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P-027 ドワーフの作った水中銃


 2か月後にカタマランを持てると知って、バゼルさん達は自分達のことのように喜んでくれた。


「延縄仕掛けは作ってあるようだな。曳き釣りの仕掛けは2つもあれば十分だ。無くとも雨の合間に素潜りと釣りをして漁果を伸ばすことはできるだろう」

「何とかバゼルさんの真似をしてみるつもりです」


「やり方は教えたはずだ。後は自分の身に付けることになるんだが」

「一緒に漁をすれば良いにゃ。小さなカタマランだとカマドが1つにゃ。まだまだ料理を教えないといけないにゃ」


 タツミちゃんも料理をしていたけど、味付けや下ごしらえはトーレさん達が頼りだったみたいだ。

 とりあえずご飯が炊けて、スープが作れれば問題ないんじゃないかな?


「カタマランを注文したなら、明後日に漁に出掛けるぞ。素潜り漁だが、変わった銛を作ったようだな」

「水中銃を作ってみたんです。使えるかどうかは漁をしてみないと分かりません」


 ドワーフ族の職人が作ってくれた水中銃は、石弓と呼ばれるクロスボウに似た構造だ。

 弓ではなくガムと呼ばれるゴムの弾力を利用して、銃の上部に設けた滑走台のスピアを前方に撃ち出す構造は類似点が多いと話してくれた。

 おかげで、予想もしなかったセーフティが取り付けられている。

 スピアは小指ほどの太さのある黒檀製で先端に直径5mmほどの銛が取り付けられている。5寸釘かと思っていたけど、それより長いし鋼だと教えてくれた。

 曳き釣り用の道糸が銛の中ほどに付けられた金属製の輪と水中銃を結んでいる。長さは3m程で、使わない時には取り外せるようにスナップ付きのより戻しが付けられていた。これで銀貨5枚は安いんじゃないかな?


「中型までは使えそうだな。狙いが安定しなければこのような仕掛けを使うのも止むを得まい」


 スピアの先端の銛先を、指先で確かめながらバゼルさんが呟いた。

 面倒な事だと思っているのだろうが、経験を仕掛けで補えるならそれで十分だ。

 大物はさすがに今の俺では手に余るのだが、この水中銃で確かめてみるのも良いかもしれない。スピアの予備もあるんだから。


 翌日はのんびりと銛先と胴付き仕掛けの釣り針を研ぐ。

 トーレさん達はタツミちゃんを連れて商船に買い物だ。魔石を売ったから懐が温かいのもあるんだろう。


 夕食はバゼルさんの息子さん夫婦も揃っての食事だ。

 次のリードル漁までは離れて暮らすことになるから、トーレさん達も腕に撚りを掛けた料理を次々に甲板の輪に運んでくる。


「ほう! 渚も船が持てるのか。そうなると、たまに誘ってやらねばならんな」

「そうしてくれ。ナギサは氏族では新参者だ。友人と呼べる者もおらんからな」

 

「直ぐに集まるさ。何て言っても背に聖姿を持ってるんだからな」

「傷跡が似ているだけかもしれませんよ。でも、誘って頂けるなら喜んで参加します!」


 俺の背中をポンと叩いてだいじょうぶだと告げてくれた。

 氏族の島は、ある意味村社会でもある。

 旧知の人達は家族同様に付き合うけれど、そうでなければ排他的な面があるようだ。

 少しずつ知り合いも増えてはいるが、挨拶程度でしかないからなぁ。


 夕食が終わると、バゼルさんの息子さん夫婦は自分達の船に帰っていった。

 次は雨期の前のリードル漁で再び会えるはずだ。

 その前に、カタマランを手に入れたら、漁に誘ってくれるに違いない。

 リードさん達がいつも大漁であることを、祈りながらハンモックで横になる。

                 ・

                 ・

                 ・

 リードル漁が終わって、最初の漁は氏族の島を東に向かうようだ。

 自転車ほどの速度で進むカタマランは、何となく遊覧船に乗った気分がする。

 途中の島で、ココナッツを取ることになったけど、なんであんなに上の方にあるんだろう?

