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P-011 漁には魔法が必要らしい


 夕食を終えると甲板を照らすように、屋形の屋根の端にランプを2つトーレさんが下げたんだが、かなりの明るさだ。石油ランプかと思っていたが、どうやら魔法で光球を作ってランプの中に閉じ込めるらしい。半日は持つと言ってたから、夜釣りには十分使えるな。


「ザバンはサンゴ礁側に繋いであるにゃ。甲板の右手か船尾に竿を出すにゃ」

「了解です。何が釣れるんですか?」

「いろんな魚が釣れるからおもしろいにゃ。釣りあげたら甲板に下ろして欲しいにゃ。これでポカリにゃ!」


 トーレさんが腰のベルトに挟んでいた棍棒を見せてくれた。

 あれで殴るってことなんだろうけど……、良いのかな?

 釣り竿を出して、道糸の先端のフックに2本針の胴付き仕掛けを付ける。錘は小石を木綿糸で縛ったものだ。根掛かりが多い場所にはこれが一番だ。


「餌を置いて置くにゃ!」


 小さなザルに魚の切り身が入っている。カマルを三枚におろして、短冊に切ったものだが、向こうの世界でも同じようなエサを使ったことがあるから戸惑うことはない。切り身の端を折り返して皮から皮へと釣り針を刺す。

 リールをフリーにして仕掛けを落とすと、するすると道糸が海底に延びていった。道糸の出が止まると同時に、リールを巻いて糸フケを取る。さらにリールを3回ほど巻けば、仕掛けが海底から1mほどのところにとどまることになる。

 

 後は、じっと待つだけだ。

 1分も経たない内に、竿先に当たりがでて、竿をグイグイ引き込んできた。

 大きく竿を上げて合わせをすると、なおも竿を引き込んでいく。かなり大きいんじゃないか?

 笑みを浮かべながらリールを巻いていく。ドラグを少し硬くしてリールから出る道糸を制限すると、後は力比べになる。


「大きいのかにゃ?」

「良い引きですよ。もうすぐ浮かんできます!」


 サディさんが大きなタモ網を持って海面を見ているから、緊張してしまうんだよなぁ。

 海面下に魚の姿が見えたところで、タモ網が海面に差し込まれる。

 この辺りは、何度か経験したことがある。あのタモ網に魚を寄せれば良いってことだ。

 タモ網に魚の前半分が入ったかと思ったら、サディさんが「エイ!」と声を上げて引き上げた。甲板にタモ網を下ろすと、待ち構えていたトーレさんが「ポカリ!」と良い音を立てて棍棒で殴っていた。


「大きいにゃ。次も頑張るにゃ!」

 仕掛けを持ってきてくれたサディさんに笑みを浮かべて頷くと、新しいエサに交換して仕掛けを下ろす。


「次はタツミがやってみるにゃ」

「お父さんの船でやってたにゃ。だいじょうぶにゃ」


 サディさんとタツミちゃんの会話が背中から聞こえてくる。模範を示したということかな?

 だけど、カタマランで暮らしてきたんだから、漁については俺より詳しいんじゃないかな。


 再び当たりが来た。

 竿を絞る力が先ほどよりは小さいからタツミちゃんの取り込みにはちょうど良いかもしれない。

 緊張して海面を除いていたタツミちゃんがタモ網を下ろしたところに針掛かりした魚を誘導する。


「エイ! ……バッシェだ!」


 タモ網を下ろしたタツミちゃんがうれしそうな声を上げている。バタバタと甲板を叩いていた魚が急におとなしくなったのは、トーレさんの仕業に違いない。


「バッシェにゃ。この辺りではあまり取れないにゃ」

「これで3匹目だ! バッシェとは珍しいな。ナギサ、頑張れよ」


 舷側の方からバゼルさんの声が聞こえてきた。

 次の魚の取り込み中だから、片手を振って答えておく。

 途中、休憩を入れながら数時間の夜釣りを終えると、トーレさん達が釣り上げた魚を開いて大きなザルに並べていた。


「干すんですか?」

「一夜干しにするにゃ。朝日が昇ってきたら保冷庫に入れるにゃ」


 一手間掛けるということなんだろう。それとも亜熱帯ともいえるこの世界の食料保存のための生活の知恵かもしれないな。

 屋形の屋根に乗ったバゼルさんに、ザルを甲板から手渡すのを手伝い皆でカップ1杯のココナッツ酒を頂く。もっとも俺とタツミちゃんはカップに三分の一ほどだ。

 労働が終わった後に酒を飲むのはどの世界でも同じらしい。

 

