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P-040 漁の終わりは浜での宴会


 初日の成果は、ハリオが1匹にフルンネが2匹。それにバルタックと呼ばれるイシダイが2匹だ。

 バルタックでさえ、60cm近い大物だから、この海域には大物がたくさんいるようだ。

 突いても、カタマランに持ち帰らなければならないし、フルンネでさえ2人で甲板からロープで引き上げたぐらいだからね。

 数が出ないのは仕方のないことなんだろう。


 夕食を取っていると、ガリムさんがザバンで状況を確認しにやってきた。

 保冷庫のハリオを見て目を丸くして、俺の肩を叩いた。

 どうやら、他の連中はフルンネだけらしい。それも3YM(ヤム:90cm)を越えたぐらいの大きさだと教えてくれた。


「さすがは聖姿を背中に持つだけのことはあるな。あの大きさのハリオは親父だって無理なんじゃないか」

「腕よりは運でしょうね。たまたま潜っていた時に群れが通ったんです」

「それでもだ。他の連中も群れには遭遇したらしいが、銛を構える前に去って行ったらしい。

 俺達も突きたいところだけど、この航海だけはなぁ……。底釣りをしてるんだが、バヌトスばかりだ」

「でも型は良かったんじゃありませんか?」


 俺の問いに、嬉しそうに頷いて次のカタマランに向かって行った。

 中々大変だな。漁果を確認して、あまり突けない者には、良い場所を教えてあげるのだろう。

 今のところは、フルンネを突いているんだから問題は無いようだ。


「明日もハリオが突ければ良いにゃ。私も潜ってみるにゃ」

「あまり無理はしないで欲しいけど、バルタックにかなり遭遇したよ」


 2人で漁をしても問題はないんだけど、タツミちゃんの銛の腕はどうなんだろう?

 トウハ氏族は銛を誇るとも聞いているから、俺より多く突くんじゃないかな?

 それは、ちょっと俺の立場的に問題がありそうに思えるんだけどねぇ……。

 

 最終日の成果は、1.2mほどのハリオが2匹にどうにか1mを越えるフルンネが2匹だった。

 タツミちゃんがバルタックを3匹にブラドを2匹突いたけど、フルンネと違って開いているから一夜干しにするのかな?


 夕暮れ前に、近くの島の沖合にカタマランを停泊させて浜で焚き火を囲む。

 料理は嫁さん達任せだけど、使う魚はガリムさん達が釣り上げた魚みたいだ。今回の漁果を放出することになってしまうけど、一応婚礼の航海の案内人は名誉職ということだから、長老達からの援助があるらしい。


「この酒も長老から渡されたものだ。今夜飲み切るぞ。明日は嫁さん達に任せておけば十分だからな」


 ガリムさんの話を聞く限り、明日は二日酔い確実ということらしい。

 龍神に漁の成功を報告してガリムさんがココナッツ酒を捧げる。

 その後の乾杯を終えると、後は飲み放題ということらしい。


「ナギサ以外にもハリオが突けたのを知れば、島の連中も喜んでくれるに違いない。銛の腕はトウハのも並ぶと言ってな」

「ナギサの3匹には驚いたが、他の2人も突けたんだからな。俺達の時にはフルンネばかりだったんだ」


「おかげで、嫁さん達から冷たい目で見られているんだよなぁ……。今なら突ける気もするんだが」

「そうかぁ? お前がハリオを突いたという話は聞いたことも無いぞ」


 ガリムさんと友人達の会話は、自分達の思い出話も入っている。

 嬉しそうに披露してくれるのは、自分達で出来なかったことを自分達が率いてきた俺達が果たしてくれたことが嬉しかったに違いない。


「ハリオは突きましたが、引き上げるのが一苦労でした。フルンネでさえ苦労しましたからね」

「船尾の板が外れるだろう? 大物は一旦海から上がって2人で甲板から引き上げるんだ」


「それに関しては、ナギサが一番賢かったぞ。ナギサのカタマランに柱が付いているのは、腕木に滑車を設けるためだ。

 あの滑車を使って引き上げたんだろう。だが、さすがにあの大物は2人掛かりでロープを引いたんじゃないか?」


「その通りです。曳釣りは大物が掛かりますから、それを想定して設けたんですがさすがにハリオには苦労しましたね。

 将来2隻目を作る時には、ロープを巻き取るロクロを付けようかと思っています」


「延縄漁をする連中の中には、ロクロを付けているカタマランもあるぞ。引き上げが1人で出来ると言っていたが、銀貨30枚だからなぁ……。それに場所を食うから、大きなカタマランでないと色々と不都合があるようだ」


 それぐらいで搭載できるなら、次の船には是非とも付けて貰おう。

 そんな話から、次第に漁に関する話題に移ってくる。

 やはり、ハリオが3匹というのは、彼等には信じられないのだろう。

 早めに、水中銃を教えておこうかな。


「実は、ちょっとした仕掛けを作って銛を突いてるんです。板の上を銛が滑るような形で銛が放たれるんですが、興味があれば島に戻った時にお見せします。

 ドワーフの職人に作って貰いましたが、値段は銀貨5枚でした」


「銛の尻についているガムを伸ばして突くんではないのか?」

「原理は似てますが、使う銛は俺の小指ほどの太さです。20YM(6m)は飛びますから、銛先近くに紐を結んでいます。銛……、俺はスピアと呼んでますが、魚に貫通したら、紐を掴んでの綱引きになりますね。ハリオを突いた時には、かなり苦労しました」


