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M-233 神亀を見せての交渉再開


「先ずは、ガツン! ということかしら? でも、よく考えたら3等分された漁果の2割増しということになりそうね。それなら男爵の用意する船団は1つということで十分なのよねぇ」

「他の王国が真似をするにゃ!」

「それが問題だ。場合によっては助け船になるかと呼んでくれた2つの王国が、ネダーランドと結託することも考えられる」


 絞れば絞るほど出てくるとでも思ってるんだろうか?

 俺達で消費する魚の漁はわずかなものだし、そもそも商品価値の少ない小さな魚や、捌くのに失敗した魚がほとんどだからねぇ。

 

「とりあえず全体の2割増しを念頭に置くよ。できれば1割に抑えたいところだ」

「アキロン達の代になったら、さらに増やせと言ってこないかにゃ?」

「その時は、漁を停めよう。農業が出来る大きな島があれば良いんだけどね。長老が言ってたよ。『昔はバナナの周りに米粒が付いていた』ってね」


 そんな暮らしがずっと続いていたんだろうな。海人さんが頑張ってそんな暮らしを今の状態まで上げてくれたに違いない。


「漁を停めてもネコ族は暮らしていけそうね。だけど最後の手段でもあるわ」

「十分理解してるよ」


 一度贅沢を知ったなら、前には戻れないと聞いたことがある。

 だが、方法が無くはない。南の王国の更に先には別の王国があるんじゃないかな? それに、王国の海沿いの町で商会を経ずに物々交換をすることだってできそうだ。


 翌日。オウミ氏族の銛打ち達と話が弾む。王国との交渉に来たのだが、オウミ氏族の男達には聖痕の保持者が来てくれたということで、朝から来客が絶えない状況だ。

 大型の獲物をどうやって突くのかが、彼等の聞きたいことのようで、何度も同じ話を繰り返すことになってしまった。


「やはり聖痕の加護は偉大ってことなんでしょうね。それよりも、あれを見て!」

 来客が一段落して、3人でお茶を飲んでいたんだが、ナツミさんの教えてくれた方向には、2隻の軍船の姿があった。


「今夜にでも再戦が始まるのかな? それにしても軍船が3隻は問題だな」

「あの船が停泊したところで、神亀にお願いするわ。入り江の出口に浮ぶだけで良いでしょう?」


 存在を明らかにしたくはないけど、この状態では押し切られかねない。その姿を持って我等の力と説明しておこうかな。

 神亀の前には、いかな軍船も意味をなさないと知らせるのも、後々の為になるはずだ。


「私達も桟橋を離れとくね。万が一の時には泳いでくるのよ」

「ザバンが無かったらそうするよ。小さなザバンを借りといてくれないかな。このカタマランにザバンが搭載されているのは、この島で知ってる人はいないはずだ」


 砲艦外交をするとは思えないけど、一応対処しておけば何とかなるだろう。こんなことに神亀を呼ぶのが心苦しいことなんだけど、3隻の軍船ならばこの島の住民を虐殺することもできるんだよな。


 少し早めの夕食を取っていると、商会からの使いが、昨夜と同じ場所で交渉が行われることを伝えに来てくれた。

 

「了解したよ。桟橋を離れて、あの辺りにカタマランを留めるつもりだ。ザバンを1艘貸してくれないかな?」

「それなら、すぐに運んできます。始まりを2階のベランダに赤いランプを掲げて知らせますから、よろしくお願いいたします」


 使いが俺達の前から走り去ると、すぐに1艘のザバンを若者が漕いできてくれた。船尾に繋いで貰ったから、これで俺達の準備は終わったのかな?

 桟橋と繋いだロープを解いて、船首のアンカーを引き上げる。

 横にスライドするような動きを見て、商船の若者達が目を丸くしている。原理は分からないだろうな。これを造ったドワーフの爺さん連中も、効き目を確かめてはいないだろう。


 桟橋から200mほど離れた場所で魔道機関が止まった。だいぶ後ろにザバンがあるけど、ロープで繋いであるから乗る時に引き寄せれば何とかなるな。


「この辺りで良いわね。皆、掴まって!」

 

 ナツミさんの声に、大慌てで船尾のベンチの背中の板をしっかりと握りしめた。

 ザバアァァ……! と水音と共にカタマランが浮き上がる。すでに神亀はカタマランの真下にいたようだ。


 桟橋の動きが慌ただしいな。砂に大勢の人達がやってきて俺達の方角を眺めている。丁度夕日が当たる時間だから逆光で眩しいはずだが、そんなことは気にせずに渚で俺達の方向に体を向けたままだ。中には腰を下ろして手を合わせる人もいるんだよな。

 神亀の存在はネコ族には絶大な意味を持つのだが、さて王国はどのように思うのだろうか。今夜が楽しみでもある。


「軍船でも驚いているようね。まぁ、それが狙いだからこれで問題なし。後はアオイ君に任せるからね」

「何とかしたいけど、妥協点を2割以下で探れば良いんだよね。その上で、これ以降は自然な漁果の増加に任せるということで……」

「大陸に義理は無いんだから強気で行くのよ。それと、領海は絶対だと相手に認識させること。大陸沿岸の領海を明確にしてあるんだから、その線を越えない限り王国も漁業は出来ると思わせることも大切かな? だけどあの公害を何とかしないとね」


 思わせるだけで良いってことか?

