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M-225 運送の発展がもたらすもの


 とうとう俺も40歳を超える年代になった。

 アルティ達の旦那も2人目の嫁さんを貰い、仲良く暮らしている。子供は、マルティの方が早かった。双子かな? と思っていたけど、元気な男の子だから、たまに遊びにくるとナツミさん達が抱っこして離さないんだから困ったものだ。

 オルディと名付けられた男の子にはネコ族と同じように猫耳と尻尾が付いている。アキロンも同じだから俺達よりもネコ族の遺伝子が強いのかもしれないな。


「お婆ちゃんになっちゃった! これからどんどん増えるんだよね」

 

 ナツミさんは嬉しそうだな。次はアルティなのか、それともナディなのか……。俺はそっちの方に興味があるぞ。


 マルティの出産を機に、ラディットがラビナスの船団を離れてグリナスさんの船団に移るらしい。タリダンは引き続きラビナスの船団に残るということだが、ラビナスの手伝いをするということだ。次席の位置にいるということなんだろう。それまでの次席は大型船を中核とした船団にトウハ氏族代表で出掛けるらしい。


「どうにか桟橋の石組も出来たし、桟橋までの木道も次の雨期前には完成するそうだ。リフトを使用せずとも、小型の魔道機関で荷車を引くことが出来るんだからたいしたものだ」

「2台の運転は老人が行うそうだ。レバーで前後に動くだけだし、あの速度ならぶつかっても怪我はしないだろう」


 人が歩く速度ということなんだけど、ぶつかったら怪我をしそうにも思えるな。自動で鐘を鳴らす仕組みが組み込まれているらしいけど、ブレーキは付いているんだろうか?

 便利そうだけど、改良の余地は色々とありそうに思える。


「ドワーフのおじさんが喜んでたわよ。あれの特許でタダで氏族の島に木道トロッコがもう直ぐ全面開通するし、他の氏族でも2割引きで良いと言ってたわ」


 氏族の女性達の重労働が減るということなんだろう。入り江の浜に沿って南北に走るトロッコも水汲みの労働を軽減できることは確かだ。桟橋ごとに旗竿があり、旗を掲げるとトロッコがやって来るのもおもしろい。

 出来た当所は、子供達が空いた荷台に乗っていたけど、今は飽きたのか誰も乗らないんだよね。


「商会の連中は、大陸にあれを張り巡らしたいと言っていたそうだ。荷車と違ってたくさん運べそうだが、そんな運送に金を払う連中がいるのかねぇ」

「運送の革命が起きますよ。島のトロッコはあの速度ですけど、魔導機関を強化すれば速度を上げられますし、運ぶ荷物も増やせます。……となると、王国からの要求が出てくることも考えないといけないかもしれませんよ」


 荷の運送が速くて大量になったなら、今までよりも消費地が拡大することも予想できる。今までは魚を食べることが出来なかった地方で、魚の要求が出てこないとも限らない。

 恨めし気にナツミさんに視線を移すと、いつものように笑みを返してくれた。


「多分来るでしょうね。直ぐにではないでしょうけど、10年は掛からないかもしれないよ。でも、その対策は出来てるでしょう?」

「新たな大型船団か? だが資金が足りるとは思えないんだが」


 ナツミさんの話しに、オルバスさんが問い掛けているけど、昼間から酒を飲んでるんだよな。

 俺は飲まされないように、チビチビとカップに口を付けているんだけどね。


「外輪船型の漁船を2隻並べるのか? 廉価だがあまり遠くには行けんぞ」


 商船改造型の船団はトウハ氏族と5つの氏族の共同出資の2つだ。各氏族とも外輪船型の漁船をカタマラン化して燻製船を運用してるけど、それほど遠くに行けないのが問題なんだよな。


「向こうが要求してくるなら、こちらだって要求できるんじゃない? 大型商船の母船と小型カタマランを10隻。これぐらいは可能じゃないかしら」

「落としどころは、中型商船に小型カタマランが5隻ってことだな。その資金に俺達が上乗せすれば良いってことか!」


 大型船団が新たに1つ出来るなら、1割程度の増加は可能だろう。後は運搬手段だが、専用のカタマランを作ることになるんだろうな。とはいえ、船団を作ることに比べればはるかに低価格だ。


「長老の耳に入れては置くが、その可能性は高いんだな?」

「要求すれば、俺達が応えると思っているんでしょうね。無理な要求には応えることはできませんが、1割ほどの増加であれば、ナツミさんの案で何とかなるでしょう。それにサイカ氏族の収入を増やすことができます」