「明日も今日と同じように漁をする。漁を3日続けて島に帰るんだ」

「他の船を見かけませんが、シドラ氏族の漁場は広いんですか?」


「氏族の島から3日の距離が漁場になる。西は1日だが、西で漁をするものはいないだろう。俺達の漁場の外側では大型船を使って、他の氏族と一緒に漁をしている。20歳を超えた連中だが、ナギサを加えることはないだろうな」


 仲間外れってことかな?

 首を傾げていると、サディさんが俺の肩をポンと叩いた。


「長老が手元から離さないにゃ。聖痕の持ち主でさえ手放さなかったにゃ。ましてや聖姿に次ぐならば、ナギサをずっと見守っているに違いないにゃ」

「まだまだ漁師といえる腕はないですよ」

「バゼル並みに魚を突けるなら何ら問題ないにゃ。大きなリードルを突いて早く船を持つにゃ」


 最後はトーレさんまで俺に言い聞かせているんだよな。バゼルさんは黙って嫁さん達の話に頷いているし、タツミちゃんはトーレさんのカップに酒を注いでいる。もっと言ってほしいということかな?


「確かに、リードル漁次第だな。かつてアオイ様が使った銛はトウハ氏族の氏族会議の壁に今でも飾っている。俺も何度か見たから、同じような銛にしてやろう」

「上位魔石なら金貨が手に入るにゃ。アオイ様はその銛を使って次々に船を新しくしたと聞いたにゃ」


 要するに、一気に資金を得ることができるということなんだろう。

 どんな獲物かまだ分からないけど、頑張ってみる価値はありそうだな。

 とはいえ、特殊な銛が必要になるのだろうか? 素潜り漁で使う銛なら、それほど変わらないと思うんだけどねぇ。

                 ・

                 ・

                 ・

 3日間の漁を終えると、カタマランは西に向かって進む。氏族の島に帰るということなんだが、俺にはどの島も同じようにしか見えないんだよなぁ。船を持つようになって漁に出掛けたら帰ってこられなくなりそうだ。


 食事はカタマランを停めずにトーレさん達が操船を交代しながら作ってくれる。タツミちゃんもお手伝いしているのは、それを通して料理の練習をしているのかもしれない。

 食事を頂くときも、船は走り続ける。夜もこのまま進むと聞いて少し驚いてしまった。


「島を見れば現在地点が分かるからな。島近くを進まぬ限りサンゴにぶつかる恐れはない。タツミが屋根に上ってるのは、周辺の島の特徴を覚えるためだ」


 景色をただ眺めてるわけではないんだな。トウハ氏族を離れてシドラ氏族の島で暮らす以上、漁場の確認は船がなくともおろそかにはできないということなんだろう。


「一応、海図もある。カタマランを手に入れたら長老が渡してくれるはずだ。自分達で都合よく使うんだな」

「この船にも?」

「トーレ達が操船楼で使ってるはずだ。だいぶ書き込みが増えている。ナギサがカタマランを手に入れたら、トーレがタツミにいろいろと教えてくれるはずだ」


 少しずつ記載が増えていく感じかな。それも少し楽しみに思えてくる。

 それにしても、氏族の住む島からカタマランで3日という範囲はかなりの広さに思えるんだよな。砂浜の桟橋に泊めてあったカタマランの数は数十隻はあった気がする。それに倍する数があるんだろうが、広い範囲で漁をするなら他のカタマランを見かけないのもむりはない。


 夜通しカタマランを走らせたのだろう。翌日起きた時には、桟橋にカタマランが繋がれていた。

 停泊するための仕事だってあるはずなんだが、俺を起こすまでもないと思ったのかな?

