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P-025 自分の船を考えよう


 季節は雨期ということになるのだろうが、日本のようにどんよりした空の下でシトシトと雨が降るわけではない。

 突然豪雨がやって来てそれが半日ほど続くと、ピタリと止む。

 乾期でもたまに豪雨は来るけれど、1時間も降ることは無い。やはり雨期だからだろう。3日に2日はそんな豪雨がやってくるんだよなぁ。


 朝方の青空を見て、バゼルさんと素潜り漁を始めたのだが、3時間もしない内に天候が激変してしまった。

 豪雨がやってくる前にどうにかザバンを船首に引き上げたんだけど、カヌーは浮かべたままだ。

 サーフボードのようなカヌーだから、いくら豪雨がやってきても水没するわけがない。

 短時間で豪雨が止むなら、再び素潜りを始められそうだ。


「もう直ぐ、雨期も終わるだろう。雨のやってくる間隔がだいぶ開いてきた」

「雨の時間も短くなってきたにゃ。次のリードル漁はもう直ぐにゃ!」


 甲板には屋根があるから、その下で皆が集まってお茶を飲む。

 まだ昼食には早いし、豪雨の中で竿を出すのもねぇ……。


「それで、改造点は決めたのか?」

「あまり無いですよ。強いて言うなら、この甲板の屋根ですね。横梁を1本船尾に伸ばします。その為に操船櫓の後ろに柱を立てる必要があるんですが、柱の天辺から横梁の先端にロープを結べば、横梁の先端に滑車を付けられます」


「獲物の引き上げ用という訳か。なるほど考えたな。フルンネやそれより大きな獲物を突くと、トーレ達も苦労しているからな。ましてや最初の船を持つ時には妻は1人だ。

 似たような仕掛けを作った船もあるからドワーフの連中も頷いてくれるだろう」

「なら、この船にも付けるにゃ! 結構苦労する時があるにゃ」


 トーレさんの要望に、サディさんまでもが頷いている。

 やはり獲物を引き上げるのは苦労してるということなんだろうな。

 バゼルさんが、苦笑いを浮かべながら頷いているところを見ると、このカタマランの改造は確定したみたいだな。


「タツミは何を追加したにゃ?」

「魚を捌く台とザバンの保冷庫にゃ。台は箱で良いけど、上の板は3YM(ヤム:90cm)にゃ。箱の中に色々入れられるにゃ」


 物置みたいな箱になりそうだ。それより大きな獲物は甲板で捌くことになるんだろうけど、それほどあるとも思えない。

 箱の上に乗せる板は2枚用意してておけばテーブル代わりにもできそうだ。


 ザバンの方は、小さなアウトリガーを取り付けられるようにした。

 使わない時には外せるようにして、素潜り漁をするときに取り付けられれば十分だ。

 タツミちゃんのリクエストで、保冷庫を通常より縦長にしてあるのは、保冷庫に水筒を入れる場所を確保するための間仕切りを付けたためだ。

 大物が獲れた時には、間仕切りを外せば良いと言ってたけど、そんな大物なら直ぐにカタマランに運ぶべきだと思うんだけどねぇ……。90cmクラスの魚でも入るんじゃないかな。


「自分の船で暮らすようになれば、不便な個所が見つかるだろう。だが、今の形はそれなりに完成されている。最後にはこの船のようになると思うぞ」


 いわゆるシンプル・イズ・ベストとかいう奴かな?

 生活の知恵が現在の形に凝縮されている、ということになるんだろうか?


「ネコ族が大陸を追われて、この海域にやってきた当初はヨットで漁をしたらしい。その後、魔石を得ることができるようになり動力船が使われてきた。カイト様が来るまでは、船尾で大きな水車が回っていたそうだ。

 今でも、ロデニル漁をするカタマランは当時と同じ動力船を2隻連結した船だ。

 カイト様が最初のカタマランを作ったらしい。

 曳き釣りや延縄漁が便利にできるのは良いのだが、船の値段が2倍近いということで当時の連中は手に入れるのに苦労したらしいな。

 そのカタマランを改良したものが、今の船だ。それほど大きくせずに魔道機関もあまり大きなものを搭載してはいない。

 氏族の島から2日程度の距離で漁をするなら、これで十分の筈だ」


 大きければ良いというものでもない、ということなんだろう。

 とはいえ、大は小を兼ねるとも言うんだよねぇ……。

 色々と意見はあるんだろうけど、ネコ族の男子が成人して最初に手に入れるカタマランであれば問題はないだろう。

 改造しても、見掛けがそれほど変わるものでもない。

 操船上の改造もあるのかなと思ってたけど、タツミちゃんは特にないと言ってたぐらいだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 豪雨の訪れる間隔がだんだんと開き、豪雨の降りしきる時間も短くなってきた。

