからな。あんまり数を出せなかったんだと思う。

 それでだ。次は延縄と底釣りにするぞ。

 豪雨でも続けられるだろうから、不漁にはならないとおもうんだ」


 確かに、曳き釣りよりは延縄の方が容易だろう。

 となれば、早めに確認しておきたい。


「ガリムさん。延縄漁の仕方を少し変えて良いですか?

 俺達の延縄漁は、「仕掛けの両端に目印用のウキを付けて、流されない様に石を沈めて固定してます。

 この目印用のウキの固定用の石を止めて、潮流に乗せて流そうと考えてるんですが?」


「仕掛けの位置は目印で分かるか……、他の船が仕掛けの上を通らない様にするのは今と同じだな」

「だが、その方法なら船を動かさずに延縄が使えるのか……。もっとも、潮流次第というところもあるようだから、場所はある程度限られるな」


「だが、それなら操船櫓で嫁さんが船を操る必要がねぇ。延縄は大物だって掛かるからなぁ。引き上げは2人欲しいところだ」

「賛成ってことだな? 他の連中にも襲えてやろう。今の仕掛を変えなくてもできるのが良いな。最後に流す目印用のウキに30YM(ヤム:9m)ほどのロープを結んで船尾に結わえておけば良いってことだからな」


「長老には耳打ちしておくんだぞ」

「ちゃんとしておくよ。考えたのはナギサだともな。それを俺達で試すというなら長老だって悪い気はしないだろう」


 ガリムさん達が腰を上げると、俺達に手を振って桟橋を歩いて行った。

 突然やってきて急に帰った感じだけど、潮流に合わせて仕掛けを流す延縄をやって良いってことなんだろう。

 反対はしていなかったようだし……。


 タツミちゃんに出掛けて来ると告げて、ギョキョーに向かった。

 品揃えは余り良くないらしいけど、必要な品は揃えてあると教えて貰ったから、細めのロープがあるんじゃないかな。


 ギョキョーのログハウスには扉が無い。

 カウンターが1つに、棚が2つ。

 食料品が多いけど、釣り針や、子供用の銛先なんかも置いてあるようだ。


「何を探してるのかにゃ?」

「ロープを探してるんだ。細いロープがあれば欲しいんだけど」


 店番は、お姉さんではなくてお婆さんだった。

 カヌイのおばさんかもしれないな。


「細いとなれば……、これにゃ! 屋形の屋根にザルを引っ掛けるロープにゃ」

「ああ、それぐらいが丁度良いんだけど、30FM(フェム:90m)ぐらい欲しいんんだ」

「1巻きが50FMにゃ。10FM単位で売れるにゃ」

「それなら、1巻きください。値段は?」


 値段は銅貨20枚だった。ついでに道糸に使った組紐のような道糸を10FM分購入し、タバコの包を3つ買い込む。

 俺に頭を下げるお婆さんに、恐縮しながら頭を下げてギョキョーを出る。

 次は、炭焼きのお爺さん達のところだ。


 手カゴにたくさんの小さなウキを入れて帰ってきた俺を見て、タツミちゃんが驚いている。

 次の漁に使うんだと教えると、首を傾げていた。

 明日は、これで延縄の手直しができそうだ。


 翌朝早く、ガリムさんが訪ねてきた。

 まだ朝食前なんだけど、ガリムさんも食べてないんじゃないかな?


「長老が褒めてくれたよ。それで、次の場所を教えてくれたんだ」


 次の漁場は南西に1日ということだった。

 広い海域だが、その先に漁場があまりないとのことで、俺達が漁を行う場所を他の船が通るのは稀らしい。


「長老のことだから、この海域に俺達が漁をすることを皆に告げてくれるはずだ。俺達だけで広い範囲に延縄を仕掛けられるぞ」

「ありがたい話ですけど、雨が降らなくとも延縄をするんですか?」

「その時には素潜り漁ができる。1FM半ほどのサンゴの海だが、穴があると教えてくれたよ」


 とは言っても、1日は延縄をすることになるんだろうな。

 何時も通りに、2日の漁をすると言って、ガリムさんは帰っていった。

 早めに仕掛けを作っておこう。それが終われば銛を研がねばならないようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