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M-246 先行するカタマランを追い掛けろ


 夜になっても、まだまだザバンを引き回している。

 ランプを届けているし、チマキとお茶の差し入れもしているから俺達はのんびりと様子を見守っている。

 見てるだけじゃ退屈だと、トリティさんとマリンダちゃんは根魚釣りを始めたぐらいだ。

 嫁さん達が根魚を釣っているのを眺めながら、俺とネイザンさんは家形の屋根の上で、バレットさん達の様子を眺めている。

 俺達の後ろでケネルさんが、ココナッツ酒を飲みながら自分の出番を待ってるんだよな。


「まだまだ元気だな。それでも昼過ぎから比べれば引く力が落ちてるんじゃねぇかな」

「取り込みは明日になりそうですね」

「まったくだ。だが、上手く取り込めれば、一番でかいんじゃねぇか?」


 思わずネイザンさんと顔を見合わせてしまったが、俺達の次の目標が出来たと思えばいい。記録は破られるためにあるんだからね。

 

 まだまだ続く戦いを見ていたい気もするけど、眠くなってきたのも確かだ。ひとまず俺達のカタマランで横になることにした。


 翌日。マリンダちゃんにハンモックを揺り動かされて目が覚めた。

 あの戦いはどうなったんだろう?

 眠い目をこすりながら削甲板に出ると、桶で海水を汲んで顔を洗う。

 少しは目が冴えたかな?


「どうやら最終ラウンドよ。こっちのカタマランの方が大きいから取り込みはこっちでするみたい」

「獲物はどうするの? すでに1匹入ってるけど」

「前のカタマランよりも保冷庫を大きくしてあるから心配ないわ。6mでも入るわよ」


 こんなこともあろうかと……、と言いたかったのかもしれない。

 だとすれば、この船に引き上げるのが一番なんだろうな。


 ゆっくりと魔道機関付きのザバンが近づいてくる。その上ではバレットさんが道糸をしっかりと持っているから、あの先に大きいのがいるんだろうな。

 ザバンがカタマランの船尾に寄せられたところで素早くバレットさんが飛び移って来た。その後をケネルさんが道糸が入ったカゴを持って同じように甲板に乗り込んできた。


 ザバンを動かしていたのはレミネイさんのようだな。さすがにトリティさんと操船の腕を争っただけのことはある。


「やはり大きいのは最後に食いつくんだな。とんでもなくでかいぞ!」

「大きいのは昨夜で分かりましたけど、まだ先ですか?」

「20FM(60m)は先だ。だが奴も体力が残っちゃいめぇ。もう少しで姿を拝めそうだ」


「アオイ! 銛を借りるぞ。1本で足りるとは思うが、不安が残るからな」

「どうぞ使ってください。使う前にロープを舷側に縛っておいた方がいいですよ。俺達もその銛を使ったんですが、たちまちロープが延ばされましたからね」


 ケネルさんも銛先から伸びるロープを縛りつけている。2本あれば十分だろう。それでダメなら、さらに銛を打ち込めばいい。中型以上に仕える、先端が1本物の銛をオルバスさんの足元近くに取り出しておいた。


「そこまではいらんと思うが、あれば安心できるな。ありがたく使わせてもらうぞ」

 

 俺達は戦力外だから、家形の屋根に3人で並んで状況を見守ることにした。隣のカタマランの甲板にはトリティさん達が並んで印パイそうな表情でオルバスさん達を眺めている。


「これで、残り10FM(30m)だ。引くのも楽になってきたな」

「安心しないでくださいよ。いつでも手を離せるように引いてください!」


 大物相手の漁は気を抜けないんだよな。ちょっとした油断で指を無くす漁師もいると、爺様がよく言ってたからね。


 やがて海面近くに撚り戻しがキラキラと光って見えるまでになってきた。

 残り5mというところだ。


「アオイ、あれが魚体なのか?」

「18FM(4.8m)はありそうですよ」


 まったく驚くべき魚体だ。これを越えるマーリルを釣るのは至難の技だが、まだまだ漁はできるんだから、その時を待てば良い。


 巨大な吻が海面を割って突き出された時、2本の銛が放たれた。

 暴れるマーリルを見て、すぐにバレットさんがハリスを手放したようだが、2本のロープが海中に伸びているから、もはや逃れることはできないだろう。


「どれ引き上げるか! これならアオイ達に手伝ってもらっても構わんだろう。そんなところで見てないで手伝え!」


 バレットさんの掛け声で俺達はロープを引く。隣のカタマランからも嫁さん達が集まってくれたから、総がかりになってしまった。

 やがて横になった魚体が海面に姿を現した時、バレットさんが渾身の力で頭に棍棒を叩き込んだ。その後にオルバスさんがエラの上部頭よりに銛を突き差す。ブルッと体を震わせたところをみると、絶命したのだろう。