 とりあえず、桶に海水を汲んで顔を洗う。

 そんな俺を見て、船尾のベンチでパイプを楽しんでいたバゼルさんが声を掛けてきた。


「もう少し、早く起きたほうが良いな。もっとも伝え聞くカイト様やアオイ様達も、トウハ氏族に入った当初は朝日を見ることは稀だったそうだが……」

「努力してみます。確かに漁は朝が早いですからね」


 うんうんと頷いている。

 さて、女性達はどうしたんだろう? 辺りを眺めてみたんだけど誰もいないようだ。


「トーレ達は漁果を運んで行ったぞ。もう少しで帰るはずだ。朝食はそれまで我慢するんだな」

 苦笑いを浮かべながら教えてくれた。

 

 とっくに済んでいるってことかな? タツミちゃんも早起きしたみたいだから、起こしてもらえるように頼んでみるか。

 

「3人で運ぶ漁果だから、ナギサへの分配金も少し纏まった額になるだろう。先ずは、銀貨数枚を貯めることだ。それで、俺達に必要な魔法が買える」


 ネコ族が使う魔法は3種類らしい。

 女性が【クリル】と【アイレス】で、男性が【クリル】と【リトン】になるということだ。


「【アイレス】は氷を作る魔法だ。保冷庫には是非とも必要になる。【クリル】は汚れを落とせる。体を清潔に保つために、男女とも必要だ。最後の【リトン】はランプの明りを作る。夜釣りには欠かせないからな」


 良いこと尽くめのような気もするけど、制約があるそうだ。使用回数がある程度決まっているらしい。数回以上で10回を超えることがないらしいから、俺が使えるようになっても使用するときには気を付けねばなるまい。


「だが例外もある。アオイ様達は十数回の使用が可能だったらしい。一緒に漁をする仲間に氷を分けることができたと聞いたことがある」


 俺はどうなんだろう? 確かめるためにも、漁を頑張るしかないだろうな。

 

 桟橋を歩いてくる足音に視線を向けると、カゴを背負ったトーレさん達が見えた。タツミちゃんもカゴを担いでいるけど、一緒に漁果を運んだんだろうか?


「起きてたにゃ? すぐに朝食を準備するにゃ」


 困った人だと、トーレさんの顔に書いてある。サディさんが、タツミちゃんの耳元でごにょごにょと話しているのは、明日は叩き起こせと言ってるに違いない。

 

 トーレさんが出してくれたのは、魚肉団子と米粉で作った団子の入ったスープだった。

 残り物だからと言ってココナッツのカップにたっぷりと入れてくれたんだけど、全部食べたら昼食が入らなくなりそうな感じだ。

 少し酸味があるけど、香辛料の効いたスープは気温が高くなっても美味しく頂ける工夫に違いない。

 どうにか食べ終えたら、ハーブティーのような香りのするお茶を出してくれた。


「明日はタツミに起こしてもらうにゃ。自分で起きられるようになるまではそうするにゃ」


 トーレさんの言葉に、タツミちゃんに顔を向けて「よろしくお願いします」と伝えたら、笑みを浮かべて頷いていた。

 どんな起こされ方になるのか、ちょっと怖くなってきたな。


「これがナギサの分にゃ。タツミも来てくれたし、計算するのが面倒だから人数割にゃ。バゼルも了解してるにゃ」


 サディさんが渡してくれたのは穴の開いていない銅貨が6枚に穴の開いた銅貨が3枚だった。


 絵柄を見ている俺に、バゼルさんがお金の単位と硬貨の種類を教えてくれた。硬貨は大きく3種類あるらしい。金貨、銀貨それに銅貨だ。


「金貨はリードル漁で手に入るかもしれんな。銀貨は大銀貨と小銀貨の2種類ある。小銀貨10枚が大銀貨1枚だ。大銀貨10枚が金貨1枚になる……」


 銅貨も2種類とのことだ。穴あき銅貨が10枚で穴の開いていない銅貨が1枚、100枚で銀貨1枚ということらしい。


「カタマランは金貨6枚が標準だ。ナギサの銛の腕なら2年で購入できるだろう」

「大きなリードルを突くにゃ。上級魔石は金貨で取引できるにゃ」


 とんでもない高額商品ってことじゃないか!

 となれば、当然リスクもあるはず。その辺りをじっくり教えてもらおうかな。


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