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P-015 リードル漁はハイリスク・ハイリターン


 銛を扱うのはぎごちないが、腕はそれなりに持っている、というのがシドラ氏族から見た俺の評価となるようだ。

 バゼルさん達は、鍛え替えがあるという感じで俺を指導してくれる。


「銛を打つ場所さえ安定すれば、将来は筆頭を狙えるだろう。数をこなせばおのずとその辺りは改善するはずだ。あの仕掛けを使うのであれば問題なさそうだがな」

「いつまで使えるか分かりませんから、それまでは交互に使って行きます。とはいえ、出漁ごとに1日は、銛だけを使ってみようかと」


 夕食が終わったところで何時ものように、バゼルさんがシドラ氏族の漁について話をしてくれる。

 ココナッツ酒を飲みながら俺の返事に頷いているけど、バゼルさん達が飲んでいるのは、俺の知っているココナッツ酒とは少し違うようだ。

 親父の話では、ココナッツジュースを発酵させたものがココナッツ酒らしいけど、バゼルさん達が飲んでいるのは蒸留酒をココナッツジュースで割ったものだからね。

 ネコ族の成人は16歳とのことだから度々俺にも出してくれるんだけど、結構きついんだよなぁ。あまり飲めないのを知ったのか、この頃はトーレさんが2倍に薄めて出してくれる。


「次の満月は、リードル漁だ。あの銛で突くことになる」


 バゼルさんがココナッツ酒を飲みながら話してくれたのは、リードル漁の方法と注意点になる。

 笛の音を合図に島から一斉にザバンを漕いで、漁に出るとのことだ。

 岸から100mほどの距離で水深はおよそ体3つ分というから、6m未満になるんだろう。

 海底の砂泥に、たくさんのリードルが動いているからそれを突いて岸で焚き火をしながら待っているトーレさんに渡せば良いらしい。


「海底に足を付けぬことが大事だ。リードルの槍に突かれたら、その場で呼吸が出来なくなる。岸でも一緒だ。一応、穴を掘って魔石を取ったリードルは埋めるのだが、万が一ということもあるからな……」


 リードルの背負っている貝の付け根を目がけて銛を打ちこむとのことだが、ゴムの力ではなく、腕力に頼ることになるらしい。

 突いたら、更にねじ込め! と教えてくれた。要するにリードルの体を貫通させるようにしろということなんだろう。


「ザバンの舳先には銛を保持しるための切り欠きがあるんだが、渚の船には付いていない。少し考えねばならんな」

「流木を細工して保持できるようにしておきます。銛先と柄が簡単に固定できれば良いんですよね」


 小さく頷いてくれたから、間違いは無さそうだ。

 砂浜に着くと、銛を両手に持って慎重にトーレさんのところに運ぶことになる。周囲にも同じような漁師がいるから、銛先でまだ動いているリードルの槍に注意しなければならないらしい。


「トーレのところに着いたなら、トーレの指示に従ってリードルを焚き火で炙ることになる。こんがりと焼き殺さなければ、トーレだって命の危険があるからな。真っ黒に焼いたら殻を石で割って中の魔石を取り出すのだ。

 もっとも、男達はリードルを焚き火に乗せたところまでになる。後は女たちの仕事で、俺達は次のリードルを突きに向かうことになる」


 突いたリードルの移動方法を良く考えねばならないな。

 あの物干竿で漁をするのかと思うと、ワクワクしてしまうのは男の性ということなんだろう。


「獲物のリードルには、おもしろい特徴がある。殻の模様がくっきりしているものほど、魔石を持っている可能性が高い。

 これはトウハ氏族の聖痕の持ち主であるカイト殿が見つけてくれたことだ。それまで魔石を持つリードルは半数と言われていたのだが、模様のしっかりしたリードルを突くことで、ほぼ間違いなく魔石が手に入る」