 半分も登れないで固まっていた俺を、呆れた表情でバゼルさんが見ていたんだよなぁ。

 結局は、バゼルさんが落としたココナッツを拾い集めることが俺の仕事になったんだけど、よくもあんなに上手く登れるものだと感心してしまう。


「ココナッツは10個ほどを常に置いておけば良い。中身は飲めるし、中身をスプーンで掻き出せば、料理や日焼け止めにもなるんだ」

「ギョキョーで売ってましたよね。しばらくはあれを買うことにします」

「1個銅貨1枚だからなぁ……。まあ、必要経費として諦めることだな」


 ネコ族の人達が全員木登りが上手いわけではないらしい。

 そんなことから、ギョキョーで売り買いしているのだろう。

 値段がカマル1匹と同じというのは、安いんだか高いんだか分からないな。


「東に2日の漁場だ。大きな切れ目がいくつも東西に走っている。フルンネの大型もいるぞ」

「前に突いたぐらいですか?」

「あれは、3YM(ヤム:90cm)は無かったが、俺達が向かう漁場は4YM(1.2m)ぐらいの大物がいる。あの銛と一緒に、大物用の銛もカヌーに積んでおくことだ」


 銛先が外れる銛を使うということになりそうだ。親父が渡してくれた銛はまさしく大物用だからなぁ。銛先を交換しておこう。


 夕暮れ前に小さな島の沖に停泊する。

 バゼルさんが投錨してたところで、俺とタツミちゃんがオカズ用の竿を出した。

 何が釣れるかな? タツミちゃんは何時もの竿だけど、水深があるようだから胴付き仕掛けの竿を下ろしてみた。


 先に獲物を手にしたのはタツミちゃんだった。

 30cmに満たないカマルだけど、受け取ったトーレさんが笑みを浮かべているから、どんな料理になるのかちょっと楽しみだ。


 突然、強い引きが手に伝わる。

 合わせをして竿を立てようとしたんだが、かなり引きが強い。ドラッグを締めて根に潜られないように巻き上げるけど、ともすればドラッグ音を立てて道糸が出ていく。


「大物にゃ! がんばるにゃ」


 サディさんがタモ網を手に道糸の先を見てるんだけど、一体何が掛かったんだろう?

 数分の格闘で少しずつ魚が浮いてきた。

 魚の姿を見て、サディさんがタモ網を差し込んでくれたのを見て、竿を使って魚をタモに誘導する。


「エイ!」

 

 掛け声と共に、サディさんがタモ網を甲板に引き揚げた。

 タモ網から抜け出してバタバタと動いている魚に、タツミちゃんが棍棒を振るっておとなしくさせた。

 迷いもなく棍棒を使うんだよなぁ。ケンカしたらあれが俺の頭に振るわれるんじゃないか?

 夫婦喧嘩の話を聞かないのは、嫁さん達の棍棒捌きを男達が知っているからかもしれない。


「バヌトスにゃ! 今夜はご馳走にゃ」


 トーレさんの笑みが更に深くなっている。

 サディさんとタツミちゃんも嬉しそうだから、今夜の釣りはこの辺りで終わりにしよう。


「2YM(60cm)のバヌトスが釣れるとはなぁ。この辺りは溝もないし、サンゴの穴も小さいから誰も潜ることは無いんだ」

「水深は俺の背丈の2倍ほどですよ。夕暮れに餌を求めて穴から出てきたんでしょうね」


 胴付き仕掛けは、五目釣りだからなぁ。思いがけない場所で、思いがけない獲物が掛かる。

 明日はどんな場所に船を止めるのか分からないけど、水深があるならまたチャレンジしてみよう。


 夕食は、焼いたカサゴの身が、シャキシャキした野菜と一緒に混ぜ込んであった。

 スープはカサゴを三枚に卸した残りを出汁にしてカマスの切り身が入っている。ちょっと辛めの味が食欲を誘ってくれる。


「明日も竿を下ろすにゃ。今度はバッシェが良いにゃ」

「魚にだって、都合があるでしょうからどうなるか分かりませんよ」


 そんな会話で笑い声が上がる。

 全く、家族同然だ。こんな暮らしが続くなら、やはりこの世界はあの町で伝わる伝説の通りの島なんじゃないか?


