表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
379/654

M-241 俺達だけとはいかないみたいだ


 豪雨の中で根魚を釣ることになっても、誰も文句を言うことは無い。

 頭の上にはタープがあるから豪雨でも濡れないんだが、釣り上げる時にはどうしても豪雨に身を晒してしまうんだよな。

 いつの間にか俺達は水着になっての釣りになってしまった。

 夕食までに30匹近いブラドやバヌトスが釣れたんだから、皆も満足してるんじゃないかな。


「水路のすぐ近くなんだが、良い漁場だな」

「この東西にも良い漁場がありますよ。もう少し近ければ良いんですが」


 そう言ったけど、皆がこの漁場で漁をしないのが一番の原因だろう。この場所で漁をするよりは、水路を抜けて南に出た方が魚体が大きくなるからね。


 夕食を終えると、今夜は早めに休むことにした。明日には豪雨も上がるだろう。

 食後のワインを飲みながらの話題は、今朝の素潜り漁になる。

 オルバスさんの目にも、アキロンとナディの漁果は特別に見えるんだろう。突いた数を聞いて、褒めるのを忘れて驚いてたからな。


「アキロンには龍神の加護があるにゃ。アオイを越えてるにゃ」

「聖痕を凌ぐのが聖姿ということなのか? ネコ族で初めてと聞いたぞ。それほどのものだったとはなぁ」


 トリティさんの言葉にオルバスさんが改めて感心している。

 ナツミさんが笑みを浮かべているのは、それだけではないということなんだろう。俺達には分からないけど、アキロンを待っているのはどんな事態なのかと、考える時もある。

 とはいえ、ナツミさんでも予想できないということだから、アルティ達の子供がそれを見ることになる。

 ネコ族に害のないものだとナツミさんが言ってたから、どんな事態になってもニライカナイは続くのだろう。

 だけど、気になるんだよなぁ……。


 翌日。晴れ渡った空の元、俺達尾乗せたカタマランはまっすぐに北上する。

 明後日には氏族の島に到着するはずだ。

 それまでは、のんびりと過ごそう。ナツミさん達は忙しそうだけど、女性の数だけで5人もいるんだからね。操船はいつもより楽なんじゃないかな。

 トリティさんも久しぶりに速度が出せる操船だから嬉しそうだ。深夜までカタマランを航行させるから2日目の昼下がりには氏族の入り江に入ることが出来た。


 翌日の朝。オルバスさんがバレットさんを連れてやってきた。

 俺達の前にお茶の準備をしたナツミさんは、カヌイのおばさん達のところに出掛けるみたいだ。マリンダちゃんは明日から出漁するアキロン達のカタマランに出掛けて準備を早朝から手伝っている。


「相変わらず、暇なのはアオイだけのようだな」

「まだ商船が来ませんからね。組合の仕組みは便利なんですが、必要な品が直ぐに届かないのが唯一の不満です」

「済まんな。俺達の仕掛けを任せてしまって。とはいえ、オウミ氏族には3日おきに商船がやって来るそうだ。店に頼めば半月ほどで手に入るだろう。俺達が出掛けるのは雨期の終わり、まだ1カ月以上先の話だ」


 とはいえ、準備出来るものは早めに揃えておきたいところだ。フライングギャフ用のカギとマーリル用の大きな釣り針、それに道糸に使う丈夫な組紐は、今朝方お店に出掛けて頼んでおいた。参考にと俺の持っていた予備を添えて渡してあるから、商船のドワーフ職人なら簡単に作ってくれるだろう。

 長剣並に鍛えた鋼で釣り針を作ってくれと念を押してあるからね。疑問は持つだろうけど、それに応えてくれるのが彼等ドワーフ達だ。


 桟橋を歩いてくる足音に気が付いたバレットさんが、桟橋に顔を向けて片手を上げて合図を送っている。直ぐに足音が速くなったから、新たな訪問者ということなんだろう。


「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「こちらこそ、あまり合うことが出来なくて申し訳ありません」


 甲板に上がって来たのは、ネイザンさんだ。

 トウハ氏族の筆頭漁師だからな。俺のカタマランに遊びに来るのは周囲を気にしてあまりできなかったに違いない。


「この間、長老から話が出てきて驚いたぞ。だが、マーリルなら是非とも同行したい。その間の船団の指揮は友人が出来るからな」

「そこで、相談だ。俺達にお前のカタマランを貸してくれないか? マーリルを曳釣りで釣るなら、男衆が3人は必要になる。俺達の船は中型だから、3家族が乗ると手狭になってしまう」