 なんでそんな代物を使うのかと質問されたので、正直に答えることにした。

 銛の腕が今一で、突いた魚の半数がオカズになってしまうと話したら、気の毒そうな表情で俺を見てるんだよなぁ。


「その腕を、変わった仕掛けで代替えしてるってことか! そうなるとあまり期待しない方が良いぞ。 狙いをしっかりと付けられるだけだということになる。銛を打つタイミングが変わるわけではないからな」


「突けるだけなら何とかなるが、売れない魚では問題だな。それを工夫して売れる魚にできるんだから、お前達も売れない魚になるようなら、ナギサに教えを受けると良いんじゃないか?」


「銛を打つ距離がそれほど変わらないんでは、そんな仕掛けを使わずとも何とかなります。それに話を聞く限りでは手入れも大変そうです」


 俺と同年代の男達は、見たいとは思っても欲しいとは思わないようだ。

 確かに、面倒なんだよね。少しずつ俺も銛の腕を上げておきたいところだ。

 タツミちゃんが突いたバルタックは全て理想的な位置に銛が貫通していた。さすがはトウハ氏族出身だと感心してしまう。


 タツミちゃん達が作った夕食を食べながらも、更にココナッツ酒が振舞われる。

 漁を無事に終えたし、フルンネが突けなかった者は誰もいない。

 トウハ氏族ではないから、シドラ氏族的には十分な成果と言えるんだろうな。


「次の満月から、お前達は俺が率いることになる。次のリードル漁までは素潜りと夜釣りになるが、乾期の終わりのリードル漁を過ぎれば、曳き釣りと延縄だ。

 それまでに、道具は揃えておくんだぞ。……ああ、それとシメノン用の仕掛けも準備しておいてくれ。嫁さんと2人で釣るなら、一晩で10匹は上げられるはずだ」


 今後は、ここに集まった連中が船団を組んでの漁になるみたいだ。

 ガリムさんの友人達も、交代で俺達の面倒を見てくれるに違いない。


「操船櫓の後ろに旗竿を入れる竹筒を取り付けて欲しい。数は2本で良いだろう。

 1本は俺達船団の印だから、黄色の旗だな。もう1つは、状況に応じて、白か赤の旗を差し込めるようにしといてくれ」

「出港時に準備ができていれば白旗、まだ時間が欲しい時には赤の旗を差し込んでおけば、船団の状況が直ぐに分かるからな。

 船を進めている時や漁をしている時も、何かあれば赤の旗だ」


 カゴを編んでいる爺さん連中のところに行って分けて貰おう。

 旗竿は8YM(2.4m)程度の物を使うらしい。俺の身長より片手分長ければ十分だろう。

 そんなアイデアは、ガリムさんの友人達で考えたんだろうな。

 ちょっとしたことだけど、船団を率いるということがどれだけ大変か、ガリムさん達も理解できたということに違いない。


 夜遅くなったところで、浜での酒盛りを終えて自分達のカタマランに戻る。

 ザバンを使わずにカヌーを使ったから、俺もタツミちゃんもずぶぬれだ。

 船首の小さな甲板にカヌーを引き上げて、ロープで固定する。

 いつまで使えるか分からないけど、防水塗料をしっかりと塗ってあるからまだしばらくは使えるに違いない。

 

【クリル】で体の塩気を拭い去り、乾いた衣服に着替える。

 寝る前に、タツミちゃんが保冷庫へ氷を追加していた。島に帰るまでに2日掛かるからなぁ。たっぷりと氷を入れてあるようだ。


「あれだけあればトーレさんも満足してくれるかな?」

「自分達が獲ったみたいに喜んでくれるにゃ。ナギサならトウハ氏族で漁をしても問題ないにゃ」


 さすがに、そこまでは到達していないだろう。

 とはいえ、本命を3匹突いたんだから、少しは素潜り漁に自信が付いてきた感じだ。

 

「タツミちゃんも銛の扱いが上手いんだね」

「12歳から銛を使ってたにゃ。でも、今回のバルタックは大きかったにゃ」


 バゼルさんのところにやってきた時は15歳の筈だから、3年であれだけ的確に銛を打ち込めるのか……。

 次の漁では、積極的に銛を使って見るべきかもしれない。

 数を突かないのなら水中銃の方が確実性はあるんだが、手返しを考えると銛の方がシンプルだからなぁ……。

 狙いが今一なんだけど、練習すればそれなりに上手くできるようになるかもしれない。

 それに、どうしてもうまくできない時には水中銃を使い続ければ良い。


「やはり、銛の練習をしないといけないだろうな」

「あの水中銃で十分にゃ。でも、練習するなら島の沖で銛を使ってオカズを突くにゃ」


 オカズ釣りじゃなくて、オカズを突くのか!

 タツミちゃんの話では、年長の子供達が銛の練習をしているらしい。桟橋付近では釣りだけらしいけど、少し沖に行けば水深が身長の2倍はあるとのことだ。


「でも、それはトウハ氏族の子供達にゃ。シドラ氏族の子供達が銛を使うのを、あまり見ていないにゃ」

「なら、子供達に笑われないで済みそうだ。氏族の島で漁を休んでいる時にはやってみるよ」


 全く突けないということにはならないだろう。数匹突ければ夕食のオカズになりそうだ。それに小さな獲物が突けるなら、大物だって突けるだろう。

 それなら、今使っている銛だと少し大きいかもしれない。

 柄の長さを身長ぐらいにした銛を作ってみようか。銛先はできれば交換できる方が色々と使えそうだけど、ダメならスピア程度の銛先でも十分だろう。

 子供達が漁をしてるぐらいだから、あまり大きいのはいないんじゃないかな。



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