 カイトさんに感謝だな。

 そんな魔石には等級があるらしい。大きくは上中下の3種類で、それをさらに3つに区分しているようだ。

 魔石の透明度によるものらしいが、あまり気にすることは無いと教えてくれた。

 それでも、下級は1つ銀貨数枚であるのに対して、上級ともなると金貨1枚になるらしい。

 同じ等級での上中下の開きは2割程度らしいから、確かに気にしないで漁をした方が良さそうだな。


「それにしても、金貨を持っていたとはな。上手く上級魔石を手に入れることgできるなら、1年後にはカタマランが手に入るだろう」

「無理せずに漁をしますよ。まだまだバゼルさんに教えて貰うことが多いですから」


「早めにカタマランを手に入れるにゃ。婚礼の航海に向かえば本当の一人前にゃ!」


 俺達の話を少し離れて聞いていたトーレさんだったが、急に俺達の話に割り込んできた。

 一体何の話なんだ?


「カタマランを手に入れた者達同士で、最初の漁がおこなわれるのだ……」


 おもしろそうな顔に変わったバゼルさんが説明してくれた。

 シドラ氏族は新興氏族だ。伝統行事や風習というのは縁がないと思っていたのだが、他の氏族からの移住者達がそれぞれの風習を伝えたらしい。

 都合の良いものを選んだようにも思えるけど、それらの風習の選択肢の1つとして氏族の団結をもたらすということがあったようだ。


「『婚礼の航海』……、元々はトウハ氏族の風習なんだが、トウハ氏族から来た連中が長老に提案したことで、シドラ氏族の風習にもなった」

「カタマランを手に入れたら、嫁が来るにゃ。2人で最初の漁をするにゃ。それで分かることもあるにゃ」


 最初の嫁ということは、一夫多妻の風習でも、婚姻時期がずれるということになるんだろう。

 何が分かるんだろうか? トーレさんらしくないな。はっきりと教えて欲しいところだ。


「トウハ氏族の若者であれば、漁で狙うのはハリオになる。それなりの腕を持っていても突くのは難しいぞ。1、2匹が良いところだ。カイト様やアオイ様は数匹を突いたらしいが、その腕に迫るネコ族はおるまい」

「シドラ氏族は獲物に拘らないにゃ。安心して大物を突いて来るにゃ」


 結局は、大きい獲物になるんだ!

 笑みを浮かべてうんうんと頷いているトーレさんだけど、バゼルさんは何を突いてきたんだろう?


「バゼルはフルンネを4匹突いたにゃ。かなりの大物だったから甲板に引き上げるのに苦労したにゃ」

 

 フエフキダイは大きくなるからねぇ。このぐらいと奴にゃ! と教えてくれたんだけど、1mを越えていたらしい。

 

「参加できるようになるまでには、何とか腕を磨いておきます」

「頑張れよ。大型の銛は2本とも同じように作った。上手く行けば、乾期明けと雨期明けの2度のリードル漁でカタマランを手にすることも可能だろう」


 バゼルさんやカルダスさん達の体格は良いんだけれど、身長が俺よりも頭1つ分は小さい。それだけ使う銛の長さが短くなるし、柄を握る手だって俺より一回り小さいぐらいだ。

 あの物干し竿のような銛の柄をしっかりと握って、リードルを突き通すことは至難の技ということらしい。


「若者がたまに2人掛かりで大きなリードルを持ち帰ってくることがあるが、銛先が曲がってしまうのだ。上手く行けば大金を稼げるが、銛を1つダメにする覚悟がいるな。それに相手が大きければ、それだけリードルの持つ槍は長くなる」


 危険を避ける本能というべきかもしれない。

 それとも、そんな無理をしないで中級魔石を狙う方が、マシだということなんだろうか? とりあえず無理をせずに漁をしてみよう。

 この世界にやってきた3人は元の世界に戻ることなく、この世界で一生を終えている。俺も帰れるとは思えないからなぁ……。無理をしないで暮らして行こう。

 


「明日はのんびりして、明後日はどこに向かうにゃ?」

「そうだな……。そろそろ乾期も終わりだ。ナギサに曳き釣りを教えてやるか!」


 バゼルさんの言葉に、屋形から出てきたサディさんまでもが笑みを浮かべて頷いている。

 サディさんの隣に腰を下ろしたタツミちゃんが、ちょっと心配そうな表情をしてるのが気になるところだ。

 トローリングのような釣り方なんだろうけど、危険な魚が掛かるんだろうか?