「俺の船にバレットさんとオルバスさん達が乗り込むということですか? あの船なら十分可能ですよ。ティーアも喜んでくれます」

「いや、そうじゃねぇ。ネイザン達はアオイの船だ。ネイザンのカタマランに乗るのは、俺とオルバス、それにケネルの3家族になる」


 ちょっと驚いた表情のネイザンさんだったが、あらためてバレットさん達に顔を向けた。

 ちょっと考え込んでいたが、やがて小さく頷いたところをみると、納得したんだろう。


「ケネルさんが来るなら……。そういうことなら分かりました。お貸ししましょう。となると、アオイの船に乗るもう1家族は?」

「アキロン達だ。俺達に引けを取らんぞ。当日、龍神がどちらのカタマランに顔を向けてくれるかが問題だ」


 龍神の顔向きで漁が決まるなら、俺達に分がありそうだ。

 だけど、昔から腕を競ってきた3人が相手だからなぁ。必ずしも、ということだろう。


「漁は俺達2隻だけですか?」

「そうもいくまい。他にも1、2隻は増えるだろうが、相手が相手だ。大型を釣れんようなら遠慮してもらうし、同行の許可は長老達に任せてある」

「友人達に知らせても?」

「構わねぇぞ。だが、5YM(1.5m)を越える獲物を釣り上げたことが無いなら、諦めろと言っておくことだ。今度の相手はマーリルだからな。アオイの上を目指したい」


 15YM(4.5m)なんて大物は滅多にいないんじゃないかな?

 それに、たまにマーリルを釣り上げた話も聞くようになった。さすがに10YM(3m前後の奴だけど、それだって釣りあげるには苦労したに違いない。


 出掛けるのは、リードル漁の15日前ということらしい。漁場まで2日半向こうで5日の漁をしての帰還だ。都合10日となるが、それで確実に釣れるとは限らないところがマーリル釣りの難しいところなんだよな。


「俺達は、今度がダメなら次に期待したいが、さすがに3回目は無理だろう。ナツミはまだまだ行けると言ってくれたがな」

「となれば、後は我等が引き継ぐことになりそうですね。トウハの男はガルナックを突くと他の氏族に一目置かれていますが、さらにそれを上回るよう頑張らないといけなくなりそうです」


 ネイザンさんの決意表明ともとれる言葉に、バレットさん達が笑みを浮かべて頷いている。自分達が出来なければ、後を継ぐ者達がそれに応えてくれると知って嬉しかったに違いない。

                 ・

                 ・

                 ・

 雨期の漁は、曳釣りや延縄が基本になる。

 後に大物釣りが控えているから、今回は曳釣りを主体に漁をしているのだが、どうしても曳釣りは数が思ったほどに出ないんだよな。

 あまり荒らされていない漁場なら、それこそ入れ食いに近いんだけど、氏族の島の近海では他の連中も曳釣りをしているからねぇ……。


「もう少し、島を離れた方が良いのかしら?」

「今で、島から1日半にゃ。深夜まで航行して2日を越えればいいにゃ」

「次は、そうするか。今回は2日で10匹にならなかったからね。昨夜のシメノンが無ければトリティさん達に笑われそうだよ」


 オルバスさん達も、その日に備えて曳釣りを繰り返しているらしい。

 さすがにそれだけでは漁果が少ないから、夜の根魚釣りでフォローはしているようだ。


 5日程の漁を終えると2日の休みを取って、再び漁に出る。単調な暮らしだけど、それなりに喜怒哀楽を楽しめることも確かだ。

 氏族の島に帰って来ると、漁果を下ろす専用桟橋にカタマランを繋いで保冷庫の漁果を下ろす。雨でも作業が出来るようにいつの間にかテントが作られている。ここでおらされた魚は、トロッコで島の奥にある保冷庫や燻製小屋へと運ばれるのだ。

 漁果を下ろしたところで、カタマランをいつもの桟橋に停める。

 まだ昼だからと、次の漁に備えるためにナツミさん達がカゴを背負って店に出掛けて行く。

 島の店も、昔から比べると3倍ほどに大きくなった感じだ。

 店はカヌイのおばさん達に任され、世話役達は荷下ろし専用の桟橋に小さな小屋を作って動力船の帰りを待っている。


 今の内におかずを釣ろうと、竿を家形の屋根裏から引き出して、パイプを咥えながら釣りを始めた。

 入り江での釣りはおかず用として認められているだけということで、資源の枯渇には縁がないようだ。

 小さなカマルを逃がしながら、おかず用のカマルを数匹釣り上げたところで竿を畳む。


「釣れたか?」

 

 グリナスさんが、ワインのビンを俺に見せながら甲板に乗り込んできた。

 

「おかずですからね。いつも通りです。漁の方は余り釣れませんでしたよ。それでもシメノンの群れに出会いましたから、嫁さん達は喜んでました」

「シメノンなら俺も出会ったな。東から大きな群れが来てるのかもしれない。初心者連中だから、釣り上げた数がばらついたけど、最低でも10匹は上げていたな」


 10匹ならそれだけで60Lにはなる。初心者連中には嬉しい漁果に違いない。初心者達の漁にはどうしても不漁が付きまとう。リードル漁で得た魔石を切り崩しながらの生活なんだろうが、少しでも収益が上がったならそれだけ暮らしにゆとりが出るからね。

 あまり連中の収益にばらつきが出ないようにと、グリナスさんが見守っているのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