 バゼルさんは曳き釣りと延縄漁を素潜りと釣りに変えている。

 どうやら、雨期も終わりに近いようだ。


「だいぶ、銛の使い方がマシになってきたな」

「まだまだですよ。オカズに回さなかった日がありませんからねぇ」


「ハハハ……。オカズ用が少なくなったと、トーレが残念がっていたな。まぁ、カマルを釣り上げれば機嫌も直るはずだ」


 夕食前のオカズ釣りは、日によって増減が激しいんだよなぁ。全くダメだった日もあったぐらいだ。

 桟橋ではそんなことは無いんだから、漁に出て船を止める場所に左右される気がする。

 運が良い時には、30cmを越えるカマルが20匹以上釣れた時もあったぐらいだ。

 あの時は、バゼルさんも混じってオカズ釣りをしていたが、売れる魚ということで参戦したのかもしれない。


「明日の漁も、素潜りで?」

「そうだ。銛は研いであるな?」

「リードル漁用の銛も一緒に研いであります」


 ウム! とバゼルさんが頷いてくれた。

 素潜り漁は銛が一番大事だと思う。鋭い銛先なら、確実に獲物を貫通できるし、魚の頭は案外固い。

 バゼルさんはエラの上部を狙えと教えてくれたけど、ちょっと外れると胴体に逸れてしまう。そうなるとオカズが増えてしまうからね。

 

「銛も自分なりの改良をしていくことになる。ナギサの銛は少し変わっているが、俺達の銛とそれほどの違いはないからな」


 いまだに水中銃も使っている。

 やはり、銛よりも遥かに使いやすい。ゴムの替えが1セットあるけれど、この世界で作れないか試しても良さそうだ。

 商船に乗っているドワーフ達は腕の良い職人らしいから、簡単な図を描いて作って貰おう。

 

 5日間の漁の合間に水中銃の図を描いて、氏族の島に戻って来ると丁度桟橋に停泊していた商船に向かった。

 商船の店員に、変わった銛を作りたいと伝えると、商船の2階にある小部屋に案内してくれた。

 ちょっとした打ち合わせができる小部屋を持っているらしい。


「お前さんかい。変わった銛を作りたいというのは?」

「こんな銛なんですが、出来るでしょうか?」


「フン! ドワーフに向かって出来るかと聞くのか? まぁ、ネコ族の中には変わった連中もいるらしいからのう……。これか!」


 俺がテーブルん上に簡単な図面を広げると、奪い取るように手に持つと、じっくりと眺めている。

 見た目は小学生ぐらいの背丈なんだけど、筋肉質の腕がシャツの袖を破りかねないほどだ。

 絵本のバイキングみたいな髭を三つ編みにしている。


「これなら可能だ。おもしろそうだから明日の夕方に取りに来い。銀貨5枚で作ってやるぞ」

「ありがとうございます。それではこれで……」


 銀貨を取り出してテーブルに置こうとしたら、出来てからで良いと言われてしまった。

 客が満足できない時には、商いとして成立しないということらしい。

 だけど作ってみないと、使えるかどうかが分からないんだよなぁ。


「石弓と似た構造だから、ボルトも同じで良いだろう。もっともガムを使うとなれば武器にはならんだろうなぁ」

「4YM(ヤム:1.2m)先に銛を飛ばすだけですからねぇ。もっとも、こんな銛を使う者が俺以外にいるとも思えませんし……」

「まあ。仕方あるまい。たまにはこんな依頼が来るから現場はおもしろいんじゃ」


 変わったものを作りたいという、変わった趣味の持ち主なのかな?

 とりあえず作ってくれるなら、俺が作るよりも良い物を作ってくれるに違いない。


 ドワーフの職人に頼み込んだ後は、商船の店内を巡ってみた。

 いろんな道具が置いてあるから、見るだけでもおもしろい。

 

「何か、お探しでしょうか?」

「いや、細工を頼んだついでに見てるんだ。いろんな品を商ってるから、見るだけでも楽しめるよ」


「ありがとうございます。それなら、おもしろい品をお見せしましょう。かつてトウハ氏族の長老が作らせた品ですが、売れずに残っているんです」


 アオイさんが作らせたのかな?

 最後は長老になったらしいからね。


 支払いカウンターの奥の棚から持ち出してきたのは、両軸リールだった。かなり大きな品だが、これなら曳き釣り用のリールとして最適だ。

 そうなると、専用の竿が欲しくなる。

 

「いくらなのかな?」

「かなり年代が過ぎていますから、お買い上げくださるなら1個銀貨1枚でどうでしょうか?」


「2個買うよ。ついでに道糸を付けてくれ。曳き釣り用の道糸より少し太いぐらいが良いな。長さは300YM(90m)は欲しい」

「これも縁でしょうから、道糸はサービスしましょう。お待ちください」


 曳き釣り用のリールをどうしようかと迷ってたんだけど、偶然とは言え良い品を見付けた。向こうの世界のリールそのものだから、やはりアオイさんが作らせたに違いない。

 ヒコウキや潜航板、それにルアーまでこの世界で作ってくれたんだから、かなり漁に詳しい人だったのだろう。


 リールを包んでもらってカタマランに戻ると、トーレさんが呆れた表情をしていた。

 バゼルさんはリールを使わないから、曳き釣りに別の竿が必要とは考えられないのだろう。

 だけど、手釣りはかなり難しく思えてならない。

 できるなら、シメノン釣りもリール竿を使いたいぐらいだけど、それは自分のカタマランを持ってから用意しよう。

 漁で使う長物を館の屋根裏に収容しているけど、結構色々とあるからね。居候なんだからあまり荷物を増やすのも考えてしまう。


 


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