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M-243 趣味としての釣り?


 カゴに2つ分ほどのココナッツの上にバナナの房が乗っていた。

 いくら10日間の漁でも、少し多いんじゃないかな?

 とはいえ参加できないからと、ラビナスが届けてくれたのが嬉しい限りだ。

 ありがたく受け取って、礼を言ったのは昨日の夕方だった。

 今は、北に向かって進む4隻のカタマランの最後尾でのんびりとパイプを楽しんでいる。隣のネイザンさんも一緒になってパイプを咥えているけど、アキロンはパイプには興味がないようで、甲板の真ん中でマーリル用の釣り針をゆっくりと研いでいる。


「曳釣りの釣り針を初めて見た時には、大きいと思っていたんだが。あの釣り針は規格外だな」

「大陸の戦で使う長剣と同じ材料で作って貰いました。俺達の手のひら並みの大きさですけど、相手の大きさも半端ではありませんからね。それと、研ぐときに、ネイザンさん達はヤスリを使ってますけど、俺はあの通り砥石で研ぎます。銛も同じですよ」


 鉄を研ぐのにヤスリを使うと、温度が上がってしまうんだよな。そうなると先端の硬度が落ちてしまうと爺様が話してくれた。

 1m以下の魚なら問題も無いんだろうが、超大型ともなると滅多に掛かるものではない。確実に針掛かりさせて後に折れないだけの強度が必要になる。

 それは経験で学ぶべきものなんだろうが、ネイザンさんなら教えておいてもいいんじゃないかな。


「ティーア姉さんに任せてきたにゃ。クネール姉さんと一緒ならだいじょうぶにゃ」


 マリンンダちゃんが、操船楼の扉から家形の屋根に乗ってハシゴで下りてくる。

 ナツミさんは家形の中でナディと一緒に何かしているようだ。俺達に関係が無ければ良いんだが、突然色々と言い出すからねぇ。


 カマドの辺りでマリンダちゃんがココナッツを割っている。

 手伝おうかと腰を上げたら、アキロンを呼んで俺達にカップに入ったジュースを渡してくれた。

 家形の中にはナツミさん達がいるし、操船楼にはティーアさん達がいるから、中々大変だな。


 嫁さん達が大勢だから、食事は全て航行しながらになる。

 カタマランは元々揺れが小さいし、カマドが2つもあるから食事はいつも通り頂ける。カタマランを停めるのは深夜になってからだ。島の近くにアンカーを下ろしたら、直ぐにハンモックで横になる。


「そろそろ漁場なんですが、もう少し先に向かうみたいですね」

「アオイと一緒にオルバスさん達もマーリンを突きに来たんだっけ。となると、明日はいよいよか?」

「ですね。大きいのがいると良いんですけど」


 翌日の夕暮れ時に、周辺の島を眺めながらネイザンさんと話し合う。

 アキロンは相変わらずプラグの釣り針を研いでいるんだよな。いつも研いでおけと教えてはいたが、あれほど熱心に研ぐのを見ると異様に感じてしまうのはなぜなんだろう?