 唯一、リードル漁が出来ない氏族なんだよな。

 漁場の再編成で低位の魔石を数個手に入れることができるようになったらしいが、カタマランの新型を手にすることは出来ないようだ。

 アキロン達の乗る小型のカタマランを、どうにか手にすることが出来るぐらいなんだろうな。

 だが、魔導機関の搭載数が1基だけだから、氏族の島から遠くまで漁に出るのは難しいだろう。


「サイカ氏族に運用を任せるのか……。となれば族長会議ということになるだろうが、あらかじめ案を持っているだけでも十分だろう。だが、1割以上を求めたならどうする気だ?」

「その時は、大型商船2隻と小型カタマラン、もちろん魔道機関2基搭載型ですよ。それを20隻に大型カタマランを2隻要求すれば十分でしょう。トウハ氏族の東には広大な漁場があります米澤」


 バレットさんの問いに、ナツミさんは即答だ。

 この場合の落としどころはどうなるんだろう? それを提示して1割に納めるということなんだろうか?


「アオイ達のあの船で10日ということは、俺達の船で15日以上ということになる。確かに漁場は多いだろうな。ネコ族の人口が増えても十分に生活できそうだ」

「王国がどこまで粘るかも楽しみだな。交渉が決裂しても、俺達に手出しは出来んだろう。軍船は沈められるし、魚を手に入れられねば王国の施政が問われそうだ」

「要求を呑むか否かではなく、互いの妥協点を探るべきです。でも、無理な要求だと分かれば交渉の席を離れても問題はありませんよ。今まで通りに魚を商会は購入してくれるはずです」


 要するに売り手市場を維持するということだな。

 2割の増産を押し付けてきたことに応えたんだから、次の要求も応えるだろうと考えているんだろうが、そうはいかない。

 予想されるトラブルは事前に策を取っておくに限るな。

                 ・

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                 ・

 ナディとアルティでは、やはりアルティの方が早かった。

 今度は女の子だから、やはりナツミさんとマリンダちゃんがやって来ると離さないんだよな。

 マルティの男の子はオルディでアルティの女の子はリーザと名が着けられた。オルディの方をかわいがろうとしたら、今度はトリティさんに取られてしまった。いつになったら抱っこできるか、ひょっとして頭を撫でただけで大きくなってしまいそうだ。


「アオイもようやく俺達から離れられるな」

「とはいっても、大物狙いの中堅ばかりですよ。本来ならネイザンさんが率いるんでしょうけどね」

「俺達も、片方はアオイに同行しても良いと長老のありがたいお達しだ。レミネイ達が楽しみにしてるんだが、何を狙うんだ?」


 長老も折れたんだろうな。まぁ、どちらか片方が一緒なら問題は無いだろう。ネイザンさんの友人の1人が同行してくれるみたいだからね。

 俺達も、これで大物漁が出来ると喜んでいるんだが、考えてみると俺達にとってもこれが最後のわがままになるんだろう。

 氏族の島から5日ほど先を狙ってみるつもりだ。

 大型魔道機関を2基搭載した大型のカタマランばかりだから、2家族が乗るなら昼夜航行すれば2日も掛からないだろう。

 同行する連中は、1か月ごとにネイザンさんと長老達で決めるらしい。


「まあ、褒美ということなんじゃねぇか? それだけ漁果を上げたんだから思い切り突いてこいということだな」

「とはいっても、漁果が伴わねば何ともならん。最初はどこに向かうんだ?」

「昔、千の島の東を見に行きました。その時の海図は今でも残ってます。最初は東に5日と考えてますよ。この溝が狙い目です」


 北西に続く大きな溝だ。3mにも満たないサンゴ礁に横幅300mほどの溝があった。溝の深さは15m近いから曳釣りも期待できるし、雨期だからマーリルも期待できそうだ。


「狙いはシーブルだな?」

「上手く行けばマーリルですし、潜ればフルンネも期待できそうです」


 俺の言葉にバレットさん達の表情が変わる。

 2人同時に俺の顔を向けたのは、マーリルを釣りたいってことなのか?

 こればっかりは、運だと思うんだけどねぇ。

 でも、このカタマランはマーリルのような大型の魚を曳釣りで釣ることを前提としているように思える。

 トウハ氏族は銛を誇るんだけど、マーリルだけは例外になってきた感じだな。

 一応、手釣りの仕掛けを2個作ったけど、試すチャンスはあるんだろうか?


「俺達のわがままも、マーリルが釣れれば十分だな。後は長老に従って近場で漁をすることになるんだろう」

「リードル漁も半分足を洗っている。もう1隻は作れそうだが悩むところだ」

「グリナスに厄介になるのも考えてしまうな。いつもというわけにはいかんだろうよ」


 まだまだ現役に思えるんだけどねぇ。トリティさんの話しでは、素潜りを止める歳が55歳らしい。それを考えるとすでに過ぎてるんだけど、まだまだ銛を手放さない2人なんだよな。



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