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P-033 狙い通り群れがきた


 昼過ぎまで素潜り漁を行なったところで甲板に上がる。

 船尾の滑車を使ってクーラーボックスを引き上げると、タツミちゃんが獲物を捌き始めた。

 俺には無理だろうから、銛の手入れをして家形の屋根裏に戻すことにした。

 水拭きして軽く油を塗っておく。

 これだけでも、サビはかなり防げるだろう。


「干すのは夜で良いのかな?」

「夜釣りを捌いてからにゃ。上手く行けばシメノンが来るにゃ」


 シメノンは果たしてやって来るのだろうか?

 移動方向は間違っていないが、進行速度が問題なんだよなぁ。潮通しが良ければ移動速度が上がると踏んでここで待ち構えてはいるんだが……。


「これが終わったら、バゼルさんの船に寄せるにゃ。夜釣りは近くでした方が釣れると聞いたことがあるにゃ」


 光に集まる酒精の魚ならそうかもしれないけど、底物は光を避けるんじゃないかな?

 まあ、とりあえずはやってみよう。


 どうにかタツミちゃんの仕事が片付くと、アンカーを引き上げてバゼルさんの船に寄せる。

 アンカーは下ろさずにカタマラン同士を船首と船尾の2カ所をロープで固定すると、かなり遅い昼食が始まった。


「上手く突けたのか?」

「2人で8匹を上げました。良い型ですよ」


 漁果をバゼルさんに報告していると、「十分にゃ。夜も頑張るにゃ!」とトーレさんが頷きながら昼食の皿を渡してくれた。

 朝食が遅かったとはいえ、かなり泳いでいたからね。結構お腹が空いている。

 頭を下げながら皿を受け取り早速食べ始める。


「6匹を超えているなら問題なかろう。夜釣りでもそれぐらいの数を上げれば十分だ」

「場所はここで?」


「崖からそれほど離れていないし、あまり離れると夜を押して航行する船の邪魔にもなるだろう。この海域から東に向かって漁場が並んでいるからなぁ」


 島と島の距離は最大でも3kmに満たないし、サンゴ礁や浅瀬もある。航行する船は島と島の間を通るような形で進んでいるようだ。

 そんな海域でも進路を上手くとれば、かなりの距離を真っすぐ進めるようだ。


「崖からあまり離れると、獲物が少ないからな」

「根魚は崖の近く、シメノンは崖から距離を置く……、そんな感じですか」

「そう考えることができるなら、十分だ。だが、崖から距離を置けば中層を回遊する魚も掛かる。その辺りは運に左右されるのだがな」


 中層を狙える仕掛けで試してみるか。タツミちゃん用にも作っておいた方が良いのかもしれない。

 夜釣りには時間があるから、十分間に合うだろう。

 

 昼食後のお茶を頂いていると、すでに日が傾き始めている。

 本来なら、昼寝の後に少し早めの夕食となるんだけど、夕食抜きで夜釣りをすることになりそうだ。


 自分達の船に戻って、夜釣りの準備を始める。

 胴付き仕掛けの竿を2本用意したところで、餌木を付けた竿を2本用意して家形の壁に立て掛けておいた。

 シメノンが現れたら、竿を取りかえれば良いだけだ。

 最後に、胴付き仕掛けの2本バリの間隔を身長ほどに取った仕掛けを作り、タツミちゃんの胴付き仕掛けを交換しておく。


 作業が全て終わると、だいぶ日が傾いているのに気が付いた。

 1時間もせずに夕暮れが始まるだろう。


 タツミちゃんが、サディさんから蒸したバナナを貰って来たので、夕日を眺めながら頂くことにした。

 何となくオヤツ感覚だけど、これから3時間程の漁をすることになる。少しはお腹に入れておけという親心なんだろうね。


 ランプに明かりをともして、甲板の上に吊り下げた。

 すでに夕暮れが終わっているから、バゼルさん達は竿を手にしている。


「始めるにゃ!」

「釣り針の間隔が大きいから、中層の魚も釣れるかもしれないよ。竿尻の紐をベンチの枠に結んでおくんだ。それと、竿を話す時には仕掛けを少し巻き上げて」


 中層を回遊する魚は、かなりの引きだからね。横走りするから竿を持って行ってしまうだろう。

 その対策が竿尻に付いた紐ということになる。

 

 俺が船尾で竿を出し、タツミちゃんは舷側で竿を出す。

 さて、何が釣れるかな?


 バヌトスを2匹釣り上げた後で、いきなりの強い当たりが腕に伝わる。

 それまでは、下にグイグイという感じだったが、今度は起きに向かってグーンという感じの引きだ。

 思わず笑みが浮かぶ。

 狙い通りに回遊魚が食い付いた感じだ。

 さて、何が食い付いたのかな? カマルでは無さそうなんだけど……。


「何が掛かったにゃ?」

「手伝ってくれ。シーブルかもしれない!」


 タツミちゃんがリールを素早く巻き上げて、タモ網を手に俺の隣に立つ。

 仕掛けは頑丈に作ってあるから、力任せにリールを巻き取る。

 引きが弱くなったところで、下ろしたタモ網に獲物を誘導すると、「エイ!」という掛け声を上げながら、タツミちゃんがタモ網を引き揚げた。

 甲板でバタバタと騒いでいる魚の頭に棍棒を振るうと、保冷庫の中にポイ! と投げ入れてる。


「シーブルにゃ。同じ仕掛けだから、今度は私が釣るにゃ!」


 俺が餌を付け直して再び竿を下ろそうとしてると、タツミちゃんが竿を握って立ち上がるのが見えた。


「こっちにも来たにゃ!」

「タモは任せろ!」


 2人だから忙しいな。

 そんな俺達の様子に気が付いたのか、サディさんが甲板にピョンと飛び乗って来た。


「何が釣れたにゃ?」

「どうやらシーブルの群れが来てるようです。先ほど1匹釣り上げたんですけど、良い型ですよ」


 保冷庫の蓋を開けて確認すると、直ぐに船に戻っていった。

 バゼルさん達が仕掛けを交換しているようだから、シーブル狙いに変更するのかな?

