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P-051 豪雨では曳き釣りができない


 昼近くになって船団の動きが停まる。

 急いで仕掛けを引き上げて様子を見ることにした。


「白い旗を振ってるにゃ。北の方から西に向きを変えてるみたいにゃ」

「引き返すってことかな? そういえば昼に反転すると言ってたからね」


 操船櫓の後ろは大きく開いている。

 タツミちゃんが甲板の俺に顔を向けて教えてくれた。

 どうやら順番に回頭をしているようだ。左隣のカタマランが回頭を終えたところで、タツミちゃんが大きく左に曲がりながら船首を西に向けた。

 作業が終わると操船櫓の後ろに白い旗を立てる。

 ガリムさん達は白い旗を見るだけで船団の動きが分かるのだろう。


 笛の音が再び聞こえてきた。俺も笛を2度鳴らすと、タツミちゃんがカタマランを西に向かって進ませる。

 

 一度巻き上げた仕掛けを再び海に下ろす。

 今度は少し長くしてみようかな。

 30mを40mにして様子を見る。


 カタマランが進み始めて20分を過ぎたころ、潜航板を取り付けた竿に当たりが出た。

 また忙しくなる。

 片方の仕掛けを急いで引き上げて、リール竿を手に魚との格闘が始まった。

 潜航板が手元に来たところで、ハリスを手に持ち、ゆっくりと魚を引き上げる。

 最後はタモ網に入れて甲板に引き上げると、待っていたタツミちゃんが棍棒の一撃を加える。


「シーブルにゃ。2YM(ヤム:60cm)を超えてるにゃ」

「これで4匹目だ。延縄を引き上げる前に6匹は手にしたいね」

「まだまだ、日が高いにゃ。後3匹は確実にゃ!」


 タツミちゃんが操船楼に戻り、再び曳き釣りが始まる。

 他の船も数を伸ばしているようだ。たまに船団から遅れる船があるのは取り込みを行っている船に違いない。

 

 昼食は取らずにココナッツジュースで我慢する。

 いつ掛かるかわからない状態では落ち着いて食べることなどできない。

 

 出発した島近くに戻ってきたときの釣果はシーブルが4匹にグルリンが2匹だった。

 すべて2YM(60cm)を超える型だから俺としては満足できる。

 

 一旦船団を解散して、明日の朝に再びここに集結と連絡を受けたところで、タツミちゃんが夕食の支度を始める。

 その間に曳き釣りの道具の潮を流して、竿やたも網を屋形の屋根裏へ戻しておいた。


 具材を鍋に入れたタツミちゃんかコンロに乗せ終えると、操船櫓に上がっていった。

 今度は延縄の引き上げだ。2、3匹は掛かっていてほしいな。


 少し北西に移動すると、鯉のぼりを付けた浮きを見つけることができた。

 手前でタツミちゃんがカタマランの向きを変えて、今度はバックしながら目印のウキにカタマランを近付ける。


 ギャグを手に持ち、目印のウキの下を探るようにしてアンカーの細いロープを引っ掛ける。

 甲板にアンカーを引き上げれば、目印のウキに続いて枝張りを下げた仕掛けが回収できる。


 目印のウキを引き上げたところで、仕掛けの道糸を張るようにして辺りを探る。

 動いているぞ! 何か掛かっているみたいだ。


「掛かってるよ! 合図したら後進してくれ」

「了解にゃ!」


 操船櫓から嬉しそうなタツミちゃんの返事が返ってきた。

 グンテを手にして、ゆっくりと道糸を手繰り寄せる。

 最初の枝針には何も掛かっていないな。

 そのまま引き上げて、さらに道糸を手繰るとグイグイと強い引きが伝わってきた。

 枝針のハリスを手繰って魚の姿が見えたところで右手にタモ網を持つ。

 タモ網を海中に入れて、その中に魚を左手で誘導するのも慣れた感じだな。

 魚が入ると勢いよくタモ網を引き揚げた。

 シーブルのようだ。掛かってから時間が経っていたのだろう。大きさの割に引きが弱かったからね。

 ベンチの上にあった、こん棒で頭をポカリ!

 タツミちゃんが用意してくれた桶に入れると、再び道糸を手繰り寄せる。

 

 シーブルを1匹追加したところで、船を後退してもらった。

 15ⅿほど移動したところで、再び延縄を手繰っていく。


 延縄の最後に付けた目印のウキとアンカーの石を引き上げるまでに1時間はかかったに違いない。

 作業が終わったところで、船首のアンカーを降ろして今夜はここで休むことにした。


 いつもはみられる夕焼けが、西の大きな雲で見えないが、だいぶ暗くなってきている。

 ランプに光球を入れて畳んだタープを張ることにした。

 獲物はエラと内臓を取って保冷庫に入れておくらしい。雨期で一夜干しはできないとタツミちゃんが教えてくれた。


 夕食は団子スープに蒸したバナナだ。蒸したバナナを多く作ったようだから、今夜の夜食にするのかな?

