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P-032 2人で素潜り漁


 タツミちゃんが1時間程操船をすると、15分ぐらい俺が代わって操船する。

 一番長く操船したのは、タツミちゃんが昼食の準備をしている時だった。

 それでも30分ほどじゃなかったかな。

 昼食は操船櫓に鍋を持ち込んで2人で食べた。

 舵輪に紐を結んで足で押さえるという器用なことをタツミちゃんがしていたけど、進路の変更は無かったし、相変わらず同じ速度で南に向かっているから出来ることなんだろうな。


「慣れたかにゃ?」

「真っ直ぐ進んでるんだから、それぐらいは何とかだけどね。漁場での停船や桟橋に着けるのは無理だと思うよ」


「それは私の仕事にゃ。でも、周囲を見といて欲しいにゃ」

「それぐらいはちゃんとやるよ」


 押しかけ女房と言うんだろうな。

 周囲もいつの間にかタツミちゃんを俺の嫁さんと認めている。

 16歳になったと言っていたから、ネコ族では成人とみなされるから、俺達が一緒に暮らしても問題はないんだけど……。


「今夜遅くまでカタマランを走らせると言ってたけど」

「だいじょうぶにゃ。でも、夕食は漁場についてからになるにゃ」


 それぐらいは構わないけど、明日の朝から漁をするためなんだろうな。

 少し船速が速い気もするのは、なるべく早く到着しようとしているのだろう。


 夕日が落ちる前にランプを2つ用意して、1つを甲板の上にある帆桁に吊るし、もう1つは操船櫓近くの帆柱に吊るす。

 操船櫓の中が少し明るくなったかな。中に持ち込もうとしたら明るくて操船の邪魔になりそうだったからね。


 前方を進むバゼルさんの船は操船櫓の屋根に吊り下げている。あれでも良いのかもしれないな。


 日が落ちても星明りというのか、海と島は見ることができる。

 海面の下は見ることなどできないから、先導する船は安全な航路を確認しながら進んでいるんだろうけど、後ろを進む船は航跡を辿るだけだ。

 船団を率いるというのは、それだけの技量が嫁さん達にもあるということになるんだろう。

 気さくな小母さん気質のトーレさんは、優れた航海士でもあるようだ。


 下弦の月が昇ると、俺にも周囲が良く見えるようになってきた。

 暗闇に目が慣れたせいもあるんだろうけどね。

 ネコ族の人達は、ネコのように瞳が変化するから、夜間視力も抜群らしい。

 俺はネコ族の一員には成れたけど、元々の身体機能に変化があったわけではない。

 その辺りは、妥協するしかなさそうだな。


 何度か操船を交代しながらカタマランを進めていると、前方の甲板でランプが左右に振られたのが見えた。

 同じく笛の音が聞こえてくる。


「着いたのかにゃ? 速度も落ちてるにゃ」

「横に着けてくれない。聞いてみよう」


 進路を少し変えながら、バゼルさん達のカタマランに接近すると、バゼルさんが甲板から大声で横付けするように指示を出してきた。

 すでにカタマランの速度は歩くほどに低下している。

 ゆっくりと慎重にタツミちゃんがカタマランを操って船を近づけると、バゼルさんがロープを投げてきた。


「船尾を軽く結んで船首に向かえ。2カ所で結べば2隻を固定できるからな」

「了解です!」


 船尾の舷側に付いているロープ掛けに軽く結んだところで船首の甲板に移動する。

 バゼルさんが投げてくれたロープを結んで、言われるままに投錨すると、するすると漬物石に結んだロープが海底に沈んでいった。15m程もあるロープの残りを見ると、この辺りの水深は10m近くありそうだ。


 もう一度船尾に向かって最初のロープを再固定しようとしたんだが、すでにバゼルさんがこちらの甲板に飛び乗って固定を終えたところだった。


「申し訳ありません。少し考え事をしてました」

「気にするな。だが、要領は分かったはずだ。海上で船を並べる時には船の前後をロープで固定する。間に干渉体を入れれば船がぶつかって壊れることも無い。もっともこの辺りの海域でそれほどウネリがあることは無いんだがな」


 転ばぬ先の杖、ということなんだろう。

 海の上では何があるか予想もつかない、と親父もよく話をしてくれた。

 

「お腹が空いてないかにゃ? もう直ぐできるからこっちに来るにゃ」


 サディさんの言葉に、俺のお腹が反応して小さな音を立てる。

 トーレさん達は笑みを浮かべているのは、それだけ自分達の用意する食事を俺が気に入って食べていると思ってくれたに違いない。


 とは言ってもかなり遅い時間だし、ずっと船を走らせてきたから夜食は簡単なものだった。

 バナナをバナナの葉で来るんで蒸したもの、それに具の少ないスープだ。

 スープは何時も通り香辛料が効いているけど、蒸したバナナは甘みがあって、ちょっと焼き芋に似た食感だった。

 青いバナナを剥いて、蒸すだけだとトーレさんが言ってたから、今度タツミちゃんに作って貰おう。


「疲れただろう。明日は素潜りだが朝早くからすることも無いだろうから、ゆっくりと休むが良い」

「お日様が出てから起きれば良いにゃ。朝食が終わったら船を動かすにゃ」


 この場で漁をするわけではないようだ。

 漁場には到着したけど、素潜り漁ができるポイントを探すことになるのだろう。

                 ・

                 ・

                 ・

 タツミちゃんに起こされた時には、すでに太陽が高く上っていた。

 海水で顔を洗うと、すでに朝食の用意が出来ている。どうやらゆっくりと眠らせてくれたみたいだ。


「相変わらずだが、明日は早いぞ。この漁場は東を除いてサンゴ礁から急深になった崖のような地形が続いている。昼過ぎまで素潜りをして昼食後にこの辺りに戻って夜釣りをするぞ」

