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P-049 今度は曳き釣りだ


 ガリムさんと一緒に氏族の島から1日から1日半の漁場で漁をすると、何度か豪雨に出会うことが多くなってきた。

 乾期が終わり、2度目の雨期がやってきたのだ。

 

 乾期の終わりのリードり漁は3日の内、1日が豪雨で中止となったが何とか魔石を15個を手にすることができた。

 3個が上級魔石だから、将来に備えてタツミちゃんがきちんと保管するらしい。氏族に2個、トーレさん達に1個は何時もの通りだから、残った魔石を換金して手元に置くとタツミちゃんが教えてくれた。

 銀貨5枚を渡してくれたから、これで漁具やワインを買うことができるな。


「次は曳き釣りにゃ。曳き釣りは半分が運にゃ」

「他の漁だって似た感じだけど、曳き釣りが一番の運任せだからねぇ。とりあえず大型のリール竿を2本手に入れたし、仕掛けはヒコウキと潜水版を2つずつだ。延縄も1式揃えてあるよ」


 俺の話を頷きながら聞いている。

 まだ準備が終わっていないと思っていたのかな? ちゃんとバゼルさんの船に厄介になっていた当時に色々と準備しておいたんだよねぇ。


「明日の朝に出発すると聞いたけど?」

「朝早くだから、ちゃんと起こすにゃ。船が動きだしたら寝てても良いにゃ」


 そうは言ってもねえ。それだとタツミちゃんが休憩出来ないんじゃないか?

 屋根の上で、周囲を眺めていよう。

 甲板で眺めるよりも周囲が良く見えるし、何かあれば直ぐに舵を代わってあげられる。


 昼過ぎに水汲みを行い、終わったところでオカズ用の竿を出す。

 夕暮れが近いから、銛で小魚を突くのは止めておこう。

 オカズと餌ということで、途中からタツミちゃんも参戦してくれた。

 どうにか十数匹を釣り上げたところで、タツミちゃんが大きい奴をオカズ用に選んでいる。残りは餌として使えるように簡単に下ろしているようだ。

 保冷庫にたっぷりと氷を入れて餌の保管も終了した。


 プラグを使う曳き釣りはカイトさんが始めたらしい。それまでは綿をぐるぐる巻きつけた枝を引いて、バルと呼ばれるダツを釣っていたらしい。

 大型の回遊魚が釣れるということで、ネコ族の間で広く使われている漁法なのだが、1つ大きな問題があるようだ。

 それは、掛る魚が大型だということだ。

 嫁さんが2人とか大きな子供がいるなら手助けして貰えそうだが、俺とタツミちゃんの2人だからなぁ……。延縄にしても、同じことが言えそうだ。

 どんな結果になるか、ちょっと不安になってしまう。


「ギャフを使わずに済むと良いんだけどね」

「その時には、私が道糸を持つにゃ。ナギサがギャフを使えば良いにゃ」

 