「大きいのが釣れるにゃ。タツミにも棍棒を作ってあげるにゃ!」


 棍棒? と聞いて、直ぐに納得した。

 夜釣りをしてた時に結構大きいのを釣り上げたら、トーレさんが頭に棍棒を振るってたんだよな。

 初めて見た時には驚いたけど、甲板でバタバタ騒ぐ魚を大人しくするにはあれが一番となのかもしれない。

 海の魚は、ヒレに棘を持ってるものも多いからね。足を切るようなことになれば翌日の素潜り漁ができない場合もあるだろう。


「曳き釣りは昔からの漁法だが、カイト様が更なる工夫をしてくれた。そのやり方を、更に改良してくれたのがアオイ様だ。海面近くを泳ぐ魚だけでなく、中層を泳ぐ魚まで釣れるようになった」


 曳き釣りは知識だけはあるけどやったことは無いんだよね。カジキマグロを釣るわけじゃなさそうだな。良いところ、カツオぐらいの大きさじゃないか?

 とりあえず、お手本は見せて貰えるだろうから、じっくりと教えて貰おう。


 下弦の月が昇って来たところで、お開きになった。

 明日は、手ごろな流木を探してみるか。

 ハンモックに横になると、ゆったりとした波の揺らぎが伝わってくる。

 目を閉じると、たちまち睡魔が襲ってきた。

                 ・

                 ・

                 ・

 ユサユサとハンモックを揺すられて目が覚めた。

 目を開けると、タツミちゃんが困ったような表情で俺を見ている。


「おはよう! 起こしてくれてありがとう」

「皆はとっくに起きてるにゃ。何で早く起きられないのかにゃ?」

「ごめん、ごめん。だけど、俺にとってはこれでも早起きなんだよ。普段は朝日が昇るところなんて見たことが無かったからね」


 やはり早起きはできないんだよなぁ。こんな事なら、目覚まし時計を入れといて欲しかったと何度思ったことか……。


「直ぐに顔を洗うにゃ。もうすっかり朝食の準備が出来てるにゃ」

「分かった。直ぐに起きるよ!」


 急いで体を起こしたから、ハンモックがくるりと回って床に体を打ち付けてしまった。

 何がおきたの? という表情でサディさんが屋形の中を覗き込んでいるのがちらりと見えた。

 また笑われるんだろうな……。


「生活の習慣が急に変わったからだろうな。ハンモックから落ちるのは、カイト様達はしょっちゅうだったらしい」


 笑いを堪えているような感じでバゼルさんが慰めてくれた。

 トーレさん達は目じりに涙を浮かべて笑いを堪えているようだ。だけど、急に直せるものではないからね。だいぶ早く起きられるようになってきたと思っているんだが、トーレさん達にはまだまだだということなんだろうね。


「朝食が終わったら、長老のところに行ってくる。曳き釣りを始めた者もいるだろう。釣果が気になるからな」

「俺は流木を探してみます。銛を保持するのは1本で良いんですよね?」


 俺の問いにバゼルさんが頷いてくれた。

 

「銛はかなり重いし、先端に獲物が付く。それを考慮して頑丈な造りにするんだぞ」


 今度は俺が頷く番だった。

 何時ものようにスパイスの聞いた朝食を頂き、ハーブティのようなお茶を頂く。

 日差しが強いから、帽子を被って行こう。

 タツミちゃんが自分の被っているような麦わら帽子を買ってきてくれた。麦藁製ではなく、バナナの葉を使ったものらしいけど、俺は麦わら帽子と呼んでいるんだよね。


「それじゃあ、出掛けてきます」

「北の岬あたりにたくさん流れ着いてるにゃ。浜の流木はもうなくなってるはずにゃ」


 浜で焚き火を囲む人達がいるからね。

 事あるごとに浜で魚を焼いて、ココナッツ酒を酌み交わすのがネコ族の伝統らしい。

 

 タツミちゃんに手を振って、桟橋を歩いて浜に向かう。

 手ごろな流木が見つかれば良いんだけど……。

 


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