「広範囲にザバンを使うことになりますね」


「俺達はそうなるが、ナギサの方は崖の近くに投錨しての漁になる。ザバンを使う漁はしばらくはできんな」


 朝食を頂きながら、2人で漁をする場合の注意点をバゼルさんが教えてくれる。

 基本は互いにどの辺りで漁をしているかを知ることらしい。

 一緒に漁をすると言っても、同じ獲物を突くわけではないからなぁ。互いの視認距離を保つことが大事だと教えてくれた。


「それで、どの辺りで漁をするんだ?」

「そうですねぇ……。南西の崖を探ってみます」

「俺達は、北の崖だ。距離は離れるが、何かあれば笛を吹くなりして知らせてくれ」


 バゼルさんと漁の場所を確認したところで、自分達の船に戻る。

 タツミちゃんも隣で聞いていたから、直ぐに操船櫓に上がっていった。アンカーを始めに引き上げると、船尾と船首のロープを解いで、タツミちゃんとバゼルさんの船の操船櫓に手を振って合図を送った。

 

 直ぐに2隻の船が離れ始めた。

 大きく右にカタマランの進路が変わり、歩くより少し速いぐらいの速度で進み始める。

 いよいよ漁を始めるから、良い停船場所を探しながら操船しているのだろう。

 その間に、屋形の屋根裏からタツミちゃん用の銛と水中銃を取り出しておく。

 クーラーボックスにお茶の入った水筒を入れて、【アイレス】の魔法を使って氷を入れておく。大きなツララが2個できるから、1個はカタマランの保冷庫に入れておこう。

 保冷庫と言っても、ただの木箱みたいなものだからね。

 最初から冷えているなら、漁果を入れる時に氷を砕いて入れる必要もなさそうだ。


 クーラーボックス両サイドにある取っ手を通してロープを通し、帆桁の先端から下りている動滑車のフックに結び付けた。

 ゆっくりと海面に下ろしてみると、ちゃんと浮かんでいるな。

 引き上げ時を考えて船尾の板を下ろし、ついでにハシゴも下ろしておく。2mにも満たないハシゴだけど、甲板へ上がる時には役立つ優れものだ。


 いつの間にかカタマランが停止している。

 どうやら良い場所を見付けたのかな?


「アンカーを下ろして欲しいにゃ!」

「分かった。直ぐに下ろすよ!」


 船首で待っていた方が良かったかな?

 急いでアンカーを下ろしてみると、昨夜と同じぐらいロープが延びて行った。

 

 結構深そうだ。海面をみると、カタマランから20m程西の海底が紺と緑に縁どられているのがはっきりと見える。

 傾斜してるのではなく、崖そのものなんだろう。


 甲板で装備を身に付けていると、水着に着替えたタツミちゃんが屋形から出てきた。

 セパレートのでは様な水着にグンテのような材質のマリンシューズ。目には競泳用の眼鏡のようなものをつけている。

 ちゃんとグンテを付けているな。

 かなりやる気が出ている気がする。


「これが私の銛にゃ?」

「そうだよ。無理はしないで欲しいな」

「だいじょうぶにゃ。トウハではたくさんブラドを突いたにゃ」


 船尾にクーラーボックスを浮かべてあることを教えると、直ぐに海に飛び込んでいった。

 俺が潜る前に1匹突いてきたなんてことになると、俺の立つ瀬が無くなってしまう。

 急いで、マスクを着けると水中銃を手に甲板から飛び込んだ。


 シュノーケリングをしながらタツミちゃんを探すと、崖に沿って獲物を探しているのが見えた。

 見付けたなら、速攻で銛を打ちそうだな。

 少し離れた場所に向かって泳いでいくと、息を整えて海底にダイブする。


 崖はかなり切り立っているけど、いくつもの割れ目が入っている。

 さらにサンゴがあるから、魚を上手く隠しているようだ。

 割れ目の奥、サンゴの下を念入りに探していると、大きなバヌトスを見付けた。


 ゆっくりと水中銃を前に出し、サンゴの下のバヌトスに狙いを定める。

 トリガーを引いて、スピアが目の直ぐ横に刺さったことを確認して、ラインを引く。

 ほとんど即死に近かったらしく、あまり抵抗もなくサンゴの裏からバヌトスが出れ来る。

海面に上がってカタマランを見付けると、獲物を引きながら泳ぎ始めた。

 

 どうやら先行できたみたいだ。

 クーラーボックスの蓋を開けてバヌトスを放り込むと、再び漁に向かう。

 

 途中で急にタツミちゃんが海面に姿を現した。

 俺に気が付いたのだろう銛の先に付いたブラドを見せてくれた。

 中々良い型じゃないか。

 互いに手を振って別れたところで、再び水中に潜る。


 3匹突いたところで一休み。カタマランの船尾に掴まりながら、水筒のお茶を飲んでいると、獲物を持ったタツミちゃんが近付いてきた。

 

「2匹目のバヌトスにゃ!」

「休憩しようよ。まだまだ漁は続くんだから」

「なら、甲板に上がるにゃ。その方が体が楽にゃ」


 銛と水中銃を先に甲板に上げたところで、船尾に卸したハシゴを使って甲板に戻る。

 直ぐに、タツミちゃんが温くなったお茶をココナッツのカップに入れて渡してくれる。


 冷たいお茶も良いけれど、漁の合間なら温めのお茶でも良さそうだ。

 海水は生温かだけど、体温を奪うことに変わりはない。


「銛は使い易いかい?」

「だいじょうぶ、ちゃんと突けたにゃ」


 実の父親が託してくれた銛先を、バゼルさんが丹念に銛に仕上げてくれただけのことはあるようだ。


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