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P-012 銛の返しを小さくする


 リードルは、イモガイの一種らしい。この海域で唯一の危険生物だ。バゼルさんの話によると、その他に注意しなければならないのは、バルタックと呼ばれる大きなハタの仲間とウミヘビらしい。


「バルタックはナギサの身長を超えるものさえいるんだ。大きな口で2FM(60cm)のフルンネさえ一飲みにする。足でも咥えられたら溺れてしまうだろう。

 ウミヘビはたまに見かけるが、捕まえようとしない限りは襲ってこない。子供達がたまに噛まれることもあるんだが、噛まれた場所が腫れるぐらいで済むぞ。まあ、それなりの痛みがあるから1度噛まれたら、捕まえようなんて考えは持たんだろうな」


 リードルは年に2回、特定の海域に現れるだけで、普段は見ることも無いとのことだ。素潜り漁で気を付けるのは、バルタックということなんだろう。

 たぶん、クエの仲間なんだろうな。大きくなってサメさえ襲うやつもいるそうだからね。


「バルタックは銛撃ちのあこがれでもある。カイト様やアオイ様は何度も突いたそうだ。まあ、トウハ氏族の銛の腕を知る魚でもあることは確かだ」


 そんな魚を突こうなんて考えは、はなから持っていない。シドラ氏族で良かったと胸をなでおろす。


「とりあえずはリードル漁だ。銛は2本使うが、その理由は一度漁をすれば納得するだろう。リードル漁は危険な漁だ。毎年とは言えんが、命を落とす者もいる。

 漁で守るべきことは2つ。絶対に海底に足を着くな。砂浜ではサンダルを常に履け。これだけは絶対に守るんだぞ」


 守れと言われれば守ることになるけど、いまいち理由がわからないな。

 問題のリードル漁はまだまだ先になるらしいが、バゼルさんは銛先を手に入れて俺の銛作りを始めたようだ。

 まるで物干し竿のような柄に、中指ほどの太さのある鉄棒が付いている。

 銛先の長さだけで、60cmはあるんじゃないかな? 全体の長さは3mを超えている。

 かなりの大物を突く銛に見えるんだけど、バゼルさんの話では巻貝の一種らしい。


「俺の使う銛よりも一回り大きい。かつてアオイ様が使った銛を見たが、やはりこんな感じに太かったぞ。

 リードルは海底を這っている。貝の付け根を狙って渾身の力で銛を打ち込め。貫通させれば十分だ。後は浜で待つトーレ達にリードルの付いた銛を渡せば良い」


 バゼルさんが甲板に簡単な絵を描いて銛を打つ場所を教えてくれた。

 これが実物大だとすると巻貝は30cmほどの大きさだ。だが、物干し竿のような銛を巻貝の根元に打ち込むのはかなり難しく思えるんだけどなぁ……。


「そうだ。一番大事なことを忘れていた。リードルは界の直径の2倍ほどに届く毒槍を持っている。絶対に触ろうとするなよ。突くときも銛の柄の半分より後ろを持つことだ」


 それで、先ほどの厳命があるってことか!

 まだまだ命は惜しいからね。言われたことはきちんと守っていこう。

                 ・

                 ・

                 ・

 2日の休暇を過ごすと、再び漁に出発する。

 今度はガリムさんが同行する。筆頭漁師であるカルダスさんの末っ子らしいが、今年19歳ということだから俺より2つ年上だ。


「親父からナギサの漁を見てくるように言われたんだ。バゼルさんどこに向かうんだい?」

「南東だ。5日の漁になるが準備は良いのか?」

「たっぷり食料を乗せてあるよ。そうそう、これはバゼルさんへのお土産」


 背負いカゴにたくさんのココナッツが入っている。その上にバナナが1房あるんだけど、まだ青いままだ。このまま蒸して食べるのかな?


「助かる。出発は明日の朝食後だ」

「沖で待ってるよ」


 そんなことが昨日あったんだけど、出発当日に俺達が朝食を取っていると、沖合で動きを停めたカタマランがあった。

 かなり早起きみたいだな。今朝もタツミちゃんに起こされたぐらいだから、俺が島の人達と同じように寝起きするにはまだまだ時間が掛りそうだ。


「かなり気負ってるな。カルダスにさぞかし激励されたに違いない」

「ナギサを超えるのはどうかにゃ? 気落ちしなければ良いにゃ」


 トーレさん達夫婦の会話を聞いていると、俺の方が気落ちしてくる。

 背中の傷がそれほどにネコ族の人達を奮い立たせるということなんだろうが、本人はいつできたかわからないほど昔の傷なんだよなぁ。親父達に聞いても苦笑いを浮かべるだけだったし、案外夫婦喧嘩のとばっちりを受けたんじゃないかと思ってた時もあったぐらいだ。


