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P-020 雨期には雨期の漁がある


 夜間の航行をしないと、リードル漁場からシドラ氏族の島へは2日掛かるようだ。

 島に帰ってくると、停泊している商船が3隻に増えていた。

 後から来た2隻は桟橋に停泊できずに少し沖合に投錨している。

 浮き桟橋を舷側に浮かべているのは、島の人達の買い物の利便を考えたんだろう。

 ザバンを使えば不自由なく商船に行き来できそうだ。


「商船が増えてますね」

「魔石の競売があるからな。明日には魚を引き取る、あの建物で行われるのだ。参加するのは女性だけだから、見に行こうなんて考えるなよ」


 それも風習なんだろうな。氏族入りしても、氏族の風習やぶりを直ぐに行うんでは問題だろう。

 ちょっと興味はあるんだけどね。


「3隻の商船は、所属する王国が違う。ナギサがカタマランを依頼する時には、沖に停泊している緑の旗の商船が良いぞ。船の塗装が丁寧だからな」

「王国によっても違いがあるんですね」


「王国というよりは船の工房の違いだろうな。魔道機関は神殿直営の工房だから、どこも同じだ」

「船の改造なんかもしてくれるんでしょうか?」


「カタマランを改造するネコ族はほとんどいないんだが、カイト様やアオイ様は船を作る度に改造したそうだ。アオイ様の船に至っては、改造して宙に浮いたらしいぞ」


 宙に浮くというのは、ホバークラフトなんだろうか?

 だけど、ホバークラフトで漁ができるとは思えないから、水中翼船を作ったのかな?


「かなり複雑な構造らしく、今ではそれを作れる工房もない。操船はかなり面倒だったと伝えられている」

「漁には向いていないでしょうからねぇ」


「そうだな。だが、アオイ様がその船を作った目的は、ニライカナイの版図を確認するためでもあったようだ。氏族の垣根を越えて何度か長い航海を行ってくれたおかげで、我等が千の島と呼んでいるこの群島の大きさが分かったのだからな」


 南西から北東に広がる1千km以上の群島らしい。カタマランで旅をするなら30日以上掛かると教えてくれた。

 もっとも、版図の広がりがどれぐらいあるかなんて、興味本位の話でしかないのだろう。

 各氏族共に、氏族の島からおよそ2日程度の距離で漁を行っている。

 その外側を、大型商船を母船とした2つの船団が漁をしているらしい。

 アオイ様の発案らしいけど、各氏族から若者を集めることで互いに漁の仕方を学ぶ機会にもなっているとのことだ。


「各氏族の若者が一緒の船で食事をとる……。アオイ様は氏族を越えた繋がりを持つことでニライカナイを1つにしたかったのだろう」


 ネコ族の為に色々と考えてたんだろうな。

 たまにトーレさんが『ギョキョー』と言っていた言葉は、よくよく考えたら『漁協』のことだった。

 一括仕入れや、市場の運営を漁協が行っているようだ。

 その上、週に2回ほど、学校も開いているらしい。読み書きと簡単な計算を教えるようだが、おかげで誰もが文字を読めるようになったらしい。


「毎年2回、各氏族の長老2人ずつオウミ氏族の島集まるのだ。ニライカナイの行く末をそこで議論してくれる」

 

 国会みたいなものかな?

 だとすれば、総理大臣は誰になるんだろう?


「そうなると、ニライカナイの代表者は?」

「長老会議で、決められる。もっとも、そんなことは滅多に起こらないがな」


 長老政治というのかな?

 氏族の代表者が集まっているようだけど、我田引水を企てる長老はいないらしい。

 長老が各氏族を代表する人物であり、人格的にも問題がないということになるんだろうか?