 酸味が強いスープには米粉の団子と魚のすり身の団子が入っている。

 簡単に作れるらしいけど、魚を磨り潰すのが面倒に思えるんだけどねぇ。


「夜釣りの途中で雨になるにゃ」

「雨の中でも釣りができるなら、屋根の下で続けるよ。もっとも、辺りが取れないようなら早めに止めて明日に期待しよう」


 豪雨だけど、強い風を伴わないのが不思議なくらいだ。

 雷雨のような豪雨なんだけどね。

 

 食事を終えると、ゆっくりとお茶を飲む。

 いつの間にか周囲は暗闇に閉ざされた感じだ。

 ランプの明りがあちこちにあるのは、広い範囲で延縄を仕掛けたということなんだろうな。

 豪雨の前に、明日の延縄の餌分ぐらいは釣り上げたいところだ。


 竿を4本屋根裏から取り出して夜釣りを始める。

 エサは切り身2個分らしいから、無くなる前に何とか2、3匹は上げたいところだ。

 仕掛けを下ろして辺りを待つ。


 水深が4ⅿほどだから、底物ばかりじゃないかもしれない。

 バルタック辺りが掛ってくれればうれしいところだ。


 今夜の最初はタツミちゃんだった。

 40㎝はありそうなブラドを釣り上げて、こん棒で頭を叩いている。

 次に俺の竿にも当たりが出る。

 底物特有の引きだ。

 甲板に投げ出すようにして釣り上げた獲物はバヌトスだった。

 俺の様子を見ていたタツミちゃんと目が合ったところで互いに笑みが浮かぶ。

 今夜は大漁なんじゃないか? そんな予感がするんだよね。


 そんな思いは直ぐに打ち砕かれる。

 3匹目を釣り上げている最中に、豪雨が襲ってきた。

 豪雨の中でも釣りはできるだろうと思っていたんだが、竿に当たる雨が魚の当りをぼやけたものにしてしまう。

 豪雨での釣りは止めておいた方が良いのかもしれないな。

 竿を畳んで、釣り上げた魚を捌くと夜食の蒸かしたバナナを食べながらワインを頂く。

 明日までに止むと良いんだけど、止まない時には豪雨の中での延縄と曳き釣りをしなければならない。

 

「明日までには止むのかな?」

「海の中で釣りをすると思えば良いにゃ」


 俺の呟きにタツミちゃんが答えてくれたけど、海の中の方が良いようにも思えてしまう。

 滝のような雨だから、結構痛く感じるんだよなぁ……。


 今夜は早めにハンモックに入る。

 屋根を打つ雨音が煩く感じるけど、自然の音と雑音は違うようだ。

 少しずつ睡魔に身をゆだねる。

                 ・

                 ・

                 ・

 2日目の朝、まだ豪雨は止んでいなかった。

 一晩中降っていたとしたら、海水の塩加減が薄まりそうにも思えてしまう。

 珍しくタツミちゃんに起こされる前に起きて、漁の支度を始める。

 最初は延縄を仕掛けるだけだから、枝張りに餌を付ければ十分だ。

 食事を終えてから、仕掛けを流せば良い。


 朝食はブラドの切り身が入った炊き込みご飯だ。一度焚いてから軽く炒めるのが、この世界の炊き込みご飯らしい。

 スープを掛けてかけて頂くのは、人に寄るらしい。

 俺は掛ける方だけど、タツミちゃんは余り掛けないんだよね。やはり行儀が悪いということになるんだろうか?


「昨夜よりは弱まってるにゃ。隣の船がどうにか見えるにゃ」

「これで曳き釣りができるのかな? 衝突しそうに思えるんだけど?」


 タツミちゃんが僚船を見て考え込んでいる。

 視界が50mに満たない豪雨だからなぁ。


 長く伸びた笛の音が聞こえてきた。

 これは、答えを求める合図だから、首に下げた笛を短く2回鳴らす。


「ナギサはここにいたのか! この雨じゃ、曳き釣りは無理だ。延縄と底釣りで漁をするぞ。明日の朝に帰投するのは予定通りだ」

「了解です。場所を変えても良いでしょうか?」


「変えるのは構わないが、この近くにしてくれよ。探すのが大変だからな」


 ゆっくりカタマランが離れていく。

 白い吹き流しだから、殿役のガリムさんの友人なんだろう。

 ガリムさんも、この豪雨では何もできそうもないな。少し漁果が落ちるのは仕方がないことなんだろうけど、ガリムさんは長老への報告もあるからね。

 不漁でしたと報告するのは苦痛に違いない。


「どうするにゃ?」

「この辺りに仕掛けを流してシーブルが掛かったんだから、午前中はこのままでいよう。午後は結果次第で良いんじゃないかな」


 延縄から離れて漁をしないで済むなら、潮の流れに任せても良さそうだ。

 最初のウキを投入する時に卸していたアンカーを付けなければ仕掛けは潮流に合わせて延びるだろう。最後のウキだけにアンカーを付ければ良いんじゃないかな。

 それが終われば、離れた場所で釣りができそうだ。

 底物だけでなく、上針に期待できるかもしれない。枝張りの間隔が長い仕掛けを使ってみるか……。


 朝食を終えたところで、先ずは延縄を流す。

 目印のウキを投げ入れると、ゆっくりと船から離れていく。少し南西に流れていくようだな。

 枝針が絡まないように仕掛けを流して、仕掛けの末端に付けた目印のウキを流す。だんだんと離れていくウキを見ながら、最後にアンカーの石を透かし離れた場所に落とした。

 カタマランから5m以上離れているから、甲板で釣りをしても絡むことは無いだろう。

 それでも少し心配なのか、タツミちゃんが船を東に移動する。

 カタマランのアンカーを引き上げ、再度下ろしたからずぶ濡れになってしまった。

 とりあえず着替えて、濡れた衣服を船首の梁に下げておく。


 改めて甲板に出てみると、南西20m程先に目印のウキが浮いている。

 これなら、青物が掛かっても延縄に絡むことは無いだろう。

 

 日中にはシメノンが掛からないとバゼルさんが言っていたから、底釣り用のリール竿を2本取り出して、下針と上針の間隔が1.5mほどの仕掛けを道糸のフックに取り付けた。

 上手くシーブルが掛かってくれれば良いんだけど……。


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