「さて、俺達も出掛けるか。トーレ、ガリムのカタマランの前に出てくれ」

「分かったにゃ。そのまま速度を落とさずに島を離れるにゃ」


 するすると操船楼への梯子をトーレさんが昇っていくと、バゼルさんが船首に向かうために屋形の屋根を歩いて行った。

 ゆっくりとカタマランが桟橋を離れる。桟橋の間に入れたカゴのような緩衝材をバゼルさんが引き上げている。

 操船は女性任せだけど、いろいろとやることはあるみたいだな。


 沖に停まっているカタマランに近づくと、バゼルさんがベンチから腰を上げて、手を振っている。向こうの甲板で手を振っているのはガリムさんに違いない。

 操船楼に向かって話をしているように見えるから、ガリムさんの船も動き出すということなんだろう。


「出掛けるぞ!」

「後に続きます!」


 カタマランがすれ違う短い時間に、バゼルさんとガリムさんが短く声をかける。

 俺達を乗せたカタマランの後方50ⅿほどの間隔を取って、ガリムさんの乗ったカタマランが付いてきている。


「まだガリムの嫁は1人だったな?」

「船をもって2年目にゃ。まだまだ余裕がないに違いないにゃ」

「なら、少し速度を上げてくれ。南東に1日半の漁場を狙う」


 操船楼との距離はそれほどないから、甲板からでも話ができる。この種の船ならエンジン音でそばに寄らないと会話もできないんだけど、この世界の動力はほとんど騒音を出さないのが不思議でたまらないんだよね。

 魔石の反発力を利用していると教えてもらっても、いまいちピンとこない。だけど、音が静かで排気ガスも出ないんだから、理想的な動力と言えるんじゃないかな?


 退屈な船旅が続く。

 俺には周囲の風景が同じに見えてしまうのが問題だ。

 あちこち見まわして、島の特徴を捉えようとしてたんだけど、だんだんと眠くなるんだよね。


「暇なら、銛を研ぐがいい。アオイ様はいつでも銛や仕掛けの手入れをしていたらしいぞ」

「そうですね。ところで、金づちを持っていたら貸してくれませんか? 返しの開きを小さくしたいんです」


 俺の話を聞いて、途中から笑みを浮かべている。腰を上げてベンチの蓋を開くと丸太に打ち付けた小さな金床と金づちを出してくれた。


「案外見落とすものだ。返しが大きく開いていれば突いた魚を確実に手にできるが、魚体に大きな傷ができる。あまりひどいと取引対象にはならないからな」


 前に腹を突いた魚をトーレさんがおかずにしていたのは、そんな理由もあったんだろう。どれぐらいの傷まで許されるのかがわからないけど、傷は小さいほうが良いだろうし、シドラ氏族の商品品質にも影響しかねない。

 俺には選別なんてできないから、トーレさんが弾いた魚を見てある程度の目安を覚えるしかなさそうだ。


 金づちでコツコツ銛の返しを叩きながら、返しの開きを小さくする。

 半分ほどにしたところで、叩いた影響が銛先に出ていないことを確認した。


「ほう、だいぶ小さくしたな。となれば注意点もわかるはずだ」

「突きとおすように銛を打つ……、で良いんですよね」

「そうだ。銛先が魚体内で暴れれば、結局は同じ事になりかねん。もっとも、エラから前なら問題ない。大型を突くときはなるべく頭近くが良いぞ」


 大きさで突く部位を変えるってことか! まだそこまで狙い通りに突くことはできないけど、水中銃なら可能なはずだ。とはいえ、銛使いは俺の課題だな。


 バゼルさんの話では、いつもよりカタマランの速度を上げているらしい。1日半の工程を1日で進むということだから、5割増しということなんだろうが、実際にはそこまで速く進めているわけではないようだ。


「漁場に着くのは日が落ちてからになる。夜釣りは明日の夜からすればいい。明日は朝から素潜りだぞ」

「俺達が素潜り漁をしている間に、良い釣り場にカタマランを動かすということですね」

「そういうことだ。ザバンにはトーレが乗るだろうから、その間にサディがカタマランを動かしてくれるだろう」


 アンカーまでは降ろせないだろうから、昼食時にカタマランに戻った時にでもカタマランを固定するのかな?

 操船担当が2人いるということは、案外便利みたいだ。

 

 カタマランを走らせながら、昼食を取る。夕食も夕焼けに染まった海面を走らせながらの食事だ。

 あまり凝った食事にはならないけど、体を動かさないからお腹もあまり空かないんだよね。


 三日月が沈みそうになったころに、カタマランの速度が落ちてきた。トーレさんが屋根の上に立って周囲の島を探っている。

 山立てをしているのかな? 何度か操船楼で舵を握っているサディさんとやり取りをしているのが見える。


「バゼル、アンカーを降ろすにゃ!」


 選手に向かってトーレさんが声を上げると、すぐに水音が聞こえてきた。

 まだゆらゆらとカタマランが動いているが時期に治まるはずだ。


「ここで潜るの?」

「そうみたいだ。どれぐらいの水深があるんだろう?」

「銛、3つ分はないぞ。大きなサンゴの穴だから、縁を探ればバヌトスやブラドが見つかるはずだ」


 俺達の問いに答えてくれたのは、屋根を歩いて甲板に戻ってきたバゼルさんだった。

 トーレさん達は甲板に戻ってくると、すぐにお茶の準備を始めている。いつの間にか三日月が落ちて、周囲は真っ暗だ。それでも、星明りで近くの島が黒々と浮かんで見える。距離は1kmもないんじゃないかな。


 ランプの明りの下で、皆でお茶を頂く。苦味がなくてフルーティなのは本来の茶葉を使わないからなんだろう。

 少し甘さも感じられるの嬉しくなる。


 ハンモックに横になったけど、すぐ隣のタツミちゃんを意識してしまうのが問題だな。

 本当に俺の嫁になるために、他の氏族からやってきたんだろうか?

 お告げとも言ってたけど、この世界には魔法まであるからねぇ。神様や、宣託をする巫女さんがいても不思議ではないんだろうな……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] バルタックはナギサの身長を超えるものさえいるんだ。大きな口で2FM(60cm)のフルンネさえ一飲みにする。 ガルナック では?
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