 参考にはならないな。商会の建物の2階に赤いランプが灯ったようだし、そろそろ出掛けてみるか。


 ロープを引いてザバンを近づけると、神亀の甲羅に下りてザバンに乗り込む。神亀を何度も見たけれど、甲羅の上に乗ったのは初めてだ。ごつごつした甲羅だからサンダルが滑ることは無い。

 ザバンを引き寄せて乗り込むと桟橋を目指して漕いで行く。


 桟橋にはたくさんの男達が集まっている。俺が近づくと直ぐにロープを投げてくれた。

 降ろしてくれた梯子を伝って桟橋に上がると、口々に神亀のことを知りたがっている。

 商会の連中が見るのは初めてなんだろう。

 とりあえず、「龍神の眷属だ。我等ネコ族を守ってくれる存在でもある」と答えて、店の中に急ぐことにした。


 俺の後ろから慌てて追いかけてくる商会の若者が俺の案内役なんだろうな。足を止めて、彼を先に歩かせることにした。


「申し訳ありません。あの事態に驚いてしまいました」

「こっちこそ、驚かせて済まなかったね」

 

 会話を交わしながら昨夜の部屋の前に着く。

 若者が俺の到着を告げると、扉が中から開かれた。

 軽く頭を下げると、部屋の中の若者の案内で円卓の席に着いた。昨夜よりも人数が多いな。護衛の兵士がずらりと窓に並んでいるし、扉の周囲には完全武装したドワーフ族の戦士が6人も控えている。


「イヤァ。驚きました。伝説だと思っていたのですが、まさかこの目で見るとは……」

「それにしても、自分の船を甲羅に乗せるとは……、あの大亀を御せるということでしょうか?」

 新たな交渉人は若い女性と初老の男性だった。位置関係から見れば南の王国が若い女性、真ん中が男爵でその左手の席に着いた初老の男性が北の王国になるんだろうな。


「軍船を3隻ともなれば、この島を蹂躙できるでしょうからね。その時は帰すことが無いように神に依頼したところです」

「ほう、備えであると?」

「リーデン・マイネでも良いんですが、急にこの島には来れないでしょうし、来たときすでに遅しということになるでしょう?」


「なるほど」と言いながら笑みを浮かべている。

 砲艦外交が使えないと理解してくれたようだ。


「皆さんお揃いになったところで、交渉を始めましょう。あまり長く交渉を続けるのも問題です。ネコ族で知らぬものなしの漁の腕を持つアオイ殿を長く留め置けば、それだけ漁果が減ることになるのですから」

「確かに……。となれば、早めに決めるに限る。我が王国への漁果の2割増しの提供。その確約書にアオイ殿がサインをすれば済むこと」


 昨夜の蒸し返しになりかねないな。

 ならその条件を明確ににしておくか。


「大型商船2隻と中型カタマランを40隻を贈与していただき、数年後に2割増加を約する。更に、南北の王国が同様の要求をしたときには、我等はネダーランドとの約があることを理由として拒絶する。このような書面であればいつでもサインできますよ」


 大きく目を見開いて、ポカンとした表情を見せた南と北の王国の交渉人は、呆れかえったというところかな。


「待ってくれ。その条件。我等が叶えたなら、ネダーランドではなく我等に2割分を頂けるのかな?」

「ノルーアン王国だけとはいきませんわ。我がソリュード王国もその提案なら十分に交渉を開始できます」


 ん? 簡単だということなんだろうか? ネダーランドの男爵は無茶な話と一蹴してるんだけどねぇ。


「先ずはネダーランドが先に交渉を始めたということをお忘れなきよう。ワシが全権を持つ以上、交渉の決裂を待つのが筋ではないかと考えるしだい。ひょっとして、北と南の王国はそのような考えを持たぬと?」


 勝ち誇ったような男爵の表情に、2つの王国の交渉人は悔しそうな表情を浮かべて睨んでいる。


「昨夜はワシも酒が回っていたようじゃ。アオイ殿の要求を証書に認めたが、これでよろしいかな?」

 

 男爵が取り出した証書を商会の若者が受け取り、先ずは商会ギルドの理事であるヨーレルさんのところに持って行った。第3者としての立場があるからね。約束事の不履行が起きぬように、何らかのギルドの介入が必要なんだろう。


「足りませんなぁ。『他国が同様に2割増しを要求した場合は、ネダーランド王国がその解決を計る』との文面が必要です。お忘れでしたら、私の方で追加いたしますが?」

「いや! それには及ばぬ。 ネダーランド王国からの要求はその文面通りだ」

「でしたら、サインは出来ませんね。交渉は決裂ということになります」


「それで良いのか? 我が海軍は100隻を超える軍船を持っておる。かつては大敗したが、数隻の軍船では強力な魔法を放っても、いずれ力尽きることになるぞ!」


 まったく嫌になるな。協力してあげようと言ってるんだからおとなしくしていれば良いものを、面倒な方向に持って行くんだからねぇ。

 長老が話してくれた、かつてのネーデルランドとの戦の再現になるんだろうか?

 あまりにも一方的な戦だったから、商会ギルドや南北の王国が慌てて調停に入ったと聞いたんだが、その反省がいつの間にかなくなったんだろうな。


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