 とりあえずは、バゼルさんの言い付けを守っていれば十分だろう。

 

 島に到着した翌日。昼過ぎまで、のんびりとバゼルさんと話をしていると、トーレさん達が帰ってきた。

 背負いカゴにたくさんの荷物が入っているようだから、今日の夕食は期待できそうだ。


「さすがは背中に聖姿を持つと皆が言ってたにゃ。上位魔石3個で金貨4枚になったにゃ」

「ほう! 上位の上ということか。長老が喜ぶだろうな」


 タツミちゃんが教えてくれた、魔石の売上高は金貨5枚に大銀貨が2枚、それと銀貨が32枚だった。

 

 なるほど、リードル漁はネコ族にとって大きな収入源ってことだな。

 上位魔石を得られなくとも、20個近い魔石を売れば金貨1枚を超えるようだ。

 運不運もあるあろうから、リードル漁で金貨1枚と考えるなら数年でカタマランを手に入れることができるだろう。


「手持ちと合わせれば、カタマランを手に入れられるが、次のリードル漁まで伸ばした方が良いだろう。

 雨期の漁を経験しておいた方が良さそうだし、タツミの操船の腕を磨く必要もありそうだ」


「ちゃんと操船できるにゃ。桟橋の接岸と漁場での操船は直ぐに覚えられるにゃ」


 サディさんの言葉にタツミちゃんが頷いてるけど、どうなんだかなぁ?

 誉め言葉じゃないかと疑ってしまう。


「……となると、漁の道具も揃えておく必要がありそうだな。ナギサのカヌーは便利だが、荷物の運搬に適しているとは思えん。やはりザバンは必要だ」

「あの張り出した竿は曳き釣り用ですよね。カタマランに装備すべき品物を記載しておきます」


 バゼルさんが笑みを浮かべて頷いてくれた。

 準備期間がたっぷりとあるから、忘れ物が無いようにしておかないと……。

                 ・

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                 ・

 シメノン用の釣竿を求めて、商船へと向かう。

 バゼルさんが勧めてくれたのは、石の桟橋に停泊している商船だった。タツミちゃんと一緒に向かったのだが、以前魔法を授けて貰った時には、店の方を見てなかったからなぁ。どんな品揃えをしてるのかちょっと楽しみだ。


「タツミちゃんは、何か欲しいものがあるかな?」

「新しいカタマランがやって来てからにするにゃ。今から準備しても、置いておく場所がないにゃ」


 屋形は小さいからねぇ。昔は茣蓙のような床に雑魚寝だったらしいけど、今ではハンモックがあるから暑苦しい寝方をせずに済むようだ。

 ところで、最初のカタマランは小さいと教えてくれたけど、どれぐらいの大きさなんだろう?


「あれが最初に購入するカタマランにゃ! 甲板が小さいし、カマドは1つしかついてないにゃ」


 どれぐらいの大きさなのかタツミちゃんに聞いてみたら、桟橋に停泊している1隻を腕を伸ばして教えてくれた。


 全長は8mをこえるんじゃないかな?

 後部の甲板は確かに小さい。屋形の大きさと同じぐらいだから横幅4m、奥行きが3mぐらいじゃないかな。


「無理すれば4人分のハンモックを吊れるにゃ。10年は使えるにゃ」

「少し短いんじゃないかな?」


 それほど劣化が激しいんだろうか? まあ、木製だからねぇ。


「20年は使えるにゃ。でも10年を目安に更新するにゃ」


 その理由は、カタマランを購入できない漁師に安価に譲ることらしい。

 リードル漁が身体的にできない人や、早くに夫を亡くした家族が対象だと話してくれた。

 老人達の中にも、島での暮らしよりもカタマランで暮らしたい人だっているようだ。

 船で生まれて、船の中でこの世を去ることになるのかな?