 

 タツミちゃんが何とか手元に寄せてきたところでタモ網を海中に沈める。

 上手く頭がタモ網に入ったのを確認して甲板に引き上げると、魚体が緑色だ。


「グルリンにゃ! 後は私に任せて、仕掛けを下ろすにゃ!」


 シーブルより値が良いから、もっと連れということなんだろうな。

 直ぐに自分の竿を下ろして当りを待つ。


 1時間も経たずに群れが去ったのだろう、当りが無くなってしまった。

 仕掛けの棚を再調整して底物狙う。

 2人で5匹なら上出来に違いない。それもグルリンが2匹混じっている。

 これで今夜の釣りを終わりにしても良いんだけど、まだ時間はたっぷりある。

 

 バヌトスを3匹追加したところで、夜釣りを終えようとしていた時だ。

 タツミちゃんが海中をよく見ようと舷側から身を乗り出しているのが見えた。


「シメノンにゃ!」


 大声を上げて知らせてくれた。

 仕掛けを巻き上げて、竿を置くと家形に立て掛けてあった竿を取り、1本をタツミちゃんに渡す。

 直ぐに去ってしまうからね。

 それまでにどれだけ釣果を上げるかだ。


 リールを横にして軽く竿を振ると30m程沖に餌木が届く。ゆっくりと数を数えながらリールを元に戻し、5つ数えたところで竿をシャクリながら手元餌木を引いてくる。

 半分ほど引いたところで、急に竿が重くなった。

 大きく竿を立てて合わせると、道糸を巻き取っていく。

 海面に一度上げて墨を吐かせたところで取り込んだ。

 甲板に放り出しておくわけにもいかないので、桶に入れておく。

 タコなら逃げ出すけど、さすがにコウイカには無理なようだ。


 隣のバゼルさん達もシメノンを釣り上げている。

 群れが去るまで、どれだけ釣れるか楽しみだ。


 シメノンの群れが去るまでに、2人で十数匹を釣り上げて竿を畳む。

 タツミちゃんが魚とシメノンを捌く間、バゼルさんの手招きにおうじて、隣でココナッツ酒を飲むことになった。

 カップ半分ぐらいだから、明日に残ることは無いだろう。


「やはり、群れがいたな。その前のシーブルにも驚いたが、良くシーブルが来ることが分かったな」

「潮通しが良く、東に向かって割れ目が続いていますからね。ここで引き返すか、別の我に動くかは分かりませんが、とりあえず一休みする場所だったんでしょう。

 胴付き仕掛けの2本バリの間隔を身長ほどに開けて様子を見てたんですが、狙い通りに食い付いてきました」


「シメノンは来ぬかと思っていたのだが、結構大きな群れだったようだ。3人だから20近い数を上げたぞ。読みは中々だ。後は漁場を覚えなくてはならんな」

「バゼルさんに連れて行った貰った場所は、タツミちゃんが覚えているでしょう。海図にも色々と書き込んでいました」


「たぶん、トーレ達が教えたんだろう。とはいえ、俺達から離れたら自分達で探さねばならんぞ」

「1日カタマランを走らせて、2日目に漁場を探す。3日目から漁をするという感じで行きたいと思っています」


 俺の言葉に目を細めて頷いてくれた。

 それなら問題ないということなんだろうが、それだとかなり近い場所での漁になりそうなんだよなぁ。

 できれば1日半ほど走らせたいところだ。それだけで20km以上離れた場所での漁になる。

 とはいえ、近場の漁場は狙う漁師も多いはずだ。

 良い漁果を得るには、少し離れた海域で新たな漁場を探すことになるんだろうな。


 タツミちゃんが捌き終えた獲物を、浅いザルに並べて家形の屋根に干す。

 明日の朝、太陽が昇る前に取り込むということなんだろうけど、起こして貰えれば何とか下せるだろう。

 2枚のザルを干したところで、夜食になる。

 遅い時間だけど、明日も漁が続くんだから軽い食事とはならないようだ。

 焼いたシメノンをオカズに、香味野菜が入った炊き込みご飯を頂く。


「明日も今日ぐらいなら、皆が羨ましがるにゃ」

「明日はフルンネを狙ってみろ。何匹か見掛けたぞ。婚礼の航海までにさらに腕を磨いておく方が良いだろう」


「俺も見ましたけど、少し離れてましたので突くことはしませんでした。確かに大物を考える必要がありますね」


 フルンネを突くとなると、タツミちゃんは甲板で待機になるな。

 今日は色々と頑張ってくれたんだから、明日はのんびりさせてあげよう。


「ハリオはいなかったのかにゃ?」

「見かけなかったが、フルンネがいるなら可能性はあるだろうな」

「なら、ハリオを狙うにゃ。ハリオもナギサに狙われたらお終いにゃ」


 群れの中で上手くスピアの上を通る奴がいれば良いんだけどね。1匹しかいないなら、よほど運が良くなければ突くことはできないと思うな。


「ハリオは単独では動かない。必ず群れを作るはずだ。明日はこの海域の真ん中付近を狙ってみろ」


 そこまで言われると、最低でもフルンネを突かないと及第点は貰えなさそうだ。

 満点は無理でも、赤点は取りたくないな。



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