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P-044 若手筆頭はガリムさん


 ガリムさん達に水中銃を見せると、打ち出すスピアの形を見て首を傾げていた。


「本当に、これであのハリオを突いたのか?」

「そうですよ。先端の銛先が1YM(ヤム:30cm)ほどありますし、細いですからね。貫通しました。後は、このラインがありますから逃げられることは無いんですが、最後までかなり暴れてましたね。それで、銛の腕を上げようとして……」

「子供用の銛を作ったってことか。俺達の考えの逆だな」


 やってきたのは3人だったが、1人ずつじっくりと水中銃を眺めている。

 おおよその原理と使い方は分かったようだが、さて同じものを作るのだろうか?


「これだと、数をこなすのが面倒に思えるなぁ」

「ナギサが銛の腕を上げたいというのは、そこにも関連があるんだろう。トーレさんが『ナギサが銛を使うとオカズが増える』と言ってたからな」


 あまり広めてほしくない話なんだけどねぇ……。


「これなら狙い通りということなんだろうが、素潜りの最中にこれを使うのは面倒そうだぞ」

「もう少し簡単だと良かったんだが、俺達なら必要は無さそうだ。それに、ガルナックを相手には出来そうもない」


 ガルナックの話を聞いてみると、どうやら大きなハタのようだ。クエの親戚かもしれないな。

 大きなものは体長2mを越えるということだから、水中銃のスピアで獲ろうなんて考えは端から現実的ではなさそうだ。


「何とかして突きたいんだよなぁ。トウハ氏族の連中でも年に1匹上がるかどうからしい。シドラ氏族で突けたなら、トウハ氏族も一目置くんじゃないかな」

「銛を何本も打ち込んだらしいぞ。カイト様でさえ3本打ち込んだらしいし、アオイ様はリードル漁の銛を使ったらしいからな」


 あの物干し竿を使ったのか!

 話半分に聞いていたけど、2人の技量でさえそれだけ苦労した魚らしい。


「まさか次の航海で突こうなんて考えてるんじゃないでしょうね?」


「そこまでは考えていないさ。次は中型のブラドを突くぞ。長老が良い場所を教えてくれたからな。1日半で漁場に着くし、夜釣りも期待できるらしい。漁は2日行うつもりでいる」

「明日の昼に出発する。準備をしとくんだぞ」


 今度は本格的な漁そのものだ。

 ザバンを使わないのが残念だが、まだ嫁さんが1人ばかりの連中だ。

 2人目を貰うと、別の船団に入るらしい。


「明日の昼だからな!」

 

 再度俺に告げると、ガリムさん達はカタマランから下りて行った。

 中型のブラドと言っていたから、魚体の大きさは1YM~1YM半になる。シドラ氏族で漁獲されるブラドの平均的な大きさだ。

 突きやすいし、夜釣りでも掛かるからシドラ氏族による燻製品の主要産物でもある。

 