 まさしく海洋民族そのものだ。


 商船は甲板下に商船員の船室があり、甲板の上は2階建てになっている。

 その1階部分の四分の三が店舗になっている。横幅10mちょっとなんだけど、店内は中央に棚が設けられており、舷側側に陳列台が並んでいた。


「何をお探しですか?」


 俺の姿を見付けた店員が声を掛けてくる。


「釣竿とリールを見せて欲しいんだ」

「承知しました。どのような竿がよろしいでしょうか?」


「先調子で大物にも折れないのが欲しいな」

「矛盾してますが、それに近いものとなれば……、この辺りになりますね」


 竿は竹竿だった。

 まあ、この世界にカーボンロッドがある方が不自然だから、釣竿は竹製ということになるんだろうな。

 よく見ると、1本物と複合物がある。

 竹竿は中空だから、竹を割って組み合わせたのだろう。節に見えた部分は糸を巻きつけた部分だった。


「これは高いのかい?」

「銀貨2枚ですね。細身が人気なんですけど、それは太いので売れ残ってるんです。お買い上げくだされば値を引きますよ」


 親指ほどあるからね。1本物より太いぐらいだ。だけど、割竹を使ったものならかなり竿は固いはずだ。俺の身長ほどの長さだが、これで胴調子ということにはならないだろう。


「竿はこれにするよ。リールは反転物が良いな。道糸の太さは種類があるのかい?」

「底釣りですか! それなら、リールはこれで良いと思いますよ。道糸はこの3種類であればサービスします」


 それなら、一番太い糸で良いんじゃないかな?

 リール込みで銀貨3枚に大銅貨が1枚。とりあえずこれで十分だろう。

 少し道糸が太い気もするけど、タックルボックスの中に3号ハリスがあるからね。1mも先端に結べば何の問題もないはずだ。


 せっかく来たんだからと、ワインを2本買い込んでおく。

 バゼルさんに散々世話になっているから、これぐらいは良いんじゃないかな。


 バゼルさんのカタマランに戻ると、竿にリールをセットして、道糸をガイドに通しておく。先端にスナップ付きのより戻しを付けておけば、胴付き仕掛けも、餌木も取り付けられる。

 最後に、タツミちゃんに夜釣りと、シメノン釣りで使う仕掛けを教えておく。

 仕掛けはバゼルさんから貰った木製の箱に入れて、家形の外側の壁に下げてある。

 

「準備ができたようだな。出発は明日だが、3隻が一緒だ。豊漁を期待してのことだろう」

「俺がいるだけで豊漁になるとは思えないんですが?」

「まあ、何事も信じることが大事ということだろうな」


『イワシの頭も信心』ってやつか? 

『信じる者は救われる』というのもあったな。


 俺は余り信仰心が無いんだけど、この世界ではどうなんだろう?

 なにせ、神を見ることがあるとバゼルさんがいってたからなぁ。

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 翌朝早く、トーレさんはカタマランを南に向かって舵を取る。

 後ろには、3隻のカタマランが続いている。

 

「3隻とも俺の友人達だ。カルダスと一緒に昔は漁果を競った仲間だ」

「今でも、何でしょう?」


 俺の返事に苦笑いをしながら船尾のベンチを開いて、中から2つの仕掛けを取り出して俺に見せてくれた。


 最初は何だろうと思って見てたんだけど、どうやら曳き釣りの仕掛けと、延縄の仕掛けらしい。

 後から、「これも使うぞ」と言って取り出した2つは、片方がヒコウキでもう1つは潜行板のようだ。

 たぶんこの仕掛けもカイトさんやアオイさんが伝えたに違いない。


「使い方は分かるんですが、これを使った漁はやったことがないです」

「方法を知っているなら、釣り方は造作もない。ただ流しておくだけだからな」


 明日は、早朝に延縄を仕掛けて、曳き釣りをするらしい。

 日が傾く頃合いに、延縄を引き上げるのだろう。

 1つ、課題があるとすれば、西の空の入道雲がかなり大きいんだよなぁ。北分昼過ぎには降りだすんだろうけど、明日はどうなんだろう?

 豪雨が来ると途端に視程が短くなってしまう。トーレさんも豪雨を押しての航行はさすがにやらないからね。

 曳き釣りは天気任せの釣りになりそうだ。


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