 夕暮れが納まる頃合いに、笛の音が聞こえてきた。

 すでに漁場にいるんだから、今夜は早めに休もうということなんだろう。

 ゆっくりとバレットさん達が操るネイザンさんのカタマランが近づいてくる。


「いよいよ明日からになる。北から並んできたとおりに横に並ぶぞ。間隔は50FM(150m)だ。東西に広い海域だ。それで十分だろう」

「了解です。もし獲物が掛かった時にはそのまま進んでください」


 バレットさんが片手を上げて了解を告げてきた。直ぐに経のカタマランに近づいていくから、皆に明日の作戦を伝えに回っているんだろう。

 相変わらずの筆頭振りだな。ネイザンさんが頭を振っているのは、その境地に自分が達していないと嘆いているのかもしれない。


「明日は忙しいですよ。早めに休みましょう」

「そうだな。アキロンにも頑張って貰わねばならん。トウハの誇りを皆に見せてくれよ」


 嫁さん達を交えて、ワインを飲む。今頃は4隻とも明日の大物を期待して飲んでいるんじゃないかな。

                 ・

                 ・

                 ・

 駆け足よりやや遅い速度で俺達を乗せたカタマランは西に進む。

 曳釣りを昨日から始めたのだが、全く当たりが無い。魚はいるんだろうけど、マーリルのルアーを食べようとする奴はさすがにいないんだろうな。

 おかず用にと、いつもの曳釣り仕掛けを船尾から流してみたら、90cm近いシーブルが直ぐに掛かったぐらいだ。


「やはり珍しい魚ということになるんだろうな。ガルナックと似てるんじゃないか?」

「片や青物、もう片方は根魚ですが、巨大だということは共通してますね。俺達のニライカナイで得られる巨大魚というなら、まさしくこの2つだと思いますよ」


 神亀や龍神もいるんだけど、漁の対象外だからね。それに俺達の精神的支えでもあるし、現実でも色々と助けて貰っている。

 釣ってみようなんて考えるだけでも、バチが当たりそうだ。


 カタマランの上部にある操船楼には、アキロンとナディが周辺を監視している。

 他の船では家形の上での監視だから、発見するなら俺達が最初だろうな。


「今日も、ダメかもしれないね。どこにも海鳥がいないもの」

「まだ2日目だからね。早々釣れるものじゃないんだから」


 ナツミさんがティーアさんと一緒に屋形から出てくると、俺達にお茶を用意しながらボヤいている。

 そんなナツミさんの姿がおかしいのか、ティーアさんは笑みを浮かべていた。

 いつも優しく見守ってくれる。それがネイザンさんのところに嫁ぐまでの、ティーアさんへのイメージだったが、今でも変わりはないんだな。

 トリティさんなら一緒になって文句を言いだしかねないから、きっとオルバスさんに似たのかもしれない。


「アオイの言う通りだ。簡単に釣れるなら誰もが押しかけて来るに違いない。まったく釣れなければ10日間を無駄に過ごすことになる。若者には向かん漁だが、俺達なら可能だ」

「それも、問題ではあるのよねぇ……。マーリル釣りってスポーツとして定着してたぐらいだもの」

「スポーツにゃ?」


 ティーアさんが首を傾げて呟いている。たぶんネイザンさんも同じだろう。パイプを咥え直しながらナツミさんの言葉の意味を考えているようだ。


「スポーツとは、俺達専業漁師ではなく、娯楽の一種と考えてください。単純な娯楽ではありませんよ。マーリルを相手にするんですから命がけでの勝負です。それが盛んになったのは、マーリルがあまり釣れない、マーリルの生息する数が少なく、漁業として成り立たないということもあるんです」

「マーリルは余り釣れるものではないから、それを釣ることで生活することが出来ないということになるのか?」

「それで、そんな魚なら俺が釣ってやろうと、漁師以外の腕自慢が集まるわけなんです」


 釣り大会の種類は多いからね。爺様がおもしろそうにその話をしてくれたことがある。

『ワシ等は生活が掛かっているが、連中にはそれが無い』

 たぶん、参加者に対する爺様なりの批評なんだろうな。

 だけど……。案外同じことがニライカナイでも出来るんじゃないか?


「できたらおもしろそうよね?」

「まさか、本当に考えてるわけじゃないよね?」


 ナツミさんのことだ。すでに計画書まで書き上げているかもしれない。

 本当に先を見るんだからなぁ。大陸の貴族連中がこぞってやって来るんじゃないか。


「何を考えてるんだ?」

「新たな収入源ということでしょうね。大陸の貴族相手にマーリル釣りをやらせようと考えてたみたいです。元々が釣れるかどうかも分からない獲物です。ですが釣れたなら評判は上がるでしょうし、あの大きさですから、貴族の自慢話には都合が良いことになります。たっぷりとお金を落としてくれますよ。これは長老に相談ですね」

「そうだな。長老から族長会議に出してもらい、大陸の貴族相手なら商会が入ってくれるだろう。あまり外部の連中をニライカナイに招くのは考え物だが、10日前後の遊びということなら長老達も反対はしないだろう」


 母船と小型のカタマランで十分だろう。子供達も一緒なら小島に停泊して遊ばせればいい。水着も売れるだろうし、果物の現地売りもできるだろうな。

 

 ネイザンさんと大陸の富裕層を相手にするツアー計画を色々と考える。良い暇つぶしが出来た感じだ。


「それにしても、全くダメだな。西の空がだいぶ怪しいぞ。今夜は大荒れに違いない」

「これで往復1回目です。明日は再び東に向かうんでしょうが、雨期の豪雨がやって来るなら丁度良いかもしれませんよ。しばらく雨がありませんでしたからね」


 あまり急激な変化や大きな変化では困るけど、常に繰り返される変化であれば問題はない。

 豪雨で海面が叩かれれば、魚の動きも変わってくるはずだ。

 明日は、それを期待しよう。


 夕暮れ前に豪雨が襲ってきた。近くの島にカタマランを寄せてアンカーを下ろす。

 カタマランの広い甲板に簡単な屋根を付けることで、昔ほどに濡れなくなったとオルバスさんが言ってたな。

 俺達のカタマランは天幕用の布をタープのように使っているが、中には竹で作ったスノコにバナナの葉で編んだゴザを広げる船もあるようだ。

 そんなもので豪雨が防げるのだろうか?


 船尾近くで夕食が出来上がるのを待ちながら、ネイザンさんとワインを飲み始めた。

 アキロンもナディから小さなカップを渡されて、俺達の仲間入りだ。


「さすがにもう1度往復すれば、今回は断念するんじゃないか? 最終日に少しは漁をしたいところだ」

「獲物を持ち帰らないというのも考え物ですから、俺も賛成はしますけど。バレットさん達の説得はお願いしますよ」

「そこは自信が無いんだよな。やはり最後までやらせてみるか。全くの手ぶらで帰っても生活が苦しくなるわけではないからなぁ」


 ある意味、俺達が趣味の世界に入ったということなんだろう。

 採算を度外視してマーリルを追うなんて、爺様な頭を横に振って拒否するだろうな。

 それが出来るだけ、俺達に生活のゆとりが出来たと考えられそうだ。


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