 だけど、俺にとっては一番の難物でもある。

 1匹が銅貨4、5枚だから、数を上げなければならない。相手が中型だと今の俺が銛を使えば3割はオカズになってしまいそうだ。


 タツミちゃんがカゴを背負って戻ってきたので、次の漁の話をする。

 カゴから荷物を取り出しながら聞いてくれたけど、どうやらタツミちゃんの方は俺より先に知っていたらしい。


「これで準備ができたにゃ。明日の朝に、ナギサが水を汲んでくれれば全て終わるにゃ」

「中型のブラドというのが問題なんだよね。やはり水中銃を使うことになりそうだ」

「漁は2日あるにゃ。2日目に銛を使えば良いにゃ」


 オカズの発生を少し減らそうということらしい。

 売ることが出来なくとも、自分達で食べる分には問題ないから、たくさん出た時にはバゼルさん達に配れば良いか……。


 夕暮れが近付いたところで、甲板から竿を出してオカズを釣る。

 夜釣りの餌用に少し多めに釣っておこうかな。

                 ・

                 ・

                 ・

 タツミちゃんが朝食を作っている間に、水場を往復してカタマランの水ガメにたっぷりと水を汲む。

 最後の水くみ用のカメはカマドの傍にロープで結んでおいた。


 少し遅めの朝食になってしまったが、昼から漁に出航することを考えればちょうど良いのかもしれない。

 カマドの上に載っている鍋で蒸しバナナが現在進行形で調理されている。

 軽い昼食という感じだな。残ればオヤツになるし、改めて少し蒸せば夜食にもなる優れものだ。


「ところで、どこに向かうんだろう?」

「北東にゃ。サンゴが大きく広がっている場所があるにゃ」


 タツミちゃんはトウハ氏族の出だから、シドラ氏族の漁場を知らないはずなんだが、小母さん達との会話でそんな情報を仕入れてのかもしれない。

 ネコ族の男性はどちらかというとストイックなところがあるんだが、女性は外交的というかどこにでも顔と口を出す感じなんだよね。

 ラジオもテレビもない世界だけど、島の情報はすぐに分かるし、広がる感じだ。


「ブラドなら私も頑張れるにゃ!」

「無理はしないでくれよ。何かあったらバゼルさん達に怒られそうだ」


 危険な魚はいないと教えてもらったが、やはり素潜りは危険な漁の範疇に入るはずだ。

 できれば甲板やザバンで見守って欲しいところではあるんだが……。


 そんな話をしながら朝食を食べていると、ガリムさんがザバンを漕いで甲板に近づいてきた。


「なんだ、今頃朝食なのか?」

「昼からですよね。それを考えると丁度良いと思ってるんですが」

「そういうことを考えてたのか。これは差し入れだ。親父からナギサは木登りが下手だと聞いたからな!」


 数個のココナッツとバナナの房を甲板に置くと、次の船に向かってガリムさんがザバンを漕いでいった。

 ありがたく頂いて、次の船にココナッツを投げ入れているガリムさんに頭を下げる。


「船団の指揮者ともなればいろいろとあるんだね」

「少し気負っている気もするにゃ。でも、差し入れはありがたいにゃ」


 ある意味過剰なサービスではある。

 だが、逆に考えればそれだけ船団を指揮するということがまだ手探り状態なのかもしれない。

 友人が手助けしてくれるとは言え、指揮を執る以上、船団の漁果に関わる責任はガリムさんにのしかかるのだ。

 俺達も、どんな方法で協力するかを考えないといけないな。


 蒸しバナナができると、残り火でお茶を沸かす。

 俺の水筒に入れておけば夕方までは飲めるだろう。

 準備が終わると、タツミちゃんが操船櫓に上がった。

 カタマランを止めているロープを解いて、船主のアンカーを引き上げると操船櫓に手を振った。

 ゆっくりとカタマランが桟橋を離れたところで、舷側に下げた緩衝用のカゴを引き上げながら船尾の甲板へと向かう。


 桟橋から離れたところで、大きく回頭を始めた。

 船首を沖に向かわせると、魔動機間を止めて操船櫓の後ろに黄色と白の旗を掲げる。

 俺達がガリムさんの船団であることを示すとともに出航の準備ができたことを示す表示だ。

 周囲を見ると、同じように黄色の旗を掲げたカタマランが数隻待機している。


「俺達が最初だと思ってたんだけど……」

「皆、張り切ってるにゃ。大漁だと良いにゃ」


 タツミちゃんが操船櫓の後ろの窓から顔を出している。いつでもカタマランを動かせるようにとのことだろう。

 魔動機関は停止しているけど、アンカーは下ろしていないから漂流状態ってことになる。同じように待機している船と接触事故を起こしかねないから、操船櫓から離れられないんだろうな。


 30分も経たない内に、次々と黄色の旗を付けた船が周りに集まってきた。

 赤い吹き流しを付けた船が沖に停まると、白い吹き流しを付けたカタマランが俺達の周囲を回って旗を確認しているようだ。

 友人達も大変だな。前回は2人が参加していたけど、今回は4隻のようだ。

 

 笛の音が3度聞こえてきた。

 いよいよ出航になるようだが、どうやらガリムさんの友人達が船団をまとめているようだ。

 赤と白の旗を屋形の上で振りながら次に出航する船を指示している。

 このままでいくと……、この前と同じように俺達は一番後ろになりそうだ。


 やっとカタマランが動き出した。

 2列になって進んでいるから船団の数が良くわかる。

 総勢12隻の船団だ。俺達のカタマランの後ろにいる2隻は、ガリムさんの友人なんだろうな。


 島を離れると、船足が速まる。

 自転車より少し速い速度に思えるけど、実際にはどうなんだろう?

 北に向かって真っすぐに進んでいるのは、目的地である漁場への目印となる島に向かっているのかもしれない。

 そろそろ、タツミちゃんと舵を変わってあげよう。

 この前よりも前後左右の僚船との間隔が開いているし、船足も一定だ。

 右手に僚船がいるから、万が一の場合は左に舵輪を回せば十分だろう。


 舵輪をタツミちゃんと交代しながら、船団を組んでひたすら北に向かう。

 日が傾き始めたころに、右手の島の砂浜に石組みを見つけた。

 次に見えた島には2つの石組みがある。

 どうやら道しるべのようだな。

 北や北東の漁場を目指すための指標なんだろう。

 

 夕暮れが迫る中、俺達の船団が船を停泊させたのは砂浜に3つの石組みがある沖合だった。

 船団を組んだまま投錨したが僚船までの距離は30m以上離れている。潮の流れで船の向きが変わっても接触事故は起きないだろう。


 オカズ用の竿を出して、数匹のカマルを釣る。

 タツミちゃんがぶつ切りにして鍋に放りこんでいたから、スープの具になるのかな?

 ちょっと大きめのカマルは3枚に下ろして保冷庫の中だ。

 明日の夜釣りの餌になるのだろう。


 夕暮れが始まったところでランプの中に光球を入れる。

 これがかなり明るいんだよなぁ。100Wの電灯を見たことがあるけど、あれより明るいように思える。

 電気はないんだけど、代替えの技術があるところが面白く感じる。


 リゾット風のご飯にカマルの入ったスープ。それに真鍮のカップに半分注いだワインが夕食になる。

 すでに日が落ちているけど、12隻のカタマランがランプを甲板に掲げているから、ちょっと幻想的な光景だ。

 肌を刺すような日差しはなくなり、海上を渡る風が心地よい。


「もっと食べるにゃ!」


 タツミちゃんの差し出す手に深皿を差し出したけど、これで3杯目だぞ。

 俺を太らせようと考えてるのかな?

 婚礼の打ち上げともいうべき祝宴で、メタボなおじさん達を何人か見掛けたけど、あの体型で素潜りができるのかと思わず考え込んでしまったのを覚えている。

 まさか、俺で試してみようなんて考えていないだろうな?



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