 今度は吻の根元にロープを結んで全員で甲板に引き上げる。

 引き上げたところで、素早く捌き始めたんだが、やはり大きいなぁ。


 俺達が釣り上げたマーリルの上に魚体を投げ込んで、全員が魔法で氷を作り保冷庫に入れ始めた。保冷庫の蓋をしまたころには甲板の汚れも綺麗になっている。


 トリティさんとレミネイさんがワインのカップを配ってくれる。

 バレットさんの音頭で、カップを掲げての乾杯だ。


「さて、後は全速力で戻るぞ。ネイザン、魔動機関の石はいくつだ?」

「8個です。2ノッチ半なら巡航させても大丈夫ですよ」

「よし、直ぐに戻るぞ。先の連中が上手く取り込んでるなら、明日の朝には着くだろう。俺達は夜間も航行でいいな!」


 夜間も同じ速度なら1日で到着するんじゃないか? まして2ノッチ半の速度は25ノットを越えるからな。


 ワインを急いで飲み終えたバレットさん達が自分達の船に飛び乗ると、すぐに進路を西に変えて動き出した。

 こっちは、魔道機関付きのザバンを収納しなければならあいんだよな。少し遅れそうだけど、昼前には追い付くだろう。


 再び甲板が海面から距離を置いて、ザバンが左右の船の間に入り込んでいく。

 左右の舷側に付けたレールの上を滑らせるように動かすから収納には少し時間が掛かってしまう。

 どうにか、収納を終えたところで、カタマランが西を向いた。直ぐに海面を滑るような速度で走り出す。

 ちょっとした浮遊感が直ぐに訪れたから、すでに水中翼船モードでの航行になっているのだろう。

 

 俺達の仕事は終わった感じだな。

 のんびりとパイプを楽しみながら風景を眺めていよう。


 夜を徹して2隻のカタマランは西に向かって進む。

 トリティさんとレミネイさんだから、いくらでも速度を上がられる。2ノッチ半が巡航と言ってたけど、それ以上に魔道機関の出力を高めてるんじゃないかな?

 ともすれば俺達のカタマランが遅れるように思えるんだけど、ナツミさんの勝気な性格も半端じゃないからな。

 案外操船しているのがティーアさんかもしれないぞ。


「前方に2隻。追い付いたにゃ!」

 マリンダちゃんが上の操船楼から身を乗り出して教えてくれた。

 ベンチから腰を上げて、舷側から前方を見据えたけど、甲板からはまだ見えないようだな。

 上の操船楼では、マリンダちゃんが前方を走るカタマランの甲板にジェスターで、船が見えたことを伝えている。ということは、かなり離れているってことなんだろう。


「このまま走れば、明日には島に到着するぞ」

「商船が来てればいいんですけどねぇ。でないと燻製になりそうです」

「まあ、それはそれだな。俺達4隻ともマーリルを持ち帰れるんだ。金にはならんかもしれんが名誉は俺達のものだ」


 マーリルはそれなりに高値で売れたから、燻製にしてもそんなに売値が変わらないんじゃないかな。

 だけど、確かにネイザンさんの言うとおり。俺達の名はニライカナイ中に知れ渡るだろう。


「昼食は、もうちょっと待ってね。簡単なものだけど、それなりに準備は必要だから」

「ああ、お願いするよ。たまにはティーア達と違う味付けが嬉しくなるから」


 ネイザンさんの話しを聞いて嬉しそうにナツミさんが頷いて、カマドに向かって行った。さて、何が出来るんだろう? 

 ナディが家形から飛び出してきたのは、ナツミさんに料理を教えて貰おうとしてるのかな? 出来ればリジィさんがお勧めなんだけどね。


「ナツミさんがおもしろいことを考えてましたよ。大陸の貴族や裕福な連中を相手に、マーリルを釣らせる試みです」

「こんなところまで連中を来させるのか?」

「まあ、どちらかというと名誉心をくすぐって、俺達にお金を落として貰おうと考えてるようです。たぶんカヌイのおばさん達の計画に資金が足りないのかもしれませんね」


 本当に潤うのは商会ギルドの連中かもしれないな。それでもかなりの資金がニライカナイの族長会議もしくはカヌイの集団に落ちることになるだろう。

 その資金を使うとなれば、公共施設の充実というとこじゃないかな。ナツミさんの個人的な楽しみは俺達で得た収入の範囲に限られている。

 公共の資金を使うとなれば、氏族を越えた使い道にもなるんだろうが、俺には想像もできないな。


「それを行うとなれば、族長会議への提案だろうな。トウハ氏族の族長が良しと判断したなら、族長会議に諮ってくれるだろう」

「もう少し案が煮詰まったところで提案してみます。ですが……、ナツミさんもカヌイの組織と組合の案として提案するかもしれません。その前に、概要だけでも長老の耳に入れておきます」


 ネイザンさんがパイプに火を点けると、少し俯きながら煙をはきだした。


「ふう……。まったくナツミの考えは俺達を越えるな。だが、ナツミとアオイがいなかったらと思うと、大陸の連中に俺達は翻弄されっぱなしだったかもしれん。俺達が困る前にカイト様がやって来たと長老が昔話をしてくれたが、やはり龍神が俺達を憐れんでくれたのかもしれん。お前達を見るたびに、カイト様の昔話を思い出すよ」


 周囲の人の話を聞くたびに、その考えが俺にも浮かぶ。

 龍神は、それを見越しているのだろうか? だとすれば、ニライカナイを見守る最高神はやはり龍神ということになるんだろうな。


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