 道糸はただ持てば良いというわけでは無い。

 持ち方を誤ると、指を切ったりして大怪我をすることだってあり得るのだ。

 少なくとも、グンテをさせて絶対に指や腕に道糸を巻きつけないようにしなければならない。


 夕食が済んだところで、大物が掛かった時の対処についてタツミちゃんと話し合う。

 ワインを飲みながらだから、あまり真剣になれないのが問題だな。


 翌日。タツミちゃんに起こされて出発の準備を進める。

 曳き釣りは何度もバゼルさんを手伝ったから要領は分かっているつもりだが、いざ自分1人でどこまでやれるかを考えると不安が込み上げてくる。

 たぶんその場になったら、何もかも忘れてしまうんだろうけどね。


 リゾットにスープを掛けた朝食を食べてから、皆が待っている沖合へとカタマランを進める。

 操船櫓の後ろに黄色の旗が1本立っているけど、沖に行ったら白い旗が隣に加わるはずだ。


「最後だと思ってたけど、まだ全部じゃないみたいにゃ」

「気が早いのかな? 悪いことじゃないんだけど、こっちが慌ててしまうよね」


 黄色と白の旗を付けた、数隻のカタマランの中に俺達も加わる。

 そんな俺達の周囲を一回りして確認しているのは、ガリムさんの友人に違いない。

 数を数えて、遅れている船を確認しているみたいだな。


 一番沖にいるのはガリムさんの船のようだ。黄色い旗よりも高い位置に赤の吹き流しを付けている。

 俺達の周囲を回った船がガリナムさんの船に近付いていくと、ガリムさんが赤と白の旗を振って笛を吹いた。

 どうやら、今回の船団が揃ったらしい。

 ゆっくりと進むガリムさんの船の後に、2隻ずつ並んで従って行く。


「2隻少ないから、ナギサは俺の左を進んでくれ!」


 白い吹き流しを付けた殿役が俺達のカタマランに船を寄せて教えてくれた。

 手を振って了解を伝えると、タツミちゃんが少し右手に船を移動させる。

 後ろから追い付いてきた白い吹き流しのカタマランが俺達の左手に位置する。


 だんだんと速度が上がる。

 1日の航海だけど、時速15kmとすれば夕暮れ前までの6時間程90km先に行くことができる。

 実際には、島やサンゴを避けて行く手を変えるから80kmほど先になるんだろう。

 それでも、かなりの距離だ。

 バゼルさんと曳き釣りをした場所は海底が東西に長く続く割れ目が続いていたんだが、今回向う先も同様とは限らない。


 タツミちゃんと舵輪を代りながら今回進んでいる方向は、氏族の島から西になる。

 バゼルさんの話では西で漁をする者は少ないと聞いていたから、ちょっと意外な漁場になりそうだ。


「西には良い漁場が無いんだと思ってたけど?」

「北西にトウハ氏族が暮らす島があるからにゃ。西に2日はシドラ氏族の漁場だけど、あまり波風を立たせたくないのかもしれないにゃ」


 氏族の異なる船団が同じ漁場を争うkと尾が無いようにとの配慮なんだろう。

 詳しく聞いてみると、西に2日ではなく3日ということのようだ。

 あえて船の進む日数を減らすというのだからねぇ。氏族の垣根はまだまだ高いのかもしれないな。


 夕暮れが近づいたころ、小さな島に3つの石積みが見えた。

 その島を過ぎたところで南へと船団の進路が変わる。

 1時間も進んだだろうか、笛の音が何度も聞こえてきた。左手のカタマランが近づいて屋根の上から大きな声を掛けてくる。


「ここが漁場だ。船団を解いて明日の朝から漁をするぞ。あの島に集まってくれ男だけで十分だ」

「了解です。アンカーを降ろしたら直ぐに向かいます!」


 近くの島には、石積が2つ見えている。

 あれが目印になるのかな?


 島にカタマランを近付けてアンカーを降ろす。

 どうやら海底は砂地のようだ。遠浅なんだろうな水深が2m程度だ。


「たぶん、明日の漁の打ち合わせなんだと思う。出掛けて来るよ」

「ザバンを使うのかにゃ?」


「いいや、カヌーで十分だ。だけど皆が同じような船だからなぁ。帰りに迷いそうだ」

「なら、ランプにこれを巻いて置くにゃ」


 タツミちゃんが屋形の中に入って、取り出してきたのは赤い布だった。

 バンダナより少し大きくて風呂敷に見えなくもない。

 首を傾げている俺に、タツミちゃんが教えてくれたのは日除けとして使う布らしい。

 ザバンの上で軽く羽織るらしいが、それを使ったタツミちゃんを見たことがないんだよなぁ。

 暑ければ海に飛び込んで体を冷やすし、綿で作った筒のような物をラッシュガードのように着ているから、ネコ族のかつての風習だったのかもしれない。


 だけど、こんな時には役に立ちそうだ。

 布で包んだランプを柱の上に取り付けると、良い感じに赤い光が広がっている。

 目印には十分だな。


 嫁さん達が夕食の準備をしている間に漁の相談ということなんだろう。

 遅れないように、カヌーで島に向かう。

 砂浜にカヌーを引き上げながら、沖を眺めると船の上に赤き光が見える。あれなら迷うことはなさそうだ。


 浜で焚火を始めたから、その中に入っていくとガリムさん達がパイプを咥えて待っていてくれた。

 集まった連中を見ていると、誰もがパイプを持ち込んでいる。

 事前に教えてくれればと思ったけど、次からで十分だろう。風習に疎いとはだれもが認めてくれている。


「これで全員だな。明日からの漁だが、朝食後に延縄を流してくれ。浮きに目印を付けておくんだぞ。でないと誰の延縄なのかわからなくなるからな。

 仕掛けを流す場所は、向こうの島と、この島の南側だ。

 この島の南にもう1つ島がある。その島に向かってなだらかに海底が下っている。

水深は5mはあるだろう。南はさらに深いぞ。

 延縄を仕掛け終えたら、白い旗を付けて東の島近くに集合だ。

 南に向かって横に並び曳き釣りを行う。11隻だから、横に並ぶ船の間隔は60m程度にしたい。昼まで東に向かって反転してこの場所に戻る。

 そしたら、朝に仕掛けた延縄を引き上げるんだ。

 夕暮れを過ぎてしまうかもしれないが、大漁を祈ってるぞ」


 横に並んで漁をするのか……。僚船との距離が問題だな。

 タツミちゃんも気苦労しそうだ。

 何人かが質問をすると、丁寧にガリムさんが答えている。

 たぶん、ガリムさん達もそんな経験をしてきたんだろう。


 最後に並ぶ順番を決めることになった。

 その方法が、箱に入った小石に書かれた数字ということだから、これは不正のしようが無いな。

 

 俺の取り出した小石に書かれた数字は8番だった。一番南から3隻目ということだから、タツミちゃんがどんな顔をするか心配になってくる。

 

「これでお開きにするが、明日は早めに延縄を流してくれ。東の島近くで待っているからな」


 俺達が頷くのを見て満足そうな顔をしているが、隣の友人から小言を言われたのかな? 頭を掻きながら弁明を始めたようだ。


 カタマランに戻ると、すぐにカヌーを引き上げて固縛しておく。

 しばらくはカヌーの出番はなさそうだ。


 甲板に戻ると、すぐに夕食が始まる。

 場所が場所だから、今夜は夜釣りはできないだろう。

 真鍮のカップにワインが入っているのは、タツミちゃんも俺と同じ考えなんだろうな。


「明日の朝早くに延縄を仕掛けて、東に島に向かうんだ。横1列に並んで東に向かうらしい。俺達は南から3番目になる」

「曳き釣りは船が少ない方が良いにゃ。今回は曳き釣りの練習だと思うにゃ」


 ガリムさんの率いる船団は名目上13隻になるらしい。新人以外にガリナムさんと友人達が5隻加わっているからね。

 タツミちゃんの話では最終的には4隻か5隻グループに分けて雨期の漁をするのではないかということだった。

 

 となれば、今回の漁の目的はグループ分けの技量を見たいということになるんだろうな。

 明日は初めての延縄と曳き釣りだ。

 ワインを飲んで今夜は早めに寝るとしよう。


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