 翌日は、朝から素潜り漁が始まる。

 装備を着けて、ドワーフ謹製の水中銃を持つ。使い辛い時には、カヌーのアウトリガーの腕木に結わえてある銛を使うつもりだ。大きいのがいるとバゼルさんが言ってたから、先端が外れて回転する銛先に交換してある。

 使う機会があるとは思えないんだけど、一応用意しておけばカタマランに戻らずに漁を続けられるからね。


「先に行くぞ! 何本か割れ目があるから、なるべく幅広の割れ目を狙うんだぞ」

「了解です。少し中央よりを進んでみます」


 俺の答えに満足したのか、小さく頷くと甲板から飛び込んでいった。

 少し遅れて俺も、海に飛び込む。

 甲板は日差しがきつい。海は何となく温水プールのような水温だけど、それでも火照った体がたちまち冷めていくのが分かる。


 南に向かってシュノーケリングをしながら溝を探す。

 なるほど、いくつもの深い溝が海底を東西に向かって伸びている。たしか、なるべく横幅の広い割れ目と言っていたから、あの辺りが丁度良いんじゃないか?


 息を整えて海底にダイブする。

 水深は5m程だ。もう少し深くなると周囲の色が変わって来るんだが、このぐらいの水深では色鮮やかなサンゴやイソギンチャクが、まるで絵本の童話の世界を俺に見せてくれる。


 ん? 何か大きいのが前にいるな……。

 一度、海面に出て息を整える。

 手に持った水中銃は、石弓を改造した様なものだから少し変わっている。

 ゴムを引くためのレバーが水中銃のストックの横に付いているのが面白い。青銅製のガイドレールに沿って、折り畳み式のレバーを起こして1m程動かすと、カチリと音がしてセットされたことが分かる。

 セーフティはグリップの上に付いている。上を向いているレバーを横にすれば良いらしい。


 仮止めしてあるスピアを滑走台に乗せてラインがきちんと付いていることを確認する。

 これで準備は完了だ。さて、急いで戻ろう。


 海中にダイブして、先ほどの溝の先にいた魚影を探す。

 あまり動いていないようだ。直ぐに発見したところで、海底に沿ってゆっくりと近付く。


 水中銃を持った左腕を前方に伸ばし、更に近づく。

 獲物はフルンネだな。かなり大きい。

 数匹の群れになっているようだけど、その中の一番大きな魚体に狙いを定めて相手の動きを待つ。


 狙いを定めようと水中銃の先を動かすのは愚手だ、と伯父さんが教えてくれた。

 狙う相手がスピアの狙う先に動くまで待て、と言うことなんだけど……。

 言うは易し、というのが良く分かる。

 陸上で鍛えた強い心肺が、こんな時に役に立ってくれるのが嬉しい誤算だ。


 10秒ほど待っただろうか?

 ゆっくりと魚体が動きスピアの狙いの先にきた時、トリガーを引いた。


 水中銃のストックをグイグイとフルンネが引いている。

 そんなことはお構いなしに力づくで海面に向かって上昇すると、右手を高く上げた。

 近くで様子を見ていたのだろう。タツミちゃんがカヌーを漕いでくるのが見えた。


 まだ、暴れてるな。

 スピアはエラの真上を貫通してるから、外れることは無いし、その辺りに当たれば致命傷になるんだけどねぇ。


「まだ下にいるのかにゃ?」

「暴れてるんだけど、だいぶ大人しくなってきたよ。この紐を引いてくれないか。下から押し上げるから」


「ヨイショ!」と声を合わせながらカヌーの上に持ち上げたのは1mを越える大きなフルンネだった。

 何とかクーラーボックスに入れたんだけど、後ろが出てるんだよなぁ。


「直ぐに運ぶにゃ!」

「その間に2匹目を突いとくよ!」


 水中銃のゴムを引いて、外したスピアをセットする。

 あの群れは去ってしまっただろう。次の獲物をまた探